前回の更新から1ヶ月が経過してしまった。
釣りに行き、良い釣りをするたびに書かなくちゃと思うのであるが、その良い釣りに引っ張られて気付くとまた海に立っていた。
仕事も休みも荒れた海も、もう関係ない。
何か感じる場面があると、さてこれはどう書こうかと考えながら釣りをするのが癖になってしまっている。
しかしそこで思い浮かんだ言葉をすべて書くわけにはいかなくなってしまった。
なんせ1ヶ月分なのだ。この間の釣行数は15回を数える。そしてそのすべてで魚は出てくれた。
前回の日記の1週間も濃い日々だったがこの1ヶ月間はそれを遥かに越える濃さだ。
何かが自分の中で変わった気がする。成長、と言っていいのかもしれない。
あるいは、ただ単に良い海がそれをもたらしてくれただけなのだろうか。
この間釣った魚は100本に迫る。
27up。だけで...。
12/5。
北は3m。南でも1.5mの波高。
12/2の魚を求めてエリアを南に変えた。
とある海水浴場でB師匠と出会う。
日曜の夜中なのでどこかに出ているとは思っていたのだが、そうかここに来たか。
「どうや~」
「どうやろ~」
何となく二人、お互い遠慮しながらのシャロー打ち。
昔「つーさんは我れ先や」と批判された事があるのでとても気を使うw
今シーズンのB師匠はハードルアー縛りだと言う。
よせばいいのに...と思っていると多い日夜用でちっちゃいけど連発している。
およよ。ここはそうなのか。
あっさりと方針を変えAthlete liplessを装着しフルキャストした。
ややこしい場所に入ったなと思っていたらゴン!
なにこれでかい!
ゴンゴンゴンゴンと突っ込まれややこしい場所のよりややこしい場所に潜られた。
ありゃー。
「魚やったぁ?地球釣ったんかと思ったわ」
ん~どちらも正解。
その後ノープランらしいB師匠を拉致して12/2の磯場に入った。
ここには2本のリトリーブラインがある。
道の街灯が照らし足下の根に影ができる明暗ライン。
そして、完全に街灯の影になる暗闇ライン。
12/2の魚は明暗ポイントだったので優しい僕はB師匠にそちらを譲る。
ただ、近い沖に漁り火があり明暗は薄くはなっていた。確かに。
「どこで釣れるとか言わん方がいいんやんなぁ?」
昔「つーさんは最初に全部言うから面白くない!」と批判された事があるので非常に気を使うw
「うう、うん...」
とても教えて欲しそうだった。
暗闇ポイントに入り1投目。
2gの尺ヘッドD-typeにガルプの枠を装着してサラシ渦巻く底をガリガリと引いてみた。
このジグヘッドはそれができる。異常に根掛からない。ダートだけが能ではないのである。
少し大きな根を感じ、ぽんとそれを外した瞬間ぬっとティップが入った。
真上に小さくあわせを入れる。
水深は3m弱。足場は2m。ラインは45°の角度で水面下につながっている。
上あごに掛けるにはちょうど良い角度。距離。
感触は28,9あるが掛けどころを確信して有無を言わせずリフトアップし、ひょいと抜く。
手にした魚をLEDで照らした。
うわ~かっけ~。
魚を握りしめ、急いでB師匠に見せに行く。
何やらラインを結び直すと言うしけた行為をしている彼の目の前に「ほらっ!」と差し出した。
「あっ、なに、釣れたんか?」
釣れたんかって...。じゃあどうしたと言うのだw
メジャーを車の中に忘れ、B師匠の箱形計測器を借りて測ってみた。
28cm。
いや、それはない。多分これは28.5だ。僕の目尺の精度は5mm単位だ。
「28や」
「いや、違う。これはもうちょいある。この計測器おかしい」
「おかしないってw」
車に戻りメジャーをとってくる。その頃持ち歩いていた木の板に魚を横たえ測り直す。
「口の位置はここでいいな?ほら合ってるやろ、な?」
「うう、うん」
「ほら見てみて、28.5やん!ほらぁ~。いいな?28.5でいいやんな?」
「う、うん...いいよ」
