お母さんと読む英語の絵本

読み聞かせにぴったりな英語絵本から、米国の子どもたちの世界をご紹介
子どもをバイリンガルに…とお考えのお母さんに

ことばのない絵本

2011-07-25 | my Anthology


『絵本の読み聞かせ』というと、やはり「お話がついている」ことが、なんとはなしに前提になっています。子どもの目は『絵』を眺めながら、お母さんが読んでくれる『お話』は耳から入り……そのうちだんだん目が閉じて、子守唄のようにお話を聞きながら寝入ってしまう……この快楽こそが読み聞かせの醍醐味です。

でも、折々ご紹介してきたように、いわゆる物語や説明のテキストが全然ついていない『字のない絵本』、つまり絵だけで構成された絵本にも、優れた忘れがたい作品がたくさんあります。

私たち親子にとって思い出深い『字のない絵本』といえば、まずは「It Looked Like Spilt Milk"(こぼれたミルクみたい)」です。渡米直後の娘が、3カ月だけ通った両親参加型のプリスクールで、先生が下さったのがこの絵本。表紙から裏表紙までの全ページが、青空に浮かぶ真っ白な雲の絵だけ。まるで芝生に寝転んで空を見上げているような気にさせられる絵本です。「この雲、何に見える?」「ソフトクリームだぁ!」「カップケーキじゃない?」なんて親子で話しながら「眺める」絵本ですから、どこから読んでも、どこでやめても全然かまわない構成。娘にとっての初めての英語の絵本でした……と言いたいのですが、もちろん、英語だろうが日本語だろうがアラビア語だろうが中国語だろうが、語る言葉にも関係なく楽しめる『ことばのない絵本』でした。

渡米したてで文字通り英単語の一つもわからず、ついに一言も口をきかなかった娘に、クラスの最終日、先生はゆっくりと噛んで含めるように「毎週通ってきて偉かったわね! 絵が上手なのよね~。はさみもすごく上手に使えるのよね~。また会おうね!」と話しかけながら、この絵本を手渡してくださいましたが、実は、『ことばのない絵本』は、もしかすると母親の私への配慮だったのかも……と今にして思います。というのも、両親参加のクラスで先生を手伝いながら、当時の私は、2-3歳の子どもにわかるような簡単な英語表現がまるっきり出てこなくて、いつも立ち往生。とにかく「話せなかった」のは、私も娘以上。なにしろ「ねぇ、ちょっとそれ取って。あっちに置いて」とか「あ、危ない!もっと、そおっと持とうね!」みたいな、フツーの表現がまるっきりできず、子どもとの日常会話はなんてむずかしいの!とため息ばかりついていました。だから、きっと先生は私も娘並みに全然英語がわからないと思われたのではないかしら?

さて、同じ頃に繰り返し読んでいた『字のない絵本』は日本から持参した絵本でした。日本のアーティストによる絵だけの絵本と言えば、そう、安野光雅さん。Anno's Journeyシリーズとして、アメリカでも知られている「旅の絵本」はむしろ私のお気に入りで、娘が大好きだったのはアメリカでは数の絵本 Counting Bookとして紹介されている「10人のゆかいなひっこし」。何度も何度も繰り返して読んだ(眺めた?)なつかしい絵本です。

英語のタイトルが「Anno's Counting House」と知ってちょっと意外でしたが、でも、そういわれてみれば、見開きページを繰る前に「両方のお家を合わせてちゃんと10人いるかな?」と数えるのが楽しい一仕事ですから、たしかに「『数』の絵本でしょ」と言われれば「なるほど」です。細かなディテールまで、それはそれは丹念に描きこまれた安野さんの絵本は、とにかく美しく、日本にはこんなにすてきな絵本作家がいるのよ!と娘に自慢しながら読み聞かせていました。

世界中で読まれているロングセラーのことばのない絵本といえば、たぶん「The Snowman」(邦訳:雪だるまの冒険)でしょう。絵だけの絵本ですが、テキストが文字で書かれていないだけで、明らかに物語はあり、つまりは物語を絵だけで表現した絵本です。

絵本の刊行は1978年でしたが、これに、すばらしい音楽をつけた映像作品が1982年のクリスマスイブにテレビ放映され、爆発的なヒットとなりました。以来”The Snowman”は、毎年クリスマスが近づくと必ず流される定番作品のひとつとなりました。いまでも世界中で愛されています。

物語のある、でも、言葉のない絵本を得意とするのは、トミー・デパオラ(Tomie DePaola)です。ハロウィン定番の「Strega Nona」も、先月ご紹介した「Pancake for Breakfast」もベストセラー。物語性豊かなイラストのためでしょう、字のない絵本であったことを忘れてしまいそうなくらい、読後には、なぜか鮮明に物語の展開が記憶にのこる不思議な絵本です。

一方、ストーリーがあると言えばあるし、ないと言えばない、とも言える絵本もあります。読みようによっては哲学的に深く読み込むこともできるし、単に作者の視点の据え方、視点の変え方に驚かされるのを楽しむこともできる、ちょっとシュールな絵本です。ひとつは「Zoom”」。カメラの焦点距離を変えるだけで情景が一変するように、焦点距離を変え、視点を変えると、物事の意味までが変わるのだということを、ありありと実感させてくれる絵本です。なかなか含蓄があります。そしてもう一冊は、先月ご紹介した「Flotsom」です。過去も現在も未来も一続きであり、そして、ここと彼方とは物理的な距離を超えてつながっているのだ……と理屈でなく、じかに心で気づかされる絵本です。何度読んでも眺めても、そのたびに想像力を刺激されるユニークな絵本ですから、小さい子から大人まで息長くいつまでも楽しめます。

さて、最後に、絵本というより、むしろ全巻アート作品というべき絵本のご紹介です。それこそ「言葉はいらない!」という絵本です。今月ご紹介した「One Red Dot」がまずはその代表。飛び出す絵本(pop-up book)というよりも、まさにポップアート(pop art)です。同じように、一冊丸ごと作品にしてしまった絵本で、ぜひもう一度ご紹介しておきたいのが「Beautiful Oops! 」。こちらには、実は、ちょっとだけ言葉が入っているのですが、四捨五入せずとも、ほとんど言葉のない絵本に入れてかまわないと思います。ぜひ、一度お手に取ってご覧ください。




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