昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第三部~ (四百四十三)

2024-10-01 08:00:23 | 物語り

 社葬終了後に、「一週間後に重大発表をします」と、五平のアナウンスがあった。
当然ながら後任人事のことだということになり、業界新聞記者が色めき立った。
むろん取引業者にしても他人事ではない。
これまでの経営方針が一気に変わるということはないだろうが、五平が社長就任となれば、バックにいる三友銀行の意向がより強く反映されるだろうと、小規模会社は戦々恐々となった。

 武蔵が入院してからというもの、売れ筋商品の供給が大手優先となっている。
これまでもそれはありはしたが、一定の数量確保はできていた。
武蔵の「古くからの取引先は、大小にかかわらず優先だ」ということばがあったからだ。それにたいして銀行側としては、やはり利益優先をとなえ、効率性をもとめてきた。
五平が対応にあたり、武蔵まで話がいくことはなかったけれども、融資額が増えるにつれてその圧力は増してきた。

 五平が後任社長となれば、早晩銀行側に押し切られることは自明の理ととらえられた。
むろん内部干渉とでもいうべきものであり、そこまで言うならメインバンクの変更で対抗しては、という意見もありはした。
服部、山田、そして竹田らが先頭に立ち、「社長の意向がある!」と、五平を牽制した。
「取引先さまは公平に!」と、事務室の柱にスローガンのように貼り付けた。

 そして一週間後に、一斉に取引先あてにFAXが送られた。
社長、御手洗小夜子。専務、加藤五平。
販売統括、服部健二。総務・仕入れ統括、竹田勝利。経理統括、小島徳子。
 蜂の巣をつついたような騒ぎとなって、電話が鳴りひびいた。
新社長には五平がという憶測が飛びかっていたため、当初は小夜子の社長就任に危ぶむ声があがった。

前夜まで議論がつづき、その場には服部、山田、竹田、徳子、そして銀行側から佐多支店長が出席していた。
喧々諤々の議論となったが、当の五平が煮え切らない。
「結婚時のやくそくでしょ!」。妻である万里江に、毎晩のように責め立てられる五平だった。
順当にいけば、社長に五平が就くべきだ。取引先もそう思っている。
それはわかっている。しかし、と考える五平だった。

〝おれが就けば、会社は銀行に乗っとられるもおなじだ〟
〝タケさんも、俺にと言ってくれた〟
〝けども、正直、自信がない。タケさんがいたからこそ、俺はやってこれた〟
 逡巡する思いが消えない。万里江に迫られればせまられるほど、気持ちが後ずさりしていく。
〝いっそ、支店長に……〟

 それが、前夜、突然の竹田のことばに度肝をぬかれた。
思いもせぬ提言だった。
「お姫さまを立ててください。みんなで、お支えしましょうよ」



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