萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

皐月三十日、苧環―resolved

2018-05-30 23:47:20 | 創作短篇:日花物語
嵐を拓く、
5月30日の誕生花オダマキ


皐月三十日、苧環―resolved

眠れるまま掴めるのなら、後悔なんて愚かだ。

「これは厳しいなあ…、」

タメ息こぼれる暁闇、田園うす明かり泥に浸かる。
紫紺色ふかい雲たち稜線ゆく、吹きはらう風ふれる額に涼しい、けれど苦く渋く泥が臭う。

「一晩…で、か、」

一夜、たった一眠り。
それだけのこと、それだけの時間、それだけ水は天から覆った。
そして水鏡はるか墨色しんと朱色に明ける。まだ植えたばかりの早苗たち消えて、沈んだ緑ひとつ手を伸ばした。

―まだ生きてる、な?

指ふれる茎は細い、けれど強靭しなやかに肌はじく。
まだ命絶えてはいない、そんな泥田に長靴ふみこんだ。

「おっ、」

ずるり、足もと崩れて沈みこむ。
ぐらり姿勢ゆらぐ、それでも背筋ぐっと緊張たてなおす。

「…よし、」

一言気合、にやり笑って見晴るかす田園に光さす。
朝陽まばゆい黄金に雲がゆく、光雲きららかに水面ゆらす。
昇りゆく光満ちて今日が水田に移ろう、そんな自分の場所に溺れた苗をすくった。

「うん、」

うん、生きている稲は。

「ひろい…けど、なあ?」

瞳をあげた視界、田園はるかに広すぎる。
この全て植えなおすなんて苦しい、だって時間を無駄にされた。

―でもやらなかったら始まらない…飢え死にだ、よな?

この田植え時間どれほどかかる?

そんなこと考えれば気も遠い、でも可能性はゼロじゃない。
だから自分もこうして今ここに立ち、生きている。

『…ご先祖ずーっと大事にしてきたから、なあ?』

ほら、記憶の声つぶやく。
日焼け逞しい深い瞳の横顔、静かで、けれど強い視線。
この墨色と朱色そめる水田たたずんだ壮年、その傍ら幼い自分はいた。

「父さん、ジイさん、負けねえぞ?」

ひとり笑って指伸ばして、さぶり爪から冷感まとわる。
水面ゆらいで早緑つかむ、細やかな根さぐって泥へ挿して腰骨きしむ。

「っつ、」

痛み唇こぼれる、姿勢ちょっと悪いのだろう?

『ほれっ足、シャキっと踏ん張らねえから不格好なんだよう。若えんだシャキっとせんかい、』

ほら懐かしい声が笑う、麦わら帽子から日焼け無精髭。
あの笑顔この夜明け遥かな上から見下ろすだろうか、遥かな近い遠い笑顔たちも共に。

「…痛かねえ、」

痛み微笑んで指また伸ばす、水さぶり浸して早緑つかむ。
水の輪ゆれて朱色きらめく、朱い波そっと根を埋めて膝ゆるく軋む。
こんなこと故郷この地はよくあること、それでも田の道むこう家たち連なる。

「よし、」

長靴一歩ちいさく踏みだす、漣きらめく朱色に緑ひとつ掬う。
まだ植えなおせば見られる秋、あの黄金きらめく稲穂の波を呼ぶ。
そんな予兆まばゆい朝陽の水田ほとり、夜明ける青紫色が花に咲く。
撮影地:神奈川県某所、苧環@長野県和田宿


苧環:オダマキ、花言葉「愚か」紫苧環「勝利への決意」

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皐月、朱鷺色に夏

2018-05-29 20:42:05 | 写真:花木点景
薄紅ひらく、朱鷺色そめる夏。
ズミの花


野生あざやかな白×紅色の花、秋は赤色の実がまたかわいくて好きです、笑
撮影地:山上花畑@山梨県某所2018.5

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secret talk85 安穏act.22 ―dead of night

2018-05-28 23:20:06 | dead of night 陽はまた昇る
夢より優しく、
英二23歳side story追伸@第6話 木洩日


secret talk85 安穏act.22 ―dead of night

温かい幸福、そんな味は?

