SF短編集。
戦闘サイボーグの悲劇を描いた表題作『レフトアローン』
猫の視覚をモニターに映す実験が招いた事件『猫の天使』
赤子の脳に宿ったAIの物語『星に願いを ピノキオ2076』
遺伝子改造によって宇宙に適応した人類たちを描く『コスモノーティス』
ある孤独な画家が幻視した宇宙『星窪』
以上五編を収録。
いずれも的確な知識とその説明に支えられたハードSFの力作。
同じ作者の長編の外伝的作品が多いためか、ちとわかりにくい話も多かったが、世界観はいずれも魅力的で、その長編を読んでみたいと思わせるものだった。
特に良かったのが『猫の天使』
物語の語り口が巧妙で読みやすいのもさることながら、ここで語られる猫の視覚というものが珍妙不可思議で、しかし生物学的な説明がしっかりと入ってくるので説得力はばっちりで、勤勉な作者の性格がうかがえる。猫にありがちな「なにもないところを見ている」という行動の理由付けが、そのまま物語のオチへとつながっており、お見事。猫好きのSF好きには是非呼んでもらいたい。
日本の代表的なSF作家、というと、筒井・小松・星の三大巨頭がまずあげられるが、つけ加えて一人、というなら、光瀬龍だと、自分は思っている。
一言で云うと、カッコいいハードSFを書くのが光瀬龍だ。
文章的な実験と仏教をとりいれた不思議な未来観。圧倒的な無常観と叙情性、そういった「ちよょっと素人には手出しできない」SFを書いてきたのが光瀬龍で、彼の路線は山田正樹へと継がれ、さらに神林長平・大原まり子につながっている。
ところが、どうしたわけか、神林・大原の後を継ぐに足るSF作家が、いまだ見当たらない。
どうしたわけかもくそも、SFブームが終わってしまったんだからどうしようもない。面白い作品が出ても、売れないんだからどうしようもない。そもそもハードSFなんてややこしいもの、売れるほうがおかしいのだ。
そんなわけで、この路線は細々と書かれながら、次のヒット作は九十年代中盤のアニメ、エヴァンゲリオンを待たなければならなかった。正直、エヴァンゲリオン嫌いの自分としては神林と同じ路線だと認めるのはかなり忸怩たる思いがあるのだが、仕方あるまい。それくらい、SFは不作が続いていた。ロボットアニメは流行っていたのに。スターウォーズは大ヒットしているのに。
それが近年、エヴァンゲリオンが道をつくったのかなんかしらんが、ハードなSF設定も、うわっ面で恋愛なりバトルなり青春ものなりやっとけば受け入れられることがわかったみたいで、ゲームやライトノベルを中心に「実はハードSF」な作品が多々見られるようになった。割合的には少ないが、その中には本物も含まれている。嬉しいことだ。
が、やはりそういう遊びの少ない、正々堂々のハードSFも読みたい。そんな中、近年、ハヤカワがやっと動きだしてくれた感がある。翻訳とグインだけじゃまずいとやっと気づいてくれたんだろうか。
そもそも早川書房、やる気がなさすぎだと思う。才能ある作家を、もっとやる気にさせなくちゃだめだろ。今まで幾人かの早川作家のあとがきとかを見るに、どうも早川はかなりの放置主義っぽいんだ、これが。
例えば『星界』シリーズの森岡浩之。『星の樹が継げたなら』でデビューし、幾編かをSFマガジンで発表したが、その後なにも連絡なし。数年後、頼まれてもいない『星界の紋章』全三巻分を書き上げた森岡が突然原稿を持ってくるまで、ろくに連絡していなかったらしい。
この『星界』シリーズが若い層(要するにアニオタですが)にヒットして、早川のメインコンテンツの一つとなるわけだけど、こういう有望な若手作家、ちゃんとサポートしてやれよ早川。『星界』の新刊が遅れ続けてるのって、絶対に催促がぬるいからだろ。確かに作者は遅筆だが、間にスニーカー文庫で何冊も書いてるんだぞ。
催促がぬるいと云えば、原寮も放置気味だ。そりゃ、本人自体、まるで海外作家のような発刊ペースを望み、楽しんでいる節はあるが前作から『愚か者死すべし』まで、何年空けてるんだよと突っ込みたい。
