昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[舟のない港] (四十二)

2016-05-31 17:50:22 | 小説
「すまない」一時の激情から覚めた男は、呻くように言った。 「いいの、こうなることを覚悟で今夜は来たの。気になさらないで」  ミドリは汚れたシーツを洗うからと男に告げ、男は所在なげにタバコに火を点けた。 流し場で洗いながら、ミドリは努めて明るく話をし始めた。 「この間の家族会議の時に、お母さんと妹は大賛成なんだけど、道夫兄さん、何となく反対らしいの。 はっきりとした理由は言ってくれないんですけど。 . . . 本文を読む

[舟のない港] (五十一)

2016-05-30 18:52:30 | 小説
時間は未だ、八時前だった。 どうしてもミドリに会いたくなった。 “ミドリが出たら‥‥”と、公衆電話に手を伸ばした。 予感がしていたと喜ぶミドリの声に、男は救われる思いだった。 すぐにアパートに行きますと、弾んだ声だった。 今夜は、母と妹が母の実家に泊まりに行き、兄の道夫は残業で深夜近くの帰宅になるという。 そこで、友人宅を訪れる予定にしていたという。 あと五分も遅ければ、居なかったとも。 占 . . . 本文を読む

[舟のない港] (四十七)

2016-05-22 10:30:46 | 小説
この一件は、その日の内に社内に広まった。 噂が噂を呼び尾ひれがついた。 「女性二人に二股をかけて、手玉にとった」 「ナイトクラブで酔わせ、レイプまがいの事をした」 果ては、妊娠した女性を捨てた男というレッテルを貼られてしまった。 そんな男をかばう者もなく、特に女性社員からは、白い目で見られた。 さすがに、男も退社せざるを得なくなった。 「このことがなければ、元の部署に戻れたのに、残念だ」 . . . 本文を読む

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