萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第84話 静穏 act.4-another,side story「陽はまた昇る」

2015-12-31 22:40:15 | 陽はまた昇るanother,side story
選択と陽だまり
周太24歳3月



第84話 静穏 act.4-another,side story「陽はまた昇る」

硝子の陽あかるいサンルーム、花の香やわらかに温かい。

ティーカップくゆらす馥郁に花が香る、足もと咲く春からも香りたつ。
水仙たおやかな白と黄色、薄紅やさしいスイートピーに黄金色のフリージア。
あまい深い香は三色すみれ、春あふれる色と香の真中で周太はちいさく笑った。

「花いっぱい…家の中なのに花畑ですね、」
「いいでしょう?菫さんとつい買っちゃっては植えちゃうのよ、周太くんも花好きなのよね?」

白皙やさしい笑顔も陽だまり明るい。
カシミアニット上品な老婦人は気さくで、そんな質問に微笑んだ。

「はい、大好きです…父も好きでした、」
「ほんと馨くんも大好きね、小さいころも庭いじりしてたわよ?よく斗貴子さんに花を摘んであげてたわ、」

アルトやわらかに記憶を紡ぐ、その瞳が俤を映してしまう。
なにか不思議な想い佇まうガラスの部屋、安楽椅子の向かい大叔母は言った。

「率直に訊くわよ、美代ちゃんのこと周太くんはどう想ってるのかしら?」

とくん、

鼓動ひっぱたかれ跳ね上がる。
この感覚は知っているけれど意外で、呼吸ひとつ訊き返した。

「いい友達って想っています、あの…美代さん何かあったんですか?今日の入試でなにか?」

こんなこと訊くなんて何かあったのだろうか、約束だった今日に?

―後期試験のあと何かあったのかな、出来が悪かったとか…美代さん、

気になってカーディガンのポケット探って、でも何もない。
思い出した状況に見つめた先、大叔母は涼やかな瞳そっと微笑んだ。

「試験はよく出来たそうよ?合格の前祝にお茶をごちそうしたわ、すごくいいお嬢さんだってよくわかりました、」

よかった、試験は出来たんだ。
安堵ほっと笑って、けれど低いアルト真直ぐ告げた。

「美代ちゃんね、私が代りに来たことで真青になって訊いてくれたのよ?湯原くん無事なんですか、お願い本当のこと教えてくださいってね、」

ほら、自分のこと想ってくれている。
大好きな友達の心配は嬉しくて、嬉しい分だけ心配で尋ねた。

「…美代さんにはどう話してくれたんですか?」
「体調については本当のこと話したわ、あとは周太くんと美代ちゃん次第だから、」

花と紅茶あまやかなサンルーム、低く透る声はやわらかい。
その白い手はオレンジのタルトとりわけて、ことん、前に置いてくれると大叔母は言った。

「周太くんの本当の事情はお友達では話せないことね、だから美代ちゃんにも覚悟を訊いたのよ?家族だけの事情を知る覚悟はあるのかって、」

家族だけの事情、たしかにそうだ。

だから大叔母もこうして傍にいてくれる、母と自分の家族として。
その覚悟きちんと自分は受けとめていたろうか?陽だまりの席あらためて頭下げた。

「おばあさま本当にすみません…そんな話を美代さんにさせてしまって、ごめんなさい、」

こうした話は時に恨まれることもある。
そう解るから下げた頭に低く優しい声が微笑んだ。

「こちらこそごめんなさいよ?勝手におせっかいして、でしゃばりな過保護だと自分で想うもの?」
「僕が目を覚まさなかったからでしょう?だから嫌な役まで…ほんとうにごめんなさい、」

ほんとうに自分だ、結局は。

もし自分に体力があれば一日早く目を覚ませたろう、そうしたら自分で大学に行けた。
もし行けていれば事情を話す必要だってなかったはず、そんな考えに大叔母は微笑んだ。

「周太くんは謝らなくていいの、だって良い役をさせてもらったと私は想ってるわ?ほんとうに良いチャンスよ、」

良いチャンス、ってどういう意味だろう?
訊きたくて見つめた真中、父そっくりの瞳が静かに笑った。

「美代ちゃんはね、知る覚悟ありますって言ったのよ?」

なぜ?