飛浩隆もそうだ。彼は幾編かの中短編を書き、SFマガジンなどで好評を博していながら、92年から十年も沈黙を続けている。どうもその間、さして早川から連絡があったようでもない。せっかくの中短編すら、単行本にしてもらえていなかった。
放置といえば、やはりグインサーガ。内容もそうだが、校正もいい加減で有名。「栗本薫がわがままだから」という意見も多いが、ちっとはなんとかしようとしろよ、編集も。厄介なことは全部放置かよ。
かように、ぼくの知る限り、どうも早川は受身らしい。ひたすらに受身らしい。あかんだろ。
ただ、いいところもあって、前述の森岡、原、飛、三人とも、突然原稿を送ったのに、即「出版しましょう」となったそうな。受身なくせにフットワークは軽い。
それだけ新人とか原稿求めてるくせに、最近になって創設された日本SF新人賞の主催は徳間書店で、おい、そりゃ早川がやれよと云いたくなった。やる気出せよ、早川。ゲッタップ、早川。
まあ、そんな早川ですが、近年少しはやる気を見せている感がある。だからがんばれ。
話が逸れすぎてわけわからなくなった。無理矢理戻す。
要するに、おれはこの藤崎慎吾という作家、初めて読んだのだが非常に買っている。
光瀬・山田・神林の路線を継ぐに足る人材かもしれないと思った。若手というにはトウがたっているが、がんばれ。超がんばれ。
そんな感じ。早川しっかりしろよ
戦闘サイボーグの悲劇を描いた表題作『レフトアローン』
猫の視覚をモニターに映す実験が招いた事件『猫の天使』
赤子の脳に宿ったAIの物語『星に願いを ピノキオ2076』
遺伝子改造によって宇宙に適応した人類たちを描く『コスモノーティス』
ある孤独な画家が幻視した宇宙『星窪』
以上五編を収録。
いずれも的確な知識とその説明に支えられたハードSFの力作。
同じ作者の長編の外伝的作品が多いためか、ちとわかりにくい話も多かったが、世界観はいずれも魅力的で、その長編を読んでみたいと思わせるものだった。
特に良かったのが『猫の天使』
物語の語り口が巧妙で読みやすいのもさることながら、ここで語られる猫の視覚というものが珍妙不可思議で、しかし生物学的な説明がしっかりと入ってくるので説得力はばっちりで、勤勉な作者の性格がうかがえる。猫にありがちな「なにもないところを見ている」という行動の理由付けが、そのまま物語のオチへとつながっており、お見事。猫好きのSF好きには是非呼んでもらいたい。
日本の代表的なSF作家、というと、筒井・小松・星の三大巨頭がまずあげられるが、つけ加えて一人、というなら、光瀬龍だと、自分は思っている。
一言で云うと、カッコいいハードSFを書くのが光瀬龍だ。
文章的な実験と仏教をとりいれた不思議な未来観。圧倒的な無常観と叙情性、そういった「ちよょっと素人には手出しできない」SFを書いてきたのが光瀬龍で、彼の路線は山田正樹へと継がれ、さらに神林長平・大原まり子につながっている。
ところが、どうしたわけか、神林・大原の後を継ぐに足るSF作家が、いまだ見当たらない。
どうしたわけかもくそも、SFブームが終わってしまったんだからどうしようもない。面白い作品が出ても、売れないんだからどうしようもない。そもそもハードSFなんてややこしいもの、売れるほうがおかしいのだ。
そんなわけで、この路線は細々と書かれながら、次のヒット作は九十年代中盤のアニメ、エヴァンゲリオンを待たなければならなかった。正直、エヴァンゲリオン嫌いの自分としては神林と同じ路線だと認めるのはかなり忸怩たる思いがあるのだが、仕方あるまい。それくらい、SFは不作が続いていた。ロボットアニメは流行っていたのに。スターウォーズは大ヒットしているのに。
