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私的コラム&雑記(&メモ)

WiiM Pro Plus

2024-03-30 | オーディオ

WiiM Pro Plus

 以前、自宅オーディオシステム=通称Schilthornシステムを構築した際に残課題(?)となっていた、オーディオストリーマーとしてWiiM Pro Plusを選定した。Amazon.deで値下がり時に購入してEUR 178だった。

 実はオーディオストリーマーを所有していなかったこともあり、サブスクリプションに加入しているのはAmazon Primeだけだったりする。ただ、筆者はクラシック好きなので他に以下のようなサービスに対応している事も重要だった。

  • Qobuz
  • Tidal
  • Spotify

 機種選定にあたって当初はFiiO R7なども検討していたのだが、FiiO R7が約US$ 700・WiiM Pro Plusが約US$ 200ほどで、筆者個人の使い方ではFiiO R7でないとできない事があるわけでもなくWiiM Pro Plusで十分と判断した。
 筆者はストリーマー ー MiniDSP Flex間をアナログ接続を想定したためWiiM Pro Plus(US$ 220ほど)を採用したが、もし、デジタル出力が前提であればWiiM Pro(US$ 150ほど)やWiiM Mini(US$ 110ほど)でも良いかもしれない。また、スピーカーと直接接続するためパワーアンプが必要であれば、WiiM Amp(US$ 300ほど)もあるが、欧州在住ならAudiophonics DAW-S250NC(EUR 900ほど)が御勧めである。ESS ES9038Q2M DACとNCore NC252MP D級パワーアンプとを組み合わせたAudiophonics DA-S250NCに、WiiM Proと同じLinkPlayモジュールを組み込んだ製品である(後述)。
 WiiM Pro・WiiM Pro Plus・WiiM AMP、さらにAudiophonics DAW-S250NCはいずれもAmlogic A113XベースのSoMモジュール=LinkPlay A98Mをベースとしてデジタル段以降を別基板にした派生製品である。デジタル出力なら基本的に同じと思われ、デジタル出力やMP3音質のRCA出力ならWiiM Pro、HD音源のアナログ出力ならWiiM Pro Plus、スピーカー出力ならWiiM Ampという棲み分けだろう。一応、Bluetooth入力/出力も可能なのだが、対応コーデックがSBC・AACのみでLDACやaptX HDなどには未対応のため使う気にはなれない。

 後述するが関連会社のArlyicブランド製品も同じLinkPlay製モジュールを使っているので使い勝手は概ね同じと思われるが、搭載するSoMモジュールはLinkPlay A31で、これはMediaTek MT7688ベースなのでWiiM Pro系のAmlogic A113Xと比較すると処理性能が低い可能性がある(未使用のため推測)。
 Amlogic A113XはArm Cortex-A53 1500 MHz x 4-core・MediaTek MT7688はMIPS24K 580 MHz x 1-coreなので性能的には比較にならない(ざっくり24倍ぐらい?)。オーディオストリームをデコードするだけでは高い処理性能は必要ないが、アプリ操作やAlexaの音声認識など一部の処理ではMIPS24K 580 MHzでは処理が追い付かない可能性がある。例えば初代Amazon EchoではArm Cortex-A8搭載のTI DM3725を使用していたし、あるいはWiiMに似たVolumioの場合もRaspberry Pi Zero(性能的にはMediaTek MT7688に近い)ではなくRaspberry Pi 3/4(性能的にはAmlogic A113Xに近い)を推奨している。

 WiiM Pro/Pro Plusの不思議な特徴としてアナログ入力がある。
 アナログ入力するとADCでデジタル信号に変換された後、DACでアナログ信号に変換されて出力される。一見すると存在意義が謎だが、WiiMにはスマートフォンのアプリから操作するイコライザー機能が存在しており、入力したアナログ信号をWiiM内蔵のイコライザーで調整して出力できる。
 機能だけを見るとMiniDSP等のアクティブクロスオーバーに似ていなくもないが、音響測定して解析した結果をUSB接続のPC経由でDSPにフィードバックして補正するMiniDSPと違い、WiiMのイコライザーはユーザーの聴覚頼りになる上、入力されるアナログ信号の周波数特性がフラットであるという保証も無いので、やはりMiniDSPとは似て非なる変な機能である(一応、測定用のキャリブレーション済みマイクで測定・DEWで解析して、スマートフォン上のアプリのパラメトリックイコライザーでマニュアル補正というのも理屈上では可能だあろうが…WiiM Pro Plus約3万円のユーザーでそういう発想・技術のある人はどれだけいるのだろう?)

