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私的コラム&雑記(&メモ)

今週の興味深かった記事(2018年 第34週)

2018-08-26 | 興味深かった話題

富士通A64FX

 富士通がHotChipsでポスト京コンピューターで使用されるプロセッサーの詳細を発表したらしい。

 気になるのは2022年完成予定のコンピューターでは7nmプロセスは設計・製造技術が古くなってしまいそうなこと。例えば2018年6月のTop500で首位を奪ったIBM/NVIDIA Summitの場合、IBM Power 9は2016年9月のHotChipsで発表、NVIDIA Voltaは2017年12月の発表で、いずれも新しい14nm/12nmプロセスとなっています。もしポスト京が2020年完成予定のシステムであれば今回発表されたスペックで納得だけれども、2022年では陳腐化している可能性は否定できないのでは。2022/23年に登場する5nmプロセスで製造されたプロセッサーを使う米国製スーパーコンピューターに勝てる気がしません。

 もちろん、2022年を目処に5nmで再設計して製造することは可能でしょうが、恐らく各ファウンダリーともEUVに移行しているはずで物理設計は再設計が必要になるし、仮に小型化して48+4コア以上を詰め込むとソフトウェアの最適化が変わってくるので、それはないと推測します。

ニコンZ7/6・Zマウント発表

ニコン、フルサイズミラーレス一眼「Z7」「Z6」発表

 必然的とはいえマウントの口径の大きさに苦笑してしまいました。
 例えばソニーEマウントのα7系のようにもともとAPS-C用で開発されたマウントにフルサイズのセンサーを載せるとケラレが発生しやすくなりレンズの設計が難しくなります。フランジバックが長くとれればニコンFマウントでもフルサイズに対応できるもののそれではミラーの無いコンパクトさが活かせない。そうなるとNikon 1のようにマウント径が小さいままセンサーサイズを小さくするかNikon Zのようにフルサイズセンサーでマウント径を大口径化するしかないので、Nikon 1よりも上のレベルを目指すNikon Zがこういう仕様なのは自然だと思います。

 ソニーの場合はレンズの得た像の不完全さをデジタル的に補正するテクニックを積極的に使っているから、ソニーEマウントのフルサイズはあれはあれでひとつの解なのだろうけれども、よりトラディショナルな方向を追求するニコン(とニコンユーザー)としてはそうはいかなかったのではと思います。

 光学ファインダーかEVFかという違いやボディの大きさ・重さを除けばスペックだけでなく価格も含めD850とZ7は非常によく似ています。私見ですがこのあたりがD一桁台=フラッグシップより一段劣るカメラとしてメーカーと客が妥協できるポイントなのだと思います。

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今週の興味深かった記事(2018年 第33週)

2018-08-18 | 興味深かった話題

NXP買収を断念したQualcommの誤算

NXP買収を断念したQualcommの誤算 - EETimes

 確かに「誤算」ではあったろうと思うけれども、個人的には中国の対応は不当だと思います。
 いわゆる「反トラスト法」のように、合併すると過大な力を持つと懸念される企業合併が当局に規制されるのは理解できます。また、NXPは旧蘭Philipsの半導体部門ですからEUの規制当局から何らかの横槍が入るのも想像できます。さらに、顧客・株主・労働組合・競合他社から批判に晒されるというのも解りますし、そういった逆境の結果として断念するというのも解ります。

 しかし期限までに返答が無いという中国当局の対応はおかしい。

 ところで、今回の買収の過程で調べていてNXP(+ 旧Freescale)の構想している自動車半導体のプレゼン資料が面白いと感じました。内容は恐らくトヨタやホンダがRenesasと構想している内容と類似だろうとは思いますが、資料の出来が良いと思います。ただし、この内容では「Automotive」の一部(例:カメラ・自動運転関連)や「Connectivity」全般(セルラー・Wi-Fi・GNSS)においてNXP + Freescaleがアセットを持っていないので、Qualcommのアセットを想定していたように思います。

「海賊版サイトにDoS攻撃」政府の勉強会で提案

 「海賊版サイトにDoS攻撃」政府の勉強会で提案 日本IT団体連盟の資料公開 - ITMedia

 率直に言って冗談のような話だと思います。
 ほぼすべての国家において、その理由に関わらずサイバー攻撃は違法です。これはたとえ第三者からサイバー攻撃を受けている状況下であっても同様ですし、多くの専門家が海賊版に対抗する様々な手段を提案する一方でサイバー攻撃を提案しないのは、そもそも手段として妥当ではないからです。

