1998年6月2日、ワイフの休みに合わせてワイフと二人、久々の遠出に出た。
目的地は群馬県にある伊香保温泉郷、どこへ行こうか散々に迷って、ほんの2、3日前に決めた場所である。
午前9時半、愛車シビックのエンジンをスタートさせる。
今日のルートは自宅→第三京浜→環八(環状8号線)→関越自動車道と走って高崎へ、その後一般道を通って「榛名湖」へ登り、伊香保温泉郷へと進む予定だ。
先ずは第三京浜の港北ICを目指して出発する。今日の天気は朝から曇り、関東地方も平年より一週間早く昨日から梅雨入りしたとかで今夜遅くから明日にかけては雨の予報が出ている。(日頃の行いと天気の関係ってやっぱりあるのかなァ…)そんなことを考えながらも、平日の朝の通勤ラッシュの時間帯を過ぎた道路は実に走りやすい。
自宅から30分ほどで第三京浜に入ると、皆さん結構飛ばして走ってる。今の車ってちょっとアクセルを踏んでやると簡単にスピードが出てしまうんで、かなり自制しないとヤバイ。そんな時、高速を走る時のクセで、いつものようにチラチラとルームミラーを見ていると後方に赤い点滅が見えた。
(あれ? パトカーかな?)
と思っていると、アッという間に追いつかれ、追い越し車線をスーッと抜いて行った。
ふとそのパトカーの前方を見ると、元気良くカッ飛んで行くのがいる。
(あの人ヤバイなァ)
と思って見ていると、やっぱり路側帯に誘導されて止めさせられた。
横に乗っているワイフも捕まった車を見て、思わず「気の毒にねェ…」。
第三京浜から環八に入ると、とたんに流れが悪くなった。うちのシビック、マニュアル車なんでトロトロされるのが一番イヤなんだよなァ。それに環八はたまにしか通らないから、流れの良いレーンが解らないんだよなァ。チョット流れの良い方にレーン変更すると裏目に出たりして、こういう時ってジッとしてるのが一番良いのかも知れない。
なんだかんだで、最近開通したトンネルまでやってきて、またハマッてしまった。ここは昔は踏み切りを渡るんで最悪の場所だったのが、トンネルを掘って地下を通るようになってから渋滞が緩和されたって聞いていたのだが、ピタっと止まってしまった。
トロトロとトンネルに入ると中で何やらアナウンスの声が聞こえる。
「トンネル内に故障車が止まっています。十分に注意してお通り下さい」
流れていればどうってコトないトンネルなんだけど、その故障車の所へ差し掛かるとパトカーの前を故障車を手で押して移動させている人たちが居た。制服の感じからトンネル施設の管理職員かとも思ったが定かではない。しかし、この排気ガスの中、ご苦労様です。それにしてもトンネル内で故障とは。トホホの世界だナ。
そうこうして午前11時15分、関越道の起点、練馬ICから関越に乗り入れた。各車渋滞から開放されて、とたんに元気良く走り始める。目指すは「高崎」。でも、その前に三芳(みよし)のSAでトイレに行きた~い!
