昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

原木 【 ふたりだけのイヴ 】 地獄編 後

2024-05-09 08:00:39 | 物語り

「フーン。だけどあの人、シンちゃんに気がありそうよ」
シン公の言葉にかぶせた。
「へえー、そうかい。それは、それは」
シン公は無頓着だ。
アコとのデートを楽しみたいという気持ちで一杯なシン公だ。

「うぅーん、顔を上げて! 好きなの? あの人」
しつこく聞き直すアコ。からかい半分で無造作に答えた、シン公。
こだわり続けるアコに、少しうんざり!。
「ああ、好きさ!」

と、アコが、今にも泣き出しそうな顔に。
「ごめん、ごめん。冗談だよ。アコが一番好きだよ。
でなかったら、ここに連れてくるはずがないだろう。自慢しに来たんだ」
慌ててシン公が言う。
 
「そう、そうよね! 私の方がいいわよね」
アコは、パッと、顔を明るくし目を大きく見開いた。
シン公は、お腹の中に暖かいものを飲み込んだ。
心底、可愛いと思った。そして、いつまでもこの可愛さいらしさを保ってほしいと思った。

「そうだ、忘れてた。はい、プレゼント! 泣き虫少女にこの花を差し上げましょう」
「まあ、すてきなお花。ポインセチアね。ありがとう!」
“何んて可愛いんだ”と、手放しの喜びように、シン公の顔がほころぶ。
そして、
「あなたの窓辺に、青い鳥が」と、花言葉を添えた。

アコの感動は、頂点に達した。目が潤み始める。
シン公は、そんなアコの喜びように酔いしれた。
二人の話は弾み、アコは学校でのことを、
シン公は仕事場でのことを飽きることなく話し続けた。
それは、寒い雪の降り出した外へ出ても続いた。

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同じ町の、同じ中学に通っている二人。
素敵な彼ととても仲良しで、みんなに羨ましがられている私。
学生服についている小さな糸くずを取りながら、
「ほら、気をつけなくちゃだめよ。」
と私が言えば、彼は優しく笑みを含む目で私を見つめているの。

おつかい帰りの私を乗せて、彼は軽くペダルを踏むの。
「ねっ、お友達が冷やかしている。降りるわ、止めて。」と言うと、
「構わないさ。気にしない、気にしない。」と、受け付けない彼。
降ろしてくれなかった仕返しに、ちょっぴりふくれてやった。

彼が謝らない。
強情っぱりの二人は、それから三日間、一言も口を聞かずでした。
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アコは二人がモデルよ、と少し頬を赤らめながら言う。
シン公はとても素敵だよ、とほめた。
アコの前に立ち止まり、その可愛らしいおでこに軽くキスを。
アコの小さい胸は、喜びにふるえるけれども、
燃えるようなキスを、期待していたアコには、物足りなくも感じた。

「子猫ちゃんのおでこは、おいしいね」
照れ隠しのシン公の声は、妙に固かった。
“やっぱり子供扱いなのね。私、真剣なのに。シンちゃんは、ちっとも…”

二人の上から冷たい雪は、まるでシン公の心を苛むように、間断なく降り続く。

「アコも来年は高三です。受験のこともあるので、交際は控えてほしい。
それに、君は中卒だろう。えっ、定時制高校卒業?
何にしてもだ、世間体もあることだし。まっ、よろしく頼むよ」
アコの父親の言葉が、シン公の心に突き刺さる。

“今日で、お別れだ”
言葉にならない声だった。
 



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