「どうぞ、宮田、」

茶碗ひとつ、君が差しだしてくれる。
そんなことに鼓動ひっぱたかれて、英二は瞬いた。

―あれ、なんか俺…感動してる?

すこし小さな手に茶碗ひとつ。
湯気くゆらす香おだやかで、そんな「普通」の風景にエプロン姿が首かしげた。

「なに…どうした宮田?」
「あ、ごめん湯原、」

笑いかけて手を伸ばして、茶碗ひとつ受けとめる。
その指先かすかに体温ふれて、受けとめた掌に熱が沁みた。

―湯原が炊いた飯、なんだよな、

掌じわり陶器が熱い、透かす温度くゆらす香あまい。
やわらかな湯気やさしいテーブル、古風なダイニングに穏やかなメゾソプラノ笑った。

「驚いてるのかな宮田くん、いまどきらしからぬ古い台所でしょう?」

ああ今、自分は驚いた顔しているんだ?

―そんなに顔に出てるんだ俺、らしくないな?

感情なんて素直に出ない、そんな自分。
けれど今はいくらか違うらしい?それも楽しくて笑った。

「俺は素敵だと思いますよ?クラシックな空気が落ち着きます、」
「あら、私と同意見ね?」

よかったわ、そう言ってメゾソプラノ朗らかに笑う。
その瞳は黒目がちそっくりで、芳香やわらかな食卓に鼓動つかまれた。

―湯原もこんなふう笑うのかな、ほんとうは、

君が笑ったら?

そんなこともう考えている、君の母親に。
この女性と同じ目をしているなんて気がついて、こんなふう君を探そうとする。
こんなに君を知りたがる自分がいる、その願い座りこんだテーブルに小柄な背がエプロン外した。

「…おまたせ、」
「おつかれさま周、ありがとうね、」

微笑みあう母子ふたり、テーブル向こう温かい。

―俺には無いよな、こういうの?

視線をあわせて、微笑んで。
それが母親だというのなら、自分は知らない。

「さ、いただきましょう?宮田くんの好みにあうといいけど、」

黒目がちの瞳やわらかに笑いかけてくれる。
なにげない優しい視線、けれど軋むような痛みに微笑んだ。

「いただきます、ありがとな湯原?」

笑いかけた先、黒目がちの瞳かすかに頷く。
母親と似た瞳のくせ不愛想で、いつもの空気に笑って箸とった。

「…うまい、」

味覚から唇こぼれる。
口ひろがる香が温かい、箸ゆく皿に母親が笑った。

「おいしいでしょう?周はお料理すごく上手なの、」

メゾソプラノ温かに誇らしい。
その言葉に眼ざしにほら、また軋む。

―こんなふうに褒めるんだな…母親、か?

自分は知らない、だから解らなくなる。
こんな眼で声で、それがたぶん「愛されている」ことなのだろう、それなら?