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三芳のSAでワイフへと運転を交代する。ここから高崎ICまではそんなに遠くない。一本道だ。ギヤを5速に入れてしまえば後はオートマ車と変わらない。オートマ車といえば、ただ車を走らせるだけならばオートマで十分だと思うけど、道路コンディション×走行速度×天候×自己満足の組み合わせで考えると、好みから言うとやはりマニュアル車の方が好きだ。
走り屋ワイフの運転で時々120キロ出しながら、前の集団に追いつき追い越し、予定通り高崎ICで関越を下りた。練馬から高崎までだと1時間とかからない。
時計はすでに12時をまわっている。ついでにお腹も空いてきて目も回りそう。「どこか適当な所で昼食にしよう」とレストランを探しながらトロトロと走っているのだが、高崎ICを下りて県道28号線を高崎の市街方面に向かっているが、28号線沿いには小さなラーメン屋さんとか焼肉屋さんとかはあるが、ファミレスとか定食屋のような店が見当たらない。
まもなく高崎の市街を抜けようか、といった所にようやく「COCO’S」と書かれた看板を見つけた。外観からしてファミレスのようだ。駐車場も割と広いし、ためらわずに昼食はここに決めた。平日の昼で客が少ないせいかもしれないが、店内はデニーズだのスカイラークだのに比べて静かで落ち着いた感じ。そして、ワイフは「鴨南蛮うどん」、こっちは「日替わりランチ」をオーダーして空腹を満たした。
■ココス高崎店、027-320-1533、高崎市請地町11-62
午後1時15分、注文した料理がなかなか出てこなかったこともあって「ココス」でかなりのんびりと過ごしてから最初の目的地「群馬酒蔵」へとスタートした。ここからはまた私がハンドルを握る。県道28号線から国道18号線へ入り西へ約5キロ、進行方向右側のトヨタの販売店の裏に目的の「群馬酒蔵」はあった。ここは以前にも職場のバス旅行で来たことがあるのだが、あれから7~8年は経っているだろうか、敷地の中に地ビールの飲めるレストランができていたりして、様子がかなり変わっている。
(知っていれば昼食はここでも良かったナ)
などと思いながら広い駐車場の真ん中に車を止めた。
今日は火曜日。週の初めで観光客なんか誰も居ないと思って来たのだが、マイクロバスが1台、その他、自家用車が2、3台駐車している。ここへ来た目的は「日本酒の試飲」、さっそく記憶をたどって試飲場所でもある売店の方へ歩いていった。
売店には手持ちぶさた風の女の子が一人。我々の姿を見るや何本かの一升瓶を並べて、すかさず試飲の準備を始めている。このコーナーのある平屋の建物の中には他に人影はない。
「こちらで試飲ができますのでどうぞ」
「運転手だから飲んだらまずいよなァ」
などと、女の子の声にうながされて早速飲んでみる。
「運転手は味見だけで飲んだらだめョ」
とワイフに言われたが、(そんな、せっしょうな)口に含んでしまった「ふくよかな」香りの液体は飲み込まずにいられるハズもない。
最初に原酒を飲んだ、いや、味わった。
「うま~い!」
次に本醸造を飲んだ、いやいや、味見だけ。
「うん、まずまずかナ」
もう一本のも飲んでみた。
「これは普通の酒だ」
ワイフもあれこれ試飲しては能書きをのたまわっている。うちら夫婦は二人して日本酒大好きなので、こういう場所はたまらなく嬉しい。
売店の陳列棚にはここで醸造した日本酒が何種類か並んでいる。その中に関東の何とか大会で2位になった「福達磨の大吟醸」というのがあったので、それ(4合ビン、¥3,500)を1本購入する。ここ「群馬酒蔵」のレーベルキャラクターは高崎名産の達磨(だるま)なのだ。それともう1本、最初に試飲した原酒を注文した。すると、ここでは2本買う客は珍しいのか、
「2本ともお買い上げですか?」
と、さっきの女の子に驚かれてしまったのはご愛嬌(あいきょう)。
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造り酒屋に長居して酒気帯び運転になってしまってもイケナイので、40分ほど居て次の目的地「榛名湖」へとドライブを再開した。国道18号線「板鼻陸橋」から右折して県道10号線へ、しばらく行った「沖町東」の交差点を左折、県道26号線(高崎安中渋川線)に入って一路「榛名湖」を目指す。
5キロほど走って「西明屋箕郷小」交差点を右折、道なりにゆるゆると登って行き、「東明屋」交差点を左折で県道28号線(高崎榛名吾妻線)へと入った。県道28号線は初めのうちはセンターラインが引かれているほどの道幅だったが、しばらく行くとすれ違いも難しいほどの道幅となり、うねうねと結構な登りが続く。
