萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第35話 閃光act.3―another,side story「陽はまた昇る」

2012-03-03 23:33:02 | 陽はまた昇るanother,side story
一陣の光と風、




第35話 閃光act.3―another,side story「陽はまた昇る」

ブースに入った選手の背中で、ひときわ高身長の背中が鮮烈に立っている。
細身でも均整のとれた背中はゼッケンと山岳救助隊服を透かして、体の動きと一緒に端正な筋肉が動いていく。
山に生まれ山に育ち、山での任務に生きる光一の美しい大きな体躯は、並み居る選手たちのなか際立っていた。
その美しい背中へと会場中の視線と意識が注目をしている。
ひとめ見て周太にも光一の立つ場所がわかる、きっと鮮やかな隊服姿ではなかったとしても。

…あの大きな美しい体が、ね…ほんとうは羨ましい、って思ってしまう、ね?

大切な大好きな初恋のひと。
けれど羨望の対象でも本当はある、そんな2つの想いに光一を見てしまう。
あの体躯があれば射撃の衝撃など容易く受け流せるだろう。
そして、あんなふうに美しく大きな体なら、違う生き方を探すことも出来たかもしれない。
もし大きな体だったなら「射撃に秀でた小柄な警察官」には成れず、他の道を見ることも出来ただろうから。

こんな考え方は、哀しい。
そう解っている、けれど考えてしまう、この体がもし小柄では無かったら、と。
この体は両親から与えられた大切な体、この道を選んだのも自分の意志、だから言い訳なんか卑怯だ。
そう解っていても弱い自分は捉われてしまう、哀しい自嘲に微笑んで周太は射場の奥の扉を見た。

射場の奥に見える「あの扉」の向こうは「エリート」と呼ばれる特殊任務に就いた警察官の世界。
あの扉へと「射撃に秀でた小柄な警察官」は自分の意志を超えて曳きこまれていく。
曳きこまれた者は警察官としての履歴を抹消され、存在を消されていく。
その警察官を守るための「セキュリティーの為」という名目のもとに。

そして特殊任務の重たい秘密を背負わされ、負わされる秘密は家族にも口外できない。
唯ひとり孤独に秘密を見つめることを強いられて、永遠に「隠された秘密」という重荷を背負わされてしまう。
この「隠された秘密」の重荷を父も背負わされたまま死んでいった。
この父の重荷「隠された秘密」の存在に気がついたのは「警察官としての父」の姿を知ろうとした時だった。

父は警察官としてどんな任務に就いていたのか?
なぜ父はあの場所で殉職しなくてはいけなかったのか?

この2つの疑問を知りたくて出来る限りの資料とWEBで調べて行った。
そして行きついた先が特殊警察の事だった。
特殊警察の世界に入るためには条件があった、その条件全てを父は充たしていた。
だから自分には解ってしまった、気づいてしまった、そして父の苦悩に気づけなかった自分を責めてしまった。
自分の父が「隠された秘密」の重荷を背負わされたまま死んだという惨い現実に気づいてしまった。

残酷だ、そう思った。
社会と人間の尊厳を守る組織、そんなのは嘘だと思った。

大切な大好きな父に、そんな残酷な重荷を死んでも背負わせたまま、謝罪の一言もない組織が許せない。
だから自分は反抗したい、父の重荷の「隠された秘密」を暴いて永遠の重荷から父を解放したい。
そして考えてしまった、父が条件を充たした進路なら、息子の自分もきっと辿れるだろうと。
そうして自分は父の想いを見つめ父の軌跡を辿るため、この道に立つことを選んだ。

…なんども覚悟して、決めたこと…お母さんまで泣かせて、選んだ道。だから、後悔してはいけない

母を泣かせても選んだ道。
大好きで離れられない母すらも苦しめながら、自分は今この道に立っている。
だから後悔してはいけない、振向いてはいけない、もう賽は投げてしまった。

だからこそ辛い時がある。
光一の美しさと大きさに自分を比べてしまう時が辛く哀しい。
もし大きな体だったなら、母を苦しめることも無かったかもしれないと、この身を責めて辛くなる。
もし光一のように、怜悧で冷静沈着な論理力と真直ぐな視点があったなら、本当に選ぶべき道が見えたかもしれないと。
こんな考えは哀しい、意味がない。そう思っても考え込んで動けない時が苦しい。

…ね、光一?こんなこと知ったら、きっと傷つく、ね…ごめん、ね

見つめる想いの先に鮮烈な、山岳救助隊服姿の広やかな背中がまぶしい。
大好きで大切な初恋のひと、そして羨望に自嘲に苦しくなる存在、そんな矛盾が哀しい。
けれどもう心も決まりかけている「愛しい」と。

さっき光一が宣言にこめ贈ってくれた想いが嬉しくて幸せで、大好きだと想ってしまった。
あのザイル狙撃で威嚇発砲をし銃口を向けた、あの罪を軽やかに背負ってくれた時と同じように。
そしてもう想い出している、14年前の雪の森でも父と後藤副隊長の前に自分を庇ってくれたこと。
自分が父との約束を破り、森の奥へ行き戻らなかったことも光一は「俺がひきとめた所為だ」と庇護してくれた。
あの14年前も今も変わらない、どの瞬間も光一はただ軽やかに笑って盾になり自分を守ってくれる。
こんなに身を挺して守られて、想いを返さないでいられる人はいるのだろうか?

