萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

one scene 或日、学校にてact.10 ―another,side story「陽はまた昇る」

2012-08-13 04:35:40 | 陽はまた昇るanother,side story
言ってくれるのは、



one scene 或日、学校にてact.10 ―another,side story「陽はまた昇る」

夜の談話室は和やかだ。

風呂も食事も済んだ後の、時間を自由に使える空気が寛いでいる。
そんな空間に腰かけてノートを広げると、内山が精悍な笑顔で訊いてきた。

「湯原、痴漢の冤罪を晴らした事例あったろ?あのこと聴きたいんだけど、」
「ん、いいよ?…」

頷いて少し考え込む。
どこから話すと良いかな?そう首傾げた隣から、綺麗な低い声が微笑んだ。

「まず車内での立ち位置の確認をしたんだよな?紙に図を描いて、本人に立っていた場所を書きこんでもらったんだよ。
そのときボールペンを持たせることで、被害者以外の利き手を確認したんだ。そのボールペンを2本、周太は用意したんだよ、」

上手にまとめて英二が答えてくれる。
こんなふうに話せるほど自分の話を聴いてくれていた?
そう思うと嬉しくて周太は、微笑んで英二に相槌を打った。

「ん、そうなんだ。2本準備したんだよ、新品と、インクが切れかけのと、」
「そうだね、周太。その新品の方は、ラベルを剥がしたてだから鑑識テープの代わりも出来たんだよな?」

すぐ英二がまた相槌と答えを返してくれる。
本当によく覚えてくれてるんだ?感心して周太は頷いた。

「そう、もし採取の拒否をされても大丈夫なように、って思って…でも鑑識テープを使います、って言ったら解かったけど、」
「逃げようとしたんだよな、その犯人だったやつが、」

また即座に英二が微笑んで答えてくれる。
それに素直に頷きながらも周太は、内山にも笑いかけた。

「ん、そう。逃げようとしたから怪しいな、って…内山の話してくれた事例は、不法侵入だっけ?」
「そうだよ、法律事務所に裁判の相手方が、乗り込んだんだ、」

精悍な笑顔が頷きながら答えてくれる。
こんどはそれに対して英二は相槌を打った。

「闇金絡みだったよな?それで弁護士に直談判しに、勝手に入りこんだんだろ?」
「ああ、受付を通らずに非常階段から入りこんだんだ、」

そんなことされたら怖いだろうな?
でもセキュリティはどうだったんだろう?
そう首傾げた隣で英二が、内山に相槌を笑いかけた。

「それで秘書の人を掴まえて、債務者の居場所を聞き出そうとしたんだよな?」
「そう、それが脅迫まがいでな。それで通報が来たんだ、」
「物騒だな、そういうのって多い?」
「うん、俺のところは法律関係のトラブルは多いな、」

頷いて答える内山の貌が、生真面目に困り顔になっている。
内山が所属する麹町警察署は管轄に法律事務所も多い、だから、こうしたトラブルも多いのだろう。
やっぱり地域の条件が事件の特色にも直結するんだな?そう考えて口を開きかけた時、隣から英二が微笑んだ。

「そろそろ俺たち部屋に戻るな、勉強の予定があるんだ、」

そんな予定あったかな?

首傾げて周太は記憶を辿った、約束を英二としていたろうか?
そんな周太の腕を優しく掴んで、もう英二は立ち上がってしまう。

「またな、内山。おやすみ、」
「おやすみ、忙しいのに時間くれて、ありがとな、」

内山も笑って立ち上がる。
なんだか予想外に早いお開きだな?すこし途惑いかけた周太に、内山は笑いかけてくれた。

「湯原、昨日今日とありがとう、」
「ううん、こっちこそ。美代さんも楽しかった、ってメールで言ってたよ?」
「俺も楽しかったよ、また小嶌さんに伝えておいて。おやすみ、湯原、」
「おやすみ、」

笑い合って内山は、深堀達の輪へと入って行った。
それを見送った周太を英二は、横抱きに抱え上げた。

「搬送トレーニングさせてね、周太、」
「…あ、ん…」

またするなんて、英二は練習熱心だな?
感心しながらも周太は首傾げて、英二に話しかけた。

「ね、英二は内山と話すの、好きだよね?」
「どうして?周太、」

廊下を歩きながら笑って尋ねてくれる。
その笑顔に見惚れそうになりながら、周太は思ったままを言った。

「だって今もね?俺と内山が話すより、英二と内山が話す方が多かったよ?だから英二、今度はふたりで話したら?」
「周太と一緒ならね、」

そう言って笑うと英二は鍵を開けて、周太ごと部屋に入ってくれる。
やさしくベッドに降ろしてくれる貌を見上げて、周太は首を傾げた。

「ん?俺と一緒だと、ふたりでゆっくり話せないよ?」
「それで良いよ、周太が重要なんだ、」

即答して笑ってくれる。
けれど言ってくれた意味がよく解からなくて周太は尋ねた。

「ね、なんで俺が重要なの?」
「重要だよ?周太が居ないと俺、意味ないから」

答えて英二は、可笑しそうに笑いだした。

…なんで笑うのかな?…あ、もしかして美代さんが言ってたこと?

ふと英二の態度に気がついて、首筋が熱くなった。
もしかしたら美代が言っていた通りなのかな?そう思うと気恥ずかしい。

―…宮田くん、内山くんに嫉妬してるのかもね?
湯原くんが内山くんと話していると、必ず来るのでしょ?それって、2人きりで話すのが嫌だからかな
宮田くんが恋をするのは、男とか女とかは関係なくて、そのひと自身を好きになるでしょう?
湯原くんの恋人としての魅力を一番知ってるの、きっと宮田くんよね?他の人が恋しちゃうかもって思うの、仕方ないね?

ほんとうにそのとおりだったらちょっと、はずかしいな?
これから意識してしまいそう、英二以外の誰かと話すたび、いつも。
美代が言うよう男女関係ないのなら、360度すべてが英二の「嫉妬」になってしまう?
こういうのは、同性同士の恋愛ならではの悩みかもしれない。

…意識しちゃう、困ったな?でも…嬉しい、な、

こういうのは、ちょっと困る。けれど、そこまで想われている事も、嬉しくて。
そして幸せがそっと、また心へ舞い降りる。





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