ゆめ441 『排水』 2013年03月08日 02時53分26秒 | だれかのゆめのにっき 足元から徐々に水に満たされていく。 くるぶし、膝、腰と水位が上がっていく。 胸、首、顎が浸されて、私は精一杯最後の空気を吸い込んだ。 頭のてっぺんまで水中に没した頃には酸素はすっかり足りなくなっていた。 耐えきれず開けた口の中に水が浸入してくるが、苦しくはない。 私はもう水と同じになっていたのだった。 壁の栓が抜かれて私たちは排水されていく。
ゆめ440 『計数器』 2013年03月08日 02時52分46秒 | だれかのゆめのにっき 道端のガードレールに腰掛けて、カチカチと計数器をいじっている男がいた。 何を数えているのか訊ねると、男は正面を向いたまま無愛想に「幽霊です」と答えた。 「え、幽霊」 予期せぬ答えに私は驚きの声を上げる。 男は迷惑そうにこちらを一瞥すると、私の肩の辺りを見ながら五回ほど計数器を押した。
ゆめ439 『ここにしよう』 2013年01月22日 22時29分10秒 | だれかのゆめのにっき 「そうだ、ここにしよう。ここにしようかな。ここにしよう。そうだ、ここにしよう。そうだ、それがいい。ここにしよう。ここにしようかな。そうだ、ここにしよう。ここかな。ここにしようかな」
ゆめ438 『鳥カゴの部屋』 2013年01月22日 22時28分12秒 | だれかのゆめのにっき この部屋は妙に埃っぽい。 その上、お香だか生薬だかの独特な匂いが漂っていて、あまり気分が優れない。 針金を編んで作った自作の鳥カゴで溢れかえった、アパートの一室。 私はこの部屋に住んでいた人の名前も顔も知らない。
ゆめ437 『違った景色』 2013年01月22日 22時27分31秒 | だれかのゆめのにっき いつもの駅の構内がまるで違った景色に見える。 人の群像がやけに繊細かつ鮮烈な印象でそこにあって、今すぐにでも世界が終わってしまいそうな、そんな視界。 今自分がここで生きているという実感と、いつ死んだって構わないというような感覚とが同時に立ち上って、涙が止まらない。 この景色、この人たちの顔を私は一生忘れないだろう。 そんな気がしていた。
ゆめ435 『知らない男の子』 2013年01月07日 03時25分42秒 | だれかのゆめのにっき 剥製ばかりが並んだ動物園。 気付けば僕と彼女の間には知らない男の子がいて、僕たち三人は手を繋いで歩いている。 幼稚園児か小学校低学年くらいのその子どもは体操服を着ていて、どこか憂鬱そうに俯いていた。 僕たちは案内所に向かっている。
ゆめ434 『残り時間』 2013年01月07日 03時23分42秒 | だれかのゆめのにっき 大きな時限爆弾を抱えている人がいた。 球形の爆弾本体から飛び出した色とりどりのコードが身体中に絡まっている。 球体正面の液晶ディスプレイには残り時間が表示されていた。 「41:06:25:05:32:40」 残り41年6ヶ月と25日と5時間32分40秒、39秒、38秒。 その人の表情は爆弾に隠れてよく見えなかった。
ゆめ433 『地に足』 2012年12月19日 21時48分36秒 | だれかのゆめのにっき 一歩一歩をしっかりと踏みしめて歩く。 地に足がついていることを確認しながら。 それでも気が付くと宙を歩いている。 ああ、そんなふうに俺を見るな。 失敗だ、これは失敗だ。
ゆめ432 『立食会』 2012年12月19日 21時47分57秒 | だれかのゆめのにっき その立食会には各界の著名人が多く出席していて会話と食事を楽しんでいる。 私もそのうちの一人だが、私一人が全裸である。 そしてそれを気にしているのも私一人。 消え入りそうな声で退席を乞うと「まだいいじゃないか」とスピルバーグが笑った。