以前から小出しに書いているが、筆者は新しい自宅用のオーディオシステムを構築中で、その部品のひとつであるOp-Ampについて悩んでいるのでメモ代わりに記録しておこうと思う。
2023.09.18
記事を読み直してみて、目新しくもなく技術的でもなくつまらなかったので脱線したマニアックな話題(?)で内容を一部変更。
2023.09.23
Burr-Brown OPA828が届いたため一部変更。
2023.09.25
Burr-Brown OPA627について加筆
動機
とある超高性能なパワーアンプを入手したのだが、同種のパワーアンプユーザーの間ではOp-Amp交換が流行っている(※この超高性能パワーアンプについては、筆者の新オーディオシステムについての別記事で説明する予定)。
ただし、日本でも20~10年ほど前に流行った中華DACのOp-Amp交換とはやや様相(というか価格帯)が異なり、交換前の標準Op-AmpがTI/NS LM4562やTI/Burr-Brown OPA1612(※これらは普通)ながら、アップグレード先として話題に上るのがDiscrete Op-Ampの米Sparkos Labs SS3602(2回路入り US$ 80ほど)・Sparkos Labs SS2590(1回路入り x 2個 US$ 100ほど)・米Sonic Imagery Labs 994Enh-Ticha(2回路入り US$ 100ほど)・瑞Weiss Engineering OP2-BP(2回路入り US$ 340ほど)、ステレオ・バランス(計4回路)でUS$ 200~680コースといった具合で文字通り桁違いとなっている。
それにも関わらず、ユーザーによっては「Op-Amp交換による、音の違いはほとんど無い」という意見も多い(※そもそものパワーアンプが超高性能なため人間に知覚可能なレベルの違いがほとんど出ない、という意味で一般論として差がでないという意味ではない)。
超高価格製品の並ぶ(電源ケーブルが1万円/mとか)オーディオの世界なので、音のグレードアップのためUS$ 200~680というのはおかしな話でもないのだろうが、人間に知覚可能な差が得られないというのであれば投資の意味が無さそうに思える。
本当に「Op-Amp交換による、音の違いはほとんど無い」のか?
まず「Op-Amp交換による、音の違いはほとんど無い」の部分について、筆者の機種で標準のBurr-Brown OPA1656と手持ちのBurr-Borwn OPA627・Burr-Brown OPA828を使って比較検証した。(2023.09.23追記:OPA828が入手できたため追加)
OPA1656はBurr-Brownの最新のOp-Ampで、安価ながらOPA1612に匹敵・部分的には上回る高性能とも言われる。ニュートラルに低音域から高音域まで再生されており高性能だが距離が感じられ、個人的には音の生々しさに欠けると感じた。
そもそも、筆者はクラシック音楽好き→コンサート好き→(コンサートでの体験の再現のため)オーディオ好きという経緯があるので、生粋のオーディオマニアとは視点や趣向が異なり「コンサートに近い音≒良い音」なのだが、その視点でOPA1656の音を評価するなら、「商業録音」的なキレイさは文句の付け所が無いものの、距離が遠く感じられ演奏者が目の前にいるような生々しさが感じられない。
その意味ではOPA627AUの方が音が分厚く距離が近く感じられる。さすがにコンサートでのライブ演奏とは比較できないものの、演奏者が目の前にいるような感覚は得られる。
ただ、中音域が目立つ一方で高音域の伸びが相対的に感じられず、あえて悪い言い方をすると1980年代の高級オーディオの音を聴いているような錯覚を覚える。本当に「音が良い」と言ってしまっていいのか躊躇われる。
ついでに、これは筆者個人の問題だがOp-Ampが計8回路(2回路 x 4個)必要なのにOPA627AUは2回路化・DIP-8変換済モジュールを2個しかないためOPA627AUに統一することができていない。
OPA828はOPA627とOPA827の後継と位置付けられたOp-Ampで特性もよく似ている。データシート上のスペックでは概ね全項目でOPA627を上回るほか、OPA627より入手性が良いのもポイントである。
OPA828の音はOPA627とOPA1656の中間的に聴こえる。ニュートラルで低音域から高音域まで出ている一方で、楽器が前方のステージ上で鳴っているような感覚を得られる。ただ、OPA627のような中音域の迫力は無い。
とりあえず個人的な結論としては超高性能パワーアンプでも「Op-Amp交換による、音の違いは」あるということで、 とりあえずOPA828に落ち着いた。
そもそも筆者の使っているパワーアンプは特性が非常に良くニュートラルで色付けの無い音なのでOPA828の音質・特性に合致していると思う。
Burr-Brown OPA627
Burr-Brown OPA627については色々と誤情報が錯綜しているように思われるためソースと共に加筆しておきたい(いずれも2023年09月現在):
- OPA627は製造が中止されたとよく言われるが、選別品・DIP8パッケージOPA627BPや一般品・DIP8パッケージOPA627APについては製造中止の旨が見つかるものの、一般品・SOP8パッケージのOPA627AUについての製造中止の記載は見つからない。
- 公式Texas Instrumentsサイトから1個US$24.705~1000個購入で1個あたりUS$16.147で購入することができるほか、2500個単位でも購入できる。公式の記載から推測するに在庫は潤沢にある。