音質

 WiiM Pro PlusはさすがにS/N比が高く明瞭な音が出る。
 US$ 200程度と安価なクラスとしては周波数特性も優秀でSINAD 114dBに達する(参考:Audio Science Review)。DACはAKM AK4493Sであるが、Op-ampは驚くべきことにTI SA5534Aが使われている(1979年からある有名なNE5534と同等品。1回路内蔵)。同じDACを搭載していて評判の良いS.M.S.L SU-1(参考:Audio Scieonce Review)には若干劣るが、人間が聴き分けられるほどの差があるか疑わしい。高性能DACと接続する場合はともかくS.M.S.L SU-1のような低価格DACを組み合わせるぐらいなら音質面でも使い勝手の面でもWiiM Pro Plus内蔵DACで十分ではと思う。

 WiiM Pro Plusが優秀な一方で、WiiM MiniWiiM ProWiiM Ampは人間が聴き取れるレベルで測定値が良くない。ノイズフロアは可聴域ではないが高め(約-120 dB)で、ノイズの一部は可聴域(約-90 dB)に達する。デジタル出力専用で使うのが妥当と思う。スピーカーに出力するのであればAudiophonics DAW-S250NCがオススメだが、LinkPlayモジュール無し版のAudiophonics DA-S250NCだとSINAD 104 dBでWiiM Ampとは別次元の性能である。

 QobuzのHigh Resolution音源24-bit / 192kHzを再生してみたが、音質は良好でスマートフォン上のアプリから快適に使用できる。MiniDSP Flex側のデジタル入力が既に埋まっている都合でアナログ入力しているが、Bluetooth以外でデジタル入力する方法を考えたいところ。

蛇足

 WiiMはLinkPlay社のオーディオブランドでLinkPlay社は米国カリフォルニアに本社を構える米国企業である。もっとも、LinkPlay社・Rakoit社・Arlyic社の創業者・CEOは同一人物と見られ、創業者と幹部は中国系である。Rakoit社・Arlyic社製品はいずれもLinkPlay社製モジュールが中核を担っている。上述の通りLinkPlay社は米国に本社を構えるが出資者にはBaidu(百度)・Edifierなど中国企業が並ぶ
 LinkPlay社製モジュールは他のブランドでも採用されているようで、LinkPlay社サイトの採用事例を御覧頂ければ解るが、ヤマハ・Samsung傘下HarmanのブランドHarman KerdonJBL・ギターアンプで知られるMarshallなどが含まれる。

 核となるLinkPlay社製モジュールはアプリケーションプロセッサーSoCとWi-Fiモジュールとソフトウェアを統合したSoM(System-on-Module)で、これとAndroidアプリ/iOSアプリが通信することでストリーミングコンテンツを操作する。このソフトウェアはWiiM製品もArlyic製品も共通のようである。

Comment

廉価ゲーミングコンソール代替の廉価PCを考える: 1. 検討編

2024-03-09 | ガジェット / PC DIY

動機

 第9世代ゲームコンソールが登場したのは2020年後半のことである。これは3年=36ヶ月以上というムーアの法則でいえば2回分相当で、つまり集積回路の集積度は2倍×2回=4倍を達成できる計算になる。

 そこで、本稿のテーマは廉価ゲーミングコンソール(Xbox Series S)相当の性能を同価格帯のPCで代替できないか検討することとなる。
 2020年時点のPCでもフルスペックのゲーミングコンソールと同等以上の性能を達成することは可能だったが2倍程度の費用が必要だった。つまり本稿の検証内容とは、3年間を経て廉価PCの性能が底上げされて廉価ゲーミングコンソール相当の性能を同価格帯のPCで代替できないか?というものである。

 結論から言えば、机上のスペックに基づくと2024年現在どころか現在の路線のCPU/GPUでは3年先まで達成できそうにない。ただし、ユーザー体験というのは机上のスペックの話だけではないので、その辺りも併せて考えてみたい。

