星空☆Casting

釣れるものはみんな釣りたい。
夜の海で一人
ひたすら同じ事を繰り返す快感。
さあ、ご一緒に。

ハーモニー

2012-06-27 23:23:58 | メバル

6/21/20:00。

上空の雲は厚いが水平線ではそれが薄く切れて、さっきまで華やかだった夕焼けの残照が濃く濃く赤い。

夏至のこの日。海は一年で最も遅い夕マヅメを迎える事になる。

マヅメとは時間の定義ではなく空の照度の定義である。

晴れていれば遅く、曇っていれば早い。

 

まだほんの少し明るさが残り、まだ夕方だ、という気持ちを持って油断しているとある瞬間ふと、もう、夜なのである。

必ず遅れてそれに気付く。

朝を迎える時も同じであるが、夜を迎える瞬間もうまく捉えられた試しがない。

そうなって初めて気付き、そうなる瞬間を一度も見た事が無い。

 

今日はダイさんとの釣りである。

上がった磯はダイさんがかつてフカセ釣りをしていた頃のポイントであり、地形や状況に極めて詳しい。

 

「あそことかこことかは言うて見ればスリットですわ。真ん中はテーブル上に浅くなってて、潮は普通こっちからこっちに流れて、で、こんな時はそこでいいグレ釣れるんすよ。」

 

フカセという釣りはいわば流れの釣りであり、基本的にはボトムの釣りである。

撒いた撒き餌がどこへ流れどこで沈むのかを正しく読み、その煙幕を外さぬようにほぼノーシンカーに近い長い長いリグを差し込んで行ってぴたりと底を釣る。

地形と水流を把握できなければ撒き餌代ばかりがかさみ、フグばかり釣れ、根掛かりも連発してまるで話にならない。

空間的、物理的に正しい想像力を必要とするものなのである。

そう言うところで鍛えられた人は強い。

地形と流れを読む事が出来れば、それにリグを同調させる事を知っていれば、大抵の魚は釣れるのである。

いきなり夜のメバル釣りから入った人はそこで悩む。

地形も見えず流れも見えず、ただ闇雲に投げて時々釣れて、しかしその理由が分からず再現が出来ない。

それに気付くのはたまたま極端な状況が現れた時であって、それに出会うには多くの経験を積まなければならない。

あるいは時々発生する偶然を忘れずに頭に刻み、その積み重ねをパズルのように組み合わせられる冷静さと繰り返す熱情が必要なのである。

 

水が「動く」こと。そこに何か「もの」があること。

 

舞台は夜なのである。そんなもの、人間の目には見えないのである。

その見えないものの大切さを「実感」として知る為には、やはり、多くの時間を費やさざるを得ないのである。

何を隠そう、僕がそうだったのだ。

メバルから入った訳では無いが、それが分かり、いくらか狙った魚が釣れるようになると、

「いったい今まで何をやっていたんだろう」

と、暗澹たる気持ちになったのである。

一言でいえば、なめていたのだ。

 

かすかに明るさの残る海にまだ地合いではないと岩に腰掛けその時を待つ。

しかしじっと座っていられず、何度も確認したリグをまた確認してみたり、釣れてもいないのにバッカンに水を汲んでみたり。

そわそわと我々はまるで子供である。

仕方ないのである。そわそわするだけの海なのである。

 

台風の余波がまだ1.5mほど残り、30m先にある丸い沖磯に理想的なサラシを作る。

その沖にはこんな波でもくっきりと潮が走るのが見え、分岐した一本がぐるりと回り込んで射程範囲に入り込んできている。

風向きは北で強く、それは沖に向かって長いこの立ち位置から見れば追い風であり、ショアから見れば向かい風である。

理想的。状況としては言うことが無い。

 

夕焼けの赤をじっと見つめる。炭火の最後の残り火のような暗い赤色が、すぅ、と消えた。

何かの話の途中だったがふと立ち上がり、立てかけたロッドを手にして立ち位置に向かう。

まだ何やら話していたダイさんもあわててロッドを手にして立ち上がる。

必要な飛距離と動きすぎる水に、リグは尺head-D type3gにサンドワームを選んだ。

 

