うな風呂

やる気のない非モテの備忘録

わたくし率イン歯ー、または世界  川上未映子  うな

2009年05月03日 | 読書感想
わたくし率イン歯ー、または世界
川上 未映子
講談社





★わたくし率イン歯ー、または世界
「自分は奥歯である」と規定する歯医者でアルバイトする女性が、何者とも知れぬものに語りつづけている中篇。


★感じる専門家、採用試験
よくわからないことが羅列されてる短編。


作者は07年下半期の芥川賞を受賞した人で、その受賞を知ったときに見た写真がえらい美人でビビッた。
「作家にしては美人」ではなくて、普通に芸能人的な意味で美人で、なんだそりゃ? そういうのアリなんか? と思ったら、先に歌手としてデビューしていたそうで、なるほど、それならわからなくもない。
それでちょっと気になったので一冊読んでみたんだが……
えーと……これ小説じゃないよね?

表題作は、醜さと性格のせいで幼い頃からいじめられつづけてきたデブスの女性が、自分にしかわからないが変に系統だった電波理屈を延々と垂れ流して、中学生のときにちょっとだけ普通に会話してくれた男子生徒のところへ唐突に訪れみじめなおもいをする様を描いた、ある種のサイコホラー。

……と云ってしまえば狂気を描いた作品として普通に成り立ってそうにも思えるが、作者はたぶん、これを狂気として描いているつもりはないと思う。
ある意味、女性すべてのなかにある錯綜とした感情を、それを秩序だたせて理解させようとすることなく、生のまま言葉に置き換えた、そういう感じの作品だ。
おそらく小説ではなく、現代詩の手法なんじゃなかろうか?

「いじめられ続けたから狂った」としてしまえば腑に落ちるかもしれないが、はっきり云って、これは小説としての体裁をとるためのギリギリの措置であって、実際はそんな理由とかなしに成り立つはずの作品なのではないか?
ミニマル・ミュージックを思わせる独特のうねりと迫力をもった文章が、読者の感性そのものに絡みつき、説明のつかない悲しみや恐怖や苦しさを味わわせる、ある意味で言葉を用いた呪術的なものであって、小説、ではないのだと思う。
少なくとも、自分はこれを小説の範疇には、入れないなあ。

で、いま調べたら、この人、最近になって中原中也賞もとってるのね。つまり、普通に詩人だ。
受賞した時のコメントが「あらゆる批評や分析が追いつかないような詩作に精進したい」とのこと。
やっぱり、理解しようとがんばるだけ無駄で野暮な作風なのね。

詩人というのは、要するに変態だと自分は認識している。
普通は「言葉を武器にする」というときは、その言葉の意味・内容をもって戦うことをいうが、詩において「言葉を武器にする」とは、意味でもなく内容でもなく、言葉それそのものを相手の心に突き刺そうと必死で磨くことを云うのだ。
詩人が扱うものは「言葉」であって「文章」でも「台詞」でもない、という感じだ。

そういうわけで、おれはこの作品をまったく理解できなかったので、評価すること自体が不能という有様であります。
不可解だが不気味で不穏で不思議な内面世界を覗きこまされたい人は読んでみるといいかも。
人によっては、暴力的な言葉が物理的な力でもって叩きのめしてくる快感を味わえる、そういう作品ではあると思う。



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