からくの一人遊び

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折坂悠太 - 爆発 (Official Visualizer)

2021-10-06 | 小説
折坂悠太 - 爆発 (Official Visualizer)



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(ちんちくりんNo,52)

かほるの秘密


 物語の結末はありきたりなものになってしまったかな、と思った。同時に、これが最善、今の自分の本当の実力だとも。
 少年の父親が家に帰ってきたところから先は、全て新しく書き直した。
 
 会社も辞め、長いこと家族とも連絡を絶ち、関係を持った女のところに転がり込んで居た父親が女に愛想をつかれ、突然、帰ってくる。八月十三日、そろそろ迎え火を焚こうかと話していたその日の夕方。突然帰ってきた父親、それを出迎えた母親。しばし二人はお互いに目を合わせたまま立ち尽くしているが、やがて母親が口を開く。「お帰りなさい。今から迎え火、一緒にお迎えいたしましょう」。―迎え火のまわりでおがらをくべる父、母、少年。父親が言う。「何故俺を責めない」と。母親はゆっくりと父親の方に顔を向け、笑顔を浮かべながら「もういいでしょう。もうあなたを縛り付けたりはしません。ふたりで、一緒に・・・これからは」
 それを見ていた少年は、もしかして、と思う。もしかしたら母親の病気は僕のせいではなかった?ならばあの呪文のような言葉は、あの二年の間自分を苦しめてきた言葉は結局何だったのだろう。「僕は一体どうしたら・・・」その少年の絞るように発した問いに、母親は返す。「そうね、あなたのことも私は縛ってきたのかもしれない。ごめんね。・・・いいのよ、自分がこれからやっていきたいこと、夢があるでしょう。これからはそれに向かって欲しい」
 そして、ラスト。一陣の風が吹く。バケツを持ち急いで火を消す少年。風がやみ「ご先祖さんが帰ってきたんだね」と両親に向かって笑う少年。皆で家に引き返そうとする途中、さも今気が付いたという風に、少年は誰に言うともなく呟いて、物語は終わるのだ。

―夢?夢は、そうだね。家族の物語を紡いでいきたい。ずうっと。

 この結末にかほるは「良かったね」と目を潤ませた。「良かった」ではなく、何故「良かったね」なのか疑問符がついたが、ともかく「終わったという爽快感」で一杯になった。けれど、彼女はひと言余計だ。突然不満げな表情をして「私もこの家族の輪の中に入れてくれれば,もっと良くなるんだけどなあ」。勿論、却下。
 それにしても、僕の下宿にいる間、ときどきかほるの僕を見る目がいつもと違うことが気になった。ふと振り向くと何かを訴えたい、そこまで口に出かかっているのに、というようなそれを必死に耐えて居る目。僕に何か重大なことを隠している?ならばこちらから訊くべきだったと思う。でも、僕もそこまでする勇気がなかった。怖い、ただただそんな感情だけが僕の前に立ちはだかり、それを真正面から受け止めるだけの懐の深い勇気が僕にはなかったのだった。

コメント (2)
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