そして想ってしまう、もう2度と忘れたくないと。
そして考えてしまう、光一が14年間ずっと待ち続けた願いを叶えてあげたいと。

この道に立ち自分は14年前の約束の全てを忘れて生きていた。
この「忘れた」という事実はどんなにか、光一を傷つけたのだろう?
この傷を癒せるのは傷つけた自分しかいない。だから自分が光一の傷を癒したい、償いをしたい。
この償いが出来る方法はきっと、光一の願いを叶えること、それしかない。

きっと自分はもう解っている、光一の願いがなんなのか?
けれどこの願いを叶えるためには、自分は強くならないと出来ない。
だって光一の願いを叶えるなら、きっと2人のひとが傷つくことになる。
周太にとって大切な他の2人をきっと傷つける、その痛みがきっと今のままでは自分は耐えられない。
そして本音を言ってしまえば自分は光一に対して、劣等感がある。
この劣等感があっては、光一の願いは受け入れることなど出来はしない。

痛みと劣等感に向き合い、呑みこめる強く賢い大きな心。
それが自分に備わらなかったら、きっと余計に光一を傷つける。
だって光一の願いで一番に強いのは「周太の幸せな笑顔を見る」ことだから。
だからもう1つの光一の願いを叶えるために、もし自分が泣いたなら光一は傷ついてしまう。
だからいま時間がほしい、自分に時の充ちる瞬間を、今は自分は待っている。

…光一、あなたの願いをね、叶えてあげたい…だから、すこし待って、ね?

忘却、羨望と嫉妬、殺人未遂と転嫁。
この3つの罪を自分は光一に犯し、傷つけてしまった。
大切な大好きな初恋のひと、罪の相手。そしてきっと「希望」でもあるひと。
もう1人の愛するひと英二が、常に自分にとって「希望」であるように、光一も自分の希望の光になっている。

もう開会式で光一は、この警察組織の中ですら希望の光を示してくれた。
あの「人間の尊厳」の宣言に警察官たちの善意と誇りを示して、父の誇りも蘇らせてくれた。
そして父の道を辿る自分にとっても「尊厳を守る」誇りはひとすじの希望の光となっている。
そんな希望まで贈ってくれた光一を、自分はもう忘れる事も離れることも出来ない。

…ね、光一?…あなたが羨ましい、けれど、大好き…でも、ね?

でも今この時は、共に戦いの場に立っている。
センター・ファイア・ピストル競技の正選手として競い合う為にここに居る。
それぞれの目的を見つめて標的を狙う為にここに居る。
だから今は潔く戦っていたい、微笑んで周太はオレンジ鮮やかな救助隊服の背中を見つめた。

…あの背中が今、自分が掴みたい称号を争う相手、お互いに

見つめる想いの真ん中で光一はホルスターから拳銃を抜いた。
馴れた手つきにシリンダーチェックを片手で操作していく、何気なく体の位置を決めて構えを作っていく。
あの鑑識実験のとき同様に光一は、すこし頭を傾けノンサイト射撃に構えた。あの癖すらもう懐かしく見つめる自分がいる。
きっとあの透明な目は真直ぐ的を捕捉して、直線上にサイトを突き出し意識を引き絞っていく。
静かに揺れるよう白い指が引金をひいた、瞬間、光一の標的は的確に撃ち抜かれた。

センター・ファイア・ピストル。
省略してCP競技とも呼称され、1.4Kgの拳銃を片手で持ち、立った姿勢で25m先の標的を狙撃する。
ノンサイト射撃は普通は近距離射撃、10m先の標的を狙撃する時に用いる。
だから標的が25m先に設置されたCP競技では普通ノンサイト射撃は使わない。
けれど周太は実戦を意識して距離に関係なくノンサイト射撃を使う。
そして光一の場合は「実戦通り」にノンサイト射撃を使っている、幼い頃から立つ実践現場のクマ撃ち猟と同じように。

…大口径の狩猟用ライフル、あれを片手撃ちノンサイトで使える、光一は…

きっと自分は光一に「勝つ」ことなど到底できない。
それを自分がいちばんよく知っている、あの弾道鑑識実験で光一の能力を思い知らされている。
あの山間部に設置された実験場でも、標的確認のスピードも速射精密も光一は凄まじかった。
木や岩の障害物、風速、光線の角度と変化。
そうした不安定な条件に囲まれながらも光一は、構えて標的を見た瞬時に引金を絞っていた。