釣り上げられ、地面に横たえられてばたばたと暴れる魚は縮む。筋肉が緊張して収縮するのである。
しかし。ほんの少しそのまま放置され、現実を受け入れ、ああだめだわわたしと観念しておとなしくなった瞬間に魚は本来のサイズに戻る。
荒磯の、荒波の、真夜中の、雄大な大自然の中で「5mm」にこだわるのであるw
それにしてもこのお魚。
赤きゃ金魚だw
幅広。ヒレピン。その姿形に、B師匠は「かっこいいなぁ~」といつまでも見とれている。
この人は魚が好きなのである。おそらく、釣りそのものよりも魚それ自体が好きなのである。
その後ポイントを入れ替わり明暗の影で25,6を3本。
程なくしてB師匠が暗闇の向こうから魚をぶら下げはにかんだ笑顔で戻って来た。
27.5cm。更新サイズ。
色白のその魚にB師匠は「貧相や」と言うが、それはサラシに着く魚の体色なのだ。
28.5は根に着いていた魚なのである。
釣れた魚の体色によって次に打つべき場所が判断できるのだ。
しかしまぁ良かった。
2人ともスコアを上げる事ができる。
12/7。
kazuhikoくんとの釣り。
僕の弟子だと言ってくれる彼に登録サイズを釣らせようと、サイズは出ないが魚は濃い北のエリアを選ぶ。
小規模なテトラと小さな磯が絡むポイント。2mの水深。藻場。波高は1m。
磯とテトラの境界の、その10m沖にきれいな潮目が出ていた。
考えるまでもない。
「あそこ打って」
「はい!」
もうそこしかない。この場所であれが出たらそこだ。
ピンポイントなので僕は手を出さずにkazuhikoくんの釣りを見る。
数投しても答えが返らず、焦れってぇなぁ、と声をかけようとしたところで彼のロッドが曲がった。
よろしいw
その横で僕は手持ち無沙汰だった。
根の絡むピンに投げれば26,7なら問題なく出るだろうがそれはもう知り尽くしている魚だ。
沖に目をやる。50cm程露出している小さな根。波をかぶり小さなサラシを作っていた。
ポイントは...あれだな。ひとつ狙ってやるか。このエリアならありだ。
calm80をスナップに掛けフルキャストした。風にあおられやや外したが、その風を孕んだラインがそのピンにちょうど導いてくれる。
ふた巻きほどしたところでバフッと吸い込まれる感触。Ok!狙い通りw
その魚は一気に走る。シーバス。確定。
暴れないシーバスというのがたまにいるがこいつは違った。
気が触れたように走り回り、ざばばざばばとえら洗いを繰り返す。
ドラグが気持ち良く滑る。ロッドは平気な顔でそのファイトを吸収する。
余裕。この余裕がメガメバルにも欲しい。つくづく欲しい...。
波の洗う低い磯にスパイクのまま踏み込みハンドランディング。
下あごをつかまれてもまだ尚、その魚はうねうねと空を泳ぐように暴れた。
77cm。
kazuhikoくんも登録サイズを何本か上げる。
よしよし。今日も皆幸せだ。
12/8。
B師匠が得意とするワームはセンコー2inchである。27.5もそれで穫っている。
「軽いジグヘッドでもひってもんに飛ぶんやざぁ。使ってみね」
先日の帰り道に彼はそう言う。
軽いジグヘッドに高比重ワームか...。ありだな...。
一部のメバルフリークが使っているのは知っていたが、なんとなくそれまで手を出さずにいた。
うん。考えれば考える程ありだ。遠くで漂わせる事ができるな...。
釣具屋に向かうw
しかしセンコー2inchはなく、代わりに同じ高比重のJackal ishad 2.7inchを購入。
その夜。まだ早い時間に明暗ポイントに入る。
波高は1.5m。サラシ渦巻く暗闇ラインのスリットの再奥からその出口に1.5g尺ヘッドD-typeとishadを打ち込む。
なるほど。飛ぶ。
2回小さくトゥイッチを入れてスラックを取りそのままフォーリング。そこですぱん!っと持って行かれた。
28cm。
2投目。
また同じパターン。すぱん!
