uparupapapa 日記

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ママチャリ総理大臣~時給1800円~【改】第15話 パンデミックと宴会

2023-12-01 06:40:49 | 日記

   2019年、中国武漢を震源に、全世界に激震が走った。

 パンデミックの始まりである。

 人々は接触を禁じられ、話すことも出歩くことも仕事をすることもできない、孤立無援の生活を強いられた。

 歴史を紐解くと、過去に幾度もパンデミックは発生している。

 しかし直近の発生でも約100年前のスペイン風邪だったので、現在生きている人類にとってはほぼ初めての経験と言えた。

 世界経済は大打撃を受け、ワクチンの争奪戦が始まったのは記憶に新しい。

 感染による死者の増加、営業活動ができないが故の企業倒産、実質的なロックダウン状態が社会全体を隔離し、孤立した。

 そうして人々の心は病み、うつ病若しくはそれに準じた症状が蔓延する。

 

 その時マスコミでは報じられない数多くの悲劇が生じ、その爪痕はパンデミックの喪が明けても消えなかった。

 

 カエデの父はこの時の感染で命を落とし、最後まで努力が報われず、残す家族の行く末を案じながら別れを告げている。

 

 人生二度の経営失敗。

 一度目はカエデが小学校二年生の時。二度目はパンデミックの嵐が招いた長い営業休止による倒産。

 その倒産を目前にした危機にも、懸命に経営を支えようと諦めなかった父。

 誰にも助けてもらえない中、奔走続けた行動の末の感染だった。

 

 当然のようにカエデは大学進学を諦め、≪スーパー激安≫に就職した。

 だが、彼女は平助と違い、成績優秀な女性だった。

 ただ兵助に対してのみ、口が悪いだけである。

 進学を諦めざるを得ないと悟った時の彼女の心境はいかばかりだろう?

 しかしカエデはそんな落胆の色を微塵も見せなかった。

 

 いつにも増して平助に関わるようになったのも、丁度この時からかもしれない。

 

 何故ならカエデが悲嘆にくれた時、いつも傍に寄り添ってくれていたのが平助だったから。

 平助はドン臭く不器用だったが、人の痛みに敏感で顔に似合わないやさしさを持ち合わせていた。

 そっと差し出すその手には、いつも温かみがある。

 だがお互い素直になれず、つい突き放してしまうのだ。

 

 

 そんなカエデの上司 佐藤 鯖江さばえも、この時のパンデミックの悲劇をまともに受けている。

 鯖江さばえの夫 石松は商業施設に商品を配送する流通業に従事するトラックドライバーだった。

 その日は職場で同時にふたりの感染者が出たため、人員不足から過重労働を強いられていた矢先の事、疲れと過密配送スケジュールが彼を追い込み、運転中目の前に飛び出した猫に気づくのが遅かった。

 そして咄嗟の回避行動が事故を招き、自身の命を落とす結果となる。

 妻の鯖江さばえの他、庄吉(5)と瑛太(3)というふたりの幼い息子を残し旅立った石松。

 いまわきわ、石松は鯖江さばえに最後の言葉を託す。

 

鯖江さばえ、済まない。こんな事になっちまって・・・。

後は頼む。この子らを何とか一人前になるまで育ててくれ。」

 

 当初、悲嘆にくれる鯖江さばえだったが、残された幼い息子ふたりを育てるため、以降は鬼神の働きを見せるようになる。

 

 そうして鯖江さばえとカエデが≪スーパー激安≫で出会うようになったのだ。

 

 

 一方平助は、それから数年後の27歳で次期首相としての特訓、28歳で第四代首相となり、今まさに眼前の問題に悪戦苦闘する日々を過ごしていた。

 

 特に最重要課題として、中国問題があった。

 武漢コロナで世界中に大迷惑をかけてきておきながら、厚顔無恥なその国は一切の責任を取らず、更に自らの失策から内政にて経済危機と財政危機を招き、時の独裁政権が末期的症状を見せていた。

 国民の不満の矛先をらし、政権浮揚を賭けるには、一か八かの策として台湾侵攻を企て、その準備を進めるしかない。

 

 そして台湾侵攻による武力侵略は、当然日本にも派生する。

 もちろん日本は数年前から対抗策を準備してきたが、国力2倍以上、兵器数2倍以上、兵力10倍以上の中国に対抗するには独力では困難を極める。

 更に中国は核保有国。宇宙開発も積極的に進め、宇宙空間からの攻撃兵器開発も順調に進めていた。

 それに対し、日本は頼みの綱の日米安保もjokerジョーカー大統領では支援を期待する事はできない、絶体絶命の不利な状態にあった。

 

