日伊相互文化普及協会

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草を食う

2009-11-25 18:47:57 | Weblog
今日は、Emiの未公開のブログをひとつご紹介します。

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「あそこの2個のカルチョーフィ(アーティチョーク)、どけられない?」
卓球選手権イタリアチームの赤鬼顔をしたキャプテンが私に口を寄せて言いました。

日本で開かれた世界大会の練習試合が終わって、選手たちとラフなカフェレストランに入った時でした。

「カルチョーフィ・・・・??!!」

あたりをキョロキョロしましたがそんなものはありません。ここは日本ですぞ。イタリアだったにしても客席にカルチョーフィがあるなんてことはまずない。

「どこに~ぃ、カルチョーフィがぁ・・・?」
「あそこ」

赤鬼がそっと目を遣る先を見ると、どうみてもサボリとしか見えない中年サラリーマン風と競馬新聞を手にした大学生のような男の人が2人、銘々横並びで食事をしていました。

赤鬼キャプテンはその日本人二人に座席をずれてもらって、自分の選手たちの席をまとめたかったのです。



「なるほどお、カルチョーフィってか・・・」。

この時にちょっと目障り、邪魔、もてあまし、うっとうしいことにカルチョーフィの名詞が使われるのを覚えました。
ちなみにどこにでも出没する人、ワサワサしてる人のことはプレッツェーモロといいます。




さて、このカルチョーフィ、フランスに嫁いだカテリーナ・ド・メディチの大好物だったのをご存知でしょうか。

カテリーナが嫁いだ時代、フランス貴族たちの間では野菜を食べることはほとんどなかったそうです。
野菜を食べるとオナラが出る、オナラは災いをもたらすと言われて忌み嫌われていたそうですが、富を誇示するためにも肉や卵、精製小麦の料理やお菓子などをふんだんに摂るのを好んだようでもあるようです。

緑の乏しい冬などはまるっきりといっていいほど野菜無視の日常であったので春先になると貴族たちの顔や身体には吹き出物がいっぱい、とても汚かったそうです。

王侯貴族の中でも国王のルイ14世の食生活は現代人から見ると目を覆いたくなるようなもの、繊維質のない食事で年がら年中重度のフン詰まり、彼の顔中、全身中は吹き出物や膿でただれたおできがいっぱいで、ひどい臭気を放っていたそうです。



そんなメタボまっしぐらの食生活の中へフランスにはないイタリアの数々の野菜を持ち込んだカテリーナ。

フランス貴族はそんなカテリーナを「草喰い女」といって陰口を叩いたそう。カテリーナは自分の存在がガッチリと宮殿に安定するまでは、大好きなカルチョーフィをたった一人、寂しそうに食べていたそうです。



ドイツ民族を代表するゲルマン人は4世紀頃、イタリア半島に南下してきました。
彼らも「イタリア人は草を食う」と驚いたそうです。イタリア半島からもたらされて今でこそドイツにも豊富にある数々の野菜は当時の寒冷地ドイツにはありませんでした。

ドイツではスペルト小麦を中心とした穀類と肉を食べ、野菜を摂ることはほとんどなかったのです。



イタリアはドイツやスイス、フランスの山岳に隣接する地帯を除けばヨーロッパ大陸の中で最も温暖な地域です。
現在では栽培されて売られている野菜、それらは野山や原野にたくさん自生をしていたのです。
人参などは現在より少し小ぶりでありましたけれど昔も滋養の高い野草として重宝されていました。

食事の支度をする際に地から自生する草花を摘む地元の人々を見て、ドイツから南下して来た人々は「イタリア人は草を食べる」と驚いたのでしょう。

肉類にいたっては豚を飼い、年に一度殺して身は塩漬けに内臓は加工をし、晴れの日に食べた庶民、庶民より肉食を多く楽しんだのはイタリアの貴族も他国と似たり寄ったりですが、イタリアでは貴族階層の人々も他国よりずっと野菜に親しんでいました。



「イタリアの食事は日本人に合う」という人達はたくさんいます。
日本のように自然の素材を活かした料理の多いイタリア料理、私たちがイタリアに親しみを感じるのは当然といえるでしょう。


現在テーブルに上るアーティチョークはほとんどが栽培物ですが、サルディニア島では野生のものが食べられています。
普通のものより小ぶり、赤みがかっていてアクが少ないので生食で食べることができ、野性味のある甘さがあります。


ミラノなどではサルディニア料理のレストランが週に1度または数回空輸で取り寄せてお客さんに提供しているところもあります。

カルチョーフィのほかにサルディニアの特産が置いてあるので行ってみたらいかがでしょう。サルディニアに行かずとも本格的な料理とワインが楽しめます。
私がひいきにしているのはベネチア門そばのスーパー、エッセルンガの隣にあるCalalunaです。
毎夜満席になり、レストランの外では空席を求めて待つ人も多いので予約をしていったらいいでしょう。



場所や電話番号はインターネットで調べてください。本ブログはガイド書ではないので、それらは載せないことをご了承ください。

カテリーナがよく頭を包んでいた大きな網目模様のような頭の被り物の頭姿は、カルチョーフィがオーソドックスではない日本人から見るとツクシの頭のようにも見えますが、あのボテッはまさにカルチョーフィともいえますよ!

イタリアでもうっとうしがられ、もてあまされていたというカテリーナ、現代も比喩となって出没しているんですね。

Emi

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「野菜を食う」ではなくて「草を食う」とは見事な表現ですね。

日本では野菜だけでなく山菜や野草も含めて、まさに‘草’に至るまで
料理としてかなりの古い時代から親しんでいますよね。

こないだ来日したジャンピエロは、帰国の日、パン主食の彼には慣れない疲れがでたのか
軽い、呑気症をわずらっていました。
「こんなときイタリアでは、ウイキョウ(finocchio)の葉を煎じて飲むんだよ」
と、楽しそうに話していましたが。

イタリアでも、野菜だけでなく様々な‘草’を食材や薬用として、広く活用する習慣が
根づいています。
が、東洋の風習に習ったものよりかは、多くは地中海沿岸原産のものを用いた
古代の文化に基づくものでしょう。

もし、カテリーナが日本の‘草’料理に出会っていたら、どうなっていたでしょうか?
きっと、ヨーロッパの食文化にもっと大きな革命を起こしたに違いない…
と、思わずにはいられません。