27cm。
その後ひたすら同じパターンで26~27を10数連発。メバル柱を直撃した模様w
程よい波の日に、少し大きなスリットを見つけたらその出口を打ってみるといい。
スリット内部から跳ね返された水が、ちょうどその位置で水の壁を作るのである。
Bassの高比重ワーム。ありだ。これはありだ。
28cmを昆布締め。
昆布を酢で拭き身を挟み、ラップで密封して24時間。
辛口の熱燗とこいつは、つーの屋根にも雪降り積む夜に最高の時間を作ってくれる。しみじみとした時間だ。
演歌っぽいな。やっぱ舟歌だなw
12/12。
西風が強いがうねりはない。
風波がざばざばと短いスパンで打ちつける。
大規模な磯とテトラの入り江。先シーズン、4本ブレイクされたポイント。
だがこの場所にその風波は魅力を与えない。
陸から風が吹き、押し寄せる波がテトラを越え、その2つのベクトルがせめぎあい内側に潮目を作るタイミングにだけこのポイントは成立する。
しかしこの日。海から強く吹く風に、流れが一方向になり潮目は形作られていなかった。
外した、か...。
このタイミングで魚が着く場所を考える。
風の行き着く先のショアはこの場所ではあり得ない。
風の当たるテトラの外は波が強くて入れない。
風が吹き続ける日は風のない場所がピンポイントになる。あるいは風の巻く場所だ。
ここのそれはどこか?だだっ広い入り江にそのピンはなさそうに見えた。
が、ひとつ思いつく。
2mの高さに積まれたテトラ帯の内側。その場所のみが風の影になっていた。
テトラ際から1m程が滑らかな水面の帯になっている。
あそこか。
しかし強烈な横風にそのピンが打てない。
真横から平行に引きたいのであるが、入れたい場所に打ち込んでも風を孕んだラインがすぐにリグをそこから大きく離してしまう。
むずい...。
しかしそこで急に風向きが変わった。
完全な背風。テトラに沿って吹く風。奇跡のようだった。
延びるテトラと同じラインに入り、フルキャスト。その60m伸びるテトラ帯のちょうど中央にひとつはみ出したテトラがある。
リグはどーよ玉Fにリーダー1.5m。ジグヘッドは0.6g。Gulp!baby sardineを刺した。
テトラ際1m。はみ出したテトラの際でリグを止め、小さくトゥイッチを入れた。
もぞ...。
ロッドを跳ね上げる。有無を言わさず巻く。遠い距離をただひたすらごり巻いた。
29.5cm。
その後27,8を連発する。
テトラから2m以上離れるともう出ない。タイトであればある程いい。
そしてあたりが遠のきワームを変えたある一投。
良い場所に入り、可能な限りのデッドスローでリトリーブ。はみ出したテトラを過ぎ一瞬止めてまた巻いた。瞬間。
ぬっ...。
わずかにティップが入った。10時の位置に構えた85PE specialのやじろべえのようなバランスが崩れる。
反射的にあわせを入れた。
どぅるるるるるるる!
まるで高速回転するクランクシャフトを引っ掛けたような強烈な首降り。これが生物の動きなのか。
でっけ~!
アドレナリンが一気に出て強くロッドを煽ったとたん「ぷんっ」とテンションが抜けた。
ぅあぁ~!
声が出る。リグを回収する。
何もできずに伸ばされる。
一体...あれを...どうすれば良いのだ...。
おそらく。いや間違いなく。問題は僕にある。
12/13。
彼との釣りは回をあらためて今度ゆっくり書いてみたい。
この人は誰もが認める北陸ライトリグ界の宝である。
状況が難しければ難しい程燃える。
イージーな魚を探せばどこかよそにいるのは十分知っているのだろうが、好んで目の前の難しさを選ぶ。
M性の変態さんなのであるw
どんな人だろうと思ってる方。こんな人ね。
これは2012/1/2。極寒の幽霊テトラ。朝マヅメ。
釣れなくてダレてしゃがみ込んでいるのではない。これが彼の戦闘態勢なのである。集中する時は常にこの姿勢なのだ。
カメラを向けられて笑っているのでもない。
明るくなって初めて気付いたのであるが、彼はひたすら笑顔を浮かべて釣りをしているのだ。心底楽しそうに。
釣れなくて、凍えて、7時間同じ場所に立ち続けるような僕の釣り人生の中でも最上位に来る辛い釣りの中、彼は最後に来てもこの笑顔だった。
その好きさ具合には、僕などとても勝てないと思う。
12/13のこの日の事は軽くさわりだけ。
たかかんさんのポイント。ウェーダーを履いて渡る大きな磯場。
