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親沢の人形三番叟を訪れて④

2015-04-16 23:22:57 | 民俗学

親沢の人形三番叟を訪れて③より

千代

 

千代と翁

 

 

 案内をいただいた区長さんからいくつか資料をいただいた。そのひとつ『親沢の人形三番叟』は日本財団の助成を受けて後藤淑氏と大谷津早苗氏が執筆した報告書である。大谷津早苗氏は人形浄瑠璃の頭の「うなづき」について詳しい研究をされている方。「うなづき」とは名の通り、人形の表情を表す際に頭を上下に操作してうなづく動作をさせるものを言う。大谷津氏は報告書の中で「親沢の人形三番叟のかしらの、最大の特徴は、そのうなづき形式にある」と述べ、親沢の三番叟の価値について述べている。この「うなづき」には4種類の形式があるといい、最も発達したものが現在の文楽のかしらに施されている「引栓式」だという。表現上細やかな動きができるため、操る側にとっては難しい。地方の人形浄瑠璃のかしらに多いのは「小猿式」というもので、比較的扱いやすいので地方のかしらに採用されているようだ。この「小猿式」の変形ともいわれるものに「ブラリ式(引玉式)」というものがあり、阿波・淡路のかしらはかつて「小猿式」だったが、後に「ブラリ式」といえば阿波・淡路のかしらと言われるほどになったようである。

 残るひとつの形式が「偃歯(えんば)棒式」というもの。全国的にこの形式はあるというが、数は少ないという。大谷津氏は「多くはかしらにその形跡は残すものの、作り変えられている場合が多く、完全な形をとどめているものはきわめて少ない」と述べている。「作りかえられている」というように、歴史的前後関係を推測すると、)、「偃歯棒式」→「小猿式」→「引栓式」という流れではないかという。そして全国に伝わるかしらを調べてみると、「千歳・翁はうなづきのないかしらが多いが、三番叟はほぼすべてのかしらにうなづきがある。(中略)三番叟のうなづき形式は「小猿式」や「ブラリ式(引玉式)」も多いが、「偃歯棒式」の形跡を残すものが多い。しかし、「ブラリ式(引玉式)」「小猿式」に改変されているものが多く、完全な形の「偃歯棒式」を破損もなく保持しているのは親沢のかしらだけである。しかも千歳・翁・三番叟すべてが「偃歯棒式」のうなづきであるのは、現在のところ親沢以外知らない」と大谷津氏は言う。したがって「偃歯棒式」のうなづき構造を持つかしらを操る技術が残る親沢の人形三番叟がいかに価値あるものか解るというもの。大谷津氏は「演技中に「偃歯棒式」で頷かせると、人形はどういう表現効果を発するのかというようなことは、かしらが残っているだけではわからない。親沢の、人形を真上に高く差し上げ、大きく身を反らし苦しい姿勢を保ちながら遣う遣い方が「偃歯棒式」の基本の遣い方を伝えているかどうかは、更に検討が必要であろうが、操る技術が伝承されていることは大変貴重なことである」と述べている。

 「人形を真上に高く差し上げ、大きく身を反らし苦しい姿勢を保ちながら遣う遣い方」、この操り方を間近で鑑賞させていただいた今回の例会はわたしにとっても意味あるものだった。千代と丈による問答が始まるまで、舞台内部から拝見させていただいた。役者が額に汗をし操る様は、この操りがいかに体力を使うものか認識させられた。身を反らす場面が多く、操りの技術を独特な伝承システムで受け継いできたことともに、あるべくして演じられる三番叟なのだと実感した。

続く


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