この射場の標的には障害物など無い。
空気を揺らす風も一定で微か、光線の変化もほとんどない。
こんなクリアな場所での射撃なら光一にとって造作もないだろう。
きっと光一は「簡単すぎるね、競技なんてさ?」と満点であることが当然と思っている。
きっと満点スコアだね?確信に微笑んだ周太の視線の先で精密射撃がスタートした。

精密射撃の標的が的に現れる、瞬間、光一は狙撃した。
的確な中心点で「10点」は撃ち抜かれた。

光一のスピードに他の選手誰もが息を呑んだ、そして会場が息を呑んだ。
精密射撃すなわち遅撃ちの規定は、制限時間5分以内に5発撃ちを4回、計20発を狙撃する。
この時間と弾数で計算して競技者は、15秒/1発の時間をフルに使って確実に狙撃していく。
けれど光一の狙撃には制限時間など無関係「標的は現れた瞬間に正中を狙撃する」のが光一には当然だから。
そして標的が消えた瞬間から腕を休め次の狙撃に備える、だから競技でも光一は普段通り斜め45度に腕を下げ休む。
その背中が「さっさと撃ちな、速くしろよ?現場なら死んでるね、」そんなふうに笑っている。

…ね、光一?この競技中の今だって、「現場」なんだよね、

きっと今この会場で「現場」と同じ態度で臨んでいる警察官も何人かいる。
けれど光一ほどに現場での狙撃を経験した者は、きっとこの場には一人もいないだろう。
そんな光一の山岳救助隊服の背中を会場中が驚いて見つめている。

そして「あの男」も賞賛の目で見つめているのが周太にも見えた。
きっと彼はさぞかし落胆もしているだろう、光一は「あの扉」の世界には大きすぎて曳きこめないから。
あと15cm身長が低ければいいのに、そんな声が聞こえそうだった。
そんな声に周太はかすかなため息と微笑んだ。

…身長はね、関係ないのに…あなたには解らない、かな?

たとえ光一が小柄だったとしても。
きっと光一は「あの扉」の向こうには入らないし、入れない。
光一の大きさはあの体格だけの問題ではないから、生きる世界の場所が違い過ぎるから。
そして光一の「射撃」が意味することは「あの扉」の世界と矛盾している。
だから光一は「あの扉」へと入ることは無い。

衆目の中心で光一は瞬時に10点正中を狙撃していく。
そして当然という顔で、精密射撃を満点で光一は終えた。
この会場では一部を除いて誰もが、この光一のスコアを予想していない。
ざわついた空気が生まれ、そして意識がまた統べられていく。

そんなふうに、どこか異様な空気のなか後半の速射が始まった。
選手たちは軽くグリップを持ち直し少しオープンな姿勢に変えていく。
精密射撃と速射ではグリップの握り方と構えを変える、けれど光一はそのまま佇んでいる。
なぜなら光一にとって射撃に精密射撃・遅撃ちは存在しない、元から速射しかしないから姿勢を変える必要も無い。
あくまで光一の射撃はクマ撃ち猟を基準に鍛えられ「標的は現れた瞬間に正中を狙撃する」速射しかないから。

―…俺たちには『半矢』は絶対に許されない。標的は現れた瞬間に正中を狙撃する、これが鉄則で山の掟だよ

奥多摩にはツキノワグマが棲んでいる。
そして時折クマたちは人間の生活の場へと降りてしまう。
そんな領域侵犯が起きた時、光一たちクマ撃ちは出猟し実戦場に立つことになる。
こうした日常生活に光一は、クマ撃ちの現場を幼い頃から見つめ、射撃は実戦として鍛えられ続けてきた。
そんな光一が聴かせてくれたクマ撃ち猟の世界は、競技射撃とは遠くかけ離れた「命懸け」の実戦。
ミスが全く許されない峻厳な「山の掟」が支配する、生命を懸けた闘争の現場だった。

「いちど人間の作った物の味を覚えるとね、クマはもう忘れられない。そして何度でも里に来てしまうんだ」
「ん、…人間の作ったもの?」

奥多摩での朝、周太は光一と雪の山頂で軽い朝食をとった。
まばゆい朝に輝く雪山を眺めながら摂る、クッカーで炙ったパンと温かいココアは美味しかった。
ゆっくり食事を摂る合間、クマたちが冬籠り眠る森を温かな眼差しで見つめて光一は話してくれた。

「たとえばね、屋敷の柿。甘くて旨いだろ?」
「ん、そうか…クマのご馳走なんだね?」
「そ。で、柿は山には無いよ。だからね、クマたちはご馳走をまた食べたくってさ、ふらり里へ降りてくる」

