BroadcomがVMwareを買収
Broadcom、VMwareを610億ドル(約7.8兆円)で買収 - ITMedia
BroadcomがVMwareを買収した理由 実は双方にメリットあり - ITMedia
これらの記事では同じくBroadcomに買収されたソフトウェア企業としてCA TechnologiesとSymantecが挙げられているが、個人的にはVMwareの方がBroadcomの本業=半導体とのシナジーが期待できそうで、むしろVMwareが旧CA Technologies・旧SymantecとBroadcomの本業とを繋ぐ役割を担いそうに思える。
まず記事の説明を訂正すると、2019年にBroadcomはSymantecを買収したが、買収した内容はSymantecブランドと企業向けビジネスで、消費者向けのセキュリティーソフトウェア製品はNortonLifeLockブランドで継続している。そして企業向けビジネスには企業向けソフトウェア製品と企業向けサービスとが含まれるが、Accentureに売却したのは企業向けサービスで、企業向けセキュリティーソフトウェア製品は引き続きBroadcomに残っている。
企業向けサービスとは何かというと、サイバーセキュリティー分野では特に大企業ではMSSP(Managed Security Service Provider)などのサービス名でログの監視・解析といったセキュリティー業務をアウトソーシングするケースが多く、旧Symantecが提供していたMSSPビジネス(約300名)をAccenture(アウトソーシングの世界最大手)が買収したという意味で、ここにソフトウェア製品は含まれない。
その結果、2018年に買収した企業向けセキュリティーソフトウェア企業=旧CA Technologiesと併せてBroadcomは企業向けセキュリティーソフトウェアポートフォリオを手に入れたという認識が正しそうだ。
この2件の買収案件の辻褄は合っているのだが、疑問はBroadcomの本業=半導体とのシナジーではないだろうか。上記のITMedia記事2件目の大原氏の記事でも、売上や収益に関する内容ばかりでシナジーについては一切触れられていない。
Broadcom製品にはセキュリティー機能のある半導体(例えば暗号エンジンを搭載したネットワークアダプター)は存在するが、旧CA Technology製品や旧Symantec製品は直接結びつかない。例えばCA Technologiesは様々なユースケースでの認証技術(例:WebサイトのSingle-Sign-on製品SiteMinderなど)を手掛けるが、Webアプリケーション=アプリケーション層でやり取りされる認証にBroadcomの半導体がどう関わるのか?といえば関係は薄い。
ここで、旧CA Technologies・旧Symantec製品とVMware製品・Broadcom半導体製品とVMware製品というシナジーを考えると見方は変わってくる。
昨今の仮想化はハードウェアアクセラレーションが基本であるが、半導体側で搭載されたアクセラレーターを仮想マシンからシームレスにアクセスさせるには仮想化ソフトウェア側の対応が欠かせない。例えばBroadcom製NICに搭載されたSR-IOV機能に仮想マシンからアクセスするにはハイパーバイザーでのサポートが要るわけで、VMwareはそれを提供している(SR-IOVについては既に対応済だが、今後も同様の事象は発生する)。
仮想マシンや付随するデバイスなどでは認証・暗号化などのセキュリティー技術が必要になり、ここで旧CA Technologies・旧Symantec製品を活用できる。
例えばAWSやAzureなどのクラウドを使用していると認証鍵をプラットフォームのKey Vaultなどを使って利用するが、Key Vaultは専用ハードウェアとソフトウェアの組み合わせで構成されており、シームレスに認証・鍵の管理を行うにはプラットフォーム(クラウドの場合はAWSやAzureだが、本件の場合はVMware製品群)の対応が欠かせない。
例えばAWSのCloudHSMは(Broadcomの競合で、Marvellが買収した)旧Cavium製Liquid Securityであるし、AWS EC2のNitroはKVMベースのハイパーバイザーとAnnapurnaLabs製セキュリティーチップで構成されているが、同様の仕組みはVMware製品とBroadcom製品とで実現可能だろう。仮想マシン技術とセキュリティーチップ(半導体)との間で認証したりセキュアな通信で鍵を取り出したり格納したりするのはソフトウェアだから、ここで旧CA Technologies・旧Symantecの技術を利用できる可能性がある。
もちろん、ここで述べているのは机上の空論(理論上はこんなことができる)レベルの話で、実現するかどうかは今後のBroadcom・VMware次第ではあるが、VMwareの買収は、なかかな面白いと思う。