Landscape diary ランスケ・ ダイアリー

ランドスケープ ・ダイアリー。
山の風景、野の風景、街の風景そして心象風景…
視線の先にあるの風景の記憶を綴ります。

三月の海・鎮魂

2017-03-09 | Walk on

 

春三月は一進一退。

数日続いた華やぐ陽気も一転、氷雨降る戻り寒波に震え上がった。

暗い紗幕のような雲が地平すれすれを嘗めるように視界の先を横切ってゆく。

遠い山並みは黒雲の狭間から白く雪を被った地肌が覗く。

ゴォーゴォー、カタカタ強い風が窓を震わせる。

こんな日は大人しく本でも読んで、家でぬくぬく過ごすに限る。

それなのに…何かに急き立てられるように海へと向かった。

すぐに西風に乗った氷雨に眼鏡が曇り、壁のように立ちはだかる向かい風に息が切れる。

レインウェアのフードを目深に被り、ふらふらペダルを漕ぎ続ける。

海へと流れる川沿いの道、南西の河口の辺りだけ、ポッカリ空がぬけている。

あそこまで辿り着けば、息せき切って漕ぎだすペダルの回転数を増す。

普段は微睡ように穏やかに凪いでいる海が、まったく表情を変えている。

どーんどーん荒れ狂う海が、白く波頭を立てて岸に押し寄せる。

まるで冬の日本海を観るようだ。

(京都在住の頃、よく夜行列車に乗って真冬の鳥取砂丘を観に行った)

空を覆う重い黒雲から、サーッ光が射すと、

海原が銀箔を貼ったようにキラキラ眩しく光り輝く。

そのあまりもの風景の光と影の劇的な変わりように

空から不思議な贈り物をもらったような、ささやかな充足感に満たされる。

河口に延びた砂州を、ふらふら風に吹かれながら先端の波打ち際まで歩いた。

 

間もなく6年目の3月11日を迎える。

先週日曜日に観たNHKスペシャルの映像が強く記憶に残った。

未だ行方不明者2556人という数字は重く、記憶の風化を拒否している。

今日も凍える海に潜り、亡き人の痕跡を探し求める人がいる。

岸政彦の本に綴られていたように、6年という時間(歳月)は等しく私たちの上にも流れるが、

その流れ方は、それぞれまったく異なっているのだ。

一括りに 被災地の風景を語ってはいけない。

先月読んだ「非常時のことば・震災の後で」という本がある。

少し長いが、その中から印象に残った言葉を引いてみよう。

 

どのような巨大な悲劇も「あの日」の出来事も、他人事に過ぎないのである。

そのようにいえる権利を誰もが持っている。

大きな声でいえないのだけれども。

テレビには悲惨な出来事が映っている。

それは他人事というべきなのだ。

なぜなら、誰も他人の経験を代行することは、できないからだ。

だが、なぜ、ぼくたちは胸が痛むのか?

他人の運命を無視することができないのか?

それは、その他人は、もしかしたら僕かもしれないからだ。

そして、その見知らぬ他人もまた、遥か遠くで、彼にとっての他人である僕のことを、

想像しようと試みているかもしれないのである。

切り離され孤立しているのは、私や僕だけではない。

だからこそ可能性は残されている。

ここにいて、あなたたちのことを考えている、と伝えることは可能なのだ。

それが「こだま」のように儚いものであったとしても。

言葉は、言葉によって打ち立てられた文章は、そんな力を持つんだ。

と僕は信じたいのである。

 


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4 コメント

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あれから6年 (鬼城)
2017-03-09 15:20:56
早く感じるか、長く感じるかは別にして、いつも思うこと。
結局は当事者だけしか痛みは分からない。
今になって福島原発事故の子どもたちへのいじめ、なぜ見抜けなかったのか?
大人より子どもの方がずーっと残酷。
この冬の海のような暗い激しい怒りがわき起こる。
子どもたちには、この時代を生きるために精一杯がんばってほしい。
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想像することから始まる (ランスケ)
2017-03-09 16:32:17
本当にねぇ…傷口に塩を擦り付けるような残酷なことを子供は平気でしますからね。
何が正しいか?などの判断力は周囲の大人たちが身を持って教えてゆくしかありません。
だからこそ、私たちは自分の行動に自覚的にならなければ。
教育者である鬼城さんにとって、あの子供たちの行動は辛いでしょうね。

引用した「非常時のことば」で指摘されているように、
私たちに出来ることは、その人の立場に立って、その人が抱える痛みを想像することです。
他人の痛みを想像することから、何かが始まるのだと思います。
空気を読んで周囲に合わせることばかりを優先しないで。
返信する
温かい「こころ」何処かへ (MUGAKU)
2017-03-09 21:55:43
ランスケさん
6年前も昨日のことも、動画や活字の世界!!
人の「こころ」を育てていない日本の教育が社会が悲しい。
小学校から塾通い・中学では塾か体育系クラブ・高校では、さらに純度濃度の強化。
文科省も教育全般の型枠固定強化。
点数獲得・クラブ活動の実績で大学進学。
青少年が立ち止まり、自分で考える時間は許されていません。
人間の内なる成長を抑えた社会に「明日」はあるのでしょうか・・・
返信する
悪い夢をみていたような6年間 (ランスケ)
2017-03-10 18:36:27
私はMUGAKUさんや鬼城さんのように教育の現場に携わっていないので、
どうしても発言が無責任になってしまいます。
どうか、その点は御容赦ください。

やっぱり今一番気になるのが、森友学園に代表される盲目的に父権的な権威に隷属することを礼賛する復古的な動きです。
どう考えても、あれは洗脳としかいえないでしょう。
あれを教育というのならカルト宗教も北朝鮮も立派な教育です。
教育勅語に象徴される戦前の教育による、有史以来最大の汚点、
「一億総玉砕」という破滅への道を国民に強いた過去を忘れたのでしょうか?
それを国民に強いた権力中枢の思想や統治機能を継承しているのが現政権とその支持母体である日本会議です。

私には震災以来の6年間は、立ち竦む不安感に付け込んで急速に勢力を拡大した過去の亡霊たちに、
国民全体が憑りつかれ正気を失しない、まるで悪い夢を見ていたような心境です。

森友学園問題をめぐり、日経が3月4日-7日に実施したオンライン世論調査によれば、
安倍首相の支持率は36.1%で、前週の63.7%から急降下。
籠池理事長の国会招致には 70.8%が賛成とロイター報道。

これで国民も正気に戻ってくれればいいのですが。
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