足下のサラシの中で2gジグヘッド単体で何本か掛けるが食いが浅くことごとくばらす。
たかかんさんも良いのを2つ、ばらしとラインブレイクで獲れない。
どこを打とうかと考えあぐねその規模の大きな磯場を見渡し、ひとつ不自然に波の立ち上がる一角が目に入る。
その場所で立ったサラシの泡が動かない小さな潮目を作っていた。
どーよ玉Fにロングリーダーと軽いジグヘッドで飛距離ぎりぎりにあるそのピンを打つ。
完全に止め、テンションだけを掛けてあたりを取りに行くが気付いた時には既に遅く唇をかすめるように数本外す。
明確なあたりを得る為に、アクションが目的ではなく、ただあたりを出す為にスーパーデッドスローなリトリーブを入れた。
もわっと来て...微妙にもたれかかる。
小さなあたりを85PE specialは明確に捕らえた。50mの距離、波の中で。
このロッドは打撃系のあたりに対する感度にも優れているが、そんな空気系のあたりに対しても、感度ではなくバランスを崩す事であたりを出す。
120gの自重は今やメバルロッドの中では重い部類に入るが、10時の位置にぴたりと決まる絶妙のバランスはその重さを全く感じさせない。羽のように軽く感じる。
しかしその質量を持つ事でしか得られないパワーはしっかりと身に付けているのである。
僕の好む波の中のパワーフィネスの釣りにおいて、パーフェクトなロッドである。求めていた物、なのである。
もわっ。
27cm。
もわっ。
27cm。えらに刺されて指に血がにじむ。
ひときわ小さく。
もわっ。
28cm。
そのうちの1本はオスであった。釣り上げられ、掴まれ、精子をぴーと放出した。
やはり今は交尾の時期であるのか...。
賑やかだったシャローから魚が消え、どこで何をするのかと疑問であったがその魚で明確に分かる。
シャローから消えた魚はdeepに集まりペアリングを行う。この時期に。
集団見合いをする為には、集まる目印と、水深が必要なのである。
ストラクチャー絡みの、deepの潮目...。
そのタイミングに自分の釣りがはまった。自分で見いだした方法が、あるタイミングの生物にアジャストする。
その快感に酔いしれ、酔いしれ過ぎ、その後入った別の磯場で盛大に転んだw
12/14。
この日、ダービーに○○ーさんが尺を登録する。長寸では勝っているがポイントで負ける事になる。
とうとう尺を出さねば勝てないダービーになってしまった。
北でも海は凪ぎの部類。1m程の波高。
凪げば入りたいと思っていた中央からやや北寄りのゴロタ帯。30m沖に一気に落ちるブレイクがある。
その場所で小さく立ち上がった波がショアを白く染めていた。
久々のハードルアー。高い足場からデッドスローでブレイクに漂わせる。
28。
そして得意のどーよ玉Fでブレイクまで早いリトリーブを行い、そこで止めて浮いたジグヘッドをフォーリング。
ぬぅ...ともたれかかるように。
29cm。登録サイズ。
その他27~28cmばかり10本程。
しかし尺。ここで出ない...か。タイミングではあったと思うのだが...。
壁を感じ始める。
12/17。
敦賀のひなびた釣具屋でtsu-damaを大量購入。しこしこと制作作業。
20lbのナイロンラインを通し、10cm程の遊動幅で上下にスナップを付ける。
これにリーダーを結び、仕掛け巻きに巻いて現場に持参。ルアーを交換する感覚ですぐにリグが変えられる。
夜。kazuhikoくんと。
先日と同じテトラ帯。波が強く風も強く、その方向が同じであるため潮目が出ない。
短いスパンでショアに打ち寄せる風波を真横から見る角度。
その波頭の崩れ波が薄い泡を作り、連続する波の中でも位置を変えずに留まる場所を見つけた。
それを打つ。30m沖。
波の日に打ち場所を見失ったら動かない泡を探す。とりあえず、そこを打つ。
動かないのには理由がある。そしてその場に留まっているのは泡だけではないのである。
tsu-damaで直撃。あたりが小さい。
しかし連発。難しい釣りが続いていたので気持ちがいい。
サイズは登録サイズにはほど遠いが、連発する事に浸り込む。繰り返す事に夢中になる。
釣れる魚は釣れるだけ釣る事だ。
10本よりも20本。20本よりも30本。30本よりも40本。もういいやとやめてはいけない。最後まで貪欲に釣り切る事だ。
ひたすら釣り続けるうちにある転換が起こる。量が質に転換するのである。
何となく分からなかった事が、ぼんやりと見えなかった事が、同じ事の繰り返しの中で、あっ!と明確になる瞬間が来る。
