萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

山岳点景:花鳥風雪

2016-01-30 20:00:01 | 写真:山岳点景
雪空、紅一点


山岳点景:花鳥風雪

雪空の丹沢、紅梅が咲いていました。
この↑咲きだしたばかりの木から数メートル、ちょっと離れた木↓は老い梅の時。


宮ヶ瀬湖という人造湖が丹沢にはあるんですけど、今日ちょっと行ってきました。


周辺道路は路肩に雪すこし、が、山も園地も雪おおわれて雪面の風は冷たいです。


白鶺鴒ハクセキレイが雪のなかゴハン探していました、この鳥は歩き方がカワイイです、笑


雪に足跡複数、これ↓はキツネかタヌキかなと。鹿らしき足跡も見ました。


その近くで鹿の雪だるま発見、笑


第164回 過去記事で参加ブログトーナメント
撮影地:雪×丹沢@神奈川県宮ヶ瀬湖

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第84話 静穏 act.11-another,side story「陽はまた昇る」

2016-01-29 22:30:22 | 陽はまた昇るanother,side story
花の夢、告発
周太24歳3月



第84話 静穏 act.11-another,side story「陽はまた昇る」

ひらかれたページはセピア色あわい。
きっと何度も繰られたページ、それは序章から終章きっと同じ。
その繰りかえす指先はいまも白く美しいまま一頁、そっとめくり微笑んだ。

「周太くん、話すならひとつお願いしていいかしら?」
「…なんですか、おばあさま?」

訊きかえしたランプやわらかなテラス、テーブルにティーカップ艶めく。
あわいオレンジ色の光に琥珀色ゆれて、大叔母はそっと微笑んだ。

「ワーズワスを一節、暗唱してほしいの。インティメーション・オヴ・インモータリィティの4章、終りの4つ、」

こう言えば解かるかしら?
微笑む眼ざしそっくりで、とくん、鼓動ひとつ笑いかけた。

「おばあさま、その言いいかた父そっくりです…いつもそうやって僕に憶えさせてて、」

周、ワーズワスのあれを暗唱してくれるかな?

そんなふう父もいつも笑いかけてくれた。
あれは「おさらい」だったと今なら解かる、その懐かしい瞳そっくり白皙の笑顔ほころんだ。

「それはね周太くん、晉さんと同じなのよ?いつも晉さんも馨くんにしてたわ、」

とくん、

ほら鼓動またノックする。
そうだったんだと納得した鼓動ふかく温かい、ふわり包まれる想い微笑んだ。

「うれしいです、もっとお祖父さんのこと教えてください…いいことも、悪いことも全部、」

知りたい、祖父のこと家のこと。
ただ願うまんなか大叔母は微笑んで濃やかな睫そっと閉じた。

「話しますよ、さあパンジーのところ暗唱して?」

まず聴かせて?

そんな声の窓辺にガラスごし花ゆれる。
白、藤色、あわい黄色、深紅と紫は夜やわらかな闇とけてしまう。
ランプこぼれるテラスに春の花は咲く、その一輪を見つめて唇そっと開いた。

……

The Pansy at my feet
Doth the same tale repeat:
Wither is fled the visionary gleam?
Where is it now, the glory and the dream?

……

この一節、今なぜ大叔母は聴きたいのだろう?
不思議な想いごと声つむいだ前、白いテーブルに低いアルトが謳った。

「The Pansy at my feet Doth the same tale repeat: Wither is fled the visionary gleam? Where is it now, the glory and the dream?」

