萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

第85話 春鎮 act.52 another,side story「陽はまた昇る」

2018-04-19 22:40:09 | 陽はまた昇るanother,side story
like a deal hand, 時の刻みへ、
harushizume―周太24歳3月下旬


第85話 春鎮 act.52 another,side story「陽はまた昇る」

かちん、

アイゼン留金の透って響く。
ひさしぶりの音ひたす鼓動、澄んだテノールが呼んだ。

「周太、右足ちっと見せな?左腕もね、」

雪白の頬からり笑って長身ひざまづく。
ふたり屈みこむ林道の雪、周太は口開いた。

「光一どうして…美代さんに聞いたの?」

受傷2ヶ所、的確に言われた。
その理由に幼馴染の瞳すっと細んだ。

「聞いちゃいないケドね、イイから見せな?」

登山グローブまだ嵌めない手、白く左腕ふれてくれる。
ウェア透かす温もりふれて次、右足首に長い指ふれた。

「ふん、腕はイイけど足は危ういねえ?ちっと待ちな、」

テノール低く言いながら登山ザック開く。
出したナイロンケースのファスナー鳴って、包帯ひとつ手にした。

「固定するよ、」

登山ウェア青い肩が右足かぶさる。
雪雲くるむ白い森、登山靴するり脱がされ青い膝に支えられた。

「雪の負荷そーとー足首にクルからね?こんなんも無いよりマシって程度だよ、」

話してくれる手元、包帯すぐ巻いてゆく。
伸縮性ずしり固まる感触たのもしい、そんな自分の足に微笑んだ。

「ありがとう光一、でも…ほんとは怒ってる?」
「無茶されたくないからね、」

即答すぐ赤い唇にやり、笑ってくれる。
いつもの笑顔は包帯すっきり留め、周太の登山靴ふれた。

「いつもより足首ぶっといから靴紐ゆるめるよ、バランスちっと変わるケド、」

白い長い指くるくる紐ゆるめて右足、丁寧に履かせてくれる。
確かに違う感覚と立ち上がって、足元から幼馴染が言った。

「締めつけるよ?きつめで固定するからね、」
「あ、自分でするよ…悪いもの、」

困りながら声かけ足元、けれど長い指さらり紐を繰る。
手慣れた指先あざやかに赤い、そんな三月の冷厳にテノール笑った。

「コレで身支度イイね、アイゼンとダブルで固定してるからアンマリぐらつかないハズだよ、」

よっこいしょ、かけ声と長身が立ち上がる。
さらさら雪風はらむ黒髪かきあげて、底ぬけに明るい瞳が笑った。

「雪また降ってきちまったねえ?午後の降雪あんどケガ人なんてさあ、現職だったら職権でブッ飛ばしても止めてるよ、ねえ?」

白銀さらさら森の端、雪白の頬あざやかに笑ってくれる。
その言葉ただ申し訳なくて周太は頭下げた。

「ごめんなさい光一、こんなの…、」
「あやまるこっちゃないね、ただ覚悟しな周太?」

白なびく風、澄んだ目まっすぐ見てくる。
銀色ひらめく森の入口で山育ちの男は言った。

「悪条件の登山はまるっと自己責任だ、救助なんざ無いって解ってるね?」

山に生まれて育った、その声が告げてくれる。
この朝まで山岳救助隊の指揮官だった、そんな幼馴染に微笑んだ。

「うん、僕のことは救助しないで…ここまで送ってくれてありがとう、」

だって自分はもう、救けてもらう資格なんてない。

―死のうとしたんだ僕は、二度も僕は、

一度め、新宿の片隅ある店で。
二度めは海で、ついこの間のことだ。
そうして三度めへ踏みこむ白い森、青い登山ウェアあざやかに笑った。

「執行猶予は3時間だよ、イイね周太?」

雪白の頬にやり、黒髪さらさら白銀と舞う。
きれいで、けれど言葉よく呑みこめないまま山っ子が笑った。

「3時間で戻らなきゃさあ、無粋オジャマモンしてやるからね?あのエロ別嬪きっちり連れ戻しな、」

ぽん、

白い手かろやかに背を敲いてくれる。
その明眸ほがらかに澄んで、背中の温もりに周太は笑った。

「ありがとう…いってきます、」
「いってらっしゃい、気をつけて行きな?あ、」

見送りかけて赤い唇にやり笑う。
なんだろう?見あげた真中、悪戯っ子は言った。

「戻ったらね、美代とは名前で呼びあいな?いろいろイイこと起きるよ、」

※校正中

(to be continued)
【引用詩文:William Shakespeare「Shakespeare's Sonnet 104」】
第85話 春鎮act.51← →第85話 春鎮act.53
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