ALH84001

私的コラム&雑記(&メモ)

今週の興味深かった記事(2019年 第26週)

2019-06-30 | 興味深かった話題

Raspberry Pi 4

別途記事を書いたので、そちらを参照されたい。

GPD P2 Max

GPDが考える真のUltrabook「P2 Max」正式発表

 2002年頃に富士通のTransmeta Crusoe搭載機を使っていた身としては、iPadのサイズでCore m3・Celeron YシリーズとCoreマイクロアーキテクチャー系プロセッサーが載って$700というのは感慨深いものがあり非常に無力的に見える。

 もっとも、私の使い方では使い道を見出せないので個人的には見送ることにした。
 私事で恐縮だが、私はメインに12インチ・1kgクラスのモバイルラップトップThinkPad X220(Sandy Bridgeベースの7年物。近々買い替え予定)、それより軽量のモバイルとしては8.9インチと8インチのAndroidタブレットを使用している。両社の棲み分けは明確で、前者は自宅のテーブルに据え置かれ何かを作る場合に使用し・後者は自宅内/旅先で持ち歩く閲覧専用端末となっている。
 ここに9インチクラスのWindows機を導入する場合、OSとアプリのUIが9インチクラスに最適化されたiPadならともかくWindowsで何かを生産するのは難しく、閲覧だけならAndroid機の方が狭い画面での使い勝手がよく軽量で適している。また、Celeron搭載版/Core m3搭載版がそれぞれ$525/$700と決して手軽に買って失敗できる価格ではないから、私の場合はメインのラップトップの買い替え方に予算を回した方が建設的に思える。

 個人的に懐疑的なのはWindowsのOSやアプリケーションのUIが9インチクラスでの使い勝手である。これはユーザー個人の視力や手の大きさなどに依存するから私が判断することではないが、どうしても中途半端になってしまうと思う。

PC Watch後藤氏によるZEN2解説記事

AMD Zen 2の高い性能効率を支えるフロントエンドアーキテクチャ
AMDがZen 2で採用した現在最強の分岐予測「TAGE」
AMD Zen 2は実行パイプライン拡張で浮動小数点性能が2倍に
処理能力が2倍に拡張されたAMD Zen 2のAVXユニット

 全4回に渡る詳細な解説記事で読み応えがある。ZEN2の強化部分はZENで既に実装されていた機能の強化なので順当な内容と言えるが、個人的にはAVXの強化の記事が面白かった。

 ZEN2でのAVX帯域の強化自体は驚くべきことではない。ZENで論理256-bitのAVXの物理実装が128-bitだったことは2017年末から知られていたが、Intelが512-bit SIMDのAVX-512を物理で実装していることを考慮すれば、将来バージョンでAVXが強化されることは想像できていた。その上で今年2月にZEN2版EPYCが発表された際にAVXの帯域が倍になったことは説明されていたから、順当な進化だったと言える。

 実のところ、この論理SIMD長の1/2で物理実装するというテクニックはIntelが論理128-bitのSSEをPentium IIIで物理64-bitで実装したりと昔からポピュラーである。なにせ (1) 論理256-bit SIMDとは32-bit 8-wayといった並列演算で各値同士に依存関係は無いから2サイクルに分割して実行することが可能だし(※AVX-512は例外)、(2) SIMD演算ユニットは他の演算ユニットとリソースを共用する場合が多いが、SSE/SSE2=128-bit・FP64=64-bitと共用することでリソースを無駄なく利用することができる。
 もし、SIMDの物理実装の長さを2倍に拡張する場合、実装コストが増えるだけでなく、1サイクルあたりの処理可能なデータの増加に合わせロード/ストア帯域も2倍にする必要があるから実装コスト・消費電力などで問題が出る。帯域の向上をとるか、実装コスト・消費電力をとるかというバランスの問題である。

 このような背景を踏まえると、ZEN2でのAVXの帯域強化は順当だったわけだが、6月27日の記事で説明されているのは物理実装を256-bit幅にする合理性で、論理長と物理長を合わせることでスケジューリングやOut-of-Order実行で必要となるトラッキングがシンプルになってリソースを食わなくなったのだというのは目から鱗であった。

 ところで、後藤氏は記事の中で、以前のAMDが「SIMD演算はどちらかというと、APUに内蔵したGPUコアにまかせるという傾向が強かった」というが、私の理解では当時のAMD(Phil Hester氏がCTOだった時代)は具体的な数字を明確にしていなかったと記憶している。
 私の想像では、AMDが想定していたGPUにオフロードするSIMD長は512-bitで、これはAMD GPUが32-bit x 16 lane x 4 cycle(つまり物理512-bitのSIMD x 4 cycle)のWavefrontで処理しており辻褄が合うためであるが、その一方で当のAMD自身が128-bitのSSE5でGPUへのオフロードに言及したりしているので判然としない。もっとも、当時のAMDはBulldozerなどのゴタゴタで遠い未来の壮大な構想ばかりで、翌年リリースする製品との乖離が問題となっていたから、どのようにCPU・GPU間の溝を埋めるつもりだったのか今となっては分からない。

 印象深いのが、後藤氏が繰り返しZEN2をSkylakeと同じと表現していることだ。Nehalem以降のIntelプロセッサーの系譜を眺めると、まず第二世代のSandy Bridgeでひとつの完成形を迎えた後、4年間・4世代をかけて各ユニットがバラバラに増強されており、例えば実行ユニットはHaswellで強化されたが命令デコードやロード/ストアは強化されずアンバランスだった。それが再度バランスを取り戻し高い完成度を達成したのが第6世代のSkylakeだった。

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Raspberry Pi 4

2019-06-27 | ガジェット / PC DIY

 先日、Raspberry Pi 4(RPi 4)が発表されたが、そのスペックは驚きに値するものだった。ここではそのスペックシートを見ながら説明しよう。

価格

 Raspberry Piは元々は教育向けを謳っており、これまでの価格は学生でも入手容易な$35~だったがRPi 4でも従来通り$35〜の価格が維持されている。RPi 4では従来通りの1 GBモデルに加え、2 GBモデルおよび4 GBモデルが追加されている。
 RPi 4ではRPi 3から性能面で大きな飛躍を果たしたが、興味深いのはRPi 4の性能・価格は巷に溢れる中華プロセッサー搭載ホビー用ボードをも圧倒してしまっていることだ。これまではRPiよりもスペック的に優れた中華プロセッサー搭載ボードが数多く出回っており、小型PCとして使うならばそちらの方が優れていたことは多かった。私見だがArduinoと同様にRPiは目的を持って使うボードであって性能で語られるべきものとは言い難かった(例:Google AIY、Microsoft Windows IoTなど)。
 以下は具体的な例である。搭載プロセッサーによるワークロードの得手不得手・ユーザーの利用ケースなどは様々なため単純に比較はできないが、インパクトの大きさは御理解頂けるだろう。

 SoC (CPU)RAMPrice
Raspberry Pi 4 Broadcom BCM2711
Cortex-A72 x4
2 GB $45
4 GB $55
NanoPi M4 Rockchip RK3399
Cortex-A72 x2, Cortex-A53 x4
2 GB $75
4 GB $105
Odroid N2 Amlogic S922X
Cortex-A73 x4, Cortex-A53 x2
2 GB $63
4 GB $79

SoC

 BroadcomのArm SoCのCPUはArm設計のごく一般的なコアを搭載しており特筆すべき点は特にない。注目すべきはBroadcom内製のGPU=VideoCoreだろう。RPi 1-3ではVideoCore IV(VC4)が搭載されていたがRPi 4ではVideoCore VI(VC6)にアップグレードされた。

 VideoCoreが注目に値する理由はBroadcom SoCのバックグラウンドにある。Broadcom SoCの出所はスマートフォン用SoCではなくセットトップボックス用SoCである。セットトップボックスとは例えばCATV会社が加入者宅に設置するビデオ視聴ボックスなどがそれで、最近ではAmazon FireTVなどもこれにあたる。そのためVideoCoreのグラフィックスパフォーマンスは御世辞にも良好とは言い難いが、YouTubeやPrimeVideoなどに用いられる動画フォーマットをスムーズに再生することが可能になっている。RPi 4のVC6ではVC4で未サポートとなっていた1080pおよび4K・10-bitカラーのH.265/HEVC動画が再生可能となった。