道の両サイドは眩しいほどの新緑でおおわれ、ワイフの提案でそれまでつけていたエアコンを切って窓を開けて走行する。外の空気がひんやりと柔らかく気持ちが良い。ついて来る車も無ければすれ違う車もほとんど無い。車に乗ったままで森林浴をしている気分だ。
右に左にと小刻みにカーブを繰り返し、ようやく峠を越すと今まで木々に遮られていた空が急に広くなった。道はやや下りになり、窓の外からはウグイスの澄んだ声が聞こえて来る。 しばらく下った所に小さなグラウンドと隣接するパーキングがあった。グラウンドでは課外授業なのかキャンプにでもやって来たのか中学生がソフトボールに興じていた。この辺りも新緑が素晴らしい。
小休止の後、我がシビックは榛名湖畔の県営駐車場へ。ワイフは榛名湖ははるか以前に来たことがあると言っているが、私はバス旅行で湖畔を通過しただけで、ここに立つのは初めてだ。湖はさほど大きくはないが、榛名富士を背景に静かなたたずまいを見せている。竹久夢二がここにアトリエを構えたというのも何となく納得してしまう。
数人の観光客を乗せて「トテ馬車」がカパポコと軽快なヒズメの音を響かせてやってくる。その後ろを抜くに抜けない車が数台続く。
しばし湖畔を散策して、いよいよ今夜の宿泊地「伊香保温泉郷」へと出発した。地図を見れば一目瞭然だが、榛名湖と伊香保温泉とはほんのひとっ走りの距離しかない。ガラ空きの県道33号線(渋川松井田線)を10キロほど走って伊香保の町へ入った。
伊香保に入って最初に車を止めたのは町営の無料駐車場。ワイフが地図を見ていて「伊香保の石段街に行くならここが近い!」と騒いだのだ。当初の計画では、まず宿に落ち着いて、それから石段街を散策しようと思っていたのだが、地図を覗くとここから歩いた方がまるで近いことがわかる。
車を降りて勾配のきつい坂道を登ること約15分。伊香保温泉の源泉地にやってきた。源泉地には町営の露天風呂もあるので、うまく計画してここでひとっ風呂浴びて行くのも格別かもしれない。我々は残念ながら何も用意しないでここまで来てしまったので、露天風呂の入り口だけ覗いて帰ることにする。
また、露天風呂のすぐ手前には伊香保の温泉が飲める「飲泉所」があった。細い鉄管から湯が流れ落ちているのを備え付けのコップで飲むのだが、なぜか昔懐かしいアルマイトのコップが置いてあって、こいつで飲んでみたらヒドイ味がした。昔の話しなので今の若い人には解らないかもしれないが、アルマイトの器にお湯をそそぐと一種独特の匂いと味がするのだが、これに温泉臭をミックスさせたような、とにかく舌に味が残ってしまってこれには参った。できれば陶器のコップでも置いてあれば、また違った味がしたのかも知れない。
飲泉の効能に「痛風」が入っていたので、心当たりのある人は自前で湯呑みを持参してここで浴びるほど飲んで帰ると少しは良くなるのかも知れない。
源泉地からの帰り道は石段街を通ってきた。でも残念なことに古びた石段をイメージしていたのだが、ごく最近化粧直しをしたようで、とても近代的な石段に生まれ変わっていた。
ここの石段は360段あるのだそうだ。しかも石段の1段が高いので下から登ってくるのは大変そうだ。ワイフも「下りに選んで良かった」。
駐車場まで戻り、今夜の宿「旅館さくらい」さんへと向かう。
「旅館さくらい」さんは伊香保温泉街の中心が石段街だとすると、そこよりチョットはずれた所に建つピンク色の外装の宿である。15台ほどの専用駐車場に車を置きフロントロビーに入ると「いらっしゃいませ」という明るい声が出迎えてくれた。
チェックインは午後4時半だった。
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翌朝、9時半にチェックアウトして今日の最初の訪問地「竹久夢二記念館」へ向かった。天気予報の通り今日は朝から雨。「竹久夢二記念館」のある大正ロマンの森の駐車場から傘をさして本館入り口へ。ここで入館料¥1,500を支払って中へ入る。
初めに約15分の夢二に関するビデオを見た。竹久夢二ってあの独特のタッチの美人画で有名なのかと思っていたが、とっても多才な人物だったって事がビデオを見て良くわかった。絵本の挿し絵はもとより、「宵待ち草」の作詞もしていたなんて…。そんな前提知識を持って彼の作品を見てまわると、とっても身近な作品に見えてくるから不思議だ。
撮影禁止って札があったけど失礼して1枚だけ隠し撮りさせてもらった。
次に行ったのは水沢観音。