温かいココアを飲みながら周太は光一の話に心を傾けていた。
マグカップを持って周太に笑いかけながら、テノールの声は言葉を続けた。

「そして何度も人の住む場所へ降りてくる、そして『遭遇」する」
「…遭遇?」
「うん、俺たちクマ撃ちとの『遭遇』だよ、」

周太の質問に頷きながら底抜けに明るい目は寂しげに微笑んだ。
そして光一は教えてくれた。

「ここ奥多摩では、クマと人間は共存しなくてはいけない。
この山懐でテリトリーを作り住み分けをしているよ。で、どちらも安心して生活しなくっちゃいけない。
その為には互いのテリトリーを守る必要がある。だから俺たち人間はね、クマに会ったら見つからないようにするよ。
けれど『柿』を覚えたクマはね、何度もテリトリー違反をして里に現れる。だから、このペナルティは狙撃しかないんだ」

ペナルティ、狙撃。
この2つの単語が意味する言葉は、威嚇発砲ではない。
この意味する先に息を呑むよう周太は質問をした。

「狙撃…ころす、そういうこと?」

底抜けに明るい目が真直ぐに周太を見つめてくれる。
見つめて頷いて、透明なテノールは現実を話してくれた。

「人とクマが突然に出遭ったら。お互いに傷つけあう瞬間になる、大抵は。
驚いたクマは攻撃しやすいんだ、だからね、俺たちは猟銃を持って武装する。祖先からの土地と家族を守る為にね。
だから里へ降りるクマは、俺たちクマ撃ちと『遭遇』する。その瞬間はね、クマにとって即死の瞬間にしないといけない」

遭遇の瞬間を即死の瞬間にすること。
それは初弾を標的から200%外さないという確率を意味している、一度のミスも許されない。
どんなに風が強くとも障害物があっても足場が悪くても、言い訳が許されない。
その厳しさが山間部の実験場に立った後の周太には、厳然たる実感として伝わってくる。
ふっと息を呑んだ周太を見つめながら光一は、穏かに言葉を続けた。

「たった一度の狙撃ミスでも半矢になれば、クマは命懸けで反撃に出てくる。
それは猟師にとって『死』だ。罪なきクマに殺人を犯させることになる、その場を逃げてもクマだって助からない」

ただ美味しい柿を食べたかった、クマはそれだけだろう。
けれどそれが領域侵犯になったなら「山の掟」を破ったと見做されていく。
ただ柿の実がほしい、けれどこんな生命を廻る戦いへと繋がっていく、その厳しさを光一は微笑んで表現した。

「だからね、クマにとって柿はさ、禁断の果実、ともいえるよ」
「禁断の果実…」
「うん。だからさ、青年団で毎年ちょっと早めに柿もぎしてね、干柿にするんだ。クマが食べないようにね」

川崎の家にも柿の木がある。
毎年きれいな甘い実が成って、周太は採って母のために皮を剥く。
そんな楽しいひと時を連想させる果樹に、そんな一面があるなんて想わなかった。
ほっとため息を吐いた周太に細い目は温かに笑んで、透明なテノールの声は言った。

「それでも味を知っているクマは里に来る、そして人に危害を与えてしまう。
そうなるから味を知ったクマは逃がしてやれない。もし『遭遇』したら殺すしかない、出来るだけ苦しみ少ないように。
だから猟師にはね、俺たちには『半矢』は絶対に許されない。標的は現れた瞬間に正中を狙撃する、これが鉄則で山の掟だよ」

山での狙撃は風も光も読み難い、けれど山の現場では「9点」はありえない。
どんな条件でも常に「10点」それ以外への被弾は即、自らの「死」と不幸な罪に繋がっていく。
いかなる難しい条件下でも決して標的は外せない、射手と標的の生命と尊厳が廻っていくのが山の掟の射撃だから。
この峻厳に周太は自分の射撃の意味を考え込んだ、自分が進む射撃と光一が行う射撃では意味が違い過ぎる。
考え込んだ周太に光一は穏やかに微笑んで、静かに教えてくれた。

「瞬間の狙撃による即死。それがね、クマの尊厳を守る。そして俺たちの生命と家族を守る」

人間の生きる世界とクマたちの世界の「領域侵犯」を巡る生命の戦い。
それがクマ撃ち猟に見る山岳現場の「生存と尊厳を懸けた射撃」だった。

あの朝、山岳地域で生きることの現実を光一に見つめた。
美しく厳しく温かい。そんな光一の姿勢は山で生きる姿なのだと感じられた。
そして光一の射撃に対する考え方が、あくまで「生命をかけた戦い」だと思い知らされた。
どこまでも峻厳な山の掟、生きる為の領域を守るための実戦現場に立ち続けた男。
そんな男の射撃が「10点」正中を速射することは当然だろう。
それが「生存と尊厳を懸けた射撃」だから。

そんな光一の山の射撃は速射になっても同じ態度で狙撃していく。
速射・速撃ちは3秒/7秒で出現する標的を1発ずつ5回撃つ、これを4回行い計20発。
1発/3秒で狙撃するから構え直す時間は無い、競技時間内は姿勢を保持し銃を持ち上げたままになる。

相変わらず光一は標的出現の瞬間に狙撃していく。
そしてすぐ腕をおろして休めて次の狙撃に備える、4秒間ほど休めると腕をあげまた構える。そして標的出現の瞬間に狙撃する。
クマ撃ちでは大口径ライフルを使う。それを片手撃ちで軽々と扱う光一だったら、本当は腕を下げて休む必要はないだろう。
それでも今はきっとわざと腕を下げて時間の余裕を見せつけ挑発している。
そのまま光一は速射も終えて周太の予想通り、満点スコアによってグループ1位で通過した。

…光一、やっぱり、追い越してきたね?