声なぞらせて美しい唇そっと笑う。
けれど伏せた睫かすかに光って、一滴こぼれた。

「この詩、晉さんに教えてもらった最初よ…わたしの儚い夢で後悔です、」

この詞を祖父が贈った、その真意は何?
詩の意味なぞりながら見つめる先、瞑られた瞳しずかに微笑んだ。

「コンフェッションと書いてくれたのは告白だと思いました、二十年前の私の告白を受けとめられたと勘違いして、だから告発に気づけませんでした、」

告白と告発、

字面よく似ていて、けれど意味は違ってしまう。
ランプやわらかな白い部屋、擦違ってしまった想い零れた。

「こんな勘違いする私だから選ばれなくて当りまえね、それでも今こうして話せる幸運を逃したくないわ、晉さん?」

今なんて呼んだのだろう?
途惑って見つめる真中、きらめく睫そっと開いた。

「声そっくりなのよ、周太くんと晉さん、」

懐かしい、そんな瞳は微笑んで声つむぎだした。

「よく晉さんを訪ねる男がいました、警察官僚で同窓生だと聴いたわ、」

警察官僚、同窓生。
単語ふたつで符合するまま言われた。

「その男は法学部だからクラスメイトではないわね、でも射撃部で一緒で、従軍したときも同じ狙撃手だったとその男は話していました、」

ほら、あの小説そのままだ。

『 La chronique de la maison 』

ある館の年代記、そう題された小説の主人公と「ある男」の関係。
そのすべてを紡ぎだした現実に問いかけた。

「おばあさま、その話は…話していましたって、直接その男からおばあさまが聞いたということですか?」

もし「直接」なら面識はある、そうだとしたら今「あの男」は気づくだろうか?
可能性と見つめる窓辺、ランプあわいテーブルに白い手はティーカップとった。

「私の耳で聞きました、観碕の口から五十年前に、」

あの男だ。

「…おばあさまも面識があるってことですか?」
「社交辞令だけはね、」

低いアルト微笑んでくれる、けれど不安つのりだす。
あの男に存在を知られている?心配のまんなか切長い瞳は笑った。

「そんな心配な顔しないで?あちらさんは生意気な小娘の記憶なんてとっくに消してるわよ、」

ほんとうにそんなものよ?
涼やかな瞳わらって紅茶ひと口、端正な唇は言った。

「あの日、晉さんのお父さまが亡くなった日もあの男を見たわ、」

あの日あの男はそこにいた。

「…小説どおりってことですか?」
「そうかもしれない、私も推測しか出来ないけれど、」

琥珀色の湯気にアルト応える、その馥郁かすかに菫があまい。
オレンジやわらかなランプの下、白い手そっと花びらふれた。

「晉さんのお父さまが亡くなった日はお誕生日だったの。毎年お誕生会をされていて私もいつも招かれていてね、あの日も行ったけど異様だったわ、」

異様だった、

その言葉なにを大叔母は見たのか、それが「小説どおり」なら?
もう解かる続きに鼓動ひとつ確かめた。

「おばあさま、そのこと観碕さんは知っていますか?その日おばあさまが湯原の家に来たこと、」

もし知られていたなら多分?
否定したい可能性の先、父そっくりの瞳は笑った。

「気づかれっこないわ、こっそり見ていたんだもの?」

それってどういうことだろう?
つい首傾げたテーブルごし教えてくれた。

「実はね、湯原のお家の合鍵を私も預かっていました、斗貴子さんの調子が悪い日は私が看病に通っていたのよ、」

それくらい信頼があった。
そんな言葉なんだか温かい、そして重なってしまう。

―合鍵…英二も持ってる、ね、

祖母は大叔母に合鍵を託し、その孫も合鍵を持っている。
これは偶然のようで必然なのだろうか?符号するまま彼女は言った。

「その日もいつもどおり勝手に開けて入って、驚かしたくて静かに廊下を歩きだしたら言い争う声が聞えたのよ、」

ランプ艶めくティーカップのテーブル、紅茶の馥郁に花かすかに香る。
語るひとはカシミヤの腕のべて、白い指そっと一輪たおりグラスに挿した。

「お父上の名誉のためにファントムに戻れ、そうあの男は言ったわ、」

ほら、あの符号だ。

“Fantôme”

この単語が「戻れ」と祖父に告げた、それは「争う」声にある。
だから父はあの本からページを切り取った?

『Le Fantôme de l'Opéra』

家の書斎にある一冊はページほとんど無い。
あの落丁ずっと不思議だった、その鍵を声やわらかに低く透る。

「それはできないと晉さんの声は応えたの、静かだけれど怒りが噴くような声。あんな晉さんの声はあのとき以外、聴いたことないわ、」

五十年、その哀悼はるかな聲がつむぎだす。


(to be continued)

【引用詩文:William Wordsworth「Intimations of Immortality from Recollections of Early Childhood」】

