うつろう季節に、
10月28日誕生花われもこう
神無月二十八日、吾亦紅― affection
最初は嫌いだった、けれど。
「はー…っ」
ため息ひとつ、空とける。
青色はれやかな頭上、風そっと頬にやわらかい。
ふる木洩陽も朱色きらめく、こういうの秋晴れというのだろう?けれど零れた吐息に隣が笑った。
「なに、そのタメ息どうした?」
「んー…、」
生返事に鞄を振って、こつん、制服の脚に革が硬い。
ちいさな痛覚じくり刺して、つい顰めた顔に友だちが笑った。
「今日の模試、自己採点おまえは良かったんだろ?」
なのに何でタメ息なんだよ?
って言いたいんだろうな?っていう視線が自分を見る。
この眼に告げても解ってくれる自信はない、だからただ笑った。
「まー…秋だなって深呼吸?」
「なんだそれ?」
からり制服姿が笑いだす、その声ほがらかに屈託ない。
睫さわやかな瞳も明るくて、そんな友人に手を振った。
「じゃ、また明日な?」
「おー、ガッコでなー、」
長身おおらかに手を振って、コンバースくるり角を曲がる。
遠ざかるブレザーの背すこしだけ見送って、ため息ひとつ落葉を踏んだ。
かさり、かさん、
ローファーの底やわらかに音が乾く、こすれる落葉から甘い。
かすかな香ほろ甘い渋い、乾いた冷気かすめる音に帰路が匂う。
明るい光すっと冴えた風、今年もめぐる香たどってカレーが匂った。
「あー…」
匂い、ため息ひとつ笑いたくなる。
どうして毎回これなのだろう?もう五年になる習慣に門扉くぐった。
「あ、」
ほら、芳ばしい匂い重なる。
くすぐる熱っぽい匂い×辛い甘いカレーの芳香。
こんなとき五年前から毎度おなじみだ?そんな想い玄関の鍵ひらいた。
「…」
無言で扉くぐって、ローファー脱ぐ。
揃えて下駄箱そっとしまいこんで、階段一歩、カレー香った。
「おかえりなさい!」
明るいソプラノ透ってカレーが香る。
この声に馴染んだ五年ふりむいて、茶色い髪と瞳が笑った。
「試験おつかれさま!夕飯はね」
「カツカレーだろ?」
即答つい声になる、そんなつもりないけれど?
けれど茶色い瞳ふわり笑って、エプロン姿ほがらかに見あげた。
「今ならカツ揚げたてよ、おいしーけど?」
「はいはい、」
返事しながら階段を昇る、靴下そっと木肌ふれる。
ことんことん昇って廊下5歩、自室の扉ひらいて本棚に口ひらいた。
「ただいま、かあさん、」
声かけた先、本棚の一隅に笑顔ひとつ。
写真立て区切る空気は変わらない、それでも懐かしさ微笑んだ。
「かあさんも聞いたろ?またカツカレーだってさ、あのひとソレばっかだよな?」
つい話しかける先、写真の笑顔が見つめてくれる。
この瞳どうして忘れられるだろう?それでも変わりゆく自覚と笑った。
「ソレばっかでさー俺ホント前は嫌だったけどさ?でも、」
ネクタイゆるめながら写真に向きあう、その黒い瞳が慕わしい。
この眼ざし今をどう見るだろう?想い見つめるまま声にした。
「でもさ、ちょっと味が似てきたなーって…変だよな?」
こんなこと変かもしれない、でも偽らない本音。
こんな本音を母はどう想うだろう?
「見た目ぜんぜん似てないし、でも味がさ…なんなんだろな?」
ワイシャツ脱いでTシャツの腕、パーカーひっかける。
袖くぐらせた指の先、写真の瞳に陽が笑う。
吾亦紅:ワレモコウ、花言葉「移りゆく日々、変化、感謝、愛慕、もの思い」
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