それが近年、エヴァンゲリオンが道をつくったのかなんかしらんが、ハードなSF設定も、うわっ面で恋愛なりバトルなり青春ものなりやっとけば受け入れられることがわかったみたいで、ゲームやライトノベルを中心に「実はハードSF」な作品が多々見られるようになった。割合的には少ないが、その中には本物も含まれている。嬉しいことだ。
が、やはりそういう遊びの少ない、正々堂々のハードSFも読みたい。そんな中、近年、ハヤカワがやっと動きだしてくれた感がある。翻訳とグインだけじゃまずいとやっと気づいてくれたんだろうか。
そもそも早川書房、やる気がなさすぎだと思う。才能ある作家を、もっとやる気にさせなくちゃだめだろ。今まで幾人かの早川作家のあとがきとかを見るに、どうも早川はかなりの放置主義っぽいんだ、これが。
例えば『星界』シリーズの森岡浩之。『星の樹が継げたなら』でデビューし、幾編かをSFマガジンで発表したが、その後なにも連絡なし。数年後、頼まれてもいない『星界の紋章』全三巻分を書き上げた森岡が突然原稿を持ってくるまで、ろくに連絡していなかったらしい。
この『星界』シリーズが若い層(要するにアニオタですが)にヒットして、早川のメインコンテンツの一つとなるわけだけど、こういう有望な若手作家、ちゃんとサポートしてやれよ早川。『星界』の新刊が遅れ続けてるのって、絶対に催促がぬるいからだろ。確かに作者は遅筆だが、間にスニーカー文庫で何冊も書いてるんだぞ。
催促がぬるいと云えば、原寮も放置気味だ。そりゃ、本人自体、まるで海外作家のような発刊ペースを望み、楽しんでいる節はあるが前作から『愚か者死すべし』まで、何年空けてるんだよと突っ込みたい。
飛浩隆もそうだ。彼は幾編かの中短編を書き、SFマガジンなどで好評を博していながら、92年から十年も沈黙を続けている。どうもその間、さして早川から連絡があったようでもない。せっかくの中短編すら、単行本にしてもらえていなかった。
放置といえば、やはりグインサーガ。内容もそうだが、校正もいい加減で有名。「栗本薫がわがままだから」という意見も多いが、ちっとはなんとかしようとしろよ、編集も。厄介なことは全部放置かよ。
かように、ぼくの知る限り、どうも早川は受身らしい。ひたすらに受身らしい。あかんだろ。
ただ、いいところもあって、前述の森岡、原、飛、三人とも、突然原稿を送ったのに、即「出版しましょう」となったそうな。受身なくせにフットワークは軽い。
それだけ新人とか原稿求めてるくせに、最近になって創設された日本SF新人賞の主催は徳間書店で、おい、そりゃ早川がやれよと云いたくなった。やる気出せよ、早川。ゲッタップ、早川。
まあ、そんな早川ですが、近年少しはやる気を見せている感がある。だからがんばれ。
話が逸れすぎてわけわからなくなった。無理矢理戻す。
要するに、おれはこの藤崎慎吾という作家、初めて読んだのだが非常に買っている。
光瀬・山田・神林の路線を継ぐに足る人材かもしれないと思った。若手というにはトウがたっているが、がんばれ。超がんばれ。
そんな感じ。早川しっかりしろよ
谷甲州です。光瀬の後継者は谷甲州だと思うのですが。
藤崎慎吾に「クリスタル・サイレンス」という作品があります。お勧めです。
「早川しっかりしろ」大賛成です。
どっちかっつうと架空戦記の人って認識だしね、うん。
どっちかっつうと、綿密な取材と知識で地道に細かく書いていく人って印象だから、小松路線じゃね?みたいな。日本沈没第二部書いてるし、みたいな。
だからまあ、その路線におれは意地でも谷甲州を入れないですよ(読んでないから)
二つもレスがつくなんて
この作品てそんなメジャーなの?
まったくそんな匂いをかんじとれなかったあたしの負けなの?
ちなみに「レフトアローン」「星に願いを」「星窪」が長編「クリスタルサイレンス」や「ハイドゥナン」の外伝つうか番外編というか、そんな感じらしいですよ。つまりほとんどじゃん、みたいな。
「象られた力」はSF好きじゃないとついていけないが
「老ヴォール~」は適当な知識でもついていけるから是非読むと良いよ?