「家族以外で周のお料理を食べたの、宮田くんが初めてよ?最初のお客が喜んでくれて嬉しいわ、」

彼女が笑う、しみる透る優しい眼で。
だから痛んで軋んで、それでも笑って箸はこんで君の味が愛しい。

「はい、おいしいです。すごく、」

自分の唇すなおに笑いかける、箸から温もり香って喉ふれる。
醤油あまからい芳香、茶碗くゆらす馥郁、味噌やわらかな甘み「幸せ」が噎せる。

「でしょう?料理上手な息子って、私の自慢なのよ、」
「…お母さんそういうのはずかしいから、」

幸せの真中、君の唇かすかに呟く。
うつむいた黒髪くせっ毛に顔は隠れて、そんな息子に優しい瞳きらきら笑った。

「そうね、親ばか恥ずかしいわね私?」
「そういうのも…はずかしいからおかあさん、」

むせる幸せに君がつぶやく、その首すじ薄赤い。
きっと恥ずかしがっている、そんな息子に彼女は微笑んだ。

「でも周のお料理せっかく美味しいんだもの、私しか知らないの寂しいと想ってたから、ね?嬉しくて、」

やさしい朗らかな声、でも穿たれる。
ここは温かい甘い「幸せ」な食卓、だからこそ現実ひっぱたかれた。

―この家は二人きりなんだ、十年以上ずっと、

殉職した、そう君は叫んだ。

君の父親は殉職した、君が幼い時に。
そうして二人きり母親と生きた時間がある、その空間に自分はふさわしい?

『私しか知らないの寂しいと想ってたから、』

愛している息子を彼女は想う、だから自分の来訪ただ喜ぶ。
そんな幸福感がテーブル温めて香らせて、そこに自分はなに想う?

「ね、宮田くん?学校での周もこんなに恥ずかしがりかしら、どう?」

やわらかなメゾソプラノが笑いかける、息子のことを知りたがって。
それは「無関心」と真逆な願いだと知っている、知るから痛む鼓動と笑いかけた。

「いつもの湯原くんは毅然としていますよ?座学も実技もトップで、」

いつもの、そんな言葉から君を語りだす。
それだけ自分も「知っている」と言いたくて、そんな本音に優しい瞳が笑った。

「がんばってるのね?でも親ばか言っちゃうけど、がんばりすぎないか心配なくらい周は優秀でしょう?でも宮田くんが息ぬきさせてくれるのかしら、」

優しい誇らしい眼ざしが温かい。
こんな母親が君にはいる、それは自分にとって異世界のことだ?

「息ぬきと言うか、邪魔していなければいいなって俺自身は心配ですけど?」
「あら、邪魔なんてないわよ?周も楽しんでるもの、」

やわらかな湯気に彼女が微笑む、その隣で小柄な手もくもく箸を運ぶ。
黒髪くせっ毛のうなじ薄紅また昇る、そんな息子に黒目がちの瞳くるり笑った。

「だから宮田くん、もっと話して聞かせて?こんなに恥ずかしがるほど楽しんでる周太の毎日のこと、」

黒目がちの瞳ほがらかに楽しい、その隣よく似た瞳は長い睫に伏せられる。
箸もくもく小柄な手は食事して聞こえないふり、そんな仕草が眩しくなる。

「はい、湯原くんに後で怒られそうですけど、」

笑って応えて話しだす、その箸先に食卓やわらかな空気が沁みる。
左手の茶碗しみる熱さ、湯気くゆる甘み、温度も香も鼓動ふかく刺して、ただ優しい。

※校正中
secret talk84 安穏act.21← →secret talk86
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皐月、初める夏紅

2018-05-27 11:30:00 | 写真:花木点景
万緑叢中、夏の紅
クリンソウ


自然交配しやすいため花色様々ですが、山懐でよく見る紅色が好きです、笑
撮影地:九輪草群生地@山梨県某所2018.5

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第85話 春鎮 act.56 another,side story「陽はまた昇る」

2018-05-25 07:22:11 | 陽はまた昇るanother,side story
Since first I saw you 初めて見つめて、
harushizume―周太24歳3月下旬


第85話 春鎮 act.56 another,side story「陽はまた昇る」

幸せと、誰が決めるのだろう?

“もう俺は何もあげられない、もう無理だろ?”

どうして「何も」なんて解るのだろう、誰が決めたこと?
どうして「無理」だなんて言うのかな、誰がいつ決める?

「それに俺も、これからは…」

きれいな低い声また言って、でも途切れる。
その先を訊きたくて見つめた真中、端整な唇そっと笑った。

「どっちにしてもさ周太、ほんとは小嶌さん無理してるよ?好きな人を他の相手に送りだすの楽しいわけない、帰ってあげな?」

帰る、どこへ?