 当然日本国内からは核開発、核武装推進の声も聞こえ始める。

 日本は唯一の被爆国であるのにだ。

 

 もちろん日本政府は核開発疑惑を否定する。

 しかし中国・北朝鮮・ロシアの狂人国家を隣国に持つ日本は、人類の平和理想論を堅持するだけでは生きられない。

 だから核開発は否定しつつ、その裏で密かに開発しているのではないか?との素振りを匂わす疑惑のポーズもとり続けた。

 それは核武装が国民の根強い反対から総意を得る事が実質困難であるとの事情もあるが、その気になれば一夜にして完成できる技術的蓄積があるから成せるワザでもあった。

 

 更なる別な不安材料として、核の他に日本国内に潜伏する多くの中国人破壊工作員をどうするか?との問題にも対処しなければならなかった。

 中国には『スパイ防止法』(反スパイ法)『国家安全措置』等が存在し、中国人である限り、国の内外に関わらず、命令一下破壊活動やスパイ工作活動従事の義務を負う極めて危険な存在であるのだ。

 現存の日本の公安組織では、国内に無数に存在する中国人、とりわけ彼らの誰がその危険な存在であるのか容易に判別・対処できない状態にある。

 そうした事情から、中国人を対象とした監視の強化が必要となり、結果、新たな対中国専門公安組織が結成された。

 

 これは自由主義国日本にとって、極めて危険な動きであり、大っぴらに公表できる事ではない。

 だが、絶対必要な対抗策でもあり、数年前世間を賑わせた『別班』のように、秘密の団体扱いとされた。

 国民の権利を侵すことなく、対外的な防御策を講じるにはそれしかなかったのだ。

 

 平助はそれらの対策に手を染めながらも忸怩じくじたる思いを抱き、意に添わないこれらの政策を自分なりに深く考えた。

 内閣総理大臣たる自分の使命は、国民の安心・安寧を守り、未来の希望を守り抜く事。

 

 ただそれは、いくら自分が内閣総理大臣という立場にあっても、自分ひとりでできる事ではない。

 政府の行政組織が一丸となってもまだ足りない。

 日本の国民の心をひとつにしてもまだ足りない。

 

 敵対する国の民の心も変えてゆかねば、武器や威嚇など、武力対抗策を永遠に続けなければならない。

 武力対抗策。それはそれで緊急対策として必要不可欠ではあるが、それだけに頼り、後は何もしないのであれば、それは愚策と断じるべきであろう。

 

 ではどうする?

 

 国民同士の交流を深めようと求めても、一方的にスパイ容疑で拘束され、最悪死刑を含む極刑に処されてしまう。今の彼らは平気でそういう暴挙を実行するのが現状。

 

 それを避けるために様々な努力と工夫が成された。

 例として平助は自ら先頭を切って一般国民との気さくな日常交流を(元々平助自身が一般国民の庶民だし)マスコミに意図的に報道させ、中国の独裁指導者の物々しい警備体制や威圧的な雰囲気との違いを際立たせ、露出させた。

 また例えばアニメなどの日本の誇るコンテンツを盛んに中国に浸透させ、平和や自由の尊さ、他者の権利を力づくで奪う愚かさ、お互いを尊重し合う血の通った人の道を説く内容を広く浸透させ、傲慢な思考を改めさせる。

 例えば国際社会での中国の野心の封じこめを図るため、国際協調路線を定着させる様々な工作活動を国を挙げて実行し続ける。

そのためには、平助を含め、閣僚などの要人に国際社会での呼びかけ等、より一層強化する。

有事の際のため国際提携体制を構築し、具体的な対抗策、防御策を共有する。

それには国単位で総力を挙げASEAN諸国やインド、中東諸国等をくまなく回り、一度だけで満足せず、政府機関、民間組織等各階層ごと幾重にも訪問、接触を試み、共感・価値観の共有を得る努力を重ねるなど、考え、実行できることは総て躊躇なく行うようすべきだと平助は思い、実際に行動に移すことにした。

 