難しい、釣れない釣りは釣り師の成長段階においてあまり意味を持たない。
足を使って、イージーな魚を探し、見つけたら釣り続ける事だ。動作のひとつひとつを意識しながら。テクに走らず。ただ掛け続ければいい。
そしてそのリグと場所を自分の物にするのである。「自信」の持てるパターンを固めてしまうのである。
たとえその場にマッチしたリグがあったとしても、それが「自信」のないリグであれば魚は釣れない。
合ってないとしても「自信」の持てるリグが勝る。
僕のそれはハードルアーであり、deepでのジグヘッド2gであり、浮く飛ばし浮きである。
魚を釣るために、それが一番の早道なのだ。
20発程掛けたか。サイズは25程度であるが。そのうちの何本かがまた射精した。
並んで打つkazuhikoくんはその小さなあたりを捕らえきれず、明確な当たりのみを取って数本に終わる。
彼のロッドも85PE specialである。まだこのロッドの真価は分かっていない。分かり様がない。
圧倒的に経験が足りないのである。経験を積んで、良い場面を経験して、もっと自信をつける事だ。
彼は野菜を作る事を生業としている。彼の作る野菜はきりっとして味が濃くおいしい。
長い時間を掛けて、おいしい野菜を作り出したその「やり方」で釣りをすればいいのだと思う。
12/19。
海は荒れた。北は4m。南も3m近い波高。
ポイントが限られる。
ある巨大漁港の先端。その内側。
8mの高さの堤防を越え、内側に波しぶきが降り注いで来ていた。だが危険のあるレベルではまだない。
先端を回り込んだ波が防波堤の内側に巨大な渦を作る。この場所のパターンである。
とは言えしばらくあたりはなく、しかし確信はあり1時間粘る。
北西の風が真北に方向を変えた。
降り注ぐ波しぶきの位置が変わる。
その瞬間からばたばたとあたりが出はじめた。
その正直さ。経験するたび感心する。
風。
魚が住む世界とは別の出来事であるが、彼らは明確にそれを感じて生きている。サイズが上がれば上がるほど、意識している。
先端から巻く流れにどーよ玉Fを乗せ、サラシが消える境界で連発。
しかし地合は短く27~29cm5,6本。風が再び変わったタイミングで一気に沈黙した。
29cm。登録4本目がついにこのサイズになる。
それで勝てないか...。
やすや倶楽部メバルダービーは既に単なるプライベートダービーの域を越えている。
12/21。
唐突であるが。
「国境の長いトンネルを抜けると雪国だった。」
この有名な小説の冒頭の一節は次に
「夜の底が白くなった。」
と続く。
夜汽車の中から見る暗い車窓に、トンネルを抜けて雪国に入った「瞬間」に積雪が浮かび上がる。
その風景をそう表現したのである。
ある日常の世界から、出来事の起こるある別の世界に入った明確な転換として作者はそれを使うのである。
徐々に雪国になるのではいけないのだ。「トンネル」を使って、一瞬で世界が変わらねばならない。
ある物語を語り始める導入部として、読者を文字の世界に引き込む為の端緒として、尋常ではないテクニックと感覚、と、言う他ない。
...何のブログだw
「夜の底が白くなった」
それは雪だけが起こす事ではない。
海でも起こるのである。そしてそれを実感として知る事のできるのはある種の釣り人だけだ。
この日。
波は釣りのできるレベルにまで落ちる。とは言え北で3m。先日たかかんさんが教えてくれた磯に入る。
かなり恐怖を感じる波。
そしてひときわ強いうねりが2波3波と続けて押し寄せ、黒かった水面が数100メートル四方に渡ってすべてサラシた。
この波では漁り火はなく、この天気では月もなく、あるのは遥か遠い自動販売機の灯りだけであるが、その瞬間に海は光量を増した。
息を吸う。
夜の底が...、白くなった...。
実感する。
その渦巻くサラシの中。5mの水深。そのボトムに3gのジグヘッドを這わせる。
動きすぎる水はそのウェイトでもリグを落ち着けてくれない。
漂わせたり、巻いてみたり、根を感じて外してみたり、微妙な感覚でなんとかボトムにコンタクトさせ続ける事に没頭する。
魚を釣る事ではなく、それをし続ける事を目的に変える。
ある一投。
露出する三角の岩のその馬ノ背がボトムに続いているであろう部分。
そこを通過させようと少しロッドをあおりまた落とした。瞬間。
ぬっとティップに小さく重さが乗り、その重さが油で滑るようにぬるりと動いた。
!