私が考えるに、本件における問題点は3点あります。

  1. 海賊版サイトがホスティング会社を利用している場合、ホスティング会社だけでなくインフラを共有する他社/他者サイトにも悪影響を及ぼす可能性がある。もしEコマースサイトが道連れでアクセス不能となった場合、誰が損害賠償するのでしょうか?
  2. 日本における「海賊版」が、そのサイトがホスティングされている現地で違法とは限らない。この場合は「海賊版サイト」に攻撃を実施している日本企業が現地法を犯している可能性が高い
  3. 2. に関連し、中国のような国で企業を国家が保有している場合、日本企業による「海賊版サイト」に対する攻撃は現地国家に対するテロリズム・宣戦布告になりかねない

要するに、仮にYahoo! Japan(※提案者はYahoo! Japanの社長)が「海賊版サイト」にDoS攻撃をしかけることを国家が認めるということは、日本国が1私企業が他国に戦争をしかけるのを許可することになりかねません。それでいいのですか?

 私にいわせれば「海賊版サイト」対策として最も妥当な対抗手段は安価な定額制サービスのみだと思いますが、「海賊版サイト」そのものへのアクセス対策となると取れる選択肢は国内IPSのDNSサーバーからの除外(ブラックリスト化)だけだと思います。特定のURLに対するアクセスを遮断するのは検閲行為にあたります倫理的問題がありますが、DNSレコードにそもそも存在せずDNS LookupでNot Foundを返すのであれば倫理的にも問題はないはずです。ただし、利用者がGoogle DNSを使うなどすれば迂回することは可能です。

 ちなみに、DoS=トラフィックを輻輳させる攻撃という認識が強いですが、すべてのDNSでブラックリスト化(※非現実的ですがあくまで仮定)するなどしてサービス不能にすることも広義ではDoS(Denial of Service = サービス拒否)です(DoS「攻撃」ではないかもしれませんが…)。また、トラフィックを輻輳させるDoS攻撃をしかけるとしても攻撃者(例:Yahoo! Japan)のソースIPアドレスでブロックできるので、たとえ攻撃中であっても一般ユーザー(ブロックされていないソースIPアドレスのユーザー。例:OCNユーザー)が海賊版サイトにアクセス可能かもしれません。

Windows 10 Insider Preview、ファイルエクスプローラにダークテーマ導入

Windows 10 Insider Preview、ファイルエクスプローラにダークテーマ導入 - マイナビ

 本記事について特にコメントはないのですが、1点気になったのが「ダークテーマは特にバッテリの保ちを気にするユーザーが求めていると見られている。ダークテーマを利用することで、ディスプレイの消費電力を抑えて稼働時間を延ばすことができる」というくだりです。本記事に限らず幾つかのニュース記事・ブログ記事で見かけます。

 AMOLEDのようなディスプレイ素子が発光している場合は効果がありますが、LCDの場合は液晶をシャッターのように使って光の透過を調整することで色調を表現しているため、仮に黒く表示されていてもバックライトは点灯したままとなるため省電力には効果がありません。もちろん、本記事の本旨はWindows 10の新機能についてなので詳細に説明するのは蛇足だと思いますが、Microsoftの元記事にもバッテリーについての言及はないため、補足情報としてもイマイチの気がします。

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今週の興味深かった記事(2018年 第32週)

2018-08-13 | 興味深かった話題

AMD Ryzen ThreadRipper 2000WXシリーズ4ダイ版のメモリーコントローラー

AMD Ryzen Threadripper 2990WX and 2950X CPU Performance Benchmarks Leak - WCCFTech

 16-32コアを達成するRyzen ThreadRipper 2000シリーズ(以下TR)のメモリーチャンネル数は4ch・ダイ数は4個ということで1ch/ダイという予想がたてられていました(例:PCwatch後藤氏ASCII大原氏)。これは多数あるコアからのメモリーアクセス時のレイテンシーを均一にするだろうという予測によるものでしたが、AMD発表によると互換性を重視してメモリーコントローラーは2ダイに集約されるようです。個人的には2ダイ版と4ダイ版とのパッケージ(部材・配線および製造工程)の共通化だと想像しています。