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雑談夜話:週末の悪戯坊主

2016-01-29 20:23:11 | 雑談
寝顔にゴメン



雑談夜話:週末の悪戯坊主

ここんと忙しい、で、やっと週末夜ノンビリにこんな↑寝顔。
あまりかまってやれてなかったな…とゴメンな気持ちに明日は大雪予報。
たぶん家でべったりな予定です、笑

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花木点景:蝋梅、陽を燈す

2016-01-28 21:56:08 | 写真:花木点景
春の燈



花木点景:蝋梅、陽を燈す

ある森の公園、いい香だなと見上げたら蝋梅まぶしかったです。



青空×金色に甘い香は春を告げてくれます、そんな足もとは柵の上にも花は光っていました。



まだまだ三寒四温、それでも春の香やさしい花木の苑です。


撮影地:森の公園@神奈川県某所

ちょっと春を感じたら↓
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第84話 静穏 act.10-another,side story「陽はまた昇る」

2016-01-26 08:00:03 | 陽はまた昇るanother,side story
過去と真実
周太24歳3月



第84話 静穏 act.10-another,side story「陽はまた昇る」

白いテラス、紺青色の本ひとつ。

藍色ふかい空の窓辺ティーカップ並んだ真中、カフェテーブルに一冊が置かれる。
紺青色うつくしい布張表紙は見憶え懐かしくて、掴まれる鼓動が零れた。

「見せたいものって…これがお祖父さんから贈られた?」

祖父が妻の従妹へ贈った一冊。その受けとった白い手は紺青の表紙そっと撫でた。

「そうよ、晉さんから頂いた本です、」

肯いてくれる白皙の微笑はやわらかい。
懐かしい眼ざしの先、祖父の著書は横たわる。

Susumu Yuhara『 La chronique de la maison 』

フランス文学者だった祖父、湯原晉博士が遺したミステリー小説は全文がフランス語で描かれる。
もし何も知らなければ面白い小説に過ぎない本、けれど「maison」の実像を知るならば「記録」だと気づく。

そうして今、この一冊をはさんで証人は座っている。

「さっき周太くん教えてくれたわね、馨くんの本には探し物を君に贈るって書いてあるって。その筆跡のインクはモンブランのブルーブラックね?」

ほら、こんなことまで知っている。
近しい者しか解からない台詞に周太は肯いた。

「そうです、この本にも何か書かれてるんですか?」

見せたいものがある、そう大叔母が言ったのは「筆跡」だろうか?
辿りたい想いに皺やさしい口元が微笑んだ。

「やっぱり周太くんは斗貴子さんと似てるわ、先回りで言ってくれちゃう、」

すこし困ったような口調やわらかに切長い瞳は涼しい。
その目元こそよく似ていて、また不思議な想いあふれた。

「おばあさまこそ父と似ています、今も…お父さんと話してるみたいで僕、」

ああ、泣いてしまいそうこんなのは。

―おとうさん、お父さん、僕やっとすこし解かるのかな?

ずっと捜してきた、亡くなった父をずっと。
十四年あの春から探してきた、その願い唇こぼれた。

「僕ずっと探してきたんです、お父さんが死ななくちゃいけなかった理由をずっと…それくらい僕は受けとめられないんです、父を大好きだから、」

受けとめられない、だから記憶すら眠らせた。
そんな卑怯が自分で赦せないまま微笑んだ。

「こんなの24歳の男が言うことじゃないけど、でも僕は父との時間がただ好きで…大好きだから父の死を認められなくて記憶喪失になったんです、」

哀しみに忘れてしまった、それでも諦められなくて同じ道を選んだ。
たったそれだけの理由に父そっくりの瞳は訊いてくれた。

「それは周太くん、馨くんが亡くなったショックで記憶を?」
「はい…子どもの防衛反応で感情ごと記憶を眠らせたとお医者さんに言われました、父との時間が幸せすぎたから、」

答えながら恥ずかしくなる、だって自分はこんなにも弱い。
この心の精神力に恥ずかしくて、けれど涼やかな瞳は笑ってくれた。

「そう、ほんとうに周太くんは強い男ね?立派だわ、」

どうして自分が強いの?

「え…、」

こんな自分に今なんて言ってくれたのだろう?
意外で見つめる真中、皺ひとつ美しい笑顔は言ってくれた。

「忘れるほど辛いことを逃げないのは並大抵の強さじゃないわ、さすが斗貴子さんの孫ね?きっと晉さんも褒めてるわよ、馨くんも、」

受けとめてくれる、そんな心もよく似ている。
ただ懐かしくて、そしてもう一つの俤にすこし笑った。

「ありがとうございます、でもね…結局は英二に助けられてなんとかなったんです、今ここにいるのもそうでしょう?」

あのひとに助けられてしまった、それは幸運だと想う。
ほんとうに幸運で、そして自分の幸せだった。けれど今もう逸らせない現実に尋ねた。

「おばあさまと僕が逢えたのも英二がここに連れて来てくれたからです、だから僕は疑問になりました、英二は何をいつから知ってるんですか?」

なぜ、自分たちは出逢ったのだろう?