小さくロッドを跳ね上げる。ラインの角度は60°程度。感覚的にはほぼバーチカルに近い。
ドンッ!と重さが乗る。普通ではない重さ。
でかい!?
ゆっくりとリフトアップする。魚は走らない。首も振らない。ただうごめくだけ。それでも異様に重い。
ロッドのベリーを使って細心の注意でリフトアップして行く。
このロッドはどんなに曲がってもその限界を見せない。常に余裕を持ち続ける。懐が深い。
最後の最後に来るかもしれない強い負荷を吸収する余地を、常に隠し持っている。
魚が水面に出た。足場は3m。白いサラシの中に黒い魚が翻弄されているのが見える。
波が寄せて足下に魚が来る。抜こうとしてしゃがみ込み、わずかにロッドを持ち上げ重さを量った。
!!!。
重い。どころではなかった。
尺なんてものではない。32か。33か。34か。そんな数字が頭の中を駆け巡る。
例えるなら胴長25cmクラスのアオリイカの抜き上げに感じる重さだ。700か...800か...。
抜くのを躊躇した。持ち上げたロッドをまた下ろした。そしてそれが多分、間違いだった。
再びその魚は波に翻弄される。
引き波に引かれ、寄せ波に寄り、しかしどう考えても結局抜くしかないのだ。
覚悟を決める。またしゃがみ込み、巻けるところまでラインを巻き、抜こうとロッドを持ち上げた。が。
プン!
テンションが消えた。
声も出なかった。
動く事もできなかった。
しばらくその姿勢のまま、じっとしていた。
痛...恨...。
リグを手にとる。
針折れ。
躊躇さえしなければ、まだ保ってくれたかもしれない。最後の引き波で限界まで伸びたのかもしれない。
後悔がサラシのように渦巻く。
なんて...事だろう...。
折れたジグヘッドを交換する手の、震えが止まらなかった。
その後遠い潮目にフロートリグを漂わせ28~29cm5本。
しかし何の感慨も湧かない。
あの1本が頭を離れない。
鬱屈したまま、その磯を下りる。
エリアを変えようかと思ったがどうしてもこのエリアを立ち去り難かった。
あのサイズがいるのだ。たまたま乗った磯の足下に、たまたまそれが1本だけいたとは思えなかった。
ゴロタの磯をさまよう。
強い波がショアに打ち寄せ盛大な波しぶきを上げる。
何カ所か見て回り、びしょびしょに濡れながらある一カ所を見つける。
60m彼方に沖磯があり砕けた波が手前に流れ込む。その手前が「比較的」穏やかなプールになっていた。
船の舳先のように尖り、それでも押し寄せる波をきれいに左右に分ける足場もある。
そこに入った。
沖磯に向けてどーよ玉Fをフルキャストする。
左手には盛大な離岸流が発生し、潮は左から右に高速で流れた。
リグが落ち着かない。止まらない。あっという間に流されて行く。
打つ場所を変えて何発も打ち込み続けた。繰り返すフルキャストに肩が外れそうになる。
そして。ある一投。
リグが止まった。沖磯の手前のサラシと離岸流が接する一点。
ここだ...と集中する。リグに微妙なテンションを掛けて、小さくひとつトゥイッチを入れた。
も...ぞ...。
ロッドを握る手のひらの中に、虫がうごめくような感触がきた。
スパン!とロッドを跳ね上げる。
魚が乗る。乗った感触に「小さい...」と思う。
尺絡みには違いないが「小さい」と思ってしまう。
一気にごり巻きした。
フル回転の一気の寄せの中でも、その魚は何度も首を振った。
その硬い首振りの感触にその都度ひやりとするが、容赦なく50mの距離をごり巻き続ける。
足下のサラシまで寄せひょいと抜いた。ひょいと抜ける、そんなサイズだ。
