僕は防衛力が強い。
多分。
自己防衛が半端ない。
学生の頃、数学も理科も出来なかった。
だから、言い訳を考えた。
…というより、素直に思いついた。
数学も理科も、答えが一つの科目だ。
だから、先生に言った。
「田中君や鈴木君が同じ答えを出すなら、
僕がいちいち解かなくてもいいと思います!」
「皆が同じ答えが出ることが分かっているのに、
それでも僕も、数式を解いて、
必死に答えを出さなきゃいけないのは、
一体全体、何でなんですかー?」
堂々と赤点をとっても、恥じることなく、
誰からも責められないように、
言い訳を沢山並べては、正当化する術を身につけた。
どういう言い方をしたら、笑って赦してもらえる?
どういう態度をとったら、「変な奴」で、話が済む?
「しょうがねーなー」って思わせるためには何をすべき?
口では負けない人間になりたい。
それが、大人になって、いつしか、
横柄な態度へと変わっていた。
「それって渡辺がやるべきことですか?」
「渡辺の仕事の仕方は、皆さんと違いますから」
「だって、そもそも、渡辺に求めてるものって、
そういうものじゃないんじゃないですか?」
そういうことを口にしながら、
同時にどこかで面白さとか、説得力とか、
変な意味での納得感とか、あるいは諦観とか、
そういったものを周りに散らばせた。
自分までも正当化させていった。
憧れていたのは、愛嬌のある存在。
「なんか憎めない」ような。
説得力があって、納得感があるような。
「しかたないな」と思わせてしまうような。
どんな時でも、きっと自信があったのは、
自分と同じ考えの人や、動き方をする人が、
いなかったから、という現実と。
そんな生意気さとキャッチーさを、
「変なの」「まぁ、面白いんじゃない」と、
面白がってくれた人がいた、事実と。
あとは、曖昧にごまかせるだけの実績と。
「他の人にはできないでしょ」っていうおごりと。
だんだんに偉そうになった。
本当は、全然、偉くないのに。
プライドが生まれ始めた。
本当は何もなかったはずなのに。
そして、自分を守り始めた。
正当化することを優先し始めてしまった。
必死で隠し始めたものは何だったんだろう?
孤独や寂しさ?
あるいは取り残されることへの恐怖?
目指したものは何だったんだろう?
憧れを向けられる、輝くべき存在?
それとも、見下されることのない存在?
頭の回転の速さでは誰にも負けない。
本質を見抜く力では、誰にも負けたくない。
それが更に速度を増していった。
感情を取り残して、筋ばかり通そうとした。
全ては小さな自分を守るためだったんだろう。
でも、ちょっとやりすぎてしまった。
目にあまり、鼻につくようになった人が、
じわじわと多くなったのだと思う。
そして、嫌われた。
「お前のこと、嫌いになった」と言う人は少ない。
けど、肌でひしひしと感じ始めた。
一人になることは怖いことではないけど、
見放された・飽きられた
→ 魅力がなくなった…?
考えたら、焦り始めた。
焦り始めたら、キャラクターが分からなくなった。
強がって、一人でも大丈夫だ、と言い切るのか。
それをできる自信はどこにもない。
本音が生まれた。
人に嫌われたくない、という弱音に似た救いと、
人に良く思われて、記憶に残りたい、という願望と。
好かれるために嘘をつくことはできないけど、
好くために、相手のことをきちんと見よう、と思った。
嫌われないために気を遣うことはしないけど、
好くために、心配りをしよう、と思った。
今、徐々に自分の中で変わっていくものがある。
「気持ちのいい人になりたい」という気持ち。
シンプルだけど、とても難しい。
そして、僕の周りには、そういう人が多かったことに気づいた。
では、彼らには、僕はどう思われているのだろう?
怖い…と思った。
だから、自分との闘いが始まる。
よりよい人間を目指す為の。
よく「頭がいいね」と言われる。
否定はしない。
きっと、僕は頭が悪い方ではない。
でも、そんなことよりも、
「気持ちのいい人」になりたい。
「気立てのいい人」に。
一緒に飲みに行きたいような人に。
一緒に語り明かしたいような人に。
そうなるには、殻を破ることが必要だ。
今までのキャラクターではたどり着けない。
そう思って、歩き出す、今。
きっと新しい日々が始まる。
毒素を抜くための挑戦が今、
静かに確かに始まった。