つわわわわ

上半身が球体に近づきつつある男の、特になんともないブログ

四本目「ダクト」

2014年04月09日 04時22分59秒 | 怪談
ある女性の話。

彼女は都内の小さな劇場を中心に役者として活動している。

ある舞台公演の本番前のこと。
彼女は舞台上に仰向けになるような形でストレッチをしていた。
劇場の天井には照明機材を吊すための長いバトンや、空調ダクトが設置されていたが、
ストレッチをしている彼女のちょうど真上のダクトの陰から、
幼稚園児くらいの男の子がひょっこり顔を出した。
男の子はニコニコと笑いながらこちらを見下ろしている。
数秒見つめ合っていたが、男の子はニコニコしたまま、またダクトの陰に隠れてしまった。

そこに人間のいられるスペースはない。

三本目「電車の夢」

2014年04月04日 01時16分00秒 | 怪談
ある男性の話。

飲み会の帰り道、電車の座席に座ってウトウトしていた。
車内は割と混み合っていて、自分の前にも立っている人がいる。
眠気と、席を譲らないでいる気まずさから顔を見たりはしなかったが、若い女性のようだった。
その女性のさげている鞄がやけに自分の右膝にこすれるのが少し気にはなったが、
やはり睡魔が強く、いつの間にか眠っていた。

ふと目が覚めるともう降りる駅だ。
慌てて電車を降り、自分の脚を見てぎょっとした。
右膝が血まみれだった。
けれど痛みも傷もない。
外から付けられたものだと気付くと共に、
膝にこすれていた女の鞄を思い出した。
あの女は自分が降りるときもまだ電車の中にいただろうか。
いや、いなかったような気もする。
気味が悪かったので、そのジーンズはすぐに捨てた。

しかし、それから奇妙な夢を見るようになった。

夢の中で彼は、電車の座席に座ってウトウトしている。
車内は割と混み合っていて、自分の前にも立っている人がいる。
若い女性のようだ。
その女性のさげている鞄がやけに自分の右膝にこすれるのが気になって顔を上げる。
魚のような顔の女が血走った目でこちらを見つめている。

そこで目が覚める。

たったそれだけの短い夢だが、今でも同じ夢をよく見るのだという。
電車に乗るのが少し怖い、と彼は言った。