抜いた魚は「行って」いなかった。一目で分かる。体格は素晴らしいが「行って」ない。
測りもせずに水を張ったバッカンに滑り込ませすかさず次を打つ。
左手の離岸流にリグを乗せ、ラインを出して流した。
そして沖磯に近づき、リグが止まる。
今度は誘いを入れるまでもなくティップにぬっと重さが乗った。
小さな引き波でも同じような感触は来る。しかし「生命」が作り出す動きはなぜか明確に区別できる。分かる、のだ。
ひとつ思うところがあり、今度は強いあわせを入れずスゥィープにあわせを入れた。その動作が途切れぬタイミングでリールを巻く。
魚の顔はこちらを向いている。そのまま「暴れさせない」ことを目的に、寄せに入る。
魚は暴れない。起こった事が分かっていない。???と思いながら寄せられてくる。
速くもなく、ゆっくりでもない微妙な速度。感触。まるでメバルサイズのビックベイトをリトリーブしてくる感覚である。
その寄せは極めてゲーム性が高かった。ひとつでも首を振られたら負けのルールのゲームなのだ。
さっきの一本の硬い首振り。サイズによってはその一発で魚は消える。
暴れさせない事。それでしか獲れない魚が存在するのである。何度もやられたそのサイズを獲る、その為の練習のつもりだった。
魚は小さい。同じサイズである。全力で暴れられても問題なく獲れはする。
しかし一度これをやってみたかった。
魚は長距離を寄せ切られ足下のサラシに姿を見せる。
そして「そっと」抜いた。
ひとつも首を振らぬまま、暴れぬまま、その魚は僕の手の中に入る。
行ってない...か。
尺を1mmでも越えるメバルは疑問を挟む余地もなく一目で分かる。
行ったか?行ってないか?迷う魚は行っていない。
壁...か。
いまさら...。
上から。29.5,29.5,29cm。
しかしこの29。かわゆい顔だなぁ。さぞかしモテただろw
帰り際。ルーティーンワークとなったある漁港打ち。
足下にある小さなシモリ際。完全に狙ったシーバス60。
ダービーのスコアはこれで117.5cmとなる。公言していた118cmに5mmまで迫る。
その5mmが29.5につくのか。29につくのか。
全く意味が変わってくる。
この日。一冊の雑誌が届く。
僕のメバル釣りを初めて活字にして頂いた。
どこの馬の骨とも分からぬ僕のような者に、大枚カラー3ページを与えてくれたカタリスト長谷川さんに心から感謝したい。
一連のフロートリグを使った波の釣りについて書かせてもらった。
極めて感覚的で「やってみなければ理解し難い」この釣りについてできるだけ分かりやすく書いたつもりだ。
ただ限りある字数の中書き足りない部分も多く、このブログとあわせて読んで頂ければより理解して頂けると思う。
ドヤ顔の僕の写真のすぐ横にyasuくんの写真が並ぶ。
彼と僕とは釣る分野が違うが、それでも僕のメバル釣りを導いてくれたのは彼だと思っている。
深く、お礼を言いたい。
12/23。
嫁の経営するgecko cafe忘年会。
この2日間、その為に釣り溜めた27~29.5cm10本。
さばかれた魚の胃の中からはほぼすべてこれが出て来た。
ゴカイ。
今シーズンは当たり年だと言う。
確かに、ひたすら続いたシャローでの爆発はかつて経験した事のないものである。
しかし。考えてみれば不思議な事なのである。
年魚であるアオリイカなら話は分かる。産卵数が多く、成長期の夏の海が穏やかであればアオリイカは当たる。
しかしメバルはそうではない。26,7の魚なんて先シーズンも存在していたはずだ。魚の個体数自体が大きく変わる魚種ではないのである。
なのになぜ今シーズンは当たったのか?