ずっと疑問だった、なぜ英二が自分を愛そうとしてくれたのか。
その疑問は英二を知るほど時経るごと大きくなっていく、ずっと目を背けていた「確認」を祖父の本はさんで言った。

「英二がいなければ僕はきっと今、生きていません。だから本当のことを教えてください、湯原の家のことも、英二のことも、」

あのひとがいなければ自分は死んでいた。

たとえば警察学校の山岳訓練、あのとき救けてくれたのは英二だ。
それから初任科総合の雨の夜、あの屋上で倒れた自分を救けたのも英二だった。

それに何よりきっとあの夜、夏の終わりのビジネスホテル一室で自分はたぶん救われた。

「僕は何も知らないではもう済まされないんです、もう全てを向きあうしか僕にはありません、お願いします教えてください、」

願い訴える真中そっくりの瞳が見つめる。
ここまで自分を連れてきた眼ざし二人、その俤がため息そっと微笑んだ。

「英二のことも聴きたいのね?本当のことを、」

とくん、

鼓動そっと引っ叩かれる、向きあう眼ざしに声に予兆が響く。
とくん、とくん、鼓動ゆるやかに波うち脈うつ、それでも周太は肯いた。

「はい、教えてください、」

聴きたいのね?と確かめるのは、それだけ重たい事実がある。
その全てと向きあう窓辺、白い手が紺青色の表紙そっと開いた。

「どうぞ、」

アルト低く透って一冊さしだされる。
受けとって、開かれたページまっすぐ見つめた。

“ Confession ”

唯ひとこと、それでも今はもう解かる。
そっと零れた溜息に大叔母は微笑んだ。

「コンフェッション、告白や告悔という意味ね?なのに私は気づけなかったの、」

にじむような微笑が白皙たゆたう。
ランプやわらかなテラスの窓、皺やさしく微笑んだ。

「これは晉さんの必死の告発よ、なのに私は勝手な勘違いをして喪って…私の恋は愚かね、」

涼やかな瞳かすかに曇らす。
ふかい哀惜を見つめて、そっと口火きった。

「いま話してください、その時の分も、」


(to be continued)

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山岳点景:桜草、または

2016-01-25 21:14:11 | 写真:山岳点景
Primula sieboldii×japonica



山岳点景:桜草、または

近場の森で今、桜草が咲いています。
たぶん自生種ではなく誰か植えたものが殖えたかなってカンジです。



桜草、サクラソウの学名は「Primula sieboldii」サクラソウ属植物は約400種あるんだとか。
日本の自生種「サクラソウ」はサクラソウ科サクラソウ属の多年草、北海道南部から本州・九州の高原や原野に生えています。
が、野生の群落は少なくて環境省レッドリストで準絶滅危惧に指定、園芸店で売られるのは西洋サクラソウなど類似種がほとんどです。
この写真の桜草も「Primula sieboldii」ではなく「Primula malacoides」西洋桜草と呼ばれるプリムラ・マラコイデスだと思います。

マラコイデスの原産地は中国の雲南省・四川省、早春から咲くため「報春花」とも呼ばれています。
別称は他にも乙女桜オトメサクラ・化粧桜ケショウサクラなどあるそうです。

季節を感じるお花さん22ブログトーナメント



こちら↓は九輪草クリンソウ、学名「Primula japonica」日本で自生するサクラソウ科では最大種です。
山の湿原や草地の渓流でよく見られます、で、ここの写真も自生の群落地で撮りました。



花期は初夏、いつも撮るポイントは6月下旬ごろです。



初夏の明るい陽ざし、薄紅色あざやかに草叢を映えます。



クリンソウが咲くところは他の山野草もたくさん咲きます、その季は山上の花園です。


撮影地:森@神奈川県某所、高層湿原@長野県某所


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第84話 静穏 act.9-another,side story「陽はまた昇る」

2016-01-24 21:53:10 | 陽はまた昇るanother,side story
声と希望
周太24歳3月



第84話 静穏 act.9-another,side story「陽はまた昇る」

ナンバー押して、鼓動そっと絞められる。

どうしても最初は緊張してしまう、そんなテラスの窓は紺青ふかい。
藍色はるか薄紅の波うつろう、ガラスごし遠く潮騒かすかな声を響く。
ほんとうに海が近い、そんな窓辺ランプやさしい灯に周太は微笑んだ。