「…、」

なぜ、どうして、君はそう言ったのだろう?
止まってしまった思考に涼やかな眼ざしが問いかけた。

「まっすぐ即答したのよ美代ちゃん、自分で驚いてるみたいだったけど迷わない眼をしてた。どういう気持ちの言葉か、わかるでしょう?」

わからない、なんて言えない。

だって自分こそ何度もう考えたろう、どれくらいの時間を過ごしたのか?
あの場所ですら考えていた、そうして迷う不甲斐なさに両手そっと組んだ。

「…僕とけっこんしてもってことですか?」

言葉にしてしまった、とうとう。

ほら言った端から唇とまる、どうしたら良いのだろう?
こんなこと言いながら心もうひとり見つめる狭間、忘れられない名前を言われた。

「最初は英二を好きになったそうね?でも周太くんと一緒にいたい気持ちがずっと大きいって気づいたそうよ、前期試験のあと新宿で見送った時にね、」

英二、えいじ、最初はあなたを挟んだ相手だったのに?

『お互いにね、宮田くんのことで「ごめんなさい」を言うのは、ここぞって時だけにするの、』

春あわい雪の畑でかわした約束、あのとき同じ人を想っていた。
それでも笑いあえた信頼は温かくてなおさら大好きな友だちになって、それなのに低い優しい声が告げる。

「背中を追いかけたいけど我慢して、笑って手を振っても涙がでて気づいたそうよ?今日もね、話してくれたあと今すぐ逢いたいって泣いてしまったの、」

そうだ、僕も泣きたかった同じだ。

あのとき自分も振りかえりたかった、あのまま一緒に川崎へ帰られたらと想った。
それなのに忘れられない俤も離れなくて、そんな自分の迷いは雪の現場でも途惑ってここにいる。

いま自分は誰に逢いたいのだろう?ただ名前もうひとつ零れた。

「あの…英二は?」

まだ何ひとつ話してくれていない。
携帯電話も返してもらっていなくて、その真中で切長い瞳が告げた。

「まだ何も知らせていないわ、」

どうして?

「どうして…?」

どうして、なぜ、また疑問めぐりだす。
だって大叔母はあのひとの実の祖母だ、ただ見つめるまま言われた。

「携帯電話も英二だけ着拒させてもらったわ、あんまり鳴ってウルサイし、あのドン・ファンには良い薬でしょ?」
「…どうしてそこまで、」

ほら疑問あふれて零れる、その陽だまりダークブラウンの髪そっと煌めき微笑んだ。

「いい周太くん、今はチャンスよ?」

なにの?

「今あなたは人生を新しく始める時ね、英二と離れて考えるべきこと沢山あるでしょう?進路も恋愛も、なにもかも、」

新しく、始める、離れて?

―英二と離れて、って、

なんども考えた、離れた方が幸せかもしれないって。
けれど誰かにあらためて言われた事はない、その初めての瞬間に切長い瞳そっと微笑んだ。

「英二は影響力が強いでしょう?すぐ相手をたらしこんであの子の想う通りにするクセがあるわ、周太くんも気づいているんでしょう?」

あまい香やわらかな湯気しずかに言葉とおる。
両手ぎゅっと組んだ前、優しい低い声は続けた。

「あの子がしたことに縛られてほしくないわ、もし縛られたら観碕さんと晉さんの二の舞よ?だから今はまだ逢わない方がいいって判断しました、」

言われて鼓動まっすぐ突き刺す、だって図星かもしれない。

―みすかされてるみたい、だね…初任総合の時のこと、

警察学校の寮のベッド、首からんだ長い指。
指ひとつごと温かで優しくて、だけど首かけられた想い哀しかった。
あの瞬間ゆるやかに見つめてくる狭間、父そっくりの眼ざしは言った。

「周太くんは周太くんの自由で生きてほしいの、だから私は悪役でもなんでもするわ、」


(to be continued)

