2013/10/25/0:00
ポイントの駐車場に車を入れるが土砂降りである。
しばらく待とうがどうしようが、結局雨の中での釣りになる事は分かっているのだが何となく車を降りるのがいやで雨が弱まるのを待った。
フロントガラスを叩く雨脚がやや弱まったのを見計らい、さてと、と車から出てポイントに向かう。
海は暗かった。
空は厚い雨雲に覆われ沖には漁り火がひとつもない。
月がない事は特別な事ではないが、べた凪にもかかわらず漁り火がないのはあまりある事ではない。
そしてこの事がこのポイントの長所を際立たせていた。
明と暗である。
サーチライトのように沖に向けられた灯りが、足下の磯や堤防に遮られる部分にくっきりとした影を落とし明暗を作っている。
明部は沖に細く通路のように伸びる。その通路の中で何かの小魚がぴぴっと跳ねるのが見えた。
暗部の沖に目を向けるとそこは完全な闇である。
どこまでが海でどこからが空なのか全く区別がつかない。空間の奥行きも何も見えない真に深い闇である。
雨はまた強く降り出し平坦な水面を煙らせる。聞こえるのはただその雨音だけだった。
潮は全く流れておらず、足下の暗部では何か光る生物が大量に明滅している。
明暗という長所。潮が流れていないという短所。
そんな状況でアオリイカはどう出るのか。考えながら軽く一投目を放る。
中層やや上まで沈ませパンッ!とひとシャクリ。
そっとあたりをとる位置にティップを戻すと、その段階でもう既に微妙な重みが乗っていた。
どん!
その位置にこのアオリイカがいた意味が分かった。
それを意識して2投目。同じ距離。同じ深さ。小さくひとつしゃくりテンションフォール。
すぐにそのテンションがふっと抜ける。
どん!
なるほどなぁ。
足下の磯場の高さは1m。その影が沖に10m程伸びる。
当然影はその位置で終わるのではなく水中にクサビのように差し込んでいく。
沖の水深が10mであればその影は(透明度を考えなければ)100m沖のボトムにまで伸びているはずである。
10%の角度で沖に伸びる影。
30m投げれば10m沖から始まる影のクサビは2mレンジにある。エギがその境を越えて暗部に入って乗って来た2杯。
アオリイカは明暗の暗部に浮かび明部を見ているのである。
EGIMARUを4.0号freefallに替えた。カラーは偏愛するゴールド/メタアジ(uv+)。
やや力を込めてキャストする。50mの距離。10%の角度の影のクサビを想像しながらしかるべきレンジまでエギを落とす。
ゆっくりと2回しゃくり、そっとロッドを立ててあたりを聞きにいく。
耳を澄ますまでもなく、じわぁっとティップが入った。これは...はまったな...と思いながらロッドを立てる。
どん!
完璧な入れ乗り。サイズは20~23cm。
なかなか得難いイージーな状況。適当にやれば適当に釣れる海だが、こんな時は全てを意識的に行うべきである。
何をどうすればあれがどうなって、それに対して何がどうなるのか。
やることを微妙に変えながら撃ち続けていく。
でも結局何でも良かった。そういう海が、たまにある。
雨脚が強くなってカメラのレンズに水滴がつく。
雨は強くなったり弱くなったりを繰り返すが、一度も降りやむ事はなかった。
あたりをとるためにロッドを立てれば袖口が上を向く。そこから雨が流れ込みインナーの袖を濡らす。
時々、暗部から明部に変わるほんの足下を大きなシーバスが通過して行くのが見えた。
雨に煙る水面を通して、その白い影がぼんやりと浮かび、何か明確な目的を持つ人の足取りで闇の水域に消えていく。
あの手のシーバスは釣れない。昔さんざんあんなのを狙ったが釣れたためしがない。
目的の場所まで移動し、そこに定位して初めて口を使うのである。
自然の中の生き物の行動には必ず何か目的があるという事。決していい加減な事はしないという事。
行動のひとつひとつ全てに命がかかっているのである。そういう緊張感の中で暮らしているのである。
魚と人間の最大の違いはそこにある。
であれば我々人間が魚を釣りたいと思うならば、いい加減ではなく、きちんと目的を持って釣りをしなければいけないのである。
その目的と目的がシンクロして初めて納得の魚が手に入る。「意味」が生まれる。
僕なりに真剣に海に向かい、メバルに絞って10年やり続けて分かった事はただひとつ。つまり、そういう事である。
1時間程釣りをして、既にク―ラーの中には10いくつかのアオリイカで溢れていた。どれも20を越えている。
遥か沖で蛇行していた滑らかな水面の帯が射程範囲に近付き潮が流れ始める。
これで更に釣れっぷりが加速するかと思えばなぜかそこでぴたりと止んだ。
遠くの底でソフトにソフトにいくつか乗せるが明らかにアオリイカのテンションが低下した。サイズも下がる。
それがなぜなのかを考えた。
この日アオリイカをこの場所にこんなにたくさん集め、入れ乗りのテンションを保ち続けていたものは明らかにくっきりと出る「明暗」である。
その暗部のエッジにじっと定位していさえすれば目の前に溢れるベイトをイージーに捕まえられたのである。
あたりはどれも微妙なものばかりだった。じわっとか、ふっとか、触腕を使わないほぼ居食いのあたりである。
それは渋さではなくイージーさの現れなのである。
しかしこの潮が流れ始めたタイミングでその状況が変わった。暗部のエッジぎりぎりに定位する事が難しくなった。
簡単にできた事が少し難しさを含みはじめ、その浮かれたテンションを落としたのである。
小一時間、そんな海が続いたが潮はまたショアを離れて行き、水面が止まった。雨も小振りになって再びしんと静かな海になる。
沖に伸びる狭い灯りの小道の中でサヨリがいくつか横っ飛びに逃げるのが見えた。
そしてまた乗り始める。アオリイカはずっとそこにいたのだ。
クーラーはもうほぼ満タンであり、カンナが目を射抜いていないものはサイズを問わず全てリリースした。
頻繁に明部でサヨリが跳ねる。また足下をシーバスが通過していった。そしてアオリイカは乗り続ける。おそらく30杯は越えただろう。
なんて賑やかな海。
足下の磯が作る影が沖に伸び、その上に立つ僕の影が棒のように更に沖に伸びていた。
じっとこのまま立っていたら、僕のその影にアオリイカが着かないだろうかなどと考えながらロッドを振る。
あ。そういえばサヨリの海であんな事言ってた人がいたなと思い出し、遠く深く沈めたエギをゆっくりとリトリーブしてみた。
メバルのようなデッドなリトリーブ。
長距離を随分時間を掛けてそれをやり切り、ほぼ足下まで来たEGIMARUにずっしぃぃと硬く柔らく重さが乗った。
EGIMARU4.0号freefall ゴールド/メタアジ(uv+)
何となく、この一杯はkeepする。
雨がまた強くなって撤収を決断する。釣れ続けている状況で僕が釣りをやめるのは稀であるがきりがない。
エギを仕舞い、ロッドにラインを絡め、さてととクーラーを持ち上げる。
そのあり得ない重さに、この場所の帰り道の険しさを思って「はぁぁ」と溜め息をついた。
TACKLE DATA
ROD/BREADEN SPECIMEN 85deep
REEL/ DAIWA CERTATE2506H
LINE/VARIVAS Avani Eging MAX POWER0.8号
LEADER/YGK 海藻ハリス3号
EGI/BREADEN EGIMARU4.0号freefall,3.5号freefall,3.5号deep
SNAP/BREADEN SNAP 隣のアイツM