「…僕ってほんとあがり症だね?」

このナンバーは初めて架ける、その緊張どうしてもわだかまる。
それでも残照きらめく海の窓に最後のナンバー押して、コール音すぐ出てくれた。

「湯原君、体は大丈夫ですか?」

ずっと待っていてくれた、そんなトーン呼んでくれる声は穏やかに優しい。
変わらない恩師に周太は微笑んだ。

「はい、だいぶ落ち着きました…すみません青木先生、」
「そんな謝る必要なんてないよ?また元気に大学へ来てください、4月からは正式に研究生だしね、」

明朗おだやかな声が笑ってくれる。
電話から伝わる笑顔へ海の窓辺、そっと頭下げた。

「ありがとうございます、そのことで今度ご相談させて頂けますか?」

きちんと始めたい、今度こそ。
ただ願い見つめる宵に朗らかな声が言った。

「それは湯原君、大学院へ進む相談でしょうか?」

もう解ってくれている。
そして信じてくれる恩師に呼吸ひとつ微笑んだ。

「はい…退職して受験に臨みたいと想います、」

大学院を受験するならば。
その覚悟とこれからに快活な声が笑ってくれた。

「それは朗報です、でもどちらを選んでくれるのかな?」

どちらを選ぶのか?
あらためての選択肢に考えながら答えた。

「そのこともご相談したくて…お時間つくって頂けるでしょうか?」
「いつでも私はいいよ、田嶋先生にも声かけましょう、」

選択肢もう一つも準備してくれる、その厚意また頭を下げた。

「ありがとうございます、ほんとうに…先日はお手伝いの約束をすみませんでした、田嶋先生にも、」

あの教授にも迷惑かけてしまった。
できなかった約束に優しい声は笑ってくれた。

「本当に気にしないでください、それより体ちゃんと治して進学を考えましょう?きっと田嶋先生も同じこと仰いますよ、」
「はい、早く治してご相談に伺います、」

素直にうなずいて肚底ほっと温かい。
こんなふう自分を待ってくれる場所がある、その安堵に落着いた声が言った。

「待っていますよ。あとね湯原君、おせっかいな質問だけど小嶌さんには連絡しましたか?」

そのこと訊いてくれちゃうんだ?
首すじ熱くなるまま電話そっと握りしめた。

「まだです、あの…なにかあったんですか?」

こんな質問するなんて「なにか」あるに決まっている。
面映ゆい不安に電話ごし、明朗な声が笑ってくれた。

「あったと言えばあったかな、ぜひ本人に訊いてみてください、」

本人に。

そう勧めてくれる理由なとなく解かる。
その理解くすぐったくて途惑って、藍色ひろがる窓辺に頭また下げた。

「あの、ほんとうに色々すみません、」
「そんな謝らなくていいんだよ、それより早く大学に戻っておいで?今夜もよく休んでください、」

電話から透る声は温かい。
告げてくれる願いただありがたく微笑んだ。

「ありがとうございます、また連絡させて頂きます、」
「待ってるよ?おやすみ湯原君、」

穏やかな声が笑って通話かちり切れる。
ほっと息ついた海のテラス、部屋着の背にノック響いた。

「周太くん、お電話は終わったかしら?」

かたん、開いた扉ふわり馥郁あまい。
ティーセット載せた銀盆と笑顔に周太は微笑んだ。

「青木先生とは終りました、伊達さんには後で架けます、」
「じゃあ食後のお茶しましょう、」

白皙の皺きれいに微笑んでトレイを置く。
硝子のテラスを紅茶が香る、あまい馥郁の椅子に腰かけ大叔母は言った。

「私のテラスもいいでしょう?海が近くて気に入ってるの、」

皺ひとつも美しい笑顔は誇らしげ明るい。
そんな笑顔に紺青色の窓は深くて、眺める夜の海にうなずいた。

「ほんとに近いですね、船に乗ってるみたい、」

海が青い、暗いのに。

あわい灯のガラスごし藍色ふかい、けれど光きらきら舞っている。
波うつす光は月だろうか?遠くながめる小さなテラスで大叔母が微笑んだ。

「周太くんもそう想うんだ?一緒ね、」

一緒ね、

そう言って笑う瞳がやわらかに涼しい。
この眼ざしも言葉もやっぱり似ていて、懐かしくて泣きたくなる。

―お父さんと似てるって見ちゃうのは僕、気がゆるんでるのかな…まだ終わってないのに、

ひとつ峠を越した、なんて俗には言うのだろう。
そんな気分どこか燻ぶるカフェテーブル、紅茶の湯気やわらかな声が訊いた。