1投目。

沖磯のサラシを横切る角度。水深は基本的に4,5mあるが沈み根や海藻が賑やかでストレートに引いてこられるラインはおよそ3mである。

期待していたサラシを抜け、沖磯を離れて波の横切るラインにリグが入り、最近好調な中層ワインドを入れてみるが反応がない。

早々に回収して2投目。ここでダイさんも投げ始める。

同じライン。その上を引く為にリトリーブスピードをやや上げた。

サラシの向こうに着水し、それに入り、リグに感じる水の感触をじっくりと味わう。

うっすらと目視できる波立ち具合と、手に来る感触とを重ね合わせてリグの位置が分かった。

何も起こらずサラシを抜ける。いるとしたらそこだろう、と想定したピンを抜ける。

リグは再び波の横切る海峡に入った。だめか...。と緊張が緩む。意味も無く沖を見たような気がする。

 

カッツーン!!

 

えっ!?

唐突に右手に走った衝撃に我に返る。

反射的にあわせを入れるが一気に底に走られてロッドが立てられない。

ジィーーーーー。ドラグが出る。

その独特のあたりと感触に

「はは。シーバスですわ。」ダイさんに言う。

「シーバスっすか。」微妙な声音でダイさんが答える。

 

魚が首を振る。突っ込んで行く尾の振り幅もくっきりと分かる。

その振幅から想像するに5,60cmの魚である。

しかし、トルクがそのサイズのシーバスではない。止められない。なんだ?これは?

「なんかでかいっすわ、これ。」ダイさんに言う。

「でかいっすか」ダイさんが答える。

 

シーバスを掛けると、僕はロッドをほぼ顔の横の位置に固定してファイトを行う。

走るそぶりを見せれば腕を一杯に伸ばすところまでロッドを突き出してテンションを抜く。

それで大抵止まってくれるのである。

しかしこれは止まらない。

立ち位置が固定され、腕を伸ばし切るとそれ以上のクッションは僕の体にはない。

その状態になっても容赦なく、その「なにか」はロコモティブの様に突っ込んだ。

 

やばいやばいやばいやばい!

 

PEは使い古した04である。その限界はよく知っている。どこで切れるのか、体で分かる。

止まらぬ突っ込みに、あ、だめ!何度かそう思う。しかしそのたびにぎりぎりのところで持ちこたえてくれる。

セーーーーーーフw

そう思うのもつかの間。また鋭く長い突っ込みが始まる。

 

あかんてあかんてあかんてあかんて!

 

あぁ今度こそだめ...。しかし、また持ちこたえる。

おぉぉ~!セーーーーーーーーーフw

ロッドが粘ってくれた。だめ、と思う、そのもうひとつ先のところまで限界をあげてくれる。

片手で保持してのされ気味だったロッドの、そのバットの根元に左手を添えてラインに対して90°の角度を保った。

ロッドのどの部分が曲がり、どの部分が粘るのか、そうやるとよくわかる。

 

そんなやり取りをしばらく繰り返し、ようやく魚は少しおとなしくなる。

意識はランディングに向き始めた。

網は無く、足場は高い。抜くことなんて到底出来ない。

その先端の磯は低く平らであるが、そこに行く為には磯裏に回らねばならない。それは出来ない。

しかしそこで獲る意外にないのである。どう考えても行くしかなかった。

え~い仕方ない。行くか...。

そこへ行くルートは、実はもうひとつある。

 

先端に向かってさらに高い磯に駆け上がった。

その主旨を理解したダイさんが背後で「ハハハハハ!」と楽しそうに笑った。

先端に出る。眼下に水面レベルの平らな磯が見える。波が厚く洗っていた。

2mの高さ。それを飛び降りればその場所に立つことが出来る。

行けるか?行けるな、行ったれ~!