光一は優勝候補筆頭の周太に並んだ、皆そう言うだろう。
でも本当は並んだのではない、追い越した。たとえスコアは同じ満点でも標的確認から狙撃までのスピードは段違い。
光一の速射と精密能力は群を抜いて自分は全く敵わない、それは自分が一番知っている。

同じ満点での同点1位で予選通過、会場中が意外な予選結果への驚きと勝利の行方にざわめいている。
自分は11月の全国大会で満点優勝したから誰もが予想していただろう、けれど光一は初出場でノーマークだった。
文字通りダークホースとして光一は出現して、また意識を統べまとめて会場を支配していく。
光一は開会式で統べた「度胸」に競技会では「能力」を加えて、この警視庁射撃大会での支配権を掌握した。

…やっぱり、この大会を支配したね、光一?…でも、負けないよ、

これからセンター・ファイア・ピストル第2回戦が始まる。
第1回戦の予選グループリーグ上位者が出場して得点を競い、それで個人優勝者が決定される。
センター・ファイア・ピストルは射撃競技でも特に高い技術を要求される、だから優勝者は射撃でも頂点に立つことになる。
この射撃の頂点を光一と今から競いあう、きっと自分は光一に「勝つ」ことは出来ない。
けれど負けない戦いならきっと出来るだろう、そして父を見つめることは出来るはず。
きっと自分は出来るはず。ひとつ呼吸して周太は微笑むと第2回戦の集合場所へ向かった。



白いゼッケンをまとった選手が集合場所に集まってくる。
ダークカラーの制服かスーツ姿のなかで唯一点だけオレンジとカーキの姿があざやかだった。
青梅警察署山岳救助隊服をまとった長身は鮮烈で、選手達の意識を統べるよう集めて佇んでいる。
その高い視点がふっと周太に気がついて、底抜けに明るい目が笑いかけてくれた。

「湯原、やっぱりここで会えたね?」

楽しげで愉快な明るさに充ちた目は温かい。
温もりの底から見つめてくれる純粋無垢な想いが真直ぐ届いてくる。
やっぱりこの目が大好き、想いながらも周太は今は警察官として微笑んだ。

「はい、国村さん。よろしくお願い致します」

きちんと折り目正しい礼をする周太に首傾げて、光一は可笑しそうに微笑んだ。
ほんとに警察官モードだね?目で言いながらテノールの声がそっと言ってくれた。

「こちらこそ。俺はね、自分の目的の為に戦うよ?だから湯原もね、湯原の目的を真直ぐ見つめればいい」

俺はちゃんとわかってるよ。温かに笑んだ細い目が理解を伝えてくれる。
やっぱり光一は周太が何の為にここに立ったか解ってくれているのだろう。
いつも英二が何も言わなくても解るように、光一も解ってくれた。
こうして理解をしてくれる2人が、同じ選手の位置と見守る位置の双方向から居てくれる事が安心出来る。
ほっと心ほぐれて落ち着いてくる、冷静な射手としての矜持と強靭な精神が立ち上がっていく。

…ありがとう、光一、英二

心で大切な名前を周太は呼んだ。
そして微笑んで大切な1人へと素直に頷いた。

「はい、真直ぐ見つめてきます」
「うん、素直で可愛いね?…お、そろそろだ。じゃ、またね」

踵返すと光一は周太の2つ向こう隣を指示され歩き出した。
その背中がひろやかで頼もしい、憧れと羨望と、そして愛しい、想いが彩り豊かに心に充ちる。
この初恋への想いを見つめて周太は、ふっと瞬きひとつで心のやわらかな場所へと送りこんだ。
そして瞳を瞠らいたときには、自分に与えられたブースに「湯原」のゼッケンを背負った父の背中を見つめた。

…お父さん、俺もね、今から立つよ?お父さんがいた場所に、ね

きっと父はここに立っていた。
そして優勝候補筆頭と呼ばれるプレッシャーを静かに見つめ、自分の運命に微笑んだ。
微笑みながら奥の扉を見て、逃げないと自分に誓いながら、ゆっくりとシリンダーを開ける。
シリンダーに込められた弾丸を1つずつ、雷管に傷が無いか丁寧に見ていく。もし暴発したら周囲を傷つけるから。
きちんと確認をしたら、ゆっくりとシリンダーを閉じる。そして心に1つ祈りを抱く。
この時に父が抱いた祈りは何だろう?