I/O

 CPUコアの刷新やGigabit Ethernetの対応が話題となりがちだが、ボードをよく観察してみると見た目とは裏腹にRPi 3からの変更が非常に大きいことが分かる。
 RPi 1-3ではSoCからUSB2.0が伸びており、これをSMSC製LAN9514/LAN9515チップセットでEthernetとUSBハブに分配していた。そのため、見た目はEthernet(RPi 3の場合は1000BASE-T)とUSB2.0 x4にも関わらず、実際の帯域は合計で480 Mbpsに過ぎなかった。RPi 4ではこれが大きく変更され、EthernetはBCM2711内蔵・USB3.0・USB2.0はPCIe x1接続・USB2.0はSoCに直接接続する接続形式となり、各インターフェースの規格上の帯域を活かせる構成となった(2019/07/07 青字部分を修正しました)。

 RPi 4RPi 3
Eth

Broadcom BCM2711 integrated
Broadcom BCM5421 PHY
1000BASE-T

Totally
1 Gbps
+ 4 Gbps
+ 960 Mbps
SMSC LAN9515 USB2.0
1000BASE-T (Up-to 300 Mbps)
Totally
480 Mbps
USB3.0 VIALabs VL805 PCIe x1
USB3.0 x2 (5 Gbps x2)
USB2.0 x2 (480 Mbps x2)
N/A
USB2.0 Broadcom BCM2711 Integrated
USB2.0 x2 (480 Mbps x2)

SMSC LAN9515 USB Hub
USB2.0 x4 (totally 480 Mbps)

OS

 RPiのOSとして知られるのはDebian GNU/LinuxをRaspberry Pi向けにカスタマイズしたRaspbianであるが、その内容はあまり知られていない。私見であるがRPi 4 4 GBモデルであればRaspbianを使う必要性を疑うべきだと思う。

 RPi 4はRPi 1より少なくとも8倍ほどは高速であるが、この間にアーキテクチャーも大きく変更されている。ところがRaspbianはRPi 1に最適化されておりRPi 4への最適化は中途半端である。RPi 1に搭載のARM1176はARMv6-A + VFPv2に基づいており、Raspbianはそれに合わせてビルドされている。普通のDebianでarmhfはARMv7-A + VFPv3なので、Raspbianはarmhfを名乗りつつもDebianのarmhfとは互換性が無い(aptリポジトリ―がDebianと別れているのもこのため)。
 他方、Armアーキテクチャーは32-bitと64-bitでハードウェア的に大きく変更されており、同じプロセッサーとソフトウェアの組み合わせでも32-bitと64-bitではパフォーマンスで15~30%の違いがあるとArmは主張している(それを裏付ける調査結果もある)。このためRPi 3 / RPi 4を活かすためにはarm64を使うことが好ましい。
 もっとも、32-bitバイナリーと64-bitバイナリーとでは後者の方がサイズが50%ほども大きくなるため、RPi 3のようなメモリー容量に制限のある組込機器では意図的に32-bitに制限する選択肢もあるが、RPi 4 2GB/4GBではメリットよりデメリットの方が大きいだろう。

 Debian armelDebian armhfDebian arm64Raspbian
Arch ARMv4 ARMv7-A ARMv8-A
AArch64
ARMv6-A
FPU N/A VFPv3 VFPv4 VFPv2

残念ながら、Raspbianではarm64版は提供されておらず、カーネルのみRPi 1用(ARMv6-A + VFPv2)・RPi 2/3用(ARMv7-A + VFPv3)・RPi 4用(ARMv7-A + VFPv3 + LPAE)から選択可能となっている。いずれの場合もUser SpaceはARMv6-A + VFPv2用である。

 RPi用arm64対応ディストリビューションとなると有名どころではUbuntuが提供しているが、後述のBSPのサポートがRaspbianに比べて不完全でボード本来の性能を活かすことができない。

BSP

 組込開発ではPCと異なりデバイス固有のドライバーが必要となるが、それが必ずしもLinux Mainlineにマージされているとは限らないし、場合によってはプロプライエタリ(つまり、将来的にも取り込まれる見込みがない)である。そこで、当該のデバイスドライバーが対応している中で比較的新しいカーネル・ファームウェア・ドライバーを持って来てビルドする。この際、Kernel SpaceとUser Spaceを結ぶのがC libraryで、基本的にUser SpaceはUbuntuでもRed Hatでも何でもいいが、User Space側に含まれるC libraryを使ってKernel Space側をビルドすることで辻褄を合わせる。

 組込プロセッサーの開発キット(ボード)に付属するソフトウェアのパッケージはBSP = Board Support Packageと呼ばれ、UbuntuやCentOSなどをベースとしたLinuxが含まれることが多いが、キモはこのカーネル・ファームウェア・ドライバーのセットである。その観点では、RaspbianはGitHubのlinuxfirmwareリポジトリ―にそれらが含まれておりBSPの変種と見做すこともできる。

 これらのドライバー・ファームウェアはRaspberry Piには含まれているが、RPi用Ubuntuにはほぼ含まれていない。SoCの項でVideoCoreについて触れたが、RPi用Ubuntuではドライバーとファームウェアが欠損しているため、その性能が活かせない状態である。

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海外旅行ノウハウ(2019年版)

2019-06-23 | 旅行 / カルチャー

はじめに

 筆者は欧州在住7年目であるが、そもそものきっかけは英国旅行中に「ここに住もう」と決めたからだった。これまで滞在した国は欧州・アジア環太平洋圏で15カ国ほどである(個人旅行のみ。パック旅行はゼロ回)。そこで得たノウハウを記録しておこうと思う。なお、筆者は博物館やクラシック音楽を愛好しているが、スポーツやロック音楽を愛好する方々でも多くの点で共通する部分はあろうかと思う。

現金・カード

 日本円も現地通貨も、基本的には最小限しか持ち込む必要が無い。代わりに持ち込むべきはVisaなら「Plus」あるいはMasterCardなら「Cirrus」のロゴが入ったクレジットカードである。日本以外の多くの国ではATMを使って現地通貨を安価な手数料でキャッシングできる。欧州の現地で日本円から現地通貨に両替する場合、手数料は10%以上かかることが少なくない。現金の調達・輸送コストを考えれば当然と言える。

 クレジットカード/デビットカードの利用状況は各国の状況によって異なる。
 欧州の場合、北欧・スイスではほぼキャッシュレス化しているが、それ以外の国々では両方が利用されている。また、比較的大きなスーパーやレストランでは利用できても、個人経営のレストランなどでは利用できないこともあるし、屋台やマーケットでは利用できないことが多い。そのため財布に現金は所持しておくべきであるが、上述の通りPlusやCirrusがあれば必要に応じて適宜調達できるので、持ち歩く現金を少なく抑えることができる。

ガジェット

SIMフリースマートフォン
 よく日本国外を旅行する人であれば、SIMフリースマートフォンを入手して現地でSIMを購入して使用することを御勧めする。プリペイドのSIMは「Prepaid SIM」だとか「Pay-as-you-go SIM」だとか呼ばれる(後者は主に英国・アイルランド)。アイルランドを例にとると€15~20で「top-up」(日本語でいうチャージ)すると合計15~20GB程度を最長一カ月間使用できる。これは1~2週間程度の旅行でGoogle Mapを使う分には十分な容量だろう。また、現地人とやり取りする必要がある場合、電話(これはローミングでも行える)のほかSMSが使えるのは利点である。
 もちろん、日本の通信会社との契約を使ったローミングサービスを利用することもできるが、上記の€15~20を高いと思うかどうかではないかと思う。

USBチャージャー
 今の~50代ぐらいの人であればスマートフォンやタブレットを使ってGoogle Mapを利用すると思う。今はスマートフォンに限らず何でもUSB給電で充電する傾向があるので、5口ぐらいのUSBチャージャーがあると纏めて充電できて便利である。
 ここで興味深いのが、最近流行の兆しを見せているUSB Type-CとUSB Power Deliveryで、多くのラップトップPCでUSB給電が当たり前になりつつある。言い換えると、十分な容量のUSBチャージャーさえあればラップトップPCのACアダプターを持ち運ぶ必要がなくなる可能性がある(※もっとも、まだ65W以上のマルチポートのUSBチャージャーが出てきていないので、この二段落目の話題は「将来的にできそう」という話でしかない)。

モバイルバッテリー
 上記とも関連するが、最近は何でもUSB給電で充電できることが多い。出先でGoogle Mapなどを酷使するとスマートフォンやタブレットの電池が無くなることは想定できるし、特に田舎を訪れるとその傾向が大きい(電波を掴みにくいので電池の消耗が激しい・田舎には目印が少ないので迷いやすくGoogle Mapなどを酷使しやすい、など)。そういった場合にモバイルバッテリーが文字通り命綱になる可能性は否定できない。スマートフォンが動けば地図を閲覧できるし電話で助けを呼ぶこともできる。

