【解答乱麻】ジャーナリスト・細川珠生 会話で育む「ものの考え方」
2012.10.6 07:47
領土をめぐる隣国との問題から、「国」というものを考える機会は、以前に比べ随分と増えてきていると実感することが多くなった。私の学生時代からの友人たちは、子育てに専念している人が多く、政治、なかでも領土や防衛、外交などに特段興味があるとは思えなかったが、昨今の日本の置かれている状況に大きな疑問や不安を持ち、ネット上でもその話題でもちきりになることがある。子育てをしているからこそ、真実を、また日本人として当然知っていなければならないことを、子供にしっかりと教えていかなければという思いになることも、当然のことである。
また、私が非常勤講師を務める星槎(せいさ)大学(通信制)のスクーリング時に領土や拉致問題などを取り上げると、それまで睡魔に襲われていたような学生でも、私の話にくぎづけになる。興味深いのは、「徴兵制についてどう思うか」と、世界の徴兵制の動向などを説明した上で聞いてみると、「いざとなれば、若い自分たちが国のために動かなければならないのに、武器の使い方一つも分からないのは不安だ」という答えが返ってくることだ。また、「バイトで一緒の韓国人や台湾人が徴兵で国に帰っていく姿を見ていると、自分たちはこれでいいのか不安になる」という学生もいる。「現代政治論」という私の授業をとっているのは、必ずしも政治に興味がある子ばかりではない。金髪の、イマドキの学生も多い中でこのような返答は、私でも驚いてしまうのだ。
「国」というものを考える上で基本となるのは、やはり歴史教育である。私の世代は、地域によって違いはあるかもしれないが、全体として、自虐的な教育は少なかった。半面、一つ一つの出来事を深く考えるというよりは、「詰め込み型教育」の典型のように、ひたすら暗記のための「歴史」教育であった。当然のことながら、自国を否定することはないが、主体的に行動したり、歴史についてしっかりとした考えをもち、それを子供に教えるということができていない。
しかし、学校教育だけで歴史認識を育てようとするには、限界がある。長い日本の歴史を教えるための物理的な問題もあるが、自分の国についてどう考えるかは、基本的に家庭で、教えていくことである。長い歴史の中で受け継いできた日本の良さや価値観、ものの考え方を、事あるごとに親が子供に「話して」教えていくことがその土台となる。ある日突然、領土や歴史など、大上段に構えて教えることなど不可能であり、それ以前にどのような出来事でも題材に、どのように考えるか、親が子供と会話をする。それによって「ものの考え方」が育まれるのだ。
それを抜きに正しい歴史認識も、国に対する思いも生まれない。学校での歴史教育は、子供たちがそのような意識を持っていることを前提に、多様な意見や考え方に耳を傾け、自分自身の考えをさらに一歩進めていくところであると私自身は考える。
いろいろな面からみても、最近の家庭は子供のそのような認識を育む環境にはなっていない。共働き家庭の増加や子供のお稽古ごと三昧の風潮で、親子の接する時間、ましてや会話は極端に少なくなっている。真の意味での家庭の教育力の向上なくして、日本の将来はないといえる。その自覚を、まずは当事者である親たちが持たなければならない。
◇
【プロフィル】細川珠生
ほそかわ・たまお 前東京都品川区教育委員。ラジオや雑誌などで活躍。父親は政治評論家の故細川隆一郎氏。