…きっと、そう、『尊厳を、笑顔を守りたい』そうでしょう?お父さん、

いつも目の前の人の笑顔を父は願っていた。
そのことを自分は父の笑顔に見て知っている、そして母から聴かされたことがある。
いつも父は「誰かの笑顔のために」警察官として走っていた、そう母は言っていた。
そして父を殺害した犯人だった、あのラーメン屋の主人も言っていた。

―…あの警察官はね、本当は俺を先に撃てたんです、けれど撃たなかった
 その隙に振向いた俺と、その警察官の目が一瞬だけ合いました
 彼の目は、生きて償ってほしい、そう言っているように感じました

自分の命を盾にしてすら父は、あの主人の生命と将来を守った。
きっとあの時の父は「この男の笑顔を守りたい」と願い、そのために狙撃しなかった。
そして父は美しい微笑と「彼を救けてほしい」望みを、最期を看取ってくれる友人に遺し逝った。
その微笑は遺体となっても美しくて、父の最期の顔は美しい微笑に輝いていた。

あの春の満開の桜の下、呆然と見つめていた父の最期の微笑。
父の死の衝撃に壊された心にすら「美しい」と伝わった澄明できれいな微笑。
でも微笑の美しさの意味までは、あの壊れた心のままでは、なにも解からなかった。
けれど14年前の記憶が戻った今なら解る、あの父の最期の顔に輝いていた微笑みの意味が解かる。

…きっとね、あの主人の『尊厳と笑顔を守れた』その誇りに微笑んだ、そうでしょう?お父さん、

いまこの場所に拳銃をノンサイトに構え自分は立つ。
昔、この場所に拳銃を真直ぐ的へ向け父が立っていた、心に祈りを抱きながら。
こうして時を超え同じ場所に立つことで、見えてくる姿と、表情と祈り、そして想いがある。
ここに立つことを望んではいなかった父。それでも与えられた運命に真直ぐ立って自分が成すべきことに微笑んだ。
そんな父の姿が今きっと自分の姿に重なっていく、いま拳銃を構える右掌ふれる父の大きな掌が温かい。

ことり、引金が父の想いと一緒に引かれて「10点」正中していく。
ゆっくり腕を下げて、そしてまた徐に腕をあげる。
下げられあげられる自分の腕に、寄りそってくれる父の腕が温かい。
そしてまた引金ひく指に温かな気配がふれて「10点」が撃ち抜かれた。

2つ向こう隣の的へと、この会場の視線が統べられていくのが解かる。
その的への標的反応スピードに会場がざわめき、他の選手にかすかな焦りの空気が生まれていく。
けれど全てが自分には遠い世界の出来事、ただ今は父とふたり、自分の目の前の的へ向き合い、父の想いを重ねている。
この自分の射撃は父の想いを受けとめる為だけに鍛えたもの、他の目的は何もない。
だからこの射撃競技大会の場がどうなろうと、相手が誰であろうと関係ない。

2つ向こうの的は標的出現の瞬間に撃ち抜かれていく、この標的反応スピードは「生存の手段」として備えた射撃だから。
命を廻る闘争を回避し傷を最小限にする、その為の射撃だからスピードと精度が同時並行で要求される。
けれど自分の射撃は「父の死を見つめる」為に鍛えた射撃、父の軌跡に想いを見つめてトレース出来ればいい。
だから今この場では自分に必要なことはスピードに焦ることじゃない、父の想いを取りこぼさないことが出来ればいい。

…ね、お父さん?光一と俺はね、対照的な射撃だね、

14年前の雪の朝に自分と光一は出逢いながら、父の死を招いた一発の銃弾で初恋を引き裂かれた。
それから14年後に自分が撃った一発の威嚇発砲、そして向けた拳銃の銃口の前に光一は笑って立って初恋を甦らせた。
そして今この警視庁射撃競技大会で光一と自分は、射撃名手の頂点をめぐり並び立っている。
こんなふうに銃と射撃を廻っていく光一と自分、この出逢いの意味はなんだろう?

もし父が銃に命を奪われなければ、光一と自分はあの山桜が満開に咲く下で14年前に逢えていた。
そしてきっと父は時おり奥多摩へ連れて行ってくれただろう、そのたび光一と逢っていただろう。
もし父が生きていたら自分は警察官の道に立つことは無かった。

…そして、英二と出逢うことも、きっと無かった…ね、お父さん

もし逢えなかったら、英二はどうなっていただろう?
もし英二が自分と出逢わなければ、きっと英二は山ヤの警察官とならず光一とも出会わなかった。
そして光一はアンザイレンパートナーと出会わずに単独行のクライマーのままだったろう。
けれど英二は普通に幸せな人生を歩めたかもしれない、普通に結婚して家庭を築けたかもしれない。
でも、それが英二にとって、本当に幸せだったろうか?