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山岳点景:365〆の陽光

2015-12-31 22:00:00 | 写真:山岳点景
2015年の入日



山岳点景:365〆の陽光

今年を締める黄昏はコンナカンジに雄渾でした、佳い年を迎えられますように。
撮影地:神奈川県某所

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山岳点景:晦の山嶺

2015-12-30 22:18:14 | 写真:山岳点景
神座の山で



山岳点景:晦の山嶺

今年の登り納めは御岳山、武蔵御嶽神社が鎮座する神域です。
写真のよう↑山上は宿坊や茶店など生活があり、天空の集落とも言われるんだとか。



御岳山は標高929メートル、高山ではありませんが冬期は氷点下も珍しくありません。
霜柱も大きく育ちコンナ↑カンジに巻きます。



名残りの紅葉ひとつ、冬の陽にきれいでした。
この山は様々な樹木があり秋は見事、神域で伐採も少ないため巨樹も多くあります。



御岳山の巨樹といえば神代ケヤキ、↑土手から張りだす幹が雄渾です。



参道の途中、紅梅がもう咲いていました。



宿坊も正月の飾りがされています。



鳥居前のみたらしも滴りが氷柱になっていました。



鳥居を登りきった社殿あたりが山頂になります、
今日は寝坊で遅くなったので(笑)鳥居から参拝して先へ。



長尾平からは大岳山がよく見えます。
御岳山から縦走できる山ですが、鉄梯子&鎖場などヤヤ険しいポイントあるので登る方はコース&タイムきちんと調べてくださいね。



風がない陽だまり温かで気持ち良かったです、で、ここで湯を沸かしてコーヒー飲みました、笑



帰路、蝋梅の金色が春の気配でした。

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撮影地:御岳山@東京都


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雑談夜話:大掃除×悪戯坊主

2015-12-30 01:35:19 | 雑談
いたずらっこの師走



雑談夜話:大掃除×悪戯坊主

今日というかもう昨日だけど、大掃除をしました。
で、洗ったカーテンを吊るし直していたら↑こんなカンジに悪戯坊主はカーテンレールの上に飛び乗り、
高いトコ好きだなーって見ていたら、カーテンの留め具を爪でひっかけ外すっていうゲームを始めました。

…手伝っているつもり、なワケないか。笑

とか笑いながらアチラこちら拭掃除なんやらして、玄関も掃いて扉も拭いて、
そんな間中ずっと悪戯坊主はくっついて歩きまわり、トキオリおもちゃ(紙などを縛ったもの)をサッカーよろしく遊び、
忙しく動き回るコッチにあわせてウロウロはしゃいで愉しげで、昼寝は蒲団とりこんだ直後の30分程度@ベッドの上くらいと平常の数パーセント。

で、夜はオツカレモードにソファでぐっすり。
この寝顔につい癒されて和んで、昼間のイタズラ悪魔ぶりも帳消しか?なんて想ってみたり、笑
そんなコンナで年の瀬の今日、悪戯坊主と暮れた一日でした。


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山岳点景:凍れる時

2015-12-29 23:30:00 | 写真:山岳点景


山岳点景:凍れる時

今年いちばんの滝。

撮影地:三十槌の滝@埼玉県

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第84話 静穏 act.3-another,side story「陽はまた昇る」

2015-12-28 23:50:42 | 陽はまた昇るanother,side story
時の前後
周太24歳3月



第84話 静穏 act.3-another,side story「陽はまた昇る」

「ただいま周太くん、おはようのがいいかな?」

ダークブラウンの髪きれいな笑顔は切長い瞳やさしく温かい。
その眼ざし俤ひとつ見つめて、鼓動そっと敲かれるまま華やかなアルト微笑んだ。

「顔色ずいぶん良くなったわ、甘いもの食べられそうかな?おいしいお菓子を買ってきたのよ、オレンジのタルト好きでしょう?」

きれいな箱かかげてくれ笑ってくれる、白皙やさしい笑顔は皺ひとつも明るく美しい。
のぞきこんでくれる瞳は濃やかな睫あざやかで、その俤に吐息そっと微笑んだ。

「はい…ありがとうございます、おばあさま、」

どうしよう、また追いかけてしまうあなたのこと。

―おばあさまの目そっくりなんだ、お父さんと…英二も、

あなたと同じ目が自分を映す、その俤ふたつ鼓動ごと響く。
ふたつ追いかけた時間の涯もう過ぎて、今そうして違う声やわらかに優しく笑った。

「じゃあ美味しいお茶を淹れましょう、気分転換にサンルームがいいかな?どうかしら菫さん、熱まだあるの?」
「さきほど37度3分でした、サンルームならお日さま温かでいいと思いますよ、」

応えてくれる声も穏やかに優しい。
ダークブラウンと銀髪の横顔どちらも上品で温かで、その空気に遠くなる。

―嘘みたいだね、あの雪山が…駐車場の時間も、なにもかもが、

銀嶺の夜、雪崩、病院の再会、駐車場の街燈と雪。
あれから二日過ぎてしまった、そして今こんなに違う場所にいる。

「果物も食べさせたいわね、とにかく体力をつけないと、」
「ジュースつくりますよ、丸二日も胃が空っぽでしたから急にたくさんは危ないです、」
「そうね、お夕飯も消化がよくて栄養があるものがいいわね。明日は散歩くらいできると良いけど、」
「今日きちんと養生すればいけると思いますよ、明日も温かいそうですし、」