―ほんとうに英二…そんなこと想ってるの?

なぜいつも決めてしまうのだろう、あなたは。
いつも独り勝手に考えて動いて、僕の声なんて聴いてくれない。

「俺はもうすこし耐寒訓練してくからさ、周太は先に帰れよ?」

どこへ帰るのか、誰が決めるの?

―美代さんが無理してるのは本当、でも決めるのは美代さんじゃないのに?

あの女の子はそんなこと望まない、だから今日も一緒にここへ来た。
あなたは解らないのだろうか?

『他の人といたいクセに隣にいられるって嫌でしょ?そういうの好きなぶんだけ嫌だよ、』

いつものまま正直な声、きれいな明るい瞳、そんな女の子だから大切になった。

『でも私は醜くても生きる強さが好きよ、だって逃げるよりずっといいでしょ?』

あんなふう言える心は強い、だから尚更に見つめたくなった。
まっすぐな瞳まっすぐな声、そんな心きっと時間の分だけ好きになる。
そんな女の子をあなたは「あの女」と言ってしまう、何も知らないくせに?

―きれいな英二、でも何も知らない…ひとの心なにも、

知らないから残酷、そうかもしれない。
知らないからこそ無垢なおさら美しいのかもしれない、あの女の子が言ったままに。

『見た目は王子様みたい、でも素顔は寂しいね?孤独だから人の心を知れなくて、』

白銀の森すわりこむ横顔、氷の木洩陽あわい。
ダークブラウンの髪を雪が梳く、銀色かがやいて大気にとける。
深紅まとう肩ひろやかに端正で、大樹おおらかな雪白まぶしくて、そして寂しい。

『孤独だから人の心を知れなくて、自分勝手なんじゃないかな?…だからみんなが泣くの、』

みんなが泣く、誰のために?
そうして孤独に輝く横顔はきれいで、また惹きこむのだろうか?

―だから光一も英二を好きになったのかな…雅樹さんとは違うひとでも、

あなたは誰でもない、唯ひとり唯一の個性。
それは特別なことじゃない誰も同じ、それなのに今もまた孤独に決めこむのだろうか?

「…英二、」

ほら自分の唇がうごく、あなたに伝えたいから。

「英二、美代さんが僕をここに来させたんだよ…どういうことか解るよね?」

言葉とける雪、深紅かすかに動く。
この声どうか届いてほしい、願い唇つむいだ。

「あのね…僕、美代さんに怒られたよ?」

ダークブラウンの光そっと艶めく、白皙の横顔ふりむく。
深い睫ゆっくり瞬いて、切長い瞳が自分を見た。

―僕のこと見てくれた…英二、

深淵の視線が自分を見る、あの底へ聲どうか届いて?
願いごと見つめかえして想い続けた。

「英二は憶えてる?オペラ座の怪人…Le Fantome de l'Opera のこと、」

忘れないで、この名前だけは。

“Le Fantome de l'Opera”