雑貨

粉末洗濯洗剤
 ある程度の長期間の旅行を想定しているのであれば、衣類の洗濯を想定した方が良い。この場合に問題になりうるのが液体で、航空機のキャビンに持ち込む手荷物の場合は量が制限されるし、スーツケースに入れるとしても質量が問題になったり漏れても困る。そのため、粉末状の洗濯洗剤を

ワイヤータイプのハンガー
 上記の粉石鹸同様に現地で洗濯する場合はハンガーがあると便利であるが、衣類をクリーニングに出したりすると貰える針金製のハンガーは軽くて省スペースで便利である。もっとも、ホテルなどには5本程度のハンガーがあるだろうし、こまめに洗濯するなら必要ない。

買い物袋 / エコバッグ
 最近は日本でもスーパーでは買い物をしても袋を貰えなくなってきているが、特にヨーロッパでは基本的に袋は有料であるため、エコバッグの持参を御勧めする。

チャック付ポリ袋/ジップロック
 意外に便利なのがチャック付ポリ袋である。例えば僻地に散策に行く際にサンドイッチを作って持って行ったり、レストランでパンが余った際に持って帰ったりするのに使える。

ボディータオル(洗浄用)
 ホテルでも民泊でもフェイスタオルやバスタオルは用意してもらえるが、シャワー室で使うボディータオルは備えていない場合が多いし、恐らく他人のものを使うのは憚られるものだろう。これは嵩張らないし軽いので持参すべきである。

シャンプー/リンス/ボディーウォッシュ
 これは出発地から持ち込む物ではなく、現地調達するものである。もしホテルに滞在する場合は必要ないが、ホステルや民泊などを利用する場合は必要になる可能性が高い。
 洗濯用の粉石鹸と違い粉末・固形のものが少ないし、液体だと取り扱いに困る。その一方で現地でスーパーマーケットに行けば比較的小容量のものが安価で売られている。欧州を旅行するような場合、日本からだと10日間程度は滞在するのではと思うが、シャンプー/リンス/ボディーウォッシュが持ち運びで問題となるのは飛行機に搭乗する場合ぐらいである。言い換えれば電車やバスで移動する場合は持ち運べるので、最初に滞在する都市で購入して帰国前に捨てればいい。

段ボール箱
 現地で土産物を買うつもりなら段ボールは持参した方が良い。筆者が日本在住だった際は旅行には段ボールを持参した。現地で大きな買い物をして日本に郵送する場合にも使えるし、スーツケースに入る場合でも緩衝材として使用できる。現地でスーパーマーケットなどに行けば段ボール箱自体は手に入るだろうが、手頃な大きさの段ボールが見つかるとは限らないし、軽いので持参することを考慮したい。

宿泊

 ある意味で最も重要な宿泊の項を最後に持ってきたのには意味がある。宿泊場所はホテルやホステルなど様々であるが、個人的にはAirBnbで民泊をよく利用する。日本では防犯・法的な都合で賛否両論だが欧州では非常に便利である。ただし、現地人の素人とやり取りする以上は現地の習慣・価値観にある程度理解が無いとトラブルになりかねない。私自身、民泊を利用するようになったのは欧州に移住してからである。

 民泊には利点・欠点があるが、個人的に最大の利点は、冷蔵庫を含めキッチンを利用できる・洗濯機が完備されている物件がある・宿泊場所の交通の便が良い の3点ではないかと思う。逆に欠点は、チェックインやチェックアウトがホストの都合により時間帯が限られる場合がある・すべて英語でのやりとり の2点ではないかと思う。

利点:キッチンを利用できる
 筆者自身は旅行中の食事は朝食を除き基本的に外食で済ませるが、自宅ではコーヒー・紅茶を淹れたいという欲求が強い。その際に、インスタントではないコーヒーを淹れたりミルクを保管したりと考えるとキッチンを利用できることが望ましい。
 また、特にイタリアやドイツのような国であれば、現地で作られたハムやチーズやパンをマーケットで購入して朝食や夜食にサンドイッチを自分で作るようなこともできる。筆者の場合は旅先でコンサートやオペラ(概ね19時頃~22時頃)を観ることが多いのだが、この場合、夕食が18:30頃となってしまうため、帰宅後の夜食には便利である。

利点:洗濯機を利用できる
 海外旅行を始めた当初は宿泊日数分相当の衣類を持参しスーツケースを抱えて旅していたのが、現在ではボストンバッグ1個で2週間の旅ができるようになった。洗濯が可能というのは大きい。ボストンバッグ1個でいいということは航空機に搭乗する際に荷物を預ける必要がないという意味である。

利点:交通の便が良い
 そもそも民泊は全般的にホテルより宿泊費が安価なので、低予算で中心地に滞在することができる場合が多い。言い換えれば、同じ予算で立地の良い物件に宿泊できる可能性が高い。

欠点:チェックイン・チェックアウトの時間帯が限られる
 筆者が以前ホテル滞在していた頃は18~20時頃の移動が多かった。主要な観光施設は18時前後には閉まってしまうため時間のロスが少なかったからである。10時を目途にホテルのフロントでチェックアウトして荷物を預かってもらい、17時頃までは観光して、ホテルに戻って荷物を回収してから移動していた。
 しかし、民泊の場合のホストは一般人のため10時にチェックアウトして荷物を預かってもらうことはできないし、20時以降のチェックインというのは無理な場合が多い。

欠点:やりとりが全て英語
 これは筆者の場合は問題となったことはない。しかし、両親と一緒に旅行したところ「私たちには無理」と言われた(※私の両親は民泊に興味があったので、新しい体験という意味で民泊に連れて行った)。また、旅行者程度の英語ができる程度の場合、通常は問題無いだろうが、トラブルに遭遇した場合に対処できない可能性がある。

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OnePlus 7 - 分析/発注編

2019-06-23 | ガジェット / PC DIY

 OnePlus 7(以下、OnePlus製品名はOP {番号}と略す。企業名はOnePlusと記す)を入手予定なので、レビューというよりは専ら記録用に書き記しておこうと思う。

OnePlus 7とはどういうスマートフォンか?

 OnePlusに関して言えば、同社は年2回の頻度で端末をリリースしておりQualcomm製のトップエンド800シリーズのプロセッサーを採用している。一方、Qualcommは年1回の頻度ハイエンドを入れ替えるのでOnePlus製端末では連続する2モデルで必然的に同じプロセッサーが採用されている(例:OP 6と6T)。OP 7/7 ProはQualcomm Snapdragon 855(SDM855。以降SnapdragonはすべてSDM表記)を採用した端末で、恐らく11月頃に登場する次世代端末も同じプロセッサーを採用すると思われる。

Snapdragon 855

 SDM835以降のQualcomm製プロセッサーは非常に紛らわしいネーミングルールを採用しているが、OP 6/6Tに採用されているのがArm Cortex-A75 x4コア+A55 x4コアであるのに対し、OP 7/7 ProではA76 x4コア+A55 4コアとなっており、CPUだけを見た場合、SDM845とSDM855の差がそのままOnePlus 6/6TとOP 7/7 Proとの差異となる。

 このA76であるが、前世代A75と比べ10%以上高速化しておりArmの車載向け(Cortex-A76AE)やサーバー向け(Neoverse-N1)にも採用されている高性能プロセッサーである。
 懸念材料は消費電力≒発熱であろう。というのも、以前ArmはA72コアの後継としてA73コアをリリースした際、ピークパフォーマンスを下げて省電力/低発熱にした結果、ピークパフォーマンスを維持できる時間が長くなりトータルでのパフォーマンスが上がったと説明していたが、A75からA76の進化はその真逆のことをしているからである。高い消費電力は発熱は車載やサーバーでは比較的問題となりにくいが、モバイルでは問題となりうる。しかし、AnandTechに掲載されたQualcommのデータを信じる限りでは消費電力あたりの性能は高そうだ。これは恐らく、製造元TSMCのN7プロセスの優秀さや、Qualcommが行ったA76 4コアを超高速な1プライムコア+高速な3コアとしたカスタマイズなど、様々な要因に起因すると思うが、Huawei/HiSilicon Kirin 980と似たベンチマーク結果を見せていることから鑑みるとArmのA76の設計やTSMC N7プロセスの優秀さが原因と見るのが妥当そうだ。