県道33号線から「水沢観音入り口」と書かれた大きな立てカンバンのある信号を右折して県道15号線(前橋伊香保線)へと入って約5分。道路の右側に広い駐車場があるのですぐにわかった。
ここの正式名は「坂東十六番札所 五徳山 水沢観世音」。縁起によると、千三百有余年の昔、推古天皇、持統天皇の勅願により、高麗の高僧恵灌僧上の開基である。御本尊は十一面千手観世音菩薩であり、霊験あらたかなること特に七難即滅七福即生のご利益顕著である、となっている。降りしきる雨の中、境内をそぞろ歩いて本堂を拝観させてもらう。
しばし、静寂な一時を楽しんで次の目的地へと出発した。
水沢観音の近くには名物の「水沢うどん」を食べさせてくれる店がたくさん並んでいたが、まだ11時前、お腹も空いていないので横目に見て通り過ぎる。
県道15号線をさらに走って向かった先は、「ハルナグラス」というガラス製品を作っている工場。ここも以前に職場の旅行で寄ったことがあるので勝手は分かっている。県道15号線を前橋方面に走り、「上州森のビール入り口」と書かれたカンバンを右折する。ここの右折は信号がないので気をつけてないと通過してしまいそうだ。
やって来た「ハルナグラス」では順路に従ってまず工場を見学する。今日は梅雨冷(つゆざむ)なのかメチャメチャ寒くって気温が17℃くらいしか無いらしい。長袖を着てないと寒くて居られない。
しかし、外の寒さに反して工場の中はオレンジ色に輝く炉の光の熱でムンムンしている。ガラス作りの職人さん達はこの熱気の中で毎日仕事しているのは大変だ。参観路は建物の2階部分に作られていて全体工程を上から見るようになっているのだが、一番人気が高いのが入って直ぐのところ、長い管の先に溶けたガラスをつけて吹いてふくらましているアレ。この工程のところは人がたまってしまって思うように進めない。事前に予約しておけば、実際に吹いてガラス器を作る体験もできるのだそうだ。
■ハルナグラス、0279-54-8877
工場の参観路を出るとお決まりの即売所へ行くようになっている。でも、ここのガラス製品即売所は確かに安い。原価では無いのは当然として、ここから各地へ輸送コストだの人件費だのが上乗せされて発送され、デパートその他に陳列されるわけだから、気に入ったのがあれば製造元で手に入れてしまうのがお上手な旅人でしょう。
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今回の旅行の最後の目的地に選んだのは「耳飾り館」。「美しい謎を秘めて縄文の耳飾りと世界の耳飾りが出会う」と、パンフレットに書かれているように、この辺りなのだろう「茅野(かやの)遺跡」から発掘された縄文の耳飾り(国の重要文化財に指定)と世界から集めた古今の耳飾り約1,000点を展示しているユニークというか珍しい資料館である。
中に入ると集められたイアリングの写真と実物が展示され、なかでも紀元前後の耳飾りのデザインの意外な新しさに驚いてしまう。
ここは建物の真新しさからして最近オープンしたようで、古いガイドブックには載ってないかも知れないが興味があれば行ってみると面白いと思う。なお、入館料は¥500だった。
ひととおり耳飾りを見てまわり、時計を見るとお昼だった。
パンフレットで見つけた古い民家を改造した店へ行ってみた。なるほど店のつくりは古い農家を移築して古さと、それなりの雰囲気を作っていたが、店のお勧めの釜飯は普通の味で少々ガッカリ。とりあえず昼食を済ませ、同じ敷地にある「田舎んち」という風変わりな屋号の店へ行ってみた。なんだか種々雑多が並んでいる、という感じの店だが産直の野菜がムチャクチャ安くてお勧めだ。(なにもここまで来て)と思わずいられなかったがワイフはそれほど広くない店の中をウロウロとして色々と野菜をカゴに集めている。「ベニバナの花束が安い」と言って花までカゴに入れている。伊香保へ行ったついでに地の大根やキャベツと言った野菜が欲しくなったなら、この店で買い物をするのも面白いかな。
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帰りは「渋川伊香保IC」から関越に乗った。昼食に飛び込んだ店から「渋川伊香保IC」まではほとんど一本道。うちらの前を観光バスが走っていたのでついて行ったら、案の定「渋川伊香保IC」へ連れていってくれた。
帰りの関越も空いていた。が、時折降ってくる雨とトラックの跳ね上げるシブキとで視界が悪くなる。(ま、のんびり帰ろっ)と、ほぼ時速100キロを保って走りつづけた。練馬の料金所が近づくにつれて車の数も増えてきたが、それでも渋滞という感じは全然無く、順調に環八へ出てこれた。