 ある日インド国会に招聘され、異例ともいえる演説を終えた平助に、帰国してすぐに居酒屋『炉端焼ろばたやきうまいっしょ』で慰労会が敢行された。

 メンバーはお馴染み角刈り三人衆と、そのメンバーのひとり田之上官房長官の秘書河本秀樹と安嶋本之である。

 河本秀樹と安嶋本之は元々田之上官房長官の大学(二部)の同級生であり、苦楽を共にした無二の親友であった。

 更に後から平助の第一秘書である飯島、第二秘書の加藤、そして第三秘書のエリカが合流してきた。

 それにどういう訳か、カエデと鯖江さばえまで紛れ込んできて、慰労会の場は、ヒッチャカメッチャカな様相を呈してくる。

 

「平助首相、お疲れ様!先ずは乾杯!!」

 田之上官房長官の乾杯の音頭で宴会は始まった。

 角刈りの杉本はいつものことながら、SPの職務を忘れ並々と注がれた大ジョッキーを一気に飲み干し、一番乗りで赤ら顔になる。

 

「おい!カエデ!お前どうして呼んでもいないのに此処に居る?」

「平助のくせにお前って言うな!私が此処に居るのはエリカさんが女性は私ひとりじゃ浮いちゃうし不安だからあなたも来て!と頼まれたからよ。

私が行く!って言ったら、鯖江さんも来るっていうから一緒に来ちゃった。

 ダメ?ねぇダメなの?」

「ダメなんてとんでもない!大歓迎ですよ!!」と目尻を下げた田之上が言った。

 どうやら田之上は女性が増えたら場が華やぐとでも思ったらしい。

 それは大きな考え違いであると、後に思い知ることになるが。

 

 

「コラ!平助!!お前、総理大臣になったからってチャッカリ海外旅行してるんじゃない!」(何で私も連れて行かない?)とは云わなかった。

「海外旅行ォ?何、寝言言ってる?

 国の命運を賭け、国益背負ってインド国会に説得しに行ってんのに!

 バッカじゃないかい?」

「寝言?どうせ平助のことだから、インド美人から蝶よ花よと甘い接待でも受けて来たくせに!」

「そんな事あるかい!インドの国民たちの目もあるのに、そんなチャラい事してなんていられないよ。」(とはいっても、演説後の夕食会では美人な給仕さんたちがたくさんいたが。それは内緒。)

「そうですよ!平助首相の演説は、それはそれは素晴らしかったんですよ!

 私は傍らで聞いていて、凄く感動したくらいですからね。

 そのうちインドの国会に平助首相の銅像や肖像画が見られるんじゃないですか?」

 と同行していた第一秘書の飯島が請け合った。

「そんな大袈裟な!ホントにそうかしら?平助首相!外遊は費用対効果ですからね。

 ちゃんと結果を出してくれないと、厳しい予算の中、やり繰りが大変なんですから!」と鯖江さばえが言う。

 平助に対する予算だけ、厳しい査定をする傾向が鯖江さばえ主計局長にはあるようだ。

 どうやら≪スーパー激安≫での不正値引きシール提供問題が、ここにきて尾を引き影響しているのか?

「外遊じゃないし!国賓待遇に準じた国事行為として、ちゃんと仕事してきたし!

 それに費用対効果では測れない、でっかい手ごたえも掴んできたし!」

 と、口を尖らせ平助が抗弁する。

 そこにエリカが援護射撃(?)をする。

「私は今回の外遊には参加してないけど、インド国内では大した反響が有ったそうよ。

 ホラ、もうその時の演説がYouTubeにUPされてるわ!再生回数もこんなによ!!

もの凄いじゃない!!

平助首相は口が上手いみたいね。」

「だ・か・ら!!外遊じゃないし!それに『口が上手い』って、人を詐欺師みたいな評価をして欲しくないし。」と、また口を尖らして抗弁する平助。

「私の前ではこんなにおバカな平助が、いっちょ前に外国に行って偉そうに演説ぶって、大丈夫なのかなぁ、あたしはそれが心配なのよ。」(やっぱり私がついていないと平助はダメだと思うと暗に仄めかすカエデであった。)

「おい、これって本当に僕の慰安会なのかい?さっきから僕の歴史的な偉業がけなされてばかりみたいなんだけど。」

 と冴えない顔の平助が今回の宴会の幹事である第二秘書の加藤に言う。

「誰も平助首相の偉業をけなしてなんかいませんよ。

 ただ、平助さんの人間性をけなしているだけです。」

「オイ!」と言う平助。

どっと笑う参加者たち。

 

 

こうして和やかに宴会の時は流れ、夜は更けてゆく。

 

めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

    つづく