つばさ

平和な日々が楽しい

手の届かない古里だが

2012年10月01日 | Weblog
あぶくま抄(10月1日)
 古里を突然追われた人たちがいる。原発事故による避難者ではない。歯舞群島、色丹島、国後島、択捉島の「北方四島」で暮らしていた約1万7000人だ。
 終戦から約2週間後の8月28日、旧ソ連軍の侵攻を受ける。2年後、強制送還が始まった。ほぼ全員が昭和23(1948)年10月までに島を出される。荷物は1人30キロ以内に制限された。取るものも取りあえず家を離れる。小さな船に押し込まれ、樺太経由で本土に送られた。途中で亡くなる人もいた。
 現在、元島民約7700人が全国に散らばっている。本県でも約10人が暮らす。元島民らが先月、ロシアとの今年度「ビザなし交流」で色丹島を訪れた。島は深緑色の木立と、もえぎ色の草原が絶妙な色彩を織りなし、稜線[りょうせん]が続く。複雑に入り組む海岸線には海鳥が多数生息する。高山植物の宝庫だ。戦前は「東洋の箱庭」と呼ばれ、国立公園の候補地にもなっていたほどだ。
 手の届かない古里だが、いつかは必ず帰りたい。しかし、生きているうちに実現できるのか…。涙が止まらなかったという。原発事故で地元を離れた県民と姿が重なる。無理やり引き裂かれた古里への思いに違いはない。

文は人なり梵語

2012年10月01日 | Weblog
 ものを言いつけられる。じゃまくさい。なおざりな受け答え。「はいはい」。すぐに返ってくる。「返事は1回でいい」。そう注意されたことが一度や二度はあると思うのだが、誰でも▼だからかどうかは知らないが「快く承諾すること」を「一つ返事」と思い込んでいる人が結構いる。先に文化庁の発表した国語に関する世論調査でも「二つ返事」と正しく答えた人の方が少ない▼言葉の海という。広くて深い。横着をすると溺れてしまう。…ペンを持って見ると、滅多(めった)にすらすら行ったことはない。必ずごたごたした文章を書いてゐる-芥川龍之介ですら「文章と言葉と」という作品に残している▼凡なる身はなおさら。毎年の調査に無知を省みる。今年もそう。「うがった見方をする」「割愛する」。恥をさらすようだが、誤解していた。はき違えたまま、原稿を書いてきたかもしれない…▼文は人なり。文章には人柄が出るというから、誤った言葉を使う人は性格もだらしない?自戒を込めて。そういえば、総理大臣の言った「近いうち」も正しい意味からどんどん遠くなっていく▼さてこの小文の冒頭、何か気付かれなかったろうか?当座を繕うことは「おざなり」が正しい表現。「なおざり(おろそかにすること)」は文意から誤用である。すっと読み流されていては人のことを言えませんぞ。

[京都新聞 2012年10月01日掲載]



お金のために人は働かない。それはもはや大きな流れです

2012年10月01日 | Weblog
 中日春秋 2012年10月1日
インターネットでアルバイト情報サイトなどを運営する「リブセンス」(東京・渋谷)がきょう、東証一部に上場する。社長の村上太一さんは二十五歳。マザーズ上場から十カ月でのスピード昇格だ
▼冷蔵庫もなく、テレビも映らないマンションに一人暮らし。笑顔を絶やさないごく普通の青年である。学生時代に起業した会社を最年少で上場させる経営手腕とはうまく結び付かない
▼主力事業は若者向けの情報サイト「ジョブセンス」。アルバイトを雇いたい企業は無料で広告を出す。それを見て応募した人を採用した時に初めて広告費を払う
▼この成功報酬型も業界の常識を覆す発想だが、さらに驚かされるのは、採用が決まった人に最大で二万円の「祝い金」を支払うことだ。昨年、支払った祝い金は約九千六百万円。自社の利益を減らして顧客に還元する姿勢が若者から強い支持を集める
▼「お金のために人は働かない。それはもはや大きな流れです」と上阪徹さんのインタビューに答えている(『リブセンス』日経BP社)。経営理念は「幸せから生まれる幸せ」。顧客を幸せにすることで、自分たちも幸せになる。ひたすら利益を追求した前の世代の起業家とは考え方が違う
▼「お金、お金という社会の価値観に惑わされない世代かもしれません」と村上社長。物欲のない世代が社会を変える。そんな予感がする。


記憶の宝庫 春秋

2012年10月01日 | Weblog

春秋 2012/10
 ユーチューブは記憶の宝庫だ――。作家の久間十義さんがすこし前の本紙夕刊「あすへの話題」に、そんな感慨をつづっていた。なにかと話題になるこの動画投稿サイトを、久間さんはもっぱら過去に遡る手段として使っているという。たしかにその気分、よくわかる。
▼昭和の流行歌を聴けば心は少年時代に戻って祖父の面影がよみがえり、70年安保の映像を呼び出せば高校生の昔を思い出す……と久間さんは書いていた。小欄も同様で、先日は「鉄人28号」のアニメに出合ってグッときてしまった。かくなる威力だから著作権をめぐる摩擦は付き物というべきか、その点の話題も絶えない。
▼インターネット上の音楽や動画を、海賊版と知ってダウンロードすれば刑事罰を科すという改正著作権法がきょう施行される。ユーチューブで往時を懐かしんでいたら御用、というわけではないが、これをパソコンに保存すれば法に触れるケースもあるという。被害者の告訴が条件だが、場合によっては2年以下の懲役だ。
▼コワモテなのに違法性の線引きがひどく曖昧な法律ではある。へたに運用されればネット社会が萎縮すると心配するのは、なにもオタク諸君ばかりではなかろう。それにこの改正法、6月に国会でほとんど議論もなく成立した経緯も気にとめておいたほうがいい。かの「記憶の宝庫」には当時の模様もいろいろ残っている。