カウンセラーのコラム

山梨県甲府市でカウンセリングルームを開業している心理カウンセラーの雑文です。

「10年かかる説」について

2008年12月22日 | 日記 ・ 雑文
私が師事した故・友田不二男先生は、「一人前のカウンセラーになるためには、どんな人でも最低10年はかかる」という主旨の発言をよく口にしていた。
この発言が出てくる根拠の中には、きっと“友田先生自身の経験”も含まれているのだろうが、そんなことなど知らない私は最初にこれを耳にしたとき、「へぇ~、カウンセラーになるのってそんなに大変なんだあ」と思ったものだった。
それからしばらくして、少しずつ“カウンセリングの世界”の奥深さがわかってくると、「そんなもんかなあ。まあ、そうなんだろうなあ」という印象に変わった。
それが最近になり、ようやく「なるほどなあ! 本当に友田先生の言う通りだなあ!」と実感できるようになった。私は私なりにこの発言、すなわち“10年かかる説(仮説)”の意味を理解し、納得できるまでに成長したので、今後は私自身が私自身の言葉で“この説”を世の人々に伝えていこう……という思いに至った。そんな気持ちで今、パソコン画面に向き合っているわけである。

この問題を論じる前に、まずは“言葉の定義や意味づけ”をはっきりさせておいたほうが良いだろう。
「一人前」という言葉を私は「プロフェッショナル」という言葉に置き換えている。つまり「一人前=プロ」という意味だ。ということはすなわち、「一人前=カウンセラーの資格を得ている」という意味ではないことにもなる。
ま、カウンセリングの世界にあまり通じていない人々にとっては、「プロフェッショナル」と「有資格者」との違いがよくわからないだろうと想像するが、事実として両者の間には歴然とした格差が存在するのだから、「違うものは違う」と言うより他ない。
プロフェッショナルとは「カウンセラーとして、クライエントの役に立つことができる人である」という意味だが、有資格者とは「講座に通いながら勉強し、資格試験をパスした人である」という意味になる。
このように表現すれば、両者の違いが少しはイメージできるだろうか?

私自身が歩んできたこれまで道のりを簡単に記すと、「カウンセリングと出会った」のは今から約12年前、平成8年の秋だった。それからの数年間は“カウンセリング一色”とでも表現したいような日々を過ごした気がしている。最も勉強熱心だった時期には、毎週3日間講座に通いながら、毎月1回くらい土日合宿講座に参加していた。
カウンセリングと出会ってから約4年後、「最初のクライエントととのカウンセリング経験」があった。ロールプレイやミニカウンセリングではなく、「本物のクライエントとの実際の臨床場面に臨んだ」のはこの時期だった。
翌年、カウンセリングルームを開業。現在も同じだが、「自宅の一室を面接室として使用し始めた」というだけのことだが。
その翌年、カウンセラーの資格を取得。ということは私の場合、開業したときは無資格だったのである。断っておくが、これは“違法行為”には当たらない。なぜなら、“医師”や“弁護士”などと異なり、日本では“カウンセラー”は国家資格ではないからだ。この点に関しては制度として問題がないわけではないのだろうが、事実としてカール・ロジャーズも友田不二男も「カウンセラーの資格は保有していなかった」、つまり「無資格者だった」ということを付言しておこう。
平成17年、日本カウンセリング・センターにて講座の世話人を担当。このあたりまで来て、ようやく私も(ルームに通ってくれたクライエントとは別に)世間から「カウンセラーとして認められてきた」ということになるだろうか?

このように振り返ってみると、「一人前のカウンセラーになるためには、どんな人でも最低10年はかかる」という言い方は、かなりの程度妥当ではないか? という気がする。
とはいえ、「10年という目安」が期間として長いか短いかは議論が分かれるところだろう。そこで、「他の専門分野では、一人前の専門家になるまでにどの程度の期間を要するのか?」を、ちょっとだけ見て比較してみよう。
例えば野球選手。プロ野球の選手というのは大半が小・中・高校と“野球漬け”の生活を送りながら、早い人の場合は高校卒業後にプロになる。それまでの期間を「約10年」と言って良さそうだ。
カウンセラーと比較的近い専門家に医師がある。医師の場合は大学・大学院で医学をみっちり学び、その後は研修医として研修を積むことが課せられている。こちらも「一人前の医師になるには約10年かかる」と言って良いだろう。
こうしてみると、「カウンセラーだけが特別に長い養成期間を必要とするわけではない」ことが理解できるだろう。どんな分野にせよ、いわゆる“専門家”というのは、半年や1年で育成できるようなものではないのだ。そんなことは「人間の世界にあり得ない!」と私は主張したい。

カウンセラーという仕事は、ある意味では医師と同じく「人の命を預かる仕事」である。そういう重大な責務を負っていることを考慮に入れると、「最低10年はかかる」という言葉がズシンと胸に響いてくる。
資格の有無に関わらず、私たちカウンセラーは常に研究・探求・学習を継続しながら、自己研鑽を積み重ねてゆくことを忘れてはならないだろう。そしてこのことを「他の誰よりも、私自身が肝に銘じておかなければなるまい!」と思う。
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