ボクは白木蓮をみている。
白木蓮は満開で立派に空へ向かって咲いている。
白無垢
新雪
繭の中
ボクは白木蓮から色の空想に耽る。
「ねぇ、何ぼーっとしてるのよぉ」
振り向けば
ー銀河食堂、春に向かって全力で営業中ー
銀河食堂あらわれ、すでにボクは小料理屋のなか。
「座りなさい。南瓜サラダよ」
「…はい」
「今日は、とんでもなく忙しくって昨日の残りなの、御免なさいね」
「そうなの?何で現れたの?」
「知らないわよっ」急に女将がつれない顔をした。
「…ごめんなさい」ボクは静かに箸をとり南瓜サラダを口にする。
「滑らかに仕上げたわ」女将が笑顔にもどり、続けて
「中にはね、ウインナー、枝豆、玉葱にゆで卵をいれてみたわ、どうかしら」
ボクは口に含んだまま、大きく首を縦にふり、すごくイイ。と表現する。
「初めて作ったの、うふふふ」女将は白いエプロンで恥ずかしそうに顔を隠した。
わかってる。女将は初めてシリーズがメインなのだ。
「白無垢、新雪、繭の中…美しい白ね、今日やっと笑ったキミの色は何色かしら」
「え?」ボクの箸が止まる。
女将が微笑み、ボクの後ろへまわり、肩をポンとたたいた。
景色は変わり、いつからボクは白木蓮の前に立っているのだろう。
あれは…幻?
満開だったはずの白木蓮の花びらは、もう散っていた。
あの小料理屋も満開の白木蓮も幻ではないと信じたい。
だってボクの歯の隙間に玉葱の筋がしっかり挟まっているんだもの。
さて、デンタルフロスでも買いに行くとするか。
白無垢
新雪
繭の中
ボクは地面に落ちている白木蓮の花びらの色の名前をあげながら、ゆっくり歩く。
笑ったボクは、何色だろう。
春が全力で近づいている。