 ちなみに、先日も書いた通り、A76よりも次世代A77は明らかに高速となることが分かっており、それを搭載するであろうQualcommの次世代SDM865(仮称)は現行SDM855を凌駕することだろう。ただし、上述のQualcommとOnePlusの製品リリースサイクルから鑑みるとSDM865搭載端末が出回るのは1年ほど先のことになる。もし、OP 5/5T/6/6Tなどを既に持っている場合は来年の端末に期待することを御勧めする。

 SDM855に含まれる機能の多くは、Hexagon Tensor Accelerator(HTA)を除きSDM845の進化版・高速化版で性能は向上しているが機能は同一である。HTAはHexagon DSPに追加されたテンソル演算装置で、最近流行りのディープラーニングを使ったアプリケーションを高速化できるとされるが、現在は黎明期といった感じで今後のアプリケーションに期待したい。

カメラ

 OP 7/7 ProのウリのひとつはSony製4800万画素カメラExmor IMX586で、画素数だけなら一般的なデジタル一眼レフカメラに匹敵し、前世代OP 6Tの1600万画素の3倍に達する。一般に画素が増えると1画素あたりの素子小さくなりノイズ耐性が悪化するが、4800万画素ともなると周辺の画素で補うことで1200万画素として使うことも可能で補完は容易であろう。
 このカメラが採用されている背景には、もちろん2018年後半にSony(ほかSamsungやOmniVisionが)4800万画素センサーを供給開始したからというのもあるが、SDM845/855では3200万画素以上を扱えるようになったことも理由であろう。ちなみに、SDM845/855が対応可能な画素数は情報源によってバラバラで判然としない。間違いないのは、デュアルカメラだと2000万画素 x 2・シングルカメラだと4800万画素(Qualcomm公式では19200万画素という数字もあるが…)に対応しており、OP 7/7 Proとも4800万画素 x2のデュアルカメラという構成はプロセッサーの性能の都合上選択できなかっただろうと思われる。

 そのOP 7のカメラであるが、サブカメラとして500万画素の深度センサーを搭載しており、OP 6TやOP 7 Proとの大きな違いとなっている。OP 6Tはスペックが似た1600万画素のカメラ二基を同時に使って合成することでボケを作り出すのに使用できる。OP 7 Proはトリプルカメラで、OnePlus 7と同じ4800万画素のメインカメラに加え1600万画素センサーに13mm広角レンズ・800万画素に78mm中望遠レンズという組み合わせを切り替えて使うことで広角から望遠までの画角に対応できる。これに対し、OP 7のサブカメラは深度センサーで随分と毛色が異なる。

 この場合の深度センサーというのは、イマイチ判然としない(ToF = Time-of-Flightカメラなのか?)。深度センサーというとMicrosoftがKinectでのユーザーの距離認識に使用しているがスマートフォンで同じ使い方はできないし、スマートフォンではAppleがiPhone Xのセルフィ―側に搭載してFaceIDを実装しているがOP 7はメイン側なので認証には使えない。
 OP 7同じ使い方をしているのはHuawei Honor 20/20 Pro/20 View/P30などがあるが、複数あるカメラの1つにToFカメラを搭載している(参考:XDAでのToFカメラについての記事)。ToFカメラをスマートフォン向けにプッシュしているソニーのPR動画を見る限りではAR・VRでの使用を想定しているように見える。

Android

 OnePlus製端末に搭載されているAndroidは、中国向けのHydrogen OSと世界向けのOxygen OSの2系統が存在するが、いずれもAndroid 9.0 Pieベースとなっている。

 筆者はセキュリティー上の懸念から中国製ファームウェアは使用しないので、Lineage OSをはじめとするカスタムAndroidを使用しているが、2019年6月中旬の現時点でOP 7/7 Pro用のカスタムAndroidは存在しない。もっとも、Lineage OSではOnePlus製スマートフォン対応が活発で、OP OneからOP 6までサポートされており今後に期待したいところである。

音楽再生

 最近のスマートフォンで困るのが、3.5mmヘッドフォンジャックが廃止されていることである。OP 7もその例に漏れない。
 実はQualcommはSnapdragon 820の頃からオーディオに力を入れており、Bluetoothでは買収した旧CSRのApt-Xの統合や、SN比100dBを超えるDAC Aqusticを展開するなどしているのだが、3.5mmヘッドフォンジャックが廃止されるということはAqsticは利用できないことになる。

 そこで、一般にはUSB Type-C接続の3.5mmヘッドフォンジャックを変換するアダプターを接続してヘッドフォンを利用するわけであるが、この「変換アダプター」の実態はケーブル内に小型DACを内蔵したUSBオーディオ装置で、御世辞にも高性能・高品質とは言えない。ちなみに、この種のアダプターはOP 7には付属しないそうである。

 そこで、USB Type-C対応のモバイルDACの使用を検討する必要があるが、あまり良い機種が見当たらない。スマートフォンと同等の大きさで高性能を謳うバッテリーを搭載したものが多数見つけられるが、個人的には宅内での利用はともかく外出先で使うのに適しているとは思えない。宅内であればDAC経由でホームシアターなどに接続して視聴すればよかろうが、外出先(例:電車の中・オフィスや学校など)でそれほどの高音質は無意味だし、重さや大きさが邪魔になるだけであろう。個人的には、必要なのはUSB Type-C-3.5mm変換アダプターより一回り大きい程度の、USB電源駆動型の小型軽量USB DACである。

 小型・安価で有名なのがHiFimeDIYのTYPE C USB DACで、定評あるES9018K2Mを搭載して$69という優れモノであるが、相変わらず見た目は悲惨である。あと、スペック的に素晴らしいのはCyberDrive Clarity AuraでXMOSのDSPとCirrus CS4398 DACの組み合わせで$69という代物だが、音質の評価は賛否両論という感じである(どうやら消費電力が大きいようで、供給電力が不足すると音がプツプツ途切れるようだ)。
 ほかに日本で入手可能なものとしてはZuperDAC-SCovia Zeal Edgeなどがあるようだが、私の住む欧州での入手性は良くなさそうだ。

カラーバリエーション / ケース

 そもそもOP 7の提供地域は限られているが、英国ではMirror GreyのみでRedは中国・インドのみの提供だそうだ。筆者の場合は中国版のハードウェアに国際版のOSに書き換えたバージョンを英国の会社より入手するためRedである。筆者の場合は後述の通りケースに入れて使用するので、裸の状態でのスマートフォンの色に大きな意味はないが、ケースの隙間からはみ出す色としては赤の方が映えると思ったからである。

 OP 7の物理形状は1箇所を除いてOP 6Tと同じため、多くのアクセサリー(例:ケース、液晶保護フィルムなど)を共用できる。問題はケースで、カメラ部分の出っ張りがOP 7とOP 6Tで微妙に異なりフラッシュの位置が微妙に異なる(類似のケースの例:OP 7OP 6T)。6月上旬に発売されたばかりのOP 7と違い昨年11月登場のOP 6Tはアクセサリーが揃っているが、使えるものと使えないものがあるので注意が必要そうである。

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今週の興味深かった記事(2019年 第25週)

2019-06-23 | 興味深かった話題

クラウドでHPC

Who needs a supercomputer when you can get a couple of petaflops on AWS? - The Register

 Hisa Ando氏サイト経由だが、Descartes LabsがAWS上に構築したHPCが1.9264PFlopsを達成しTop500で136位にランクインしているそうだ。

 AWSやAzureでそういう需要はあるようで、私が仕事で聞いた話でも、1月に1度だけ1000以上のインスタンスを起動させて月次バッチジョブを行っているなんていう組織もあるらしい(※伝聞の伝聞なので詳しくは知らないし、もし知っていても書けないが)。このような月1回数十時間だけといったような需要では確かに専用のHPCを購入するよりもAWSやAzureで済ませてしまった方が安上がりではある。大量のマシンを購入するにもデーターセンターに設置するにも費用が馬鹿にならないからだ。

 実際、AWSAzureには、そういう用途向けのドキュメントも用意されているので珍しい使い方というわけでもなさそうだ。
 というか、例えばAWSの場合だと単純にユーザーが自分でEC2上にLinuxで構築したノードをクラスター化するような話かと思いきや、実際にはHPC用に様々なサービス・機能が用意されているようで性能については簡単には評価できない。
 AWSで構築する場合、どうやらCfnClusterツール経由でCloudFormationで構築するようだが、管理用ノードは当然EC2としても裏側で構築されるクラスターがどういう構成なのか分からない。Configurationドキュメント見る限りでは計算ノードに使われるのは普通のEC2インスタンスのようだからXen/KVMあたり、あるいはBaremetalインスタンスを使うにしてもネットワーク周りがボトルネックとなる可能性がある。AWS ENAは高速だが40Gb Ethernetなので専用設計のHPCで主流のEDR InfiniBandなどと比較すると分が悪い。また、ストレージについては汎用的なS3ストレージを使うようではあるが、AWS FSx for Lusterでバーストアクセスできるようだから、下手に素人がLusterで構築するよりもパフォーマンスも高いかもしれない。

中古端末は果たして「買い」か?