ふたりの老婦人の会話、明るい窓辺、ガラスのむこうは春の色あふれて花が咲く。
そんな陽だまり温かな揺椅子でブランケットくるまれる膝、ちいさな温もりふれて微笑んだ。

「カイ、…どうしたの?こほっ」
「くん、」

キャメルブラウンの顎のせ犬が見あげてくれる。
ねだる黒い瞳に耳そっと撫でて、ふっさり優しい毛なみ笑いかけた。

「きれいだねカイ、おひさまで毛がきらきら金色になってるよ…きれいだね?」

陽だまり透ける被毛きらきら光る。
キャメルブラウンから黄金やわらかな犬を撫でる傍ら、カシミアニット上品な笑顔が座った。

「周太くん気分がよさそう、本当によかったわ、」

涼やかな瞳きれいに笑いかけてくれる。
この笑顔に訊きたいこと今は多すぎて、整理しきれないまま頷いた。

「はい…ありがとうございます、ご心配かけてすみません、」

今いちばん訊きたいことは何だろう?
こんな自問に答つまる前、切長い瞳が微笑んだ。

「周太くんこそ心配そうね?警察と大学と、美代ちゃんと、うちのドン・ファンのことでしょう?」

言わなくても解るわよ?
そんな眼ざし華やかに笑って教えてくれた。

「まず警察のこと話しましょうね、あの岩田さんは無事に検察へ引き渡されました、」

助かったんだ、あのひとも。

『ただ私は家族を護りたかった、命令に背けば家族が…どうなるか解からなかった、』

雪ふる病院の駐車場、そう声にした貌は昏かった。
やつれた疲れきった瞳は今どうなったのだろう?あの言葉に心配で尋ねた。

「あの、岩田さんのご家族はどうされてるんですか?」

どうなるか解らなかった、その言葉は嘘じゃない。

―あのひとならやりかねない、お祖父さんの小説が事実だとしたら、

あの男、観碕征治がもしあの小説のモデルなら?
推定と見つめた先、涼やかな瞳は微笑んだ。

「奥さまのご実家に移られたそうよ、昨日のうちにね、」
「そうですか…、」

ほっと溜息に鼓動ゆるく絞められる。
だって他人事に想えない、そんな本音を透かすよう大叔母が言った。

「岩田さんの奥さんには美幸さんのような苦労はないわ、護ってくれるご実家があるんだもの?周太くんが責任感じる必要ないことよ、」

確かにそうかもしれない、でも責任を想わないなんて無理だ。

―こういう僕だから警察はむかないのかも…ね、お父さん?