ここで「潤沢にある」の根拠はOPA627AUに関しては「新規設計での使用を推奨しません(Not Recommended for New Design)」の表記が無く「アクティブ」表記だからである。「新規設計での使用を推奨しません」は、メーカー=TIが既存顧客企業(オーディオメーカーや計測機器メーカーなど)の既存設計に対する供給保証のための生涯分の在庫は確保しているが、新規顧客・新規設計のための在庫は無い場合である。言い換えればOPA627AP/BPの在庫はメーカーが確保済分のみだが、OPA627AUは新規設計に対応可能なほど供給可能できる。
そうするとDIP8化して販売している業者が「ヴィンテージ」だの「中古」だの「計測機器からの再利用」だのと表現している点が不可解だが…。
そんなわけで、OPA627は今後も入手可能なはずだが、OPA1656・OPA828が出た現在となっては個人的には価格ほどの価値は無いかと思う。OPA1656は1個あたりUS$1前後・OPA828は1個US$3前後で流通量も潤沢なのでニセモノを掴まされる恐れもない。OPA627の中~低音域の音質が好きであえて選ぶ人もいるだろうが、普通のオーディオ用途なら、低価格重視ならOPA1656・高性能重視ならOPA828で良いのではないか。
Discrete Op-Amp
Discrete Op-Ampは高価だがデータシート上の性能はIC Op-Ampに劣ることが多く、何が優れているのか解り難い。著名な個人ブログで「音の分離が優れる」という意見もあるが、よく判らない。
数値によらない違いとしては、Burson Audioの説明が解り易そうに思う。
IC Op-Ampは容易に集積可能なことからDiscrete Op-Ampでは到底真似できない多数の電子部品を集積している(例:NE5534には53個相当の電子部品が集積されているが、Burson Audio HA-160の入力部は32個しか搭載していない)。ただ、これはIC Op-Ampはオーディオ専用ではないのでDiscrete Op-Ampでは搭載する電子部品を減らせるからでもある。Discrete Op-Ampの利点として、それらの構成部品を制作者が選べるため最適な部品で構成できる。
もっとも、筆者に言わせれば後半はともかく前半は眉唾である。Burson Audioの競合メーカーであるSparkos Labsの場合、下位SS3602は2回路で68個・上位SS2590に至っては2回路で144個もの電子部品を集積している。良好な特性や高い安定性のために物量を投入するというのはDiscrete Op-Ampだろうが普通のことのように思える。
上述のDiscrete Op-AmpメーカーのSparkos Labsは周波数帯域によるGainの変化について、IC Op-AmpのデータシートのOpen-Loop Gainは低周波数帯(例えばOPA627のOpen-Loop Gain=120 dBは0-10 Hzでの数値)だが高周波数帯(例えば10 kHz)ではOpen-Loop Gainは著しく劣化するが、同社製Discrete Op-Ampでは劣化が小さいと主張している(参考)。
Open-Loop Gain (1 Hz) | Open-Loop Gain (10 kHz) | ||
---|---|---|---|
SS3602 | 140 dB | 90 dB | 64.3 % |
SS2590 | 165 dB | 90 dB | 54.5 % |
OPA627 | 120 dB | 63 dB | 52.5 % |
OPA828 | 140 dB | 75 dB | 53.6 % |
THS4631 | 80 dB | 80 dB | 100.0 % |
個人的に興味が出てきたので上述のSparkos・Sonic Imagery・Weiss以外のディスクリートOp-Ampで良さそうなものが無いか並行して調べた。
結論としては、ある程度品質が確かで且つDIP-8接続だと豪Burson Audio Spreme Sound V6・英NewClassD Discrete Op-Amp・波Staccato OSH-DHAなど、日本だとFidelixなど他の選択肢も無くはないが、概ね同価格帯(2回路で概ね1万円~)なうえSparkos・Sonic Imageryの評判が高いため、強いて選択する必要性を感じられない。こうなると「音を良くする」云々よりも、ほぼ個人の趣味の領域である。
DIP-8以外だとAPI(Automated Processes Inc)社製Op-Amp互換のものが幾つか存在する(Sparkos SS2590もそうである)が、巨大で物理的制約も厳しいためさらに難易度は高い。
手頃な価格で入手可能と思われるのが中国製だが…スペックが掲載されていなかったり明らかに桁を間違っていたりするので「ネタ製品」としか考えられず御勧めできない。
余談だが、興味深いことにこれら中華Discrete Op-Ampの多くがマランツ「HDAM」を謳っていることなのだが…実はこれは必ずしも虚偽や冗談とは限らない。実はマランツHDAMの回路図は昔のマランツ製品のサービスマニュアルで公開されており(簡易版の回路図はネットで簡単に見つけることができる)、恐らくはそれを流用している(もっとも、アナログ回路は回路図だけでなく、構成する電子部品やプリント基板の配線で音質が変わるため、回路図を流用しただけでHDAMを名乗るのもどうかとは思うのだが…)。
中華系のDiscrete Op-Ampで比較的マシそうなのは有名なオーディオ機器メーカーAudio-GD製Op-Ampあたりだろうが、寸法が24mm x 24mm x 40mmという超力作である。もっとも、製品ページが作られたのは20年近く前のようで既に終息という噂もある。
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