昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(二十三)

2024-05-19 08:00:02 | 物語り

 彼には冷却水の確認で苦い想い出がある。
免許を取って間もない頃だったが、水温が異常に上がりオーバーヒート寸前になったことがある。
ラジエターの蓋を開けた時、熱湯というよりも火に近いものが彼の顔面を襲ってきた。
その時もし、サングラスをしていなかったら……背筋が寒くなる思いをした。
鼻尖とそして上下の唇とに火傷をした。勿論、サングラスは使い物にならなくなった。

 トラブルの原因は半分切れかけ状態のファンベルトだった。
たるみができてしまい、うまく回っていなかった。
そのためにラジエター内の冷却水がうまく循環せずに、水温が異常に上がってしまった。
で今回は少し時間をおいてから、ファンベルトのたるみの確認と冷却水の量の確認をした。
「よし、OK」と声に出しながらボンネットを閉めた。

 山肌では四月の上旬には桜が満開となり、ドライブウエイに桜のトンネルを作り出すが、今は終わりを告げている。
緑の濃くなった中で、カリフラワー状のモコモコした樹木――岐阜市の木として指定されている金色の花を咲かせたツブラジイの木が郡立している。
古代においてはツブラジイの果実であるどんぐりが、そのアクの少なさから貴重な食料とされていた。
縄文遺跡からも出土しているという。

「うわあ! プードルみたい」と貴子が言えば「マシュマロですよ、食べたあい」と、口数の少なかった真理子が応じた。
ルームミラーから見える真理子の目がキラキラと輝いて見える。
窓から身を乗り出しそうな勢いでガラス面におでこを付けている。
2ドアの商用車であることが残念といった表情もまた見せていた。
助手席の貴子も気づいているようで、ご機嫌みたいよと彼に目配せをした。

 



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