「トニー滝谷」を観た。
上映時間76分の短い映画。
とても静謐で、白磁の陶磁器のような儚い透明感をたたえた映画。
原作は村上春樹。
短編集「レキシントンの幽霊」に収められている。
この短編集に収められている作品は、どれも粒揃い。
表題作は勿論、あの虐めとの長い孤独な闘いを描いた名作「沈黙」も含まれている。
物語との幸福な時間を約束された、とても良質な読書体験だった。
さて、その良質な読書体験が、映像に置き換えられるか?
2005年公開映画の評判は、耳にしていた。
59歳で夭折した市川準監督の作品は初めて。
なんて切なくて美しい映画。
こんな映画との出会いは、本当に久しい。
映画は、イッセー尾形と宮沢りえの一人二役による、ほとんど二人芝居。
一人芝居のイッセー尾形が上手いのは勿論だが、
その抑制された間のとりかたは、この余白の多い映像空間において溜息もの。
そして演劇人イッセー尾形以上に素晴らしかったのが、女優宮沢りえ。
美しい服を前にすると、あがない切れない…
病理のような被服にまつわる衝動的な欲求をかかえた女性を
宮沢りえが、信じられないような美しさで演じる。
その誇大した消費欲求という怪物を心の内に抱えながら、
あの切ないまでの美しさは何だろう…
もう一役の女性は、まるで「麗しのサブリナ」の頃のペップバーンみたい。
女優宮沢りえ、往年のフランス映画のヒロインのような美しさをたたえる稀有な存在。
坂本龍一のピアノ曲が、ページをめくるような平行移動と
E・ホッパーを意識したという余白の多い映像展開のなかで、
静かに、そして確かな胸の鼓動となって流れ続ける。
撮影の写真家広川泰士の映像は秀逸。
ベルイマンやウッディ・アレンの「インテリア」の流れを汲む逸品。
トニー滝谷 プレミアム・エディション [DVD] | |
市川準,村上春樹 | |
ジェネオン エンタテインメント |
トニー滝谷 スタンダード・エディション [DVD] | |
イッセー尾形,宮沢りえ | |
ジェネオン エンタテインメント |
レキシントンの幽霊 (文春文庫) | |
村上 春樹 | |
文藝春秋 |
読んでから観るか、観てから読むか」の
キャッチコピーが流行りました。
好きな言葉です。
というのは、読んでから映画を観ると
脚本の不満、表現の不満が感じられることが
多いからです。
観てから読んでも映画の不満が残ります。
と、言うわけで有料映画はほとんど
見に行かなくなりました。(笑)
この作品はどうでしたか?
言葉によって表現できるものと映像によって表現できるものは
おのずと違って来ます。
そういう前提の下、観ると腹も立ちません。
でも、ないかな?(苦笑)
思い入れの強い本を、つまらないありきたりの映画に
置き換えられると無性に腹が立ちますね。
好きな本の映画化の場合は慎重になります。
この作品はラストシーンなど、まったく別のものですが、
村上春樹の本の映画化作品では稀有な成功例です。
監督と作家の間で、かなり遣り取りがあったと聞いています。
でも、まったく別の作品として私は観ました。
極端に色を抑えたモノトーンの色調。
ナレーションとモノローグによる抑制された画面構成。
それに被さる坂本龍一のピアノ曲。
完璧に計算された別箇の映像作品です。
もう一本、全米ベストセラーの映画化作品、「Horse whisperer」
R・レッドフォード監督作品のこの映画が、日本公開時は、
まったくヒットしなかったのが不思議。
これほど美しい映像と心の襞に触れるような感興に
満ちた作品なのに。
次回は、これを紹介します。
ランスケさんの知識はどの分野でも半端ではない。
おそらく読書によるものだろうと思います。
同じくKyo-chanの読書量も多岐にわたり半端ではない。
つくづく尊敬します。
映画は視覚に訴え、感情移入。
読書は先に思い、感じ、それを映像化するものだと思っています。
そんな中で観客、読者にこびを売るような作品はがっかりします。
小作品でも良い、自分にぴたと会う作品、映画に出会いたいものですね。
ハリウッド系映画は苦手です。
先日観た「ライト・スタッフ」も良い映画なのですが、
イマイチ興が乗りません(苦笑)
そして年をとると余計に静かな佳作や旧い映画に魅かれます。
さて今日も雨が上がったので、
レンタルビデオ店の片隅で埃をかぶったような小品を探してみます。