9,980円でもSurface並みの性能、売れ筋の中古タブレット5選 - マイナビ

 個人的には、特定の機種を除き中古スマートフォンや中古タブレットには魅力を感じない。理由はメーカーのサポートが3年間程度しかないからである。

 TCOという概念を御存知だろうか。Total Cost of Ownershipの三文字略語で購入などの初期導入費用やランニングコストから廃棄までのライフタイムで要する総合的なコストのことである。厳密なTCOの計算は素人には難しいが、高価な製品を購入する際にはアイデアだけでも頭に入れておきたい概念である。

 私事で恐縮だが、例えば4年ほど前に私は自動車を中古で買った。それは私にとって人生で初めて取得したマイカーで自動車保険の都合もあり日本の自動車メーカー製の1Lエンジンの比較的新しいコンパクトである。
 確かに新車に比べれば魅力に欠けるしトラブルや修理が皆無とはいかなかったが、修理すれば十分に実用に耐えるしニーズを満たしている。何より燃費にしろ修理代や部品代にしろランニングコストが安価で済む。新車で購入しても大きくは変わらないであろうガソリン代・税金・自動車保険代を除いた全体のコストは4年間で60万円ほどで、新車を購入するよりも安価である(もちろん、あまりに古い自動車であればガソリン代・税金・自動車保険代も高くなるし、故障する頻度も増えるだろうから、そうなった場合は寿命として新車に乗り換えた方が良いだろう)。
 自動車などで中古が安価なのは、新車と(比較的新しい)中古車とで大きな性能差・機能差が無いことと、製品寿命が固定でないことによる。

 ところが中古スマートフォンや中古タブレットではそうはいかない。
 確かに新品に比べれば中古製品は取得価格自体は安価だろうが、メーカーのサポート期間は3年間程度で固定なので、もしサポート期間≒製品寿命として考えるならよほど取得コストが安価でないと割に合わない。もし仮に1年前の製品だと残り2年間しかメーカーからのアップデートサポートを受けられないから30%程度安価なだけでは安価とはいえない。ましてや記事中にもあるHuawei端末の場合、5月21日から90日間でGoogleサービスを受けられなくなるため、利用形態によっては残りの寿命が60日間を切っていることになる。

 記事中で比較的マシなのはWindowsタブレットで、Windows 10の場合はハードウェアがアップデートに対応可能な限り10年間以上に渡ってサポートを受けられる。

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漫画書評『ダークギャザリング』

2019-06-16 | 漫画書評

「敵は綺麗事の通じない無法の怪…
 だからこの収集を私の糧にする
 万事を成す度量 清濁併せ呑む器を この魂に刻むため」
――『ダークギャザリング』

 正直なところ、キャラクターのデザインは無駄にゴテゴテしていて嫌いだし、部分的に設定の説明が無駄にくどすぎてテンポを悪くしている気がする。例えば、主人公の少女(夜宵)の瞳が髑髏模様なことは非現実的なだけでなく蛇足な感じが強いし、物語の冒頭に登場する主人公の大学生(螢多朗)の過去の引き籠り云々は物語の途中で出てくるのでテンポを悪くしているだけでなく冗長ですらある。しかし、この手のホラー作品で必要な怪異を狩る論理は面白い。

 私自身はオカルトやホラーが苦手だ。実写映画などは怖い映画の何が面白いのか解らないし、そもそも怖い以前に状況が理解不能なものも多い。漫画の場合は怖くないが作者が作った怪異を作者が作ったキャラクターが倒す様はいかにも作り物・マッチポンプのようで白けてしまう。いっそ『モブサイコ100』のようなギャグ漫画の方が開き直っていっそ清々しいというものだ。それでも、このジャンルにも傑作は存在し、私の知る限りでは小野不由美原作の『ゴーストハント』などは金字塔と言っていい出来だと思う(漫画というより原作小説が素晴らしいのだろうが。アニメ化もされている)。
 問題は、これだけ陰陽師だのオカルトだのが溢れ返っている現代日本では依代だの霊寄せだのという単語が大衆誌に普通に登場し多くの人々が何らかの知識を持っている中で、そんな大衆に提示される物語は単にその知識と矛盾しないだけでなく、その知識を前提に読者を驚かせるロジックを編み出さなければならない点にある。「祈祷しました→除霊できました、めでたしめでたし」ではもはやエンターテインメントとして成立しないのである。

 だから、物語は大衆が面白いと感じる新機軸を示さなければならない。その点で小野不由美『ゴーストハント』(アニメ化されたのは2006年のことである)の素晴らしさは、知識の広さ・深さと、それに基づいた論理性だったと思う。では『ダークギャザリング』は?ということであるが、小野不由美『ゴーストハント』が知識の泉だとすれば、『ダークギャザリング』は応用例のデモンストレーションであると私は思う。
 フィクションで悪霊を狩るというのは珍しくないし、形代に霊的な攻撃を肩代わりさせるというのも珍しくないが、人形を依代(ヨリシロ)に退治した悪霊を移して形代(カタシロ)にするとか、その悪霊の入った形代を多数用意することで悪霊同士の拮抗状態を作り出すとか、さらに、それを多数揃えることによって、より強い悪霊に対抗するとかいう発想は初めて見た。読者に『ゴーストハント』程度の知識はある前提で、それを応用すれば理論上こんなことができる、などという常軌を逸した感じが良い。
 加えて、(冒頭で述べたくどい説明には目を瞑るとして)上述のような『ダークギャザリング』とはどういう物語であるのか?について4話(ほぼ単行本1冊分)も費やして、読者に納得させる進め方には好感が持てる。まるで1990年代のRPGゲームのようで取扱説明書不要な解り易さである。

 ところが、物語の面白さに水を差しているのが、冒頭でも述べたキャラクターデザインと蛇足な説明ではないかと私には思える。
 主人公の少女(夜宵)が特殊な力や考えを持っているのはいいとして、髑髏型の瞳や奇抜なファッションには必要性が感じらないし、また、その親戚の女子大生(詠子)が稀に露骨に眼が黒塗りされた怪しい顔になるのも必要性が理解できない。もちろん現実に不可能なことが描写可能なことは漫画の醍醐味ではあるが、やり過ぎの感が拭えない。

 上述の通り、一部で理解できない・納得できない箇所が幾つかあるが、それでも全体としては読者に新しい可能性や論理や世界観を提示していると言える。まだ4話(1990年代のRPGでいうチュートリアルが完了した段階)ということもあり、何処に向かっているのか先がまったく見えない状態であるが、この勢いで我々読者を驚かせてもらいたいものである。

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今週の興味深かった記事(2019年 第24週)

2019-06-16 | 興味深かった話題

$500の12コアCPUとDRAM価格の下落

16コアCPUを749ドル、10TFLOPS GPUを499ドルで投入するAMDの価格戦略を解き明かす - PC Watch
DRAM価格は今年後半も下落が継続、回復は来年以降の可能性 - マイナビ

 AMD Ryzen 3000シリーズが登場するが、今年後半はDDR4-3200メモリーが狙い目になる。Ryzenはアーキテクチャーの都合からCPUクラスター=CCX同士やCCXと周辺回路を接続するInfinity Fabricの動作速度がメモリーコントローラーの動作速度に同期する。つまり、メモリーど動作速度が速い方がマルチCPUでの処理性能が高くなる。
 AMDのプレゼンテーションの表(AnandTechから引用)だとDDR4-3733が最速ということになるが、Ryzenのメモリーコントローラーは動作周波数とランク数とチャンネルあたりのモジュール数の組み合わせが決まっているため、DDR4-3200(1 DIMM/ch x 2 ch)かDDR4-2933(2 DIMM/ch x 2 ch)のいずれかが一般的になりそう。