 尚、本稿では可能な限り高いコストパフォーマンスを達成するためAmazon・AliExpressなどのオンラインショップで販売されているAMD APU搭載PCをベースに検討している。

スペックの比較検証

 以下は比較的手頃なAMD製APUと、ローエンドのゲームコンソールとを比較したものである。一見して判るのは、RDNA2以降のAPUではスペックシート上ではXbox Series S相当の理論上の演算性能(GFLOPS)を達成可能だが、その一方でメモリー帯域が低くBytes/FLOPSは悪化し続けている。


PC
7840HS
PC
7640HS
PC
7735HS/6800H
PC
5700U
Steam DeckXbox Series S
Price range?> EUR 500???> EUR 350> EUR 200EUR 450EUR 250
SoC codenamePhoenixRembrandtLucienneAerithScarlett
CPUuArchZen 4Zen 3+Zen 2
core#868848
Base freq38004300320018002400
Turbo freq510050004750430035003400
GPUuArchRDNA3 780MRDNA3 760MRDNA2 680MGCN5 Vega8RDNA2RDNA2
CU12 CU
768 SP
8 CU
512 SP
12 CU
768 SP
8 CU
512 SP
8 CU
512 SP
20 CU
1280 SP
Base freq8008004003001000
Turbo freq270026002200190016001565
GFLOPS (FP32)82945324
3380190016004000
MemoryTypeLPDDR5X-7500DDR5-5600LPDDR5X-7500DDR5-5600LPDDR5-6400DDR5-4800DDR4-3200LPDDR5GDDR6
Configx32 4chx64 2chx32 4chx64 2chx32 4chx64 2chx64 2chx32 4chx256
CapacityN/AN/AN/AN/A16 GB10 GB
Bandwidth120.0 GB/s89.6 GB/s120.0 GB/s89.6 GB/s102.4 GB/s76.8 GB/s51.2 GB/s88 GB/s225 GB/s
B/F0.01450.01080.02250.01680.03030.02270.02690.05500.0563

 あまり話題になることがないが、メモリーの性能とは大まかに「遅延」と「帯域」であり、膨大な数の座標データやテクスチャーなどを扱うGPU性能に関わるのは主に「帯域」の方である。
 ゲーミングコンソールやPC用dGPUで高コストながら広帯域のGDDR系メモリー256~512 bit幅で接続されているのはこのためで、上の表でもゲーミングコンソールではBytes/FLOP(B/F)が0.05以上が確保されている。これに対し、汎用的なPC用メモリーを使うAPUではメモリー帯域により性能が制限される。

 そもそも、Ryzen APUファミリーの場合、Zen世代~Zen3世代(2017~2022年)の5年間に渡ってGCN5系GPU最大8~11CUという構成で停滞してきたが、Zen3+世代"Rembrandt"~Zen4世代"Phoenix"/"Hawk Point"ではRDNA系GPUで理論上の演算性能は大幅に向上する一方でB/Fは大幅に悪化し続けている。DDR5/LPDDR5メモリーの採用によりDDR4/LPDDR4メモリー以上の帯域を確保できているが、AMD Ryzen APUファミリーのiGPUの性能向上がメモリー帯域の向上を上回っているためである。

 以下の表の通り、過去のRyzen APUではBytes/FLOPSが概ね0.02付近で設定されてきたが、RDNA3 iGPU搭載の"Phoenix"世代APUから0.01程度に大幅に悪化している。

Family
ExampleGPU
uArch
GPU perf
(GFLOPS)
DRAM SpecDRAM Bandwidth
(GB/sec)
B/F
Ryzen 2000DesktopRyzen 2400GGCN5 Vega 111760.0DDR4-2933 x 2ch46.930.0267
MobileRyzen 2800H1830.4DDR4-2400 x 2ch38.400.0210
Ryzen 3000DesktopRyzen 3400GGCN5 Vega 111971.2DDR4-2933 x 2ch46.930.0238
MobileRyzen 3780U1971.2DDR4-2400 x 2ch38.400.0195
Ryzen 4000DesktopRyzen 4700GGCN5 Vega 82150.4DDR4-3200 x 2ch51.200.0238
MobileRyzen 4800H1792.0DDR4-3200 x 2ch51.200.0286
Ryzen 5000DesktopRyzen 5700GGCN5 Vega 82048.0DDR4-3200 x 2ch51.200.0250
MobileRyzen 5980HX2150.4DDR4-3200 x 2ch51.200.0238
Ryzen 6000MobileRyzen 6980HXRDNA2 680M3686.4DDR5-4800 x 2ch76.800.0208
Ryzen 7000MobileRyzen 7940HSRDNA3 780M8600.0DDR5-5600 x 2ch89.600.0104
Ryzen 8000DesktopRyzen 8700G8907.1DDR5-5200 x 2ch83.200.0093

