銀河のサンマ

何でもあり

節分

2022-02-03 | 銀河食堂

 

 

終業のチャイムが鳴る、僕の机は終業5分前には綺麗に片しているのでチャイムが鳴ると同時に机から離れる。

あー寒いっ。週末は雪が降るかもって言ってな…。

薄曇りの空を見上げ足下は右、左と足踏みしながら信号待ちをしている。

あったかいラーメンに食べにしようか、チャンポンか、いいや焼き鳥でも買って帰るかな。

信号が青になり足踏みしていた左の足を一歩踏み出した瞬間、僕はこけた。

イタタタタ…っ。寒い冬のなか大の大人がコケた、何とも恥ずかしい。

そそくさと起きあがりパンパンとズボンを手ではらった。

なんとも言えない苦笑いをしてみる。

「何してるんだ?苦い顔して」

ん?

「なんともしれない顔すんじゃないよ、寒いからストーブで暖ったまりない」

見渡すと古い食堂…銀河食堂現る!??

中に木の看板が「寒いね。ここストーブあるよ、営業中」

確かにストーブがついている。僕はストーブの前に腰かける。

ストーブがコケた膝に優しくあたる。

「暖かい…」

「お前、どうした?今日は節分だぞ。何や最近は巻き寿司を食べるんだなぁ」

「あ、そっか節分だぁ。恵方巻のことだね」

「まぁ、食べない。うん10年ぶりに巻き簾を手にしたもんで失敗したでよ、へへへへへ…」

店主は照れ笑いをしストーブの前に腰かける僕の前に皿を差しだした。

「あ…巻き寿司が巻かれそうで巻かれてない…」思わず口にしてしまい僕は、焦って口に手をやる。

「いいんだ、いいんだ、3度ほど試したが忘れちまったようだぁ」店主は頭をかいた。

「ふふ、いただきますっ!」

パクっと口にする。

「美味しいよ、全部食べていいの?」

「おんなら食べない、もう暫くは巻き簾なんてするもんかぁ、うはははははっ」店主は大きく笑った。続けて

「今年1年お前さんが無事に平凡に暮らせるように、豆を年の数だけ食べんだぞ」

「うんうん28粒、食べればいんだね」僕は巻き寿司を頬張りながら頷いた。

「28。お前さん、もう28になったんかぁ…」

「え?なに?聞こえないよぉ」あまりの店主の声の小ささに僕は頬張った巻き寿司と共に店主の顔をみた。

スーっ。店主が俯き涙?のようなものがつたった。

「店主…?」と声をかけたその時、来た来た、この空間の歪み方、僕はもう1つ巻寿司を頬張った。銀河食堂が消える前に起こる現象のひとつだと最近、気づいた。

もう一度、店主を見た。

「すまんなぁ、全部、食べそこねさせたなぁ。またな」と店主はニマッと普段のように笑ってる

泣いてたんじゃぁなかったっけ…?

気づけばここは…僕の家。細かくいえば僕はテーブルの前に座ってる。

テーブルの前に木のカップが置かれていて、その中には豆が入れてある、誰だろう。

僕の手には豆の袋を持っている。じゃあ僕が豆を買ってきて豆を入れたんじゃないか。

さてと、28粒食べよう。

1粒、2粒…口に入れながら数える。

うん?クンクンと僕は嗅ぐ。

豆を食べる指から微かに酢の香りがする。

 

 

 

 

 


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