邦題『オペラ座の怪人』フランス語に綴られる物語。
それから古びた表紙と、切り取られてしまったページの真実。

―忘れたなんて言わないで英二…お願い、

壊された異国の一冊、父の書斎まどろんでいた物語。
その名前に赤い唇かすかに笑った。

「憶えてるよ周太、あのベンチで読んでくれたよな、」

白く凍える森の底、深紅ひとつ燈る鼓動。

―憶えててくれた…英二、

深く鮮やかな色彩まとう登山ウェア、あなたの色。
この色彩ひとつ見つめて見惚れて、そうして生きた時間が鼓動する。

「ん…憶えててくれたんだね、英二も、」

うれしい、だから言葉あなたに繰り返す。

「忘れるわけないだろ、」

きれいな低い声が返してくれる、その唇いつもより赤い。
きれいで、ずっと見ていたくて、けれど僕には別の色がある。

「オペラ座の怪人…歌姫と初恋の人がふたたび恋するお話だったよね、でも歌姫にはふしぎな存在がいるんだ、」

ほら僕の唇が語りだす、解って欲しいから。

―僕は僕だってわかって英二…僕が決めることだ、って、

あなたじゃない、僕の幸せを決めるのは。
誰でもない唯ひとり、僕だ。

「歌姫に歌を教えてくれるけど、姿を見せない声…歌姫は天使って呼ぶけれど、ほんとうは醜い顔を仮面で隠した天才の男、」

あなたみたいだ、本当に。

醜い、けれど美しい、天与の才あざやかな男。
その華やかな外貌ふかい深淵は切長い瞳に哂った。

「俺みたいだな、」

睫ふかく濃やかな陰翳が自分を見つめる、穏やかな拒絶の淵が凪ぐ。
こんな視線は哀しい、けれど懐かしくなる。

―こんな眼をしてたね、英二…はじめてあったときも、

春三月、あれから二年を生きた。
そうして辿りついた雪ふところの森、きれいな低い声そっと言った。

「周太も俺のこと天使だって前は言ってくれたけどさ、もう本性バレてるし?」

きれいな低い声、でも痛む。
疼くような痛覚ゆるやかな白とける、赤い唇そっと靄くるむ。
銀色しずかな凍える風、深い眼ざしに周太は口ひらいた。

「そうだね英二…英二はファントムみたいって、僕も想う、」

だから僕は、あのとき読みたかった。

“Le Fantome de l'Opera”

壊された異国の一冊、その全て読みたいと願ってあの日に買った。
あの日、初めて君と一緒に歩いた一日に、あの街で。

―楽しかったんだ僕はあのとき…英二が正直だったから、

外出日、新宿の街をあなたと歩いた。
あの街は自分に哀しくて、それでも隣が笑ってくれたから。

“Fantome”

その意味は「怪人」だけじゃない、だから似ている。
だから伝えたくて追いかけた銀色の森、冷厳の大気に唇ひらいた。

「現れたり消えたり、いつのまにか僕をたすけて…幻みたいな幸せもくれて、ふしぎで、怖くて…いくつも仮面があるみたいに不思議なひと、」

不思議、怖い、でもそれだけじゃない。
その全てに逢いたくて追いかけた瞳は自分を映して、静かに哂った。

「それにファントムは人殺しも厭わない、」

きれいな低い、凍える声。

※校正中
(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 104」】

第85話 春鎮act.55← →第85話 春鎮act.57
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登山撮影:花の行方と黙秘事情

2018-05-24 23:53:16 | 解説:用語知識
花、愛でるなら。
山の写真常識


登山撮影:花の行方と黙秘事情

春、山は花時間が始まります。
ソンナ山歩きはちょっと進むごとカメラ立ちどまり、が楽しいんですけど・
有名な花名所ではたまーに・というかワリと高頻度で危険なヒトを見かけます。

どんな危険かというと例えば・断崖の花。
石楠花シャクナゲ


山では斜面に花が咲いているナンてよくあるコト。

斜面=足場が悪い=滑落注意。

なんですけど、
ソンナところで三脚つかえば→三脚の加重で足場崩れてカメラごと転落するし、
ファインダーばかり気を取られて踏みだせば→崖から転落滑落するワケです。

撮影時は足場要確認→落ち葉の下が崖・残雪だと踏み抜き転落や転落。
三脚は使わない→枝・根っこにひっかけ転倒転落もよくある話。
三つ葉躑躅ミツバツツジ


撮影時に枝を折ったりするヒトもあるそうですけど・ソンナことするヤツって山神に祟られますよ?笑

ホント冗談ではなくある話・昔から。
ソンナ一例あげるなら例えば、

「石楠花は山姫の花簪」

山姫は山の女神を呼ぶ古い言葉ですが、
山母ヤマハハ、山姥ヤマンバ・ヤマウバ、山嬶ヤマカカ、山女ヤマオンナ、
などなど・さまざまな呼び名で全国いたる山に彼女たちを伝える物語があります。