さすがにもうそろそろいい大人であり、言ってしまえばいいおっさんであり、高いところから飛び降りる、ということを久しくやっていない。

何か懐かしかったw

てぃっ!と飛ぶ。両足を揃えてがつんと着地する。同時に波が来て太ももまで洗われる。

怠惰と飽食で無反省に増えた体重×2mの位置エネルギーがそのまままるごと衝撃に置き換わって体中に響く。

引き波の中、片手をつき両膝をつき、しかしもう片方の手はロッドを魚に向けている。

立ち上がり、ロッドをしっかり保持し、飛んだ分のスラックを取ってよっしゃ来い!とファイティングポーズをとった。

 

魚はまだ突っ込む。異様にタフである。しかしそれは既にタックルの限界を超えるものではなかった。

シーバスでないことは確信していた。しかしなんなのか?分からなかった。

分からない、が、もう何でも良かった。ただ楽しかった。もっと続け!と思った。

同時に、早く獲りたい...とも思った。

 

ゆっくりとリフトアップする。平べったい魚が体を横に向けたとき特有の水圧を感じる。

あ、そうか...思った瞬間、掛けてから初めて水面が渦を巻く。

ヘッドライトを点ける。水面を照らす。メタリックな赤が閃いた。

「ダイさーん!タイ~!」

「え~タイっすか!?うわっほんまや~!タイや~!」高い磯からダイさんが覗き込む。

 

問題はランディングである。

タイは持つところが無い。チヌの口に指を入れて怖い思いをしたことがある。ものすごい力なのである。

水面に顔を出したその口にある歯はチヌよりもはるかに鋭かった。

これは...無理...。確実に指に穴があく。

波に乗せてなんとか上げようと考えるがそんな時に限って波が来ないのである。

中途半端に寄せる波に魚を乗せ、勢いで足場に上げようとするがもう少しが足りない。ずり落ちる。

リーダーを手に取る 。8lbである。体重よりは...あるだろう...。

その瞬間、求めていた強い波が来た。足場にタイが流れ込む。しかし引き波に引かれて持って行かれそうになる。

何も考えずにタイの脇の下に手を入れた。ちょうど柔らかく握り込めるくぼみがあった。

しっかり確保し、さらに高い位置に横たえる。その途端、プンッとスナップが延びた。ぎりぎり...。

 

はぁぁぁぁ~。獲ったぁぁ~...。

 

ダイさんが磯の上からストリンガーを下ろしてくれる。丈夫な下あごにがっちり掛けた。ロックを何度も確かめる。

いいっすよぉ~。

ロープを手繰られ、美しい魚体が目の前を上がって行く。

 

飛び降りた垂直の磯をよじ上ろうとしがみついた。

小さなくぼみにスパイクを掛け、小さな突起に指を入れて全身に力を込めたがそこで力尽きた。

はぁ...。疲れた...。

しばらくそのまま、そうしていた。

 

どやっw

 

 

マダイ。56cm。一番うまいサイズですねと嬉しそうにダイさんが言ったw

 

その後1時間釣り続けるが不思議なほどに何も起こらなかった。

後で聞けばダイさんはこの鯛をどうやって食べてやろうかとばかり考えていたそうだw

僕はどう書いてやろうかとばかり考えていた。

まぁ、それじゃ釣れんよなw

 

帰宅する。ダイさんは一旦家に帰りシャンパンと食材を持って来てくれた。

捌きはダイさんに任せる。

美しい身を、よく切れる包丁が薄く造っていった。

 

マダイのカルパッチョ。

薄作りの身に、天然塩を乗せ生わさびを乗せてレモンをきゅっとしぼる。

くるりと巻いてへーゼルナッツオイルに浸けて口に入れる。

鳥肌が立った。うまい、としか言えなかった。胸に、涙腺を刺激する前兆がふるふると来た。

うまい...。

ダイさんもほぼ無言である。目を閉じて、首を小さく横に振る。堪らん...と。

ダイさんはその味をこう書いた。感激屋のダイさんではあるが、この表現は大げさではない。的を得ている。

 

 

「これが目指している美味の一つ。 

 世の中にこんなにも純粋で綺麗で柔らかく優しい力強いものがあるということを共有できた。
 感動と機会をくれた友人と豊かな海に感謝したいと思う。」

 

 