―…この掌が泥と血に塗れた分だけ、俺は自分の生き方に向き合えた。
 俺にとって今この掌は誇りなんだ。山を愛する人を手助けした掌だ。
 疲れた最後に山で安らぎを求めてね、自分から山に眠った人の想いを受け留めた掌だよ。
 それは厳しい、でもその厳しさに俺は立っていたい。
 そして最高のレスキューになって最高のクライマーと最高峰へ登りたい。俺はこの生き方を望むんだ。

あの新宿署の近くの大きな街路樹の下で英二が告げてくれた想い。
この想いを告げる英二の貌は、誇らかな自由と生きる道に立った人の輝きに充ちていた。
だから想う、自分と英二が出逢ったことは決して間違いじゃない。
きっと、自分が英二を愛したことは、正しい。

―…きっと母にとっては俺の掌は泥と血にまみれた汚らわしい掌だ…
 こういう生き方は母には受け入れられない。だから俺は帰らない、母には会わないんだよ?
 俺が実家へ帰らないのはね、周太を愛したからじゃない。俺が素直に本音で生きるために、帰らないだけだよ

きれいな息子、理想どおりの息子。
そうでなくては息子を受入れられない英二の母。
そんな母の意向と違う生き方に英二は夢と誇りを持った、だから英二は帰る場所を失った。
そして自分の隣に帰る場所を求めてくれた、そんな求めが自分には心から嬉しかった。

英二は「周太を愛したからじゃない」と言ってくれた、けれど半分は嘘だと解っている。
もし英二が普通に女性と婚約したのなら、きっと英二の母も折れ方があったはず。
けれど英二は自分と婚約までしてしまった、自分を守り一生添い遂げようと決意してくれた。
けれど自分は14年前の記憶のまま光一を想ってしまった、だから今の英二は「周太を守る」為だけに婚約を続けている。
ただ家族の立場で受けとめ守ろうと、光一と自分の初恋のために英二は恋人の立場さえ引いてしまった。
英二は自分を愛したために、母すらも捨ててしまったというのに?

…ね、お父さん?こんなにね、俺は自分勝手で弱虫で、そしてね…英二に甘えたいんだ

いまこの背中に感じる視線はたくさんある。
けれど自分が求めてしまう視線はひとつしかない、あの切長い目の穏やかな微笑だけが欲しい。
いま父の想いと立って狙撃していく、この空間は遮断されて光一の速射すら気にならない。
けれどこの空間に英二の視線だけは寄りそってくれる、父の想いを抱いた温もりを贈ってくれる。
この温かな視線が見てくれるから自分はここに立っていられる。

…お父さん、俺はね、…正直に生きて、いいかな?

精密射撃が終了して後半戦の速射に切り替わる。
無意識に周太は構えとグリップの握りを変えていく、この動きに自分よりすこし背の高い面影が寄り添ってくれる。
きっとここにいる誰もが自分の父を知るわけじゃない、もうあれから13年の歳月が流れてしまったから。
けれど自分には解る、父はいま息子の自分と共にここに立って、射撃の頂点にまた甦る。
そしていま英二はずっと自分の姿と父を見つめてくれる、父の想いをあの合鍵と抱きながら。

精密射撃の標的が的に現れた、その瞬間に2つ隣の的が間髪入れず「10点」を撃ち抜かれた。
そのスピードと精密度に呑まれた他の選手たちに動揺が広がる気配が揺れる。
そんな気配の揺れの底から、あの男が遠慮ない値踏みの視線を送ってくる。

…お父さん?この視線の人、きっとお父さんを知ってる、そうでしょう?

自分と光一とを交互に見ている値踏みの視線、きっと英二も光一も気付いているだろう。
不躾で傲慢、けれど組織の価値観に束縛された人間特有の囚われ憔悴した視線。
こんな憔悴は哀れに思う、けれど今それすら遠い世界のことになっている。
今はただ前の的と寄添う面影を真直ぐ見つめ狙撃して、父の想いと対話していればいい。
今ここで一緒に佇んで的を見つめている、父の想いに心傾けていけばいい。

…あと、最後の一弾になったね、お父さん?

最後の一弾が還っていく先の最後の標的が出現する。
即時に2つ隣の的は「10点」的中した、けれど的中を撃ったあと閃光のように弾丸が視界の端を跳ねた。
けれど周太はただ父の動きに添うように、最後の引金を絞った。

10点、的中 

最後の一弾の的中に、ほっと緊張がほどけていく。
これで満点スコアになる、光一との同点優勝に自分は並ぶことが出来た。
狙撃スピードを始め、光一との実力差は自分が一番知っている。当然、勝ったなど思えない。
ただ負けないでいられた、安堵と嬉しさに周太は微笑んだ。

…お父さん、負けないでいられたよ?戦えたよ、弱虫な俺でも、ね?

