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からくの一人遊び

音楽、小説、映画、何でも紹介、あと雑文です。

Soggy Cheerios「繭」Music Video

2021-10-11 | 小説
Soggy Cheerios「繭」Music Video



The Zombies - She's Not There



All About Lily Chou-Chou - 飛べない翼 - 呼吸 - Salyu (鈴木圭子)



Maro - Take It Back (Official Music Video)



(ちんちくりんNo,53)


 かほ・・・と途中まで名前が出かかったら、ほぼ同時に左右から同じ名前を言わんとする輩が二名いた。まず右の圭太を見てから左の貢の方を向いた。それぞれテーブル端の席に座っている両名は、僕同様湿ったせんべい布団のごとく情けない表情をしている。何?と尋ねてみると、両名とも「かほるちゃん、どうしちゃったのかなあ」と。
 かほるはもう三日も映画研究部に顔を出さない。僕の最終の原稿が出来上がって来たのが八月の二十日。これで明日から製本作業に入れるね、とお互い笑いあった。それが翌二十一日の朝、かほるから僕の下宿に、今日は都合が悪くて行けないと突然の電話連絡があった。僕らは、製本と言っても手作業で十分であり、大した冊数を作る訳ではないので、まあかほるが出て来てから皆で始めればいいかと話していたのだが、それからかほるからの連絡は途絶え、二十二、二十三日の朝、いつも通り駅前でかほるが来るのを待っていた僕は見事に振られたのだった。電話せえい、と圭太にどやされたが、先日のこともあり、不吉なことを告げられるのではないかと恐れた僕は、どうしても電話があるところまで行くことが出来なかった。
 結局、毎日だらだらと待っていても仕方がないので、明日かほるが来ようが来まいが作業を始めてしまおうと僕らは決めて昼には解散した。
 僕はそのまま帰るのも空しくて、途中、駅前にある喫茶店に寄った。この喫茶店で圭太と貢に初めて出会ったんだよな。あの時は丸テーブルが四つ、交互に並んでいて、カウンター席が五つといったやや空間を無駄にしている配置だったが、現在はカウンター以外、それぞれのの壁に木製の長いベンチのような座席が張り巡らせてあり、隅は一人或いは二人用、後は四~六人程が座れるようにテーブルと個別の椅子が効率よく配置されている。店の真ん中には何故か大きな観葉植物のようなものが置かれていた。僕は店に入って左隅奥の席に座り、アルバイトの女の子がお冷を持ってきた時に、アイス・コーヒーを頼んだ。客はまあまあ、ぼちぼちといった感じだ。
 店全体に広がる、何処か懐かしさを感じるアメリカン・ポップスを聴きながら、しばし僕はかほるのことを考えていた。かほるが何らかの病気を持っているのは確かだ。恐らく肺か心臓。それも軽くはないと思っている。でも同時に(大したことないさ)という声も僕の中で繰り返し響いている。でも、もし・・・それが原因で来れないというのなら、もしかしたら・・・死・・・、いやよそう、そんな想像は。最初倒れた時はまさかと驚いたが、その後は元気だったじゃないか、・・・飛躍し過ぎのバカな連想。
 銅製のタンブラーに淹れられた、アイス・コーヒーが運ばれてきたので、僕はそれを手に取り一気に飲み干した。それにしても、あいつと出会ってただの一か月、それだけの付き合いで何故俺は悩まねばならない。ふと、あの故郷行きの列車の中で「オリーブ」のような華奢な彼女を、強く抱きしめていたことが思い出された。胸が絞られるような気持ちだ。俺はあいつが、かほるのことが好きなのだろうか。