萬文習作帖

山の青年医師の物語+警視庁山岳救助隊員ミステリー(陽はまた昇る宮田と湯原その後)ほか小説×写真×文学閑話

霜月六日、藤袴― waver

2018-11-06 22:57:00 | 創作短篇:日花物語
越える瞬間を、
11月6日誕生花フジバカマ


霜月六日、藤袴― waver

月を待つ、あと幾日?

梢が鳴る、月わたる風に光くだける。
翳に光ちりばめる、ゆれて闇また雲がゆく。
あわい輪郭ひらめいて今日また暮れる、その闇が香った。

「…まだ咲いてる?」

唇つい零れて馥郁あまい。
深く奥ゆかしいような甘さ春と似て、けれど夏の名残だ。

かさり、

踏みわける道に草が鳴る。
夕闇さえる枯れた音、乾いた匂い幽かに甘くなる。
夕闇まぎれ見えない花、けれど確かな香また濃やかになる。

ほら?

『桜餅と似てるな?』

ほら、声の記憶が香る。
あなたの声が笑いだす、しめやかな甘さ記憶が燈る。
もう盛りは過ぎてしまった花、それでもまだ枯れない香に月を待つ。

「あ、」

月ひらく、あかるむ薄紅に草叢ゆれる。
ゆれる音からから乾いて月ゆらす、頬ふれる冷気に秋がふる。
冴えて波うつ枯草やわらかな香、あまやかな風の底に薄紅が咲く。

「…隠れてるみたいだね?」

微笑んだ唇に馥郁ゆれる。
あまやかな香かすかで時ゆらされる、記憶ゆらいで声が咲く。

『秋に帰ったときには、』

帰ったときには、その続きは?

「ずるいよね…なんか」

ほら声こぼれる、あの夜に言えなかったくせに?
あなたも言えなかった夜の声、あのまま明けた朝もう繰り返したくない。
けれど秋めぐりきて今、あと二十日もない再会に踏みだせるのかなんて自分こそ?

「でも…言いたい」

願いごと薄紅あまく香る、尾花の銀色から光さす。
月わたる風からから草叢の波、やわらかな花ひとつ薄紅うかぶ。

「ひとことでも言いたい…な、」

すこしずつ咲いてゆく甘い香、ひとつ、ひとつ香り花ひらく。
夕闇あわい甘い香、待つ夜も香る?


藤袴:フジバカマ、花言葉「ためらい、遅れ、優しい記憶」

今月の十六夜月は23日、十六夜月は別名「ためらい月」

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2 コメント

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Unknown (dan)
2018-11-07 11:48:49
おはようございます
藤袴の花言葉かみしめています。
一読 ごめんなさい、ずっとずっと昔を思い出して切なくて、懐かしくて。
いつも思うこと。
素敵な情景描写は私をすぐその場所へ連れて行ってくれるのです。
 今この時期にこの短編を読めたことが嬉しいです。
 私もいつかこういうの書きたいとおもいます。
返信する
danさんへ ()
2018-11-07 22:05:51
こんばんは、返信また遅くすみません。
藤袴は花が一つずつゆっくり開くため「ためらい」の花言葉があるそうです。同じ意味をもつ十六夜の月とかけて、こんな話になりました。
琴線どこか明るませられたなら、書いてみて良かったなあと嬉しいです。
danさんの随想また読ませて頂きました、霜月らしい空気感が静かですてきです。
返信する

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