昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

青春群像 ご め ん ね…… えそらごと(八)

2023-12-31 08:00:26 | 物語り

 生まれてこのかた、女と名のつく人種との会話といえば母親ぐらいの彼だった。
 幼児期は「人見しりのはげしい子でして」。
 小学生時代には「恥ずかしがり屋さんでこまりますわ」。
 中学に入ると「愛想のない子でして」。

 そして高校時代に、ゆいいつ訪れた機会をうしなってしまった。
通学時にバスが同じになる女子生徒が声をかけてきた。
ただ単に「おはよう!」という声かけだった。
「おはよう」なり「ああ…」とかえすだけでも良かったのだが、とつぜんのことに頭が真っ白になり、返事をすることもなく横をむいてしまった。

彼としては悪口雑言をあびせたわけでもなく、すこしの邪険な態度をとっただけじゃないかと思っていた。
しかし女子生徒にとっては、衆人環視のなかで受けた屈辱でありいたたまれないものだった。
わっと泣き出してその場にうずくまってしまった。
以来、彼に声をかける女子生徒はいなくなった。

“なんだよ、なんだよ、なんなんだよ。
そんなオーバーに泣くことないだろうが”
 後悔の気持ちがわいてはきたが、「この間はごめん」とひと言あやまればすんだことなのに、彼ときたら。
「いよっ、色男!」。級友のからかうことばに、真っ赤になってしまった。

(無視しちゃえ、むし。彼ならきっと……)



最新の画像もっと見る

コメントを投稿