おそらくその理由はこのゴカイだ。
毎シーズン腹の中から出ては来るが、それはある短い期間に限られた事であった。
だが今シーズンは最初期から現在に至るまでのほぼ2ヶ月間、極めて広い範囲で出した魚の中からことごとくこれが出て来た。
おそらく、当たったのはメバルではなく、ゴカイなのだと考えている。
ショアで発生するこのベイトに、普段は沖を好む群れもショアについたのだと思うのである。
今シーズンはひたすら小さなあたりが続いた。こんっ!という打撃系のあたりが極めて少なかった。
それはこのベイトを食するメバルの特徴なのである。
メバルの事ばかり考えていてはいけない。
ベイトの事も研究する必要がある。それは回り道の様で、実は最短距離にある事なのである。
困ったなぁ...。
先は、長いなぁ...。
gecko cafe忘年会は別名「カニパー」と呼ばれる。
わさわさと大皿に盛られたセイコガニは見るだけで華やかに気分になる。
メバルの昆布締めとシーバスの造り。
メバルの煮付け。濃いめの味付けで甘みも強く入れる。大量の白髪ネギがみそだ。
我が家のリビングに、年忘れの穏やかな宴が朝方まで続く。好きな人たちに囲まれた極めて幸せな時間なのである。
だがまだ僕はこの年を忘れ、終える、わけにはいかない。
越えるべき壁を、まだ越えていない。
12/28。
南の波が落ちる。
北はまだ3mの波高が続く。
ある漁港でIshimotoさんとMasaさんに出会い、おせっかいにも遠い北のポイントに拉致した。
そのポイントには最適の波と風であったのであるがあたりは皆無。
先シーズン爆発したこの場所に、尺の期待を掛け続けていたのではあるが大きく外す。あてが違う。
時間の限られる忙しいおふたかたには大変申し訳ない事をした。
ごめんなさいと頭を下げ、別れる。
一気に南に降り、ある小規模なテトラ帯。通称「奇跡の海水浴場」。
その外海に面するテトラに立ち海水浴場に続くテトラの開口部を打った。
魚はイージーに出てくれる。
あたりはもたれかかるように小さいが27,8が連発してくれた。
この場所が機能している時は「幽霊テトラ」も機能する。2km程離れたこの2つのテトラ帯はなぜか密接に連動している。
幽霊テトラに入る。そこでも25~28cmなら連発で出る。
沖ではなく、かなりテトラに近いラインである。
しかしサイズが足りない。求めるサイズが出てくる気配が感じられない。
この場所は、新規のテトラが入って以来かつての爆発力を失ってしまったように感じる。
27up40本とか、25up60本などと言う事が幾度も発生した場所なのだ。
が、その面影は薄くなってしまった。
早々に切り上げ、そのひたすら続くテトラ帯の先端付近に入る。
ある降りやすい一カ所。
左右のテトラを平行に引けるほぼ水面レベルの足場に立つ。
tsu-damaに60cmのショートリーダー。ジグヘッドは0.5gを選びGulp! sand wormを刺した。
テトラの平行引き。数あるメバルメソッドの中でも、おそらくそれは最も手堅いメソッドのひとつである。
巨大な団地群に面する道路を「い~しや~きいも~~~。おいも。」と流すのに近い。
各々の小部屋の中には「なんだか小腹がすいたわぁ~」と身悶える団地妻が潜んでおり、
そのスピーカから流れる声に「おいもやさ~ん」と駆け出してくる個体が必ず存在するのである。
ひとつ沖に小さく露出したテトラ。テトラ帯を見つけたら少しでも変化のある場所を打つべきだ。
その外側に面した影に、でかいのが着く。
それをかすめる角度にtsu-damaをフルキャスト。
これも浮くリグなので根掛かりを恐れずデッドスローに引く事ができる。
目的のテトラに差し掛かる。来ると思った。必ずここで出る確信があった。
そしてその通り
コンッ!と明確なあたりが出る。
小さく鋭くあわせを入れる。手首に、一瞬力を入れるような感覚。長竿のヘラブナのあわせの様に。
フックを刺すか刺さないか、その辺りの微妙な負荷をジグヘッドに伝えた。
魚を暴れさせない事を意識する。
そのままゆっくりとリールを巻き、10mの短い距離をそっと寄せる。
魚は暴れない。サイズがある事ははっきり分かるが、それは柔らかく、充実をたたえたひとつの重い物体として寄ってくる。
足下にきて、ゆっくりと抜き上げ、その重量に「行った...。」と静かに思う。
闇の中でジグヘッドにぶら下がり、まだひとつも暴れぬその充実の塊をそっと握りしめた。
「行った...。」
just尺。
その魚体のあまりの体格の良さに、もう少しあるかと思ったが...。このサイズになると、まだ読み違えてしまうか...。
越えるべき壁を越える。ぎりぎりではあるがなんとか越える。
猛者達が次々と僕のスコアを越え、その度に必要なサイズの魚を出す事ができたこの素晴らしい12月のストーリーを思う。
最後に、完結の環を閉じる句読点が打てたと感じる。
よくがんばったな。
1st stage result。118.5cm。
しかし。
本当に求めるサイズ、では、まだない。
全然。
TACKLE DATA
ROD/Glamour Rock Fish TR 85PE special,93PE special
REEL/ CERTATE 2506,2506H
LINE/YOZ-AMI WX4 POWER ZEINTH ULTRA SURF 0.5+8lbフロロ