 こうなってくると、TRの用途はかなり絞られてくるように思います。
 事実上、メモリーアクセスの速い低遅延コアと遅い高遅延コアとがでてくるので、24 or 32コアは対称とはいえません(というか対称として使わない方が良い)。これがスーパーコンピューターなら低遅延コアをコンピュートに高遅延コアをOSや遅延の大きいI/O処理にまわすということも考えられますが、それだとOS / I/Oコアの比重が多すぎるのでそれも適していません(例えばポスト京用CPUの場合、コンピュート用48コアに対しOS / I/O用は2~4コア)。そして、もしメモリーアクセスが高遅延のコアをI/O用としたとしても、割り込みならともかくポーリングする場合は遠方にあるメモリーにマップされたレジスター(つまりメモリー)にアクセスするわけで、これはある程度は低遅延のコア(というか、メモリーコントローラーの搭載されているダイのInfinity Fabric)のデータ帯域を圧迫することになるでしょうから、I/O用に割り当てるというアイデアも一概に良いとは思えません。

 あと個人的に気になるのは、多コアCPUがでてきてNUMAモードとUMAモードを切り替えるというアイデアが一般的になりましたが、新しいTRはNUMAにもUMAにも使い難いだろうと思います。私は、実アプリケーションはともかくアーキテクチャーという観点ではRyzen系プロセッサーは元からあったメモリーアクセスのばらつきからNUMAが適しているだろうと考えていたのですが、新しいTRの場合はそもそもメモリーコントローラーを周辺に持たないコアがあることからNUMAのときの挙動が想像できません。

産総研/AIST ABCIスーパーコンピューターの温水水冷

ABCIスパコン最大の特徴 温水水冷を読み解く 前編 後編 - マイナビニュース

 先週の「興味深かった記事」にも書いた内容ですが、Hisa Ando氏が詳細に解説されています。

東京オリンピック関連サマータイム導入問題

サマータイム導入で「電波時計が狂う」? メーカーに聞いた - ITmedia

 欧州に住むと解かりますが(※筆者はアイルランド在住)、夏と冬との日照時間の差が日本とは比べ物になりません。
 個人的には+2時間ぽっちの夏時間導入は混乱を招くだけで解決策にはならないと思います。例えば今年7月23日に埼玉県熊谷市で摂氏41.1度を記録しましたが、それは14時34分(仮に+2時間すると16時34分)のことだからです。競技にもよりますが夜間に実施する競技を除けば概ね朝9時~夕方17時の間に実施していると思います。いっそ、F1のシンガポール大会のように夜間メインで実施する方が説得力があるとすら思います(まぁ、無理でしょうけど)。

 …という、実施すべきか否かという話題はさておき…
 夏時間を導入すると各種システム改修に大きなインパクトがあると言われていますが、本記事は電波時計という切り口を取り上げているのが興味深いと思います。個人的にはデータフォーマットについては調べたことが無かったのですが、恐らく外国とはフォーマットが違うものと想像します(※未調査)。なにせ、英国などではかつて「二重夏時間」(+1時間ずらす夏時間に加え、さらに+1時間・計+2時間ずらす夏時間)が存在したため、「夏時間の有無」だけでは判断できないからです。

 いずれにせよ「思い付き」レベルのアイデアは混乱を招くだけのように思います。

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漫画書評『虚構推理』

2018-08-05 | 漫画書評

「世に真怪はあれど 虚怪もまた多くあり
 虚構は虚構に戻れ
 嘘から生まれた怪物は 嘘によって滅びる」
――虚構推理

「本物のデータを隠してごまかし 黒を白と言いくるめ
 幾つもの矛盾する答えを繰り広げ
 それでも そこに一見の合理と十分な愉悦を通すなら 虚構を真実に変えられる
 勝つために惜しむものはありません 全力をもって嘘をつきましょう」
――虚構推理

 この一年間で読んだ漫画の中では『無能なナナ』と並んで、いやそれ以上に意表を突かれた作品といっていいだろうと思う。巷に魔法だの物の怪だのが登場しつつも何故か日常的な論理が展開される自称ファンタジー世界が星の数ほどある中で、本作はそれよりは日常的な世界を舞台に虚構で整合性を合わせるという、なんとも非日常的な論理が展開され他と一線を画す面白さがある。

 読者が日常を生きるせいなのか、はたまた作者がそうだからなのか、巷に溢れるファンタジー世界の多くはまるで21世紀の日本のようで退屈だと思う。英語の慣用句に「過去は別の国」とある通り歴史モノで近世~中世の日本でも観ていた方がまだ新鮮味があるほどに。
 そんな風に退屈に想いながら、ふと特に期待もせずに手にした本作に私は驚かされた。「そんな手があったのか」目から鱗というやつである。幽霊だの河童だのが存在してはいけない世界背景でそれら非日常的な存在のトラブルを嘘・詭弁を用いて辻褄を合わせて解決するなどというのは、魔法だのエルフだの嬉々として登場させるファンタジー世界とはまさに真逆の世界観である。

