「フーン。だけどあの人、シンちゃんに気がありそうよ」
シン公の言葉にかぶせた。
「へえー、そうかい。それは、それは」
シン公は無頓着だ。
アコとのデートを楽しみたいという気持ちで一杯なシン公だ。
「うぅーん、顔を上げて! 好きなの? あの人」
しつこく聞き直すアコ。からかい半分で無造作に答えた、シン公。
こだわり続けるアコに、少しうんざり!。
「ああ、好きさ!」
と、アコが、今にも泣き出しそうな顔に。
「ごめん、ごめん。冗談だよ。アコが一番好きだよ。
でなかったら、ここに連れてくるはずがないだろう。自慢しに来たんだ」
慌ててシン公が言う。
「そう、そうよね! 私の方がいいわよね」
アコは、パッと、顔を明るくし目を大きく見開いた。
シン公は、お腹の中に暖かいものを飲み込んだ。
心底、可愛いと思った。そして、いつまでもこの可愛さいらしさを保ってほしいと思った。
「そうだ、忘れてた。はい、プレゼント! 泣き虫少女にこの花を差し上げましょう」
「まあ、すてきなお花。ポインセチアね。ありがとう!」
“何んて可愛いんだ”と、手放しの喜びように、シン公の顔がほころぶ。
そして、
「あなたの窓辺に、青い鳥が」と、花言葉を添えた。
アコの感動は、頂点に達した。目が潤み始める。
シン公は、そんなアコの喜びように酔いしれた。
二人の話は弾み、アコは学校でのことを、
シン公は仕事場でのことを飽きることなく話し続けた。
それは、寒い雪の降り出した外へ出ても続いた。
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同じ町の、同じ中学に通っている二人。
素敵な彼ととても仲良しで、みんなに羨ましがられている私。
学生服についている小さな糸くずを取りながら、
「ほら、気をつけなくちゃだめよ。」
と私が言えば、彼は優しく笑みを含む目で私を見つめているの。
おつかい帰りの私を乗せて、彼は軽くペダルを踏むの。
「ねっ、お友達が冷やかしている。降りるわ、止めて。」と言うと、
「構わないさ。気にしない、気にしない。」と、受け付けない彼。
降ろしてくれなかった仕返しに、ちょっぴりふくれてやった。
彼が謝らない。
強情っぱりの二人は、それから三日間、一言も口を聞かずでした。
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アコは二人がモデルよ、と少し頬を赤らめながら言う。
シン公はとても素敵だよ、とほめた。
アコの前に立ち止まり、その可愛らしいおでこに軽くキスを。
アコの小さい胸は、喜びにふるえるけれども、
燃えるようなキスを、期待していたアコには、物足りなくも感じた。
「子猫ちゃんのおでこは、おいしいね」
照れ隠しのシン公の声は、妙に固かった。
“やっぱり子供扱いなのね。私、真剣なのに。シンちゃんは、ちっとも…”
二人の上から冷たい雪は、まるでシン公の心を苛むように、間断なく降り続く。
「アコも来年は高三です。受験のこともあるので、交際は控えてほしい。
それに、君は中卒だろう。えっ、定時制高校卒業?
何にしてもだ、世間体もあることだし。まっ、よろしく頼むよ」
アコの父親の言葉が、シン公の心に突き刺さる。
“今日で、お別れだ”
言葉にならない声だった。