どれもが女性の姿をした山を司り守る存在、ようするに山の主のことなんですけど、
山の女主が春、髪を飾るために咲かせる花簪が石楠花シャクナゲなんだとか。

ある娘ないし男が山を通り、
美しい石楠花に見惚れて欲しくなり、摘みとり、
そうして帰る道すがら、後ろから声が追いかけてくる。

「花を返せ」

その声を無視して逃げ続け、
けれど山から出ること叶わずに行方不明になる。

っていう伝承なんですけども、
この「行方不明になる」っていうのは昔も今もようするに遭難事故ってコトです。
石楠花シャクナゲは崖・急斜面・高地の岩場などに群生することが多いんですけど、
崖も斜面も岩場もよーするに転落滑落しやすい遭難ポイントなんですよね。

危険なところに咲く花=摘もうとすれば転落死の危険

危険だから「山姫の花簪に触れてはならない」と伝承されているわけです。
こんなふうに昔話伝説といったモンは物理的事情×危険回避の知恵から生まれています。

ソンナワケでここに掲載している石楠花も撮影地は急斜面地帯です、
ヤタラ踏みこんだら危ない場所・なので「某所」としか書けません、笑
石楠花シャクナゲ


落葉樹の森の底、落ち葉の底から花は咲きます。
もし・落葉の下なにあるか?気づかず踏めば花芽は折られ枯死するわけです。

早春なら三角草ミスミソウから始まって、
碇草イカリソウ、二輪草ニリンソウ、片栗カタクリ、菫スミレいろいろ、
晩春ゆっくり上がる気温に山吹草ヤマブキソウ、海老根蘭エビネラン、春蘭シュンラン、

書き切れない多種多様な花が落ち葉の下で生きています、
それらの植生きちんと理解して・見分け方~踏まない注意と知識技術ちゃんとして、
花の命きちんと尊重することが・山野の花を撮り続ける時間を保ってゆく方法だってコトです。

そんなふう咲く夏の花、銀竜草ギンリョウソウが好きで毎年いつも撮りに行くんですけど、
ヤタラ踏みこまれて花芽を踏みつぶされたら群落が消えてしまうので「某所」としか書けません、笑
銀竜草ギンリョウソウ


それから・山カメラで直接的カナリ危険なコトは、

野生獣との遭遇。

カメラの撮影時って息をツイひそめて静かになるもんです。
注意力もレンズ集中して、周囲への注意は散漫になりがち。

呼吸薄くなる=においが薄まる→野生獣に存在を気づかせられない
静かになる=音がしない→野生獣に存在を気づかせられない

野生獣の危険は「出会いがしら」存在を予期せず出遭うと驚き、襲いかかります。
ソンナ野生獣たちは山が棲家です・姿が見えなくてもフツーに山で棲んでいます。

自分の存在をきちんと知らせて歩く=熊鈴・ラジオ・笛
野生獣の気配がしたら静かに立ち去る=臭い・糞・爪痕など痕跡を見つける知識技術

ここに載せている写真の撮影地でも野生獣の痕跡に出遭います。
今回の写真のときは南斜面からの風に肉食獣特有の臭いがしました、笑
ソンナ山道のかたわら、樹皮ぐるり剥がれて食べられていた木もあったり・ってワケで「某所」としか書けません。
どうしても読んで欲しい記事 3ブログトーナメント

撮影地:石楠花群生地@山梨県某所2018.5

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第85話 春鎮 act.55 another,side story「陽はまた昇る」

2018-05-22 14:36:01 | 陽はまた昇るanother,side story
Since first I saw you 最初の瞳
harushizume―周太24歳3月下旬


