WiiM Pro Plus
以前、自宅オーディオシステム=通称Schilthornシステムを構築した際に残課題(?)となっていた、オーディオストリーマーとしてWiiM Pro Plusを選定した。Amazon.deで値下がり時に購入してEUR 178だった。
実はオーディオストリーマーを所有していなかったこともあり、サブスクリプションに加入しているのはAmazon Primeだけだったりする。ただ、筆者はクラシック好きなので他に以下のようなサービスに対応している事も重要だった。
- Qobuz
- Tidal
- Spotify
機種選定にあたって当初はFiiO R7なども検討していたのだが、FiiO R7が約US$ 700・WiiM Pro Plusが約US$ 200ほどで、筆者個人の使い方ではFiiO R7でないとできない事があるわけでもなくWiiM Pro Plusで十分と判断した。
筆者はストリーマー ー MiniDSP Flex間をアナログ接続を想定したためWiiM Pro Plus(US$ 220ほど)を採用したが、もし、デジタル出力が前提であればWiiM Pro(US$ 150ほど)やWiiM Mini(US$ 110ほど)でも良いかもしれない。また、スピーカーと直接接続するためパワーアンプが必要であれば、WiiM Amp(US$ 300ほど)もあるが、欧州在住ならAudiophonics DAW-S250NC(EUR 900ほど)が御勧めである。ESS ES9038Q2M DACとNCore NC252MP D級パワーアンプとを組み合わせたAudiophonics DA-S250NCに、WiiM Proと同じLinkPlayモジュールを組み込んだ製品である(後述)。
WiiM Pro・WiiM Pro Plus・WiiM AMP、さらにAudiophonics DAW-S250NCはいずれもAmlogic A113XベースのSoMモジュール=LinkPlay A98Mをベースとしてデジタル段以降を別基板にした派生製品である。デジタル出力なら基本的に同じと思われ、デジタル出力やMP3音質のRCA出力ならWiiM Pro、HD音源のアナログ出力ならWiiM Pro Plus、スピーカー出力ならWiiM Ampという棲み分けだろう。一応、Bluetooth入力/出力も可能なのだが、対応コーデックがSBC・AACのみでLDACやaptX HDなどには未対応のため使う気にはなれない。
後述するが関連会社のArlyicブランド製品も同じLinkPlay製モジュールを使っているので使い勝手は概ね同じと思われるが、搭載するSoMモジュールはLinkPlay A31で、これはMediaTek MT7688ベースなのでWiiM Pro系のAmlogic A113Xと比較すると処理性能が低い可能性がある(未使用のため推測)。
Amlogic A113XはArm Cortex-A53 1500 MHz x 4-core・MediaTek MT7688はMIPS24K 580 MHz x 1-coreなので性能的には比較にならない(ざっくり24倍ぐらい?)。オーディオストリームをデコードするだけでは高い処理性能は必要ないが、アプリ操作やAlexaの音声認識など一部の処理ではMIPS24K 580 MHzでは処理が追い付かない可能性がある。例えば初代Amazon EchoではArm Cortex-A8搭載のTI DM3725を使用していたし、あるいはWiiMに似たVolumioの場合もRaspberry Pi Zero(性能的にはMediaTek MT7688に近い)ではなくRaspberry Pi 3/4(性能的にはAmlogic A113Xに近い)を推奨している。
WiiM Pro/Pro Plusの不思議な特徴としてアナログ入力がある。
アナログ入力するとADCでデジタル信号に変換された後、DACでアナログ信号に変換されて出力される。一見すると存在意義が謎だが、WiiMにはスマートフォンのアプリから操作するイコライザー機能が存在しており、入力したアナログ信号をWiiM内蔵のイコライザーで調整して出力できる。
機能だけを見るとMiniDSP等のアクティブクロスオーバーに似ていなくもないが、音響測定して解析した結果をUSB接続のPC経由でDSPにフィードバックして補正するMiniDSPと違い、WiiMのイコライザーはユーザーの聴覚頼りになる上、入力されるアナログ信号の周波数特性がフラットであるという保証も無いので、やはりMiniDSPとは似て非なる変な機能である(一応、測定用のキャリブレーション済みマイクで測定・DEWで解析して、スマートフォン上のアプリのパラメトリックイコライザーでマニュアル補正というのも理屈上では可能だあろうが…WiiM Pro Plus約3万円のユーザーでそういう発想・技術のある人はどれだけいるのだろう?)
音質
WiiM Pro PlusはさすがにS/N比が高く明瞭な音が出る。
US$ 200程度と安価なクラスとしては周波数特性も優秀でSINAD 114dBに達する(参考:Audio Science Review)。DACはAKM AK4493Sであるが、Op-ampは驚くべきことにTI SA5534Aが使われている(1979年からある有名なNE5534と同等品。1回路内蔵)。同じDACを搭載していて評判の良いS.M.S.L SU-1(参考:Audio Scieonce Review)には若干劣るが、人間が聴き分けられるほどの差があるか疑わしい。高性能DACと接続する場合はともかくS.M.S.L SU-1のような低価格DACを組み合わせるぐらいなら音質面でも使い勝手の面でもWiiM Pro Plus内蔵DACで十分ではと思う。
WiiM Pro Plusが優秀な一方で、WiiM Mini・WiiM Pro・WiiM Ampは人間が聴き取れるレベルで測定値が良くない。ノイズフロアは可聴域ではないが高め(約-120 dB)で、ノイズの一部は可聴域(約-90 dB)に達する。デジタル出力専用で使うのが妥当と思う。スピーカーに出力するのであればAudiophonics DAW-S250NCがオススメだが、LinkPlayモジュール無し版のAudiophonics DA-S250NCだとSINAD 104 dBでWiiM Ampとは別次元の性能である。
QobuzのHigh Resolution音源24-bit / 192kHzを再生してみたが、音質は良好でスマートフォン上のアプリから快適に使用できる。MiniDSP Flex側のデジタル入力が既に埋まっている都合でアナログ入力しているが、Bluetooth以外でデジタル入力する方法を考えたいところ。
蛇足
WiiMはLinkPlay社のオーディオブランドでLinkPlay社は米国カリフォルニアに本社を構える米国企業である。もっとも、LinkPlay社・Rakoit社・Arlyic社の創業者・CEOは同一人物と見られ、創業者と幹部は中国系である。Rakoit社・Arlyic社製品はいずれもLinkPlay社製モジュールが中核を担っている。上述の通りLinkPlay社は米国に本社を構えるが出資者にはBaidu(百度)・Edifierなど中国企業が並ぶ。
LinkPlay社製モジュールは他のブランドでも採用されているようで、LinkPlay社サイトの採用事例を御覧頂ければ解るが、ヤマハ・Samsung傘下HarmanのブランドHarman KerdonやJBL・ギターアンプで知られるMarshallなどが含まれる。
核となるLinkPlay社製モジュールはアプリケーションプロセッサーSoCとWi-Fiモジュールとソフトウェアを統合したSoM(System-on-Module)で、これとAndroidアプリ/iOSアプリが通信することでストリーミングコンテンツを操作する。このソフトウェアはWiiM製品もArlyic製品も共通のようである。