「江戸城天守」再建計画

「江戸城天守」再建計画 500億円とも言われる費用はどうやって調達するのか - デイリー新潮

 費用とか以前に要らないんじゃないか。
 個人的には歴史や文化財の保存に関心があるので、名古屋城天守(第二次大戦時に焼失)の木造での再建などは妥当だと思う。オリジナルが残っていることに越したことはないが、ある程度資料や遺産が残っているのであれば、忠実な復元は研究の助けになるだけでなく、城や寺院・仏閣を専門とするような建築会社に仕事を供給することができる。名古屋城天守の施工は竹中工務店だそうだが、日本には文化財を担当できるような建設会社が幾つかあるし、金剛組などは現存する世界最古の企業である。そういう企業・職人や技術を保存・継承できたのは伊勢神宮の式年遷宮や姫路城の修理などを通じて、定期的に仕事が供給できたからだと思う。

 それでも、私には江戸城天守の再建は理解できない。
 私は城の専門家やマニアでないどころか、完全な門外漢のため専門的なことは有識者に譲るとして(曰く「江戸城は天守があった期間よりも無かった期間の方が長い」、曰く「物見台の天守よりも、将軍の住居である御殿の方を再建すべき」、曰く「現在の天守台は前田家が築いたもので再建しようとしている寛永の天守には合わない」)、皇居敷地内に高層建築の観光名所を建築するというのはセキュリティー的に問題があるのではないか。高層建築が建ち並ぶ東京の中心なので言い出すと切りがないが、例えば2009年に改築したパレスホテル東京なども、皇居側は窓は皇居内の施設が死角になるように設計されているほか、南側のバルコニーもU字状に凹む形で設置されており皇居が死角となるように設計されている。

日本の最西端

地図マニアが“日本の国境が変わった”と大騒ぎ、「与那国島の新地図」に重大異変!! - デイリー新潮

 おどろき。

 

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今週の興味深かった記事(2019年 第23週)

2019-06-08 | 興味深かった話題

Mac Pro Late 2019

Apple、最大28コアCPU/Vega II Duo×2搭載の「Mac Pro」 - PC Watch
AMD Radeon Pro Vega II Series Announced For Apple Mac Pro - WCCFTech

 2013年に登場して以来更新されてこなかったMac Proがようやく更新された。
 独Gigaの作成したイメージが有名だが、Mac Pro 2013の問題は登場時から指摘されていた。デスクトップPC筐体のデザインに拘るあまり拡張性があまりに乏しく、また、メインボードからM.2 SSDに至るまで使用されているコンポーネントがほぼ全てカスタム仕様のため部品交換によるアップグレードも困難だった。
 それがMac Pro Late 2019ではMac Pro 2009に近い金属筐体のタワー型に戻った。

 新しいMac Pro Late 2019で興味深いのはAMD Vega II Duoが接続されるMPXポートで、一見するとPCIe x16が2ポート縦に並んでいるが、恐らく電気的にはPCIe x16 1ポートのみでPCIe x16(75W)とMPX(475W)で計550Wの電力を供給できる。PCI Express x16が二基並んでいるように見えるが、そういう接続ならPCI Express Gen 3には x32ポートが規格化されているのでそちらを使うべきだし、基板上のPCIeインターフェース近くに見える銀色のチップは恐らくBroadcom(旧PLX Technology)PEX8747あたりのPCIe Switchであろうと思われる。なお、二基のVega II同士はAMD Infinity Fabricで相互接続される。

Cortex-A77

シングルスレッド処理向上で最上級の性能を得たArm「Cortex-A77」のマイクロアーキテクチャ - PC Watch

 Cortex-A77(以下、A77)は期待したくなるプロセッサーだ。
 Armのマーケティングタームには注意する必要があり、例えば前世代A76の発表時に「ラップトップクラス」だと主張していたが、実際にはPC用のIntel CPUとでは依然として隔絶した性能差がある。もちろん、ロジックの規模が1/4程度だったり消費電力が1/10以下だったりと条件が異なるので当然の結果ではあるのだが、A76の「ラップトップクラス」の場合は「同じフォームファクターなら」という、Chromebookぐらいでしかありえない条件付きだった。

 しかし、それでもA77の性能には疑いの余地がない。
 実際のところ、これまでのArmの高性能CPUコアとしてはAppleやSamsungが自社製品に搭載するために開発してきたものが存在する。最新のものではApple A12 Bionicプロセッサーに搭載されたVortexコアやSamsung Exynos 9820プロセッサーに搭載されたExynos M4(Mongoose 4)コアがそれで、AppleのCPUコアは動作周波数あたりの性能(IPC)がIntel Coreシリーズと同程度であることが複数メディアで確認されている。ただし、これらのCPUコアはApple iPhoneシリーズやSamsyng Galaxy Sシリーズといった特定のスマートフォンにしか搭載されてこなかったし、Appleに至っては独自iOSで環境が違うから、それほど多くの人々が選択的にその性能を享受してきたとは言い難い。

 A77で導入された拡張はより多くのメーカー・端末・ユーザーに恩恵をもたらす。
 後藤氏は「わずか」と表現しているが、17%ものリソース増加で20%のIPC向上という数字は安心できる。これまでのArmのプレゼンテーションでは異なる条件での性能比較が多く眉唾物だったが、今回は同じ条件下でのA77のA76に比しての比較の上、追加リソース分の内容からいっても性能向上の裏付けもある。
 詳細は後藤氏の記事に詳しいが、単に命令デコード幅が拡張されただけでなく、それを実際に実行するためにフロントエンドやバックエンドが拡張されており辻褄が合っている。

 Cortex-A77Cortex-A76Monggose 4
Decode 4 MOps/cycle
+ MOP cache
6 MOps/cycle
4 Ops/cycle 6 Ops/cycle
Issue 6 MOps/cycle 4 MOps/cycle 6 Ops/cycle
Dispatch 10 uOps/cycle 8 uOps/cycle 9+3 Ops/cycle
Exec Ports 12 ports 8 ports 12 ports
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日本の外側より:ヴェジタリアン vs ヴィーガン(2019-06-07)

2019-06-07 | 旅行 / カルチャー

 近頃、何かと話題のヴィーガンであるが、ネットで見かける日本語記事と私の理解とでズレが感じられるので書いておきたい。

 ネットで出回っている通り、厳密な定義で分類すると十種類を超えるタイプが定義されているが、欧米で一般人が日常生活の会話で使うのは「ヴェジタリアン」と「ヴィーガン」の二種類の区別だけである。そしてヴェジタリアンとヴィーガンの違いは動物製品の使用の可否である。
 日本でヴィーガンというと完全菜食主義(ダイエタリー・ヴィーガニズム)が主流であるが、欧米人と会話をする場合は「ヴェジタリアン」と表現することを強く御勧めする。確かに厳格な定義では〇〇ヴィーガンなのだが、まず間違いなく誤解を生むからである。

 ちなみに、日本ヴェジタリアン協会もヴィーガンを以下のように定義している

ビーガンは動物に苦みを与えることへの嫌悪から、動物の肉(鳥肉・魚肉・その他の魚介類)と卵・乳製品を食べず、また動物製品(皮製品・シルク・ウール・羊毛油・ゼラチンなど)を身につけたりしない人たち

 私は欧州在住ということもあり、知人にヴェジタリアンは何人かいるが、背景となっている動機はさまざまである。動物性の脂が嫌いという食の好みに基づく人もいれば、動物が可愛そうという倫理に基づく人や、宗教的な道義に基づく人もいる。ちなみに、ハラル肉しか食べないイスラム教徒の場合、日本や英国のようにハラルが入手困難な環境ではヴェジタリアンを名乗る場合もある。そして食べるもの/食べないものの範囲もさまざまである。倫理・宗教に基づく場合は本人の意思と無関係に範囲が決まってくるが、食の好みに基づく場合は魚は大丈夫だったり卵やチーズが大丈夫だったりする。

 私の周りにヴェジタリアンの知人は何人もいるが、ヴィーガンの知人はひとりもいない。それは「周りに動物好きの知人はいるが、グリーンピースメンバーの知人はひとりもいない」と言っているのと同じで、レベルに極端な差があるためである。
 ヴィーガン(※エチカル・ヴィーガニズム)は動物由来の製品全般を否定するため、食肉だけでなく毛皮・皮革・ウール・シルク・フェザーなどの動物から採取される物質でできた製品全般が否定される。こう言うと簡単そうに聞こえるかもしれないが、とんでもない。私がケンブリッジで英語の先生から聞いた話では、デジタルカメラが普及した際にヴィーガンは好意的に受け容れたという。というのも、写真フィルムに動物由来の材料が使われていたからだというのである(※伝聞なので真偽は不明)。医薬品のカプセルなどもゼラチンを用いているから当然避けられるものである。