第85話 春鎮 act.55 another,side story「陽はまた昇る」

白銀あわい森の底、深紅ひとつの色。

赤いろ深く鮮やかな、あなたの登山ウェアの光。
この色彩ひとつ見つめて見惚れて、そうして生きた時間が鼓動する。

「僕だよ、英二…」

呼んだ名前に熱が燈る、燈される熱ゆるく溺れだす。
熱にじむ視界あわく光ゆれて、ダークブラウン艶めく髪きれいで微笑んだ。

「英二?」

呼びかける自分の息が白い、くゆらす銀色に端整な唇ふれる。
記憶のまま美しいあなたの唇、この美しい赤は雪の森どれくらい座りこむ?

―どうして英二ここに…いつから?

想い見あげる雪の底、跪いた脚を冷気そめてゆく。
春三月に凍れる山ふところ、座りこんだ青年は周太に微笑んだ。

「うん…幻でも嬉しいな、」

低いきれいな声こぼれて赤い唇ほころぶ、白い吐息ほろ苦く深く香る。
その言葉ただ見つめて自分の唇ほどけた。

「幻じゃないよ、僕だよ英二?」

見つめてくれる切長い瞳しずかに黒い、この深淵にまた惹きこまれてしまう。
惹かれるまま鼓動ふかく熱しみて、熱く甘くて蝕まれて溺れだす。

「ほんとに僕なんだ…僕だよ?」

ここに自分はいる、あなたの前に。

白銀が舞う森の底、銀色まどろむ冷厳の大気。
美しくて、けれど自分の体には本当は危険なのだと知っている。
それでも追いかけて辿りついてしまった想いに周太は手を伸ばした。

「…僕だよ英二、ほら?」

伸ばした指先、赤い登山グローブふれる。
青くるんだ自分の掌が赤い手ふれる、深紅と黒いろどる大きな手。
ふれて、重ねて包みこんで握りしめて、ゆるやかに温もり透った。

―英二の手、だね…ほんとうに、

ほんとうに、本当に今、あなたの手を今つかんでいる。
大きくて骨ばった温もり、この温度いくど自分の手つないでくれたろう?

「周太…?」

温もりが自分を呼ぶ、深い睫ゆっくり瞬いて自分を映す。
見つめてくれる切長い瞳に陽光ゆれて、きれいで周太は笑った。

「そうだよ英二、僕だよ…、」

きれいだ、あなたの瞳は。

こんなに綺麗な現実の瞳、それとも幻だろうか?
あなたが自分を見つめて涙しずかに溜めてゆく、こんなの幻覚かもしれない?

「どうして周太…どうやって来たんだ?」

ほら、あなたの瞳も同じだ。
こんなの信じられない、そんな視線が唇ひらいた。

「道なんて無いんだここは、どうやって周太が来られるんだよ?積雪これだけあるし、」

きれいな低い声が訊く、その言葉ごと鼓動ゆるく痛む。
こんなふう考えられている自分だから。

―英二は認めてはいないんだね、僕のこと…今も、

あなたの自由は雪山にある、そう知っている。
だからと願うのは間違えだろうか?

「雪の足跡たどってきたんだ…雪があるから来られたよ?」

答える自分の唇に吐息くゆる、かすかに呼吸はずむ。
こんなふう息切れ確かにする、それでも「来られる」自分なのに?

―僕が訓練を受けてること忘れてるんだ、ね…英二?

秋から半年間、自分がどこで何をしていたのか?
そんなこともう忘れている視線が自分に問いかける。

「でも登山口までどうやって来た?雪のワインディングロードなんて周太、運転ムリだろ?」

白銀が舞う、そのかけらダークブラウンの髪きらめく。
風なめらかな髪を光が梳く、きれいで、きれいだからこそ哀しい。

―きれいな英二なんでもできる、だから、

だから自分のこと認めてはくれないの?

―僕のしてきたことなんて英二にとったら…そんなものなのかな、

半年間この自分が受けた「訓練」そこで探したかった父の姿。
そのために生きた14年間が自分にはある、そして誇りと感情も。

―それとも英二…僕のこと本当に見てる、の?

