Cosmos Factory

伊那谷の境界域から見えること、思ったことを遺します

日本民俗学

2005-10-08 00:35:00 | 民俗学
 岩田書院といえば、一人でそれも学術書を矢継ぎ早に刊行している「すごい」出版会社である。学会の総会、年会というと、必ずこの岩田博さんの姿が見える。わたしも最近は学会なるものに足を運ばなくなり、顔を拝見していないが、そのエネルギーにはだれにも勝てないだろう。その岩田書院は、「地方史情報」という地方史の研究会の発行雑誌を網羅する情報誌を毎月発行している。その情報誌とともに、「新刊ニュース」なるものを発行しているが、もう400号を越えた。その400号に興味深い記事を見たとともに、続いて401号には決定的な現実が書かれていた。400号には、7月30日の京都で売上げ6500円、8月27日の飯田市で売上げ1100円とある。岩田氏は本を持っては学会の会場を訪れ、書籍販売をしている。その販売額がこんな金額なのである。岩田氏は、売れないばかりではなく、売れている部分があるからなんとかやっているといい、いっそ売れない部分を切り捨てれば楽じゃないか、と自問自答している。8月27日は飯田市で飯田市歴史研究所の研究集会が行なわれた日である。2日間でのべ200人程度の参加だったと、歴史研究所のニュースにあるから、実人数は100人余だったのだろうか。そして歴史研究所であるから、民俗でもないし自然でもない、歴史である。岩田氏がみるところではけして売れない分野ではないはずなのに、たった1100円だったわけである。岩田書院の本といえば、5000円以上があたりまえだから、地域の小都市で開かれた研究集会に出向いたことじたいが、冒険だったのではないただろうか。前にも述べたが設立主旨は立派ではあるものの、地域住民が研究志向に入っているわけでもなく、その筋の身内だけで集まっていたら、正直いって岩田書院の本は売れないだろう。それにしても、1100円はないだろう、とつくづく思う。岩田書院の本がそんなにつまらなかったのだろうか。岩田書院の本を欲しいと思わなかったということは、集まった人たちがドアマチュアだったのではないだろうか。
 さて、続いて発行された401号は「落日の民俗学」と題している。わたしも購入していたが、雑誌『フォークロア』について触れている。この本は、7号まで発行されて廃刊した。わたしとしては、興味深かったが、「よくこんな本出して買う人いるんだ」と当時は思ったものである。その本が出されていたのは、10年ほど前のことであった。その最終号に山折哲雄氏が寄せた論文のタイトルが「落日の中の日本民俗学」だった。岩田氏はそのころから出版社を起したわけであるが、歴史本が中心ではあるが、民俗学の本もたくさん発刊している。民俗学の部分は趣味でやってるのではないかと思うほど、よくがんばってくれる。しかし、売れないだろう、というのは雰囲気でわかる。そして、この号で「本が売れないのである。民俗系がことにひどい。」といっている。まさしく民俗学の落日を目の当たりにしているというわけである。そして、今日から、かの東京大学で日本民俗学会の年会が始まる。岩田氏は、同日に京都女子大で開かれる日本史研究会を捨ててまでも、日本民俗学を見極めに、東京大学へ行くという。
 わたしは思うのである。地域が疲弊し、生き地獄に近い現実を目の当たりにし、この先がまったくみえないなかで、地域を題材にした日本民俗学が、地域の課題に対してほとんど貢献してこなかったがための現実ではないかと。政治家と同じで、地域がみえていないのである。政治家は地域を捨てればよいだろうが、では民俗学は地域を捨てるというのか。確かに、民俗学は農村だけが対象ではない。マチはもちろん、都市民俗も対象である。そんななかで、いったい落日の農村に何を答えることができるというのだ。こうした分野に興味を持ち、本をたくさん買ってきたわたしですら、最近本を買わない。なぜ買わないかといえば、金がないのである。そして、いちアマチュアとして活動するには、環境もないし、生きていくことが優先である。1冊1万円もする本に手が出るわけがない。地方はそこまで金がなくなっている。民俗学の場合は、大学の研究者とか、専門の人は少ない。したがって、いかに野にいるアマチュアが研究者として興味を持つかにかかっていた。かつては、学校の先生が民俗の土台を支えていたはずである。そうした人々が今はいないのである。生意気なことをいうが、かつてとは異なり、今は地方に学芸員という人たちがいる。立場としては、かつての学校の先生たちとはまったく違う。恵まれているのである(ここでいう恵まれているという意味は、情報化とか、個人情報保護という研究のしにくい環境に対して)。しかし、それに気づいていない人たちがいる。
 岩田氏は東大で、落日の真実を知るのか、それとも・・・・。
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1 コメント

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考えさせられますねえ。 (BLs)
2005-10-09 22:46:32
学問の分類にあたる○○学というのも、この10年くらいの間に、ずいぶん価値観が変わってきていると思うんです。昔なら社会や経済に何の利益をもたらさないような部分がたくさんあったのに、国立大学の法人化や、産学協同研究などの変化が生じると共に、過去の出来事のように人気を失ってきたように思います。私の好きだった生物学や自然科学の分野でも、大変大きな変革がありました。たとえば生物の分類などにおいても、昔は生物個々の形質や生態などから分類をしてきたのですが遺伝子による進化の把握が正確にできるようになってからは一変しましたし、むしろ生物や自然科学を人間にとってどのように利用し利益につなげるか、といった部分が主流になってきています。本当は、そういった無駄で時間のかかる地道な部分が大切なことだとは思いますが、マイナーな人気のない立場へと追い込まれているように感じます。

残念ですねぇ。。。
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