心そっと呼びかける前、父そっくりの瞳が微笑んでくれる。
ベージュ明るい部屋の窓辺、上品なアルトは続けてくれた。

「伊達さんは異動が決まりました、箭野さんは退職されると伺ったわ。周太くんの携帯電話にもメール入ってるけど、詳しいことは会ったときにね、」

メールも代りに見てくれていた。
そう教えてくれる言葉に訊いてみた。

「あの…おばあさまが僕の眠ってるあいだメールチェックしてくれたんですよね?」
「勝手にごめんなさいね?いくつも着信あるからオセッカイしてしまって、」

謝ってくれる瞳が困ったよう笑ってくれる。
悪気なんてかけらもない笑顔に笑いかけた。

「たすかりました、ありがとうございます…でも恥ずかしいのがないか心配です、」
「恥ずかしいメール?」

訊き返してくれる眼ざし少し悪戯っぽくなる。
なにか深読みされてしまった?そんな心配どおり大叔母は笑った。

「英二なら何通も着てたわよ、どれも未開封だけどね?」

ほら、名前ひとつ鼓動ひっぱたく。

「…、」

何か言わないと?でも声なんて出ない。
もう首すじ熱のぼせだす前、切長い瞳おだやかに微笑んだ。

「英二のメールだけはわざと返信しなかったの、いい機会だと想うわ?」

いい機会、ってどういう意味?
訊きたくて見つめた真中、白皙の微笑は続けた。

「大学はまず田嶋先生と青木先生にお会いしてきました、2週間ほど休ませたいと伝えたわ。お見舞にって本を頂いたのよ?」

白いきれいな手が本2冊さしだしてくれる。
そのタイトルに贈り主すぐわかって笑いかけた。

「こっちが青木先生で、これが田嶋先生ですね?」
「そう、気楽に読めてためになるってお二人とも仰ってたわ、どちらの先生も周太くんのこと期待されてるわよ?」

愉しげに話してくれる笑顔は明るい。
きっと良い対面だった、そんな瞳ふっと遥かに微笑んだ。

「田嶋先生は晉さんのお弟子さんで馨くんのザイルパートナーだったのね、私が知らなかった時間を聴かせてもらったわ、」

知らなかった時間。

その言葉に遥かな別離は傷んで、それでも笑顔は温かい。
この傷どうしたら癒されてゆくのだろう?考え見つめながら尋ねた。

「今日は僕、田嶋先生とは翻訳のお手伝いを約束していたんです…先生どうされていましたか?」
「ご自分でがんばるそうよ、でも周太くんに相談のメールするかもって仰ってたわ、」

低いアルト朗らかに教えてくれる。
すこし安堵して、それよりも気になることへ口開いた。

「あの…美代さんはどうしていますか?僕ほんとうは約束してるんです、今日、」

この約束どうしても守りたかったのに?
できなかった切なさ軋みだす前、涼やかな瞳さらり言った。

「そのことはね、英二のことも合わせてきちんと話しましょう。お茶もしたくできたころよ?」



(to be continued)

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花木点景:冬林の赤

2015-12-27 19:55:24 | 写真:花木点景
師走の森で



花木点景:冬林の赤

近場の森は今、名残の紅葉がきれいです。



楓カエデ、橡クヌギ、栗クリ、欅ケヤキ、さまざまな樹木が師走を彩ります。



黄葉も冬の陽すかして金いろ輝きます。



足もと敷きつめる葉に見あげると、銀杏の木洩陽まぶしかったです。



赤い実もよく見ました、なかでも綺麗だったのがコレ↓檀マユミの実です。



冬の赤い花といえば藪椿、この森では濃桃色に咲いています。



藪椿は色褪せず散り落ちる花です、その樹下は紅いろ映えます。



冬あわい陽の陰翳そのままに、濃く淡く花きらめく年の瀬です。


一昨年の晩秋×冬に、
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点景閑話:家路の月

2015-12-26 21:26:00 | 写真彩々


点景閑話:家路の月

忙しかった今日の帰り道、大きな月まばゆかったです。

撮影地:神奈川県


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とりあえず

2015-12-23 22:58:35 | 写真彩々


忙しかった今日、とりあえず代理人で、笑

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山岳点景:冬富士の夕

2015-12-21 08:27:11 | 写真:山岳点景
氷月の夕刻に



山岳点景:冬富士の夕

富士山の夕時、山中湖では落陽が梯子を渡します。
こういう光の現象は好きです、で、富士に限らず夕刻や夜明どき撮りたくなります、笑


色うまく写らなかったんですけど↑アーベンロートの富士です。
実際はもうすこし薔薇色が濃くてきれいに見えます。

アーベンロート“Abendrot”

ドイツ語「夕暮の赤」って意味です、
夕陽で山が赤くそまる現象をさす山の用語で、朝陽だと「モルゲンロート」朝の赤と言います。


上はモルゲンロート@御殿場川から一昨年12月に撮ったものです。
夜明の月まだ光残しているとおり夜明け前に撮りました。

“Morgenrot”

もう解かると思いますが「rot」はドイツ語の「赤」です、笑
モルゲンロートは夜明時の太陽が山に反射する現象で、朝陽が昇る前に見られます。


Which meek and silent rested at my feet.
A hundred hills their dusky backs upheaved
All over this still ocean; and beyond,
Far, far beyond, the vapours shot themselves
In headlands, tongues, and promontory shapes,
Into the sea ― the real sea, that seemed

僕の足もとで僕が穏やかな沈黙に安らぐ。
百の山なみはシルエット沈んだ背を波うたせ、
この沈黙の海の最涯に、遥かな彼方に、
遠く、遠く彼方で、水の粒子は光の色きらめかせ、
岬で、狭まる入江で、険しい断崖で
海へ融けこむ―真実の海、そう想った

【引用詩文:William Wordsworth「The Prelude Book XIII[Snowdon]」引用&抜粋】


積雪期、富士は月や星あかりに雪の輪郭うかびます。
五合目付近の灯は山小屋、富士で唯一の通年営業をする佐藤小屋です。
第177回 1年以上前に書いたブログブログトーナメント
撮影地:山中湖・本栖湖の富士山@山梨県/御殿場@静岡県


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