「あのね周太くん、晉さんが馨くんに贈った本ね、どこで見つけたの?」

あ、ちゃんと口火きってくれる。
逃げない誠実にティーカップ戻して、ちん、かすかな音に口開いた。

「東大の図書館にあるのを見つけて、田嶋先生が僕に返してくれました…ぁ、」

答えながら問いに気づかされる。
きっとこういうことだ?父そっくりの瞳に訊き返した。

「あの、おばあさまもしかして…うちの書斎を捜したんですか?」
「ええ、周太くんの看病に行ったとき探させてもらったわ、勝手にごめんなさいね?」

白皙の微笑すなおに頷いてくれる。
切長い瞳は困りながらも逃げていない、受けとめてくれる想いに尋ねた。

「探したのは事実を書いてるって気づいていたからですか?」

あの本、祖父が書いた小説を大叔母は捜した。
そんな行動に解かってしまう理由が口開いてくれた。

「そうよ、あれが事実の全てだとしたら知るのは辛いことでしょう?」

やっぱりそうだ?
確信のまんなかで端正な唇そっと微笑んだ。

「だから周太くんも辛い顔してるわ…美幸さんも気づいてるのかしら?」

低いアルトつぶやく、これは質問だろうか?
すこし迷ったテーブルに大叔母が立ちあがった。

「周太くんに見せたいものがあるの、」


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花森点景:睦月の深紅

2016-01-24 08:41:04 | 写真:花木点景
春告の花神



花森点景:睦月の深紅

森の藪椿。
この樹は紅色とくに濃くて、毎年つい見に来ます。



同じ花でも光の角度を変えると色が変わる、その光沢が椿は独特だなって思います。
上はすこし明るい赤、下は陰翳ふかい紫紅、どちらも常緑の艶やかな黒緑に映ります。



紫おびた黒紅色は一見地味、けれど彩うつろって見飽きない。
こんな藪椿一輪さらり活けたら粋でしょうね、笑

第24回 ☆花って綺麗ですよね♪☆ブログトーナメント



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山岳点景:雪空に

2016-01-23 21:30:07 | 写真:山岳点景
La neige attend la neige



山岳点景:雪空に

モノトーンの稜線、白い空から小雪が舞いました。



白紗しずむ尾根は降雪だろうと。
そんな山沿いの道たどる先、着いた湖畔も除雪車の跡アリ。



今日、午後の山中湖村は雪空まっしろ。
ソンナワケで見えるはずの富士山も雪まとう雲隠れ。



小雪けぶる湖面に明神岳も白紗の向こう岸。



月曜の降雪ほとんど残る、厳寒を迎えた今です。

あちこち散策3ブログトーナメント


撮影地:道志村・山中湖村@山梨県

この時季このルートは路面凍結します、チェーン必携です。
道志みち→山中湖村はカーブが多く、特に標高1,100メートル山伏峠は冬期スリップ事故が多発します。
除雪された雪の壁で道幅が狭いため、野生動物の飛び出し&氷雪にタイヤひっかける等ハンドルとられることもあります。
南側斜面の道路は乾いていても北側はアイスバーン&ブラックバーンが現れることも多いです、運転要注意で楽しんでくださいね?笑

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山岳点景:睦月、花の森

2016-01-22 23:27:18 | 写真:山岳点景
冬に春



山岳点景:睦月、花の森

ひさしぶりに近場の森を通ったら、桜草が咲いていました。



冬の陽だまり、色とりどりの濃桃色は明るく映えます。



頭上、蝋梅が満開。



蝋梅、名前のまんま蝋細工みたいな半透明の花びらをしています。



黄金色きらきら透ける空、冷たい風にも花は眩しいです。



まだ日蔭は雪残る森、空気は冷たくて指先ちょっと凍えます、笑



そんな残雪に椿の常緑×花色は馴染みます。



梅も咲きだしていました。
ここの梅は谷間なためか少し遅いんですけど、この一本は八分咲き。



雪に圧された草叢のなか、咲きかけの水仙が可憐でした。

あちこち散策2ブログトーナメント



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