 ところで、調べていくとRDNA3がスペックシート上の性能と実際の性能とが乖離していることに気付かされる(この辺りの詳細な検証は別記事にする予定である)。
 各メディアによる解説記事を見ると、RDNA3はRDNA2に比してCU内の演算ユニット数が倍増しており、同じCU数なら2倍の理論上の演算性能を発揮することになっている(参考:ASCII.jp4Gamer)。このため、RDNA2世代のRadeon 680MとRDNA3世代のRadeon 780Mとでは同じ12 CUだが理論上の性能が2倍となっている。ところが、実性能では780Mと680Mとでは2倍も性能差は見られずGPUの動作速度向上とメモリー帯域の向上で説明がつく程度に留まっている。

 以下はレビューサイトNotebookCheckに掲載されている3DMarkのGPU周りのスコアを抜き出したもので、RDNA2世代はGCN5世代・RDNA3世代はRDNA2世代と比較した伸び率を記載してある。

3DMarkTheoretical
Performance
(GFLOPS)
Time Spy
Graphics
Ice Storm Unlimited
Graphics
Cloud Gate
Graphics
Fire Strike
Standard Graphics
7840HS (RDNA3 780M)
vs 680M
8294 (+145%)2642 (+19%)430970 (+31%)44721 (+10%)7526 (+13%)
7640HS (RDNA3 760M)
vs 680M
5324 (+58%)2116 (-4%)N/A41767 (+3%)6142 (-7%)
7735HS (RDNA2 680M)
vs Vega8
3380 (+78%)2221 (+92%)329446 (+23%)40724 (+51%)6660 (+81%)
5700U (GCN5 Vega8)19001156267505
26945
3677

 Vega8→680MはiGPU単体で理論上+78%の性能向上なのでシステム全体の実測値で+23%~+92%・平均+61%の性能向上ということで順当な結果となっているが、680M→780Mは理論上+145%の性能向上ながら+10%~+31%・平均+18%の性能向上に留まる。確かに性能は向上しているのだが、理論上の性能向上幅からすると疑問が残る数字となっている。

 メモリー帯域の狭さによって性能向上が制限されているのでは?という疑問もあろうが、それは恐らく違う。なぜなら理論上ではGPU性能もメモリー帯域も上のはずのRyzen 7640HS(Zen 4 6コア+Radeon 760M)はRyzen 7735HS(Zen 3 8コア+Radeon 680M)に比して0~10%ほど劣っているからである(Ryzen 7640HS vs 7735HSRadeon 760M vs 680M)。
 恐らく、筆者の想像ではRDNA3には2種類のバージョンが存在し、下位モデルの構造はRDNA2と同等構成の改良版ではないかと想像している。実際、RDNA3=演算性能がRDNA2の2倍と想定しないならば780M・760Mの理論上の性能は680M比でそれぞれ+23%・-21%で、メモリーの性能向上も鑑みれば、それぞれ+10~+35%・-10~0%というのは概ね順当な数字に思える。

Ryzen 7735HS

 スペックシート上の比較検証と説明は上述の通りだが、実際に実験する検証用マシンとしてRyzen 7735HS搭載機を使用することとする。

 本稿の企画の趣旨からすると、2022年初頭に登場したAPUを採用というのもおかしな話だが、Ryzen 7840HS搭載PCは実際の性能が+10~35%ほど上回る一方で価格もRyzen 7735HS搭載PCの+45%程度・Xbox Series Sの約2倍ほど高価なため趣旨に反すると判断したためである。

 次回はRyzen 7735HS搭載PCのゲームコンソール化を行っていきたい。

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