「それは……。だって仕方ないじゃない!
正三さん、ちっとも連絡くれないんだもの。それに、アーシアが……」 . . . 本文を読む
いや武蔵ばかりではない、実のところは小夜子にも分からないのだ。
いや、ひとつは分かっている。正三に対する不実さを認めたくないのだ。
しかしそれだけではない。まだ他のなにかが小夜子を苦しめている。 . . . 本文を読む
終わりの文字がスクリーン一杯に現れても、喪失に囚われていた正三は、小夜子に促されてもなお席を立つことが出来なかった。
男たちの、それぞれの勝手な言い分に混乱の極みに立っていた。
罪を問われれば当然の如くに罰が待っているのだ。
生きていくのがいやになるほどの、それほどに辛く暗い時代だからと言うのだろうか。
だから死を求めての告白なのだろうか。
なのになのに今、自分は、わがままを通そうとしている。
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小倉屋に逗留の間も、毎朝夜明け前から鍛錬に励むムサシだった。
大声を発しながらの素振りで、重さが三貫はあろうかという太い木剣が上段から振り下ろされるたびに「ブォン、ブォン」と空気を切り裂く鈍い音がする。
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小倉の地にて。
佐々木小次郎の妻女然として振る舞う朱美だが、周囲の誰もが当然のこととして受け入れている。
五尺七寸の長身小次郎に対して、朱美は並の男たちと変わらぬほどの五尺二寸ほどの背丈を持っている。 . . . 本文を読む
ある者はムサシ同様に泥田の中を走り、またある者はあぜ道を駆けた。
決戦の場、洛外下り松に通ずる街道に身を伏せていた他の門人たちも、その怒号を聞きつけて一斉にムサシに向かって駆け寄った。
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