Tomotubby’s Travel Blog

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パラオの「土人のお祭り」

2010-02-11 | 海は広いな Oceania /Big Island, Hawaii
作家・中島敦は、太平洋戦争直前、南洋庁の国語編修書記として単身パラオへ赴き、現地の公学校で使う教科書を編集する仕事に就き、パラオ、トラック、ヤルートなど南の島々を巡る。赴任は半年ほどの期間であったが、中島は毎日のように手紙や絵葉書を書いて家族や知人に送った。中でも長男桓(たけし)君に宛てた絵葉書は数多く、中島の子煩悩ぶりが窺われる。

「中島敦 父から子への南洋だより」は、保管されていた葉書を集めて編集・刊行された本で、先日古書店で美本を見つけたので買い求めた。読むと、遠く離れた日本に残した子を思う父親の愛情と孤独が痛いほど感じられ、涙を誘った。赴任期間中に太平洋戦争が勃発し、健康上の理由から中島は退官を依願して帰国するが、それから一年も経たぬうちに夭折してしまう。

中島敦は、桓君への葉書の中で、パラオなど原住民先住者は内地では「土人」と呼ばれているが、現地では「島民」と呼ばれていることに言及している。領土内で皇民化政策を押し進めていた日本は、現地で「土人」という差別的な言葉を使うのに躊躇ったのではないかと思われる。

しかし当時の童謡の中には、パラオ原住民のことを歌った「土人のお祭り」という歌があった。どうやら内地の日本人には「土人」という言葉に違和感はなく、広く領土内の原住民を指す言葉として使われていたようである。歌詞は以下の通り。

椰子の木蔭でドンジャラホイ、
シャンシャン手拍子足拍子、
太鼓叩いて笛吹いて、
今夜はお祭りパラオ島、
土人さんが揃ってにぎやかに、
アホイホーイよドンジャラホイ。

戦後になるとGHQから「土人のお祭り」は差別的とのクレームがつき、詩が「森の小人」に改められている。歌詞は以下のように変更された。

森の木陰でドンジャラホイ、
シャンシャン手拍子足拍子、
太鼓叩いて笛吹いて、
今夜はお祭り夢の国、
小人さんが揃ってにぎやかに、
アホイホーイよドンジャラホイ。

後に、この「森の小人」も「小人」という表現が差別的と指摘が入り、歌唱することが自粛され、今では封印されてしまっている。実は「土人のお祭り」自体がオリジナルではなく、もともとは「蟻の進軍」という名の童謡で別の歌詞を持っていたらしい。戦時に「蟻の進軍」では士気があがらず流石にまずいだろうと「土人の祭り」に改められたらしい。改名を繰返した末に封印されてしまうとは、つくづく運のない歌であるが、三度歌詞を改めても命脈を保ち得たのは、やはり「ドンジャラホイ」の一節が誰の耳にも無邪気で魅力的に聞こえたからに違いない。

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