 このレベルになると、個人の趣向の範疇というよりは信仰に近く、実際、英国ではヴィーガニズムを信仰と認めるか法案が審議されている。私の知人のヴェジタリアンたちが「自分はヴェジタリアンである(ヴィーガンではない)」と名乗っているのもこの明確な差異によるということは容易に理解できる。私にはヴィーガンの友人はいないが、彼らと価値観を共有できないことも原因のひとつであろう。
 Wikipediaのヴィーガニズムの歴史の項を見てもヴェジタリアンと同一視・混同されつつも区別しようという動きが読み取れるが、完全菜食主義(ダイエタリー・ヴィーガニズム)はどこまで行ってもヴェジタリアンの延長に過ぎず、わざわざ名称を区別する必要性が無い。エチカル・ヴィーガニズムがあるからヴェジタリアンとヴィーガンに区別が必要なのである。英国や米国でヴェジタリアン協会とヴィーガン協会が別々に存在する理由も容易に理解できよう。

 日本でヴィーガンというと、なぜか完全菜食主義者が主流のためどうも論点がずれる。
 先日、渋谷でヴィーガンを名乗るアニマルライツセンターがデモを行った際に、これを嫌悪して「ヴィーガンと動物愛護は違う」という主張がネットで散見されたが、欧米で一般的にはこの主張は誤りである。上述の通り欧米で一般的にはヴェジタリアニズムと区別するヴィーガニズムとはエチカル・ヴィーガニズムのことで、動物愛護が原点にあるからである。

# ちなみに筆者はヴェジタリアンでもなければ、過剰な動物愛護も理解できないのでヴィーガンの主張は理解できない

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今週の興味深かった記事(2019年 第22週)

2019-06-01 | 興味深かった話題

AMD ZEN2 / Ryzen 3000シリーズ

AMDがチップレットアーキテクチャのクライアント版Zen 2を投入へ - PC Watch

 AMD ZEN2の詳細が発表された。
 既に同アーキテクチャーを採用した第二世代Epyc発表時に一部は開示されていたが、より詳細な(かつ我々のような一般人に関係の深い)情報が明らかにされた。

 興味深いのはキャッシュ構成ではないかと思う。
 AMDはZEN/ZEN+で512KB/コアのL2キャッシュと8MBの共有L2キャッシュ(CCXと呼ばれるクラスターあたりの容量。L2+L3合計でCCXあたり10MB・8コアのチップレットあたり20MB)を搭載していたが、今回のZEN2で16MBの共有L2キャッシュ(L2+L3合計でCCXあたり18MB・8コアのチップレットあたり36MB)に仕様を変更した。
 興味深いのはCCXあたりのコア数が4コアから増えなかったことではないか。コア数が増えるとコヒーレンシーのトラフィックが増え、例えばコア数が2倍になると2乗分トラフィックが増える。このため、より多くのコアで共有キャッシュを持つ方がトラフィック低減には寄与する。この考え方でいえばEpycでコア数が倍になる/Ryzenでもコア数が50%増えるZEN2では、単にキャッシュ容量を増やすよりも同一チップレット内の2個のCCXを統合した方がいいのでは?とも考えられるがそのようにはならなかった。

Scientifc LinuxとAntergosが開発終了

Yet another Linux distribution shuts down, and the Open Source community should be worried - BetaNews

 歴史が長いScienrific Linuxには驚きを覚えるものの、個人的な感想を率直に述べるなら、Linuxディストリビューションは増えすぎである。

 Scientific LinuxはCentOSと同様にRed Hatの公開するRed Hat Enterprise LinuxのSRPM(ソースコード)を基にビルドされるRHELクローンであるが、CentOSがコミュニティーから発祥したのとは違いフェルミ国立研究所(Fermi National Accelerator Laboratory)とCERN(欧州原子核研究機構)が個別に開発していたLinuxに由来する。2004年からなので、かれこれ15年間も続いたことになり、感慨深いものがある。

 もっとも、それ以外のディストリビューションについては、あまりにも乱立し過ぎているので開発中止に驚きは感じない。

 一般にはRed Hat Enterprise LinuxはじめCentOS・Fedora・Debian・Ubuntu・Linux Mint・SUSE Linux Enterprise/OpenSUSE・Arch Linux・Gentooぐらいしか知られていないだろうから、乱立していると言われてもピンとこないかもしれない。
 しかし、私が個人的によく訪問している私が定期的に読んでいる某個人ブログでは管理人氏が新しいディストリビューションを試されおり、「OpenSUSE(SUSEの開発版・フリー版)」「Pinguy OS(Ubuntu派生)」「Gecko Linux(OpenSUSE派生)」「elementary OS(Ubuntu派生)」「Endless OS(Ubuntu派生)」「KDE Neon」「Bohdi Linux(Ubuntu派生)」「ArchLabs Linux(Arch Linux派生。BunsenLabsにインスパイヤ)」「Linux Lite(Ubuntu派生)」「BunsenLabs(Debianベース。終了したCrunchBang Linux派生)」などが掲載されている(※注:「乱立している」の例を挙げているだけで、これらのプロジェクトは開発中止の話題とは関係ない)。

 Linuxに馴染みの深い人でも、これらの名前を知っていたり使ったことがある人は少ないのではないか。
 多くは、既存のメジャーディストリビューションをベースに、やや趣が異なったデスクトップ環境を提供している程度で、なぜパッケージの提供程度に留まらずディストリビューションまで作ってしまったのか理解に苦しむ。

 私は様々なディストリビューションを試してきたが、「ディストリビューション」として分けるほどの明確なアイデンティティが理解できたプロジェクトは非常に少ない。ここ10年に限れば、明確な目的とアイデンティティを示せたのは、コンテナホストに特化したCoreOS Container LinuxやRancher社Rancher OS、より歴史は長いがミニマルさが受けて一気に普及したAlpine Linux、IntelによるIntel CPUのためのClear Linuxあたりではないか。

 まずContainer Linuxは一応Gentooの派生だが、コンテナーホスト・セキュリティー重視の観点から/var以外をユーザーが変更できない仕様となっている。OSのコアな部分はアップデート時に丸ごと置き換わる。このような仕様では他のディストリビューションに乗せる形では提供不可能で、インストール方法から独自に作り込む必要がある。なお、CoreOSはRed Hatに買収され、Red HatのAtomic Hostと統合されることが発表されている。

 Rancher OSはDockerコンテナーホストとして設計されているが、PID 0がSysV initやSystemdではなくシステムコンテナーという時点で他とは一線を画している。コンテナーはchrootの派生と考えればホストシステムとゲストシステムの環境の隔離のために利用されることはおかしなアイデアではないが、ホストシステム自体をコンテナーにしてしまうというのは非常にユニークである。

 Alpine Linuxは元は組込用だったと理解しているが、Docker社に標準コンテナーゲストOSとして採用されて爆発的に利用が増えた。様々な独自の仕組みが利用されているが、特筆すべきは最小インストール時でメモリー使用量64MB以下・ストレージ使用量8GB以下というフットプリントの小ささだろう。

 Clear LinuxはIntelのIntelによるIntel Coreプロセッサーのためのディストリビューションで、Sandy Bridge以降のプロセッサーに最適化されている代わりに極めて軽量・高速である。パッケージ類はほぼ最新のものが採用され、Linuxカーネルも最新の5.1か、あるいはLTSとして4.19が利用できる。

 上述のLinuxディストリビューションは単にユニークというだけでなく、アーキテクチャーが独自であるだけでなく非常にテクニカルに優れており、新しいディストリビューションを作る意義・思想が強く感じられる。

 それに比べ、多くのLinuxディストリビューションは既存のメジャーディストリビューションにパッケージを追加し(特にデスクトップ周りの)設定を少し弄った程度のものが多い。

中華スマートフォンとの付き合い方

The Good and The Bad about the OnePlus 7 Pro - XDA Developers

 中国OnePlusがOnePlus 7 ProおよびOnePlus 7を発表した。OnePlus 7については6月より限定地域で販売が始まるようだが、OnePlus 7 Proについては5月14日より米国・欧州をはじめワールドワイドで販売が開始されており、今週から各誌でレビューが掲載され始めている。