 虚構「推理」とはいうがミステリーだと私は思わない。なにせ虚構で問題を解決するのだから、推理の過程や証拠が提示されるとは限らない。よく嘘をつくときには事実を半分以上織り交ぜた方が効果的といわれるように、事実は高難易度な嘘をもっともらしく見せるためのフレーバーでしかなく、だから読者が推理して解るという話ではない。いや、むしろその虚偽のウルトラCっぷりを楽しむエンターテインメントだと思った方がよかろうとすら思う。

 しかし、それだけ練られているからこそ、少女漫画風のちんちくりんな主人公の風貌は浮いて見える。人が見かけによらないのと同様に登場人物の見かけをとやかく言うのは間違っているのかもしれないし、そもそも原作と漫画化が別の作者によるものだからストーリーとイラストが食い違って見えるのは当然なのかもしれないが、論理的でくどい内容の主人公が1980年代の少女漫画のような風貌というのは違和感がある。
 実は、冒頭で述べた通り本作を手に取ったのは暇つぶしの偶然だったのだが、少女漫画のような表紙で興味が湧かなかったからである。そういう意味で本作は損をしているとも思う。もっとも、『鋼人七瀬』(〜7巻)が終わる頃には、なにか掘り出し物でも見つけたような奇妙な満足感に浸れたことだけは補足しておきたい。

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今週の興味深かった記事(2018年 第31週)

2018-08-05 | 興味深かった話題

10GbEは普及するのか?

10ギガネットワーク環境が手の届く価格に 格安10GbEスイッチ「QSW-804-4C」 - ITMedia

 個人的には10GbEよりも2.5GbEや5GbEの方が有望だと思っています。
 記事中では「現在のPCで使われている主要なインタフェースの実効転送速度は、USB 3.0が4Gbps、Serial ATA 3.0が4.8Gbpsなので、それよりも2倍強速いことになる。そうなると、(中略)「ローカルにダウンロードすると遅いからファイルサーバ上で作業する」という逆転現象が起きる。」という主張がされているものの、それは言い方を換えると5GbEがあれば十分ということになりかねません。
 ちなみに、帯域だけを比較して「リモートの方がローカルより早い」と言ってしまうことはできず、例えば帯域だけでなく遅延も考慮する必要があるし、多くのファイルフォーマットではローカルにキャッシュを作ってキャッシュを開いたりするから、その場合は「リモートの方がローカルより早い」という事は起こりません。

 確かに、記事中で取り上げられているQnap製品は驚くほどにアグレッシブな価格設定だと思います。多くの製品がポート単価1万円を切らない(※1万円が高いというよりも、ネットワークなので経路上のネットワーク機器や対向するホストをすべて10GbEに揃える必要がある。アダプター x 2 + 5ポートスイッチを揃えるだけで10万円コース)のが普及の障壁になっていると思うが、8ポートで6万円を切るQSW-804-4Cや12ポートで9万円を切るQSW-1208-8Cというのは攻めた価格設定だと思う。

 しかし、そもそも10GBASE-TはPHY(LDPC)周りの回路規模と発熱が問題でチップやデバイスを簡素化できず、その結果として2006年の仕様策定から12年を経ても価格が下がってこないという背景があります。それが最近策定された2.5GbEや5GbEでは解消される予定で、実際、Realtekが既に2.5GbE対応の1チップのネットワークアダプターを出しています(※USB3.1のデバイスは最大で見積もっても消費電力が僅か5V x 900mA = 4.5 W)。もし、今後1~5年間で2.5GbE/5GbEが普及してくると予想します。

産総研のABCIスパコンが正式運用を開始

国内トップ性能となる産総研のABCIスパコン - マイナビ

 冷却に用いられているという「温水冷却」というのが実に興味深いと思います。
 名前こそ聞いたことがあったのですが本当に温水を使っているとは想像していませんでした。そもそも単純に考えれば、冷却とは熱量が高い方から低い方へ熱が移動することで、その移動のしやすさが熱伝導率で表されるので、温水よりも冷水の方が効率的に冷却できるはずだし、水よりも優れた冷媒はあるはず(といっても水は空気よりは熱伝導率が良い)。液体窒素なんかが使われたりするのはそういう背景があります。

 しかし、冷却液の温度を30度以下に設定すると大気の気温との温度差が無くなりヒートポンプで熱を吸い上げる必要があるそうで(確かにそりゃあそうだ)、それに対し温水だと最終的に熱を捨てる大気で冷却できるので、電気代もかからないのでエコということらしい。実際、稼働中のCPUは簡単に50度を超えてくるので30~45度に冷やせるなら問題はないのか。

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