そんな疑問ずっと抱えている、だから向き合いたい。
そう願い続けて辿りついた場所で、ありのままを声にした。

「光一と美代さんが送ってくれたんだ…もし3時間して帰らなかったら救助に来てくれるって、光一がね?」

あなたは怒るかもしれない?
そういう人だと知りながら告げて、そのままに低い声が吐かれた。

「それ、ほんとなら俺ちょっと光一に怒りたいけど?」

白皙に険が奔る、切長い瞳しずかに昏む。
その貌どこまでも端整にこそ冷たい。

「そうじゃないよ英二、僕と美代さんが光一に無理を言ったんだ…光一は危ないって怒ったよ?」

自分で選んだこと、それだけ。
けれど声は吐かれた。

「なぜあのおっ」

露わな鋭さ声に鳴る、凍てつく大気を苛だち裂く。
その言葉に見つめた真中、赤い唇かすかに閉じて、また開いた。

「…小嶌さんが?」

低く徹る声しずかに澱む。
その言葉に先の言葉が何か、本音わかる。

―あの女って言ったんだ美代さんのこと…英二は、

あの女、

そんな呼び方をする感情は「尊敬」じゃない。
そして本当は「誰」に向けられる天秤なのか?見つめるまま端整な唇うごいた。

「小嶌さんは周太を好きなんだろ、なのになんで俺のとこに行かせるんだよ?光一が止めるくらい危ないのに、」

美しい赤が声を紡ぐ、その貌あざやかな白皙に眩しい。
まぶしくて、けれど聲が昏い。

「祖母に言われたんだ俺、小島さんは自分の感情も超えて周太を愛してるって。それに周太がほしいもの与えられるのは小嶌さんだろ…俺じゃない、」

ほら?違う人のことだ、あなたの考え潜るのは。

―おばあさまの言葉なら届くんだね英二…僕よりも、

いつもそうだ、僕じゃない。

僕が「いい」と言っても「いやだ」と言っても、あなたはいつも独善。
僕が告げた言葉どれだけ受け止めてくれているのだろう、本当は?

「俺は学者じゃないし周太と子ども作れないだろ、もう俺は何もあげられない、もう無理だろ?」

ほら、また違うのに?

そんなこと求めてなんかいない、でも否定しかないの?
いつもそうだ今もそう、僕が選んだこと、そう解ってくれないのだろうか?

※校正中
(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 104」】

第85話 春鎮act.54← →第85話 春鎮act.56

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皐月、夏の月燈花

2018-05-21 20:53:03 | 写真:花木点景
銀竜草ぎんりょうそう、蝋細工みたいな白い植物は木洩陽に光ります。

ふしぎ 10ブログトーナメント

ひさしぶりの花の山・今年も懐かしい花に逢えました。この花なんか不思議でナンカ好きで、笑
撮影地:銀竜草群生地@山梨県某所2018.5

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皐月、夏の初花

2018-05-20 21:32:00 | 写真:花木点景
石楠花しゃくなげ、山姫の花簪と謂われる花。

第55回 ☆花って綺麗ですよね♪☆ブログトーナメント

ひさしぶりの山歩き、晩春×初夏の花ざかりでした。続きはまた後で、笑
撮影地:石楠花群生地@山梨県某所2018.5

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皐月雑談、家×猫ふうけい

2018-05-18 23:11:05 | 雑談
金曜日だけど休み、だけど役所に行ったりナンダリ所用一日。
そんなこんなで留守番だった悪戯坊主の夕飯は鰹の刺身→たらふくまんぞく寝ころがり、
そんな満足寝顔ながめて和める夜ひととき、なんもない=無事平和っていいなあーとフツウである幸福あらためて?笑
撮影地:神奈川某所


いろいろのつぶやき21ブログトーナメント
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