昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

愛・地獄変 [父娘の哀情物語り] (三十)

2010-12-07 21:47:03 | 小説
娘の居ない日々は、
やはり地獄でした。
針のむしろとでも言うべき
日々でごさいました。
毎夜、
妻に嫌みを言われ続けたのでございます。
「娘に甘すぎる!」
「娘が居ないと、
途端に帰りが遅い!」などと。

私ときましたら、
そんな妻の愚痴に対して反論することもなく、
そそくさと自分の部屋に閉じこもりました。
そして娘のことばかりを考える始末でした。
子供のようですが、
帰る日を指折り数えていたのでございます。

それが、
それが・・・。

娘からは、
合宿の初日から
電話が入りましてございます。
「着いたよー!
感激ぃぃ、よ。
お父さん、
ありがとうね。」
ハハハ、ハハハ、
ハハハ、でございます。
先日の娘の喜びようが、
私の五感に蘇ります。

娘に抱きつかれてもんどり打って倒れた折の、
あの感触が五感全てに蘇ります。
そのままごろごろと畳の上を・・。
あ、
お忘れください、
お忘れください、
どうぞお忘れを。

私の傍らでせっつきますので、
妻と代わりましてございます。
夜叉の如き顔が一変いたします。
菩薩様のようにたっぷりの笑みを湛えて、
娘と話しております。

空気が澄んだ所で、
満天に星が輝いていたと申しておりますようで。
娘が私にも聞こえるようにと、
ひと際大きな声で話してくれております。
しかしあまりに喜びに満ち溢れた声に、
次第次第に腹が立ってきました。

妻との会話が長いせいではございません。
私には言ってくれた
『ありがとう』の五文字を、
妻には言いませんのですから。
腹立ちの訳は、
別のことでございます。
私の元よりも良い所があるなど、
到底考えられません。
有ってはならぬことなのでございますよ。


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