つばさ

平和な日々が楽しい

クイズは「太いのも細いのも、長いもの短いのもあって、ヌルヌルは」

2012年10月28日 | Weblog
時鐘10.28
 射水(いみず)市でアナゴの養殖(ようしょく)に成功したという。世界初の完全養殖を目指すというから注目が集まる
「穴子(あなご)でからぬけ」という落語がある。「からぬけ」は出し抜くという意味とか。主人公は、この地では「ダラ」と呼ばれる与太郎(よたろう)で、仲間に金を掛けたクイズを出す。「尾が長くてモーと鳴くものは」「尾は長くてチューチューと鳴くのは」と、ダラみたいな出題をして金をとられる

やがて掛け金が膨(ふく)れ、与太郎が出したクイズは「太いのも細いのも、長いもの短いのもあって、ヌルヌルは」。ウナギかドジョウかと迷う相手に、与太郎は「両方言ってもいいよ」。そう答えると、「違う。答えはアナゴ」

ダラ役がまんまと相手を負かす噺(はなし)。子どものころに聞かされた戒(いまし)めを思い出す。「ダラ、ダラと相手を見下す者こそ、ダラやぞ」。笑って社会勉強になる一席である

いろんなところで、無分別(むふんべつ)や理不尽(りふじん)が大手を振ってまかり通る昨今である。こっそり「ダラ」呼ばわりしたい人が結構いる。が、アナゴの朗報(ろうほう)を機に、少しは控(ひか)えよう。ひょっとして、ホントは賢(かしこ)い与太郎がいるのかもしれぬ。

日本人は何を食べているのか心配になる

2012年10月28日 | Weblog
天声人語10/28
 天高きこの季節は、実りの秋にして食欲の秋でもある。しかし1945年、敗戦後の秋は食料がなく、人々は腹を空(す)かせて迫る冬におびえた。東京の日比谷公園では11月1日に「餓死対策国民大会」が開かれている▼そんな秋に封切られた映画「そよかぜ」は、映画自体より挿入歌「リンゴの唄」で知られる。撮影のとき、主演の並木路子がリンゴを川に投げた。まねだけのはずが本当に投げたら、スタッフが叫んで土手を駆け下りたという。リンゴ一つが何とも貴重だった▼以来67年がすぎて食べ物はあふれ、いまや「果物離れ」が言われて久しい。意外なことに、日本人が果物を食べる量は先進国の中では最低の水準という。体にいいとされながら、生で食べる量は減りつつある▼リンゴも苦戦が伝えられ、その理由の一つは「皮をむくのが面倒」だかららしい。便利とお手軽に慣らされたせいか、ミカンの皮むきも嫌う人がいるそうだ。ブドウも薄皮で種がなく、丸ごと食べられるのが人気なのだという▼低迷は果物だけではない。飽食の中で「魚離れ」「米離れ」も進み、「野菜離れ」が言われたりする。日本人は何を食べているのか心配になる。ファストフードとスナック菓子というのでは、どうにも寂しい▼しばらく前の朝日歌壇にこんな一首があった。〈「すばらしい空腹」といふ広告文広告として成り立つ日本〉。リンゴの唄は遥(はる)か遠く、飢えにおびえぬ健康な空腹。一顆(いっか)、一粒への感謝を忘れまいと思う、実りの秋だ。

若い層から、難しい作品を背伸びして見る気質が消えたのだという。

2012年10月28日 | Weblog
春秋
2012/10/28付
 20年ほど前、大虐殺の嵐が吹き荒れたアフリカのルワンダで、多くの人々をかくまい、命を救ったホテル支配人がいた。映画「ホテル・ルワンダ」はこの実話を描く。日本での上映予定はなかったが、映画好きの署名活動で公開が決まり、大ヒットに。6年前の話だ。
▼テーマは重く、俳優の知名度は低い。先陣切って上映を引き受けたのが、前年末に開業した東京・渋谷の「シアターN」だった。客席数が少なく、芸術作品や社会派映画を単独で上映する「ミニシアター」と呼ばれる映画館だ。当時の渋谷ではこの種の小さな映画館が相次ぎ誕生し、扱う作品のユニークさを競っていた。
▼そのシアターNが、この12月で閉館すると決まった。最盛期には渋谷周辺に20館ほどあったミニシアターが、これでほぼ半減する。かつての隆盛がうそのように、いまミニシアターに逆風が吹いている。理由の一つは若者の変化。ミニシアターを支えた若い層から、難しい作品を背伸びして見る気質が消えたのだという。
▼もう一つの逆風は技術の進化だそうだ。複製フィルムに代わりデジタル素材が映画館に届くようになる。スクリーンできれいに映すには1000万円ほどの映写装置を購入しなければならない。ならばいっそ廃業を、となるわけだ。映画に限らず、多様な作品を気軽に楽しめるのが文化的な街だろう。いい知恵はないか。