 中国メーカー製スマートフォンはコストパフォーマンスに優れたスマートフォンを投入している一方でセキュリティーに不安があることから、筆者は中国メーカー製OSをカスタムAndroid OSに入れ替えた上で使用している。
 Lineage OSに代表されるカスタムAndroid OSの導入にはBootloaderのUnlockが欠かせないが、Google Nexus/Pixelや中国製スマートフォンは一般に比較的容易にUnlockできる(Fastbootから "fastboot oem unlock" などでUnlockできるものが多い。それ以外でも公式に申請してunlock用イメージを入手するなどの方法で、多くがunlockできる)。そのため、XDA Developersなどを探せば多くのカスタムAndroid OSを見つけることができることが多い。もっともカスタムAndroid OSの多くはコミュニティー/個人による開発が主流で信頼性には不安があるため、メインのスマートフォンなど信頼性が求められる端末にはLineage OSのようなメジャーなディストリビューションを使うことを御勧めする。

 問題は、それらはコミュニティーによる開発が主流なので、いつサポートが途絶えるか分からない点にある。実際、私が使用しているXiaomi Redmi Note 3 Pro Special Edition(Qualcomm Snapdragon 650ベース)の場合は2018年末にLineage OSのサポートが打ち切られてしまった。2016年に発売されたので実質2年強で信頼できるOSが無くなったことになる。逆に、Google Nexus 4のように2012年の発売から7年を経て未だにLineage OS公式ROMの配布が続いているような端末も存在する。
 このサポート期間の問題には根本的な回避方法は存在しないが、対策として挙げられるのは「ユーザー数の多い」「技術者のユーザーが多い」といった開発コミュニティーが形成されやすい端末を選ぶ必要がある。上述のRedmi Note 3 Proの場合、ユーザー層はマニアックな人々が多そうに思われたが、いかんせん販売地域が限定的(中国・インド・台湾・東欧の一部)だったことから絶対的なユーザー数は少なかったのだろう。Nexus 4の場合はその性格上、開発者などにユーザーが多かったはずだが、安価で広く販売されたので絶対的なユーザー数も多かったのだろうと考えられる。

 前置きが長くなったが、筆者がOnePlus製スマートフォンに期待するのはまさにその部分である。
 単に性能や価格という面でみれば、OnePlus製スマートフォンが特に優れているとは言い難いだろう。中国にはOnePlusの親会社でもあるOppoやXiaomiをはじめとするスマートフォンメーカーが乱立しているからである。しかし、OnePlus製品は欧米で人気のためユーザー数が多く、カスタムAndroid OSの開発も活発である。Androidの公式なリファレンス端末はGoogle Nexus/Pixelなのだろうが、Nexus 5/6以降はXDA Developerでのスレッドを比較してもOnePlus製品の方がコミュニティーが活発である(例:2018年10月のフラッグシップOnePlus 6TGoogle Pixel 3)。
 気になるのはOnePlus 7 ProはともかくOnePlus 7は米国・カナダなどでは販売されないことで、英国では6月より販売されるようだがどの程度普及するのか興味深いところである。

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先週の興味深かった記事(2019年 第21週)

2019-06-01 | 興味深かった話題

ポスト「京」コンピューターの名称が「富岳」に

ポスト「京」スパコンの名称、「富岳」に決定 - マイナビ

 日本最高性能のコンピューター(予定)の名称に日本の最高峰である山の名称を与えることはおかしいことではないものの、(1) 外国などでも散々「ポスト京」で報道された後で遅過ぎやしないか? (2) 富岳の次はどうなるのか?とも思います。

 例えば「Post K computer」でGoogle検索すると1,380万ページがヒットするが「fugaku computer」で検索しても僅か71,000ページしかヒットしない。名称が新しいからということもあろうが既に「ポスト京」で定着してしまっている印象が強い。ちなみに日本語および英語の公式サイトも「Post K」を使っている(https://www.r-ccs.riken.jp/jp/post-k、https://postk-web.r-ccs.riken.jp/)。正式名称を後で決定予定なら「フラッグシップ2020」のような計画名で呼称した方がよかったのではないか。

 Hisa Ando氏が「富士山は日本国内では高さは一番ですが,世界的に見ればより高い山はたくさんあり,それが「富岳」という命名にも反映しているのではないかという見方もできます」と述べられていて苦笑してしまった。
 コンピューターは日進月歩の技術なので、仮に2021年にTop500などで富岳が1位になったとしても、すぐに米エネルギー省のAuroraかFrontierや、国内でも東大・筑波大などのコンピューターに追い越されるはずで、さらに理研自身も2030年までには次世代コンピューターを導入しているはずである。そういう存在に「富岳」と名付けるのはあまり感心しない(もし、フラッグシップ=富岳とするなら、今後は富岳-1・富岳-2とかにするならアリかもしれない)。

Huawei問題

Huawei: ARM memo tells staff to stop working with China’s tech giant - BBC News

 BBCがArmのHuaweiに対するライセンス供与を停止するとBBCが報じている。GoogleがAndroidのライセンス供給停止やAmazonのHuawei製品取扱停止などホットな話題が続いているが、このニュース記事の信憑性にはいささか疑問が残る。
 米国企業であるGoogleやAmazonのアクションは5月15日の米商務省産業安全保障局(BIS)の発表および米合衆国の大統領令に応じたものだが、Armは登記上は英国の企業である(※注:同社の主力製品の半分以上を米国西海岸を含む英国外で設計されているが、本社は英国である)し、英国は米国ほど姿勢を鮮明にしていないため、米国法に従った場合に英国法に抵触する可能性は否定できない。これはGoogleやAmazonが即座に行動を起こしたのに対し、Armの行動がBBCの報じたような「メモ」「関係者の話」のような曖昧な形となっている現況ではないかと邪推する。

 ここでの疑問はHuawei/HiSiliconは将来のアプリケーションプロセッサー(将来のArm製IP)を利用できないとして、既に台湾TSMCで製造されているKirin 980(Arm設計のCortex-A76・Cortex-A55・Mali-G76を採用)やKunpeng 920(ArmよりArmv8.2-Aアーキテクチャライセンスを供与)にまで影響するのか?という点である。ちなみに、いくら中国がコピー天国だといっても製造は台湾TSMCなのでArmがライセンス供与を停止した時点で製造は継続することはできなくなる。

 米当局は3カ月間の猶予を設定したようだが、いずれにせよHuaweiの西側諸国における死に体化は必然のように思われる。
 思うに、ZTEの一件やSupermicro製ボードに埋め込まれたと報じられたスパイチップの騒動の一件といい、中国はいささか米国の警告を軽視していた感じがする。これらは米国が中国を軍事的・政治的脅威として識別したというシグナルである。ちなみに日本のメディアでも、例えば昨年9月にダイヤモンドは「米国が最も潰したい企業」という記事を掲載しているが、それが実行段階に移ったように見える。

 特に昨年10月のSupermicro製ボードの騒動は、これが何の問題なのか明確に示したように思われる。
 実際には、PCサーバーのメインボードに人目につかない小さなチップを追加したぐらいでは情報漏洩を起こすことは困難に思える。Intel AMTのように主要プロセッサーに統合させる場合を除き、OSに認識されずドライバーを必要としないようなハードウェアで効果的な情報漏えいを行えるとは考え難い(逆の言い方をすれば、PnPと標準ドライバーで動いてしまうスパイチップであればその限りではない、ということではあるが)。例えばAmazonの通信の多くはアプリケーション層でTLSなどで暗号化されているであろうし、ストレージに保存される機密情報はIntel CPUと直結したIntelチップセット・TPMで制御されるから、仕様外のハードウェアが暗号化されていない機密データにアクセスすることは困難である。そして、仮に暗号化されたデータが漏洩したとしても、Amazonの大規模トラフィックを解読するには天文学的な労力を要する。つまり、仮にスパイチップが存在したとして現実的に脅威だったかといえば疑問が残る。さらに本件ではSupermicroもAmazonも否定しており、スパイチップの存在を示す写真などの証拠も出てきていない。
 それでも本件が大きな騒動となったのは、これは技術的な問題だったからではなく、中国製造製品への依存による軍事的・政治的に深刻な問題が露見したからである。

 Huaweiが販売するようなAndroidの場合は問題はより深刻である。なにせマイクロプロセッサー・OS・アプリケーションにアクセスできる(=暗号化されていない機密データにアクセスできる)から、実際はどうであれ、いったいどんな情報が漏洩しているか計り知れない。
 誰もが「あの国ならやりかねない」「これは軍事的・政治的な脅威である」と認識し、米国政府に行動を起こす動機と機会と正義を与えたからである。

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