そうして緊張の解けた耳朶に飛び込んだのは、固い装甲と弾丸の衝突音、それから喧騒の揺らぎ。
いったい何が起きたのだろう?不思議なまま何気なく見た、射場奥の扉へと人が集まりだした。
なにがあるのだろう?すこし細めた目に映った光景に、周太の黒目がちの瞳が大きくなった。

…「あの扉」に、弾丸が喰い込んでいる?

術科センター射場の、あの「エリート」特殊警察を世間と遮断する扉に弾丸が埋め込まれていた。
さっき視界を掠めた弾丸に違いない。あの弾丸を撃ったのは、光一だった。

…光一の、優勝決定の弾丸が…

あの弾丸で光一は他の追随を許さない標的反応スピードと精密で瞬時に優勝を決めた。
あの瞬間に光一は周太より先に優勝を決めて警視庁射撃の頂点に立った。
その弾丸が「あの扉」に撃ちこまれ遺された。

いまブースの壁に遮断されて光一の姿は見えない。
けれど2つ向こうの隣からは誇らかな自由に笑う気配が明るいのが解かる。
いまきっと、あの扉の弾丸を見て光一は誇らかに笑っている。
だから、きっと、と確信してしまう。

きっと光一は、あの扉を「狙撃」した。

けれど、普通に考えたらこんな狙撃の技術は難しい。
きっと弾丸は「偶然に跳ね返った」だけ、そして弾丸が術科センターの扉に当った。
それだけの偶然だと見做されるだろう。

…でも、光一はきっと、狙撃した…あの扉の意味を知って、警告を送った

光一の宣言した「人間の尊厳」は、あの扉の向こうでは生きていない。
これに対する「警告」が光一が狙撃した理由、それも優勝決定の弾丸で狙撃した意味だろう。
この警視庁で射撃の頂点に立った弾丸、それを「射撃の名手」を曳きこむ世界の扉へと光一は埋め込んだ。
そうやって光一は、あの扉の向こうがエリート「選民」だと錯覚する事に皮肉と警告を叩きつけた。

 “ たとえどんなに必要な重要な任務でもね、尊厳を踏みにじる権利が誰にある?
   エリートってさ、尊厳を踏んづけられても平気な屈服ロボット、じゃないはずだよね? ”  

そんな問いかけを光一はあの弾丸に込めて「あの扉」へ埋め込んだ。
あの扉の向こうはエリートの世界と言う、けれどその実態は人間の尊厳が消されていく世界でもある。
だからこそ「射撃名手の頂点」は扉の向こうに入らない、そんな皮肉に光一は誇らかな自由に立って笑っている。
このことを理解できるのは、自分と英二。それから父の真実と尊厳を知る人たち、後藤副隊長のような。

だからきっと光一は不問で済む、きっと光一の賛同者は気づいても言わないから。
そして光一と対角線上にいる人間は「故意」だとは信じたがらない、だから彼らも何も言わない。
光一の能力と意志が自分達の世界を脅かす程だとは、彼らは信じたがらないから。

双方の思惑それぞれに誰も、光一が故意に狙撃したとは言い出さない。
きっと光一はそんなことも確信犯で狙撃した、きっと確信の通りに不問で済む。
この狙撃は「偶然」のオブラートに包まれていく組織はただ沈黙をする。

…ね、光一?あの弾丸に「勝利」を遺したのでしょう?山の掟は組織になど負けやしない、その誇らかな自由を示して

そして周太の予想通り「偶発時」として、光一は不問で済んだ。



閉会式前、周太は術科センター射場の奥まった扉の前に立った。
かつて父が任務にあたって危険な訓練に身を晒していた、その場所が扉の向こうにある。
いま閉会式の準備など慌ただしい為だろう、いつも管理者が監視する「扉」の前には今は誰もいない。
誰にも気付かれない静謐に周太は佇んで、扉に刻まれた弾痕を見つめた。

扉の把手を掴もうとすると目に入る位置に弾丸は埋め込まれている、この埋まり方は摘出も難しいだろう。
ひとめ見て解かる程あざやかな弾痕は「ここに撃ちこんだからね?」と光一の意志が笑っているようだった。
きっとこの弾丸はずっとここに遺される、そしてこの扉を通る者はその度に見つめることになる。

…ね、光一?この扉にね、弾丸を埋めたのは。ふたつの意味がある、かな?

ひとつには『あの扉』に対する侮辱として。
そしてもう1つはきっと、自分への想いと励ましのメッセージだろう。
この光一の弾丸を見るとき、きっと自分は光一と英二の存在を想い出す。そして心が温められる。
そしてきっと気づくことが出来る、どんなに扉の向こうが孤独の冷たい世界でも自分はもう独りじゃないと。
いつでも叫んだなら2人の温かい援けを得ることが出来ると。

「…ふたりとも、愛してるよ」

声なき声で告げて周太は穏やかな静謐に微笑んだ。



(to be continued)

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