手にはまだこの魚とのファイトの感触が生々しく残る。美しい夕焼けの赤も覚えている。浮かんで来た赤の閃きも目の前に鮮やかである。

その記憶と、目の前の絶品の味と、とっておきのシャンパーニュ。友人との共有。

そのハーモニーが完璧であった。

幸せだな...と思う。言うことねぇな...。と思う。

 

思いすぎて飲み過ぎた。

次の日は目も当てられない二日酔いなのであったw

 

  TACKLE DATA

ROD/Glamour Rock Fish TR-85PE special

REEL/EXIST2004

LINE/VARIVAS light game MEBARU PE0.4+8lbフロロ

LURE/syaku head D-type3g+Gulp! sandworm 

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海辺のカエル

2012-06-14 16:40:17 | メバル

カエル嫌いな人は閲覧注意ねw

 

6/10。20:00。

特に明確なあても無く海辺の道を北に走る。

例年この時期には数珠つなぎで輝くはずのスルメイカの漁り火は、遠く水平線の向こうにいくつかぼんやりとした光芒を見せるだけだ。

ベイト雰囲気でなければならない海は一向にそうはならず、3月がそのまま続くような小さなあたりをとる釣りが続く。

サイズが出ても単発であり、連発しても小さく、どうにもこうにも煮え切らない。

 

いつもなら入るはずの良さげなポイントをいくつかスルーし、ずいぶん北に来てあるトンネルを抜けると路面が濡れていた。

開けた窓から流れ込む空気が急に湿り、道路と海の間に田んぼが続く地帯に差し掛かるとカスタネットを弾くようなカエルの声が聞こえた。

その独特の鳴き声に、ああここにもいるのかと思った直後、道路に大きな黄緑がひらめく。

おっと!とハンドルを切って避け、そのまま路肩に車を止める。

声の方向の田んぼに降りた。

ライトで照らし、畦を歩きながら探すと、いた。

僕はこいつが大好きである。

モリアオガエル。産卵の真最中である。

つぶらな瞳に大きな吸盤。闇に慣れた目にLEDで照らされた異様に鮮やかな黄緑色がまぶしい。

カエルの中で、こいつほどイージーに捕まえられる種類はいない。

こんな交尾中の個体は特にそうである。警戒心が全くない。手近な奴をそっとつまみ手に乗せる。

冷たい水を引く田んぼに冷やされた体が、そのままの温度でひんやりと指を冷やす。

吸盤がむにむにと指に張り付き、驚きもせず恐がりもせず、手のひらの上でじっとしている。

なんて素敵な生き物なのだろうかと眺め回す。手のひらに感じる重量は何か大切なあるひとつのもの、そのものである。

お尻をつつくとようやくやっともじもじとして、もう一度つつくとずしっと重さを残して飛んで田んぼに帰った。

 

小さな田んぼの周りを回る。

こら。お前種類が違うやろ。どさくさにまぎれて何してる。

これも捕まえてやったw

死んでも離さんとしがみつく。人の良い世間知らずなモリアオのメスが不憫だ。

オスってやっぱり間抜けな生き物だよなw

引き剥がしてやろうかと考えたが、それぞれの恋愛の形があるのかもとそのまま帰す。

 

さらに見て回る。

産卵床の泡に、オスとメスとが乗っていた。

このメスは特にでかい。

また手に乗せる。

堪らんなぁ。愛おしいなぁ。

暗闇の田んぼのへりで、いいおっさんがカエルを愛でる。

 

え?釣り?

何かカエルで満足してしまい手近な磯に入った。

近くの駐車場の灯りが無駄に明るく、長い磯にくっきりと明暗を作る。

その暗部。

27。

26。

ハードルアーは全く当たらず。あたりも小さい。1mのシャローの底に定位している。

何を喰ってる?

20をいくつか連発させ、角度を変えた一投。

もわっと28。

さすがにこの時期のこのサイズになるとよく引く。

長い突っ込みと重量感のある首振りに一瞬おっ!と思うが、水面を割って抜き上げる重量の軽さについ舌打ちが出る。

 

次の日。

捌いた腹の中から出て来たのは太いゴカイであった。

そう来たか、と考えながら、客人の為に身を昆布で挟む。

 

コメント (20)
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