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私的コラム&雑記(&メモ)

最近の興味深かった話題(2022年第21週)

2022-05-31 | 興味深かった話題

BroadcomがVMwareを買収

Broadcom、VMwareを610億ドル(約7.8兆円)で買収 - ITMedia
BroadcomがVMwareを買収した理由 実は双方にメリットあり - ITMedia

 これらの記事では同じくBroadcomに買収されたソフトウェア企業としてCA TechnologiesとSymantecが挙げられているが、個人的にはVMwareの方がBroadcomの本業=半導体とのシナジーが期待できそうで、むしろVMwareが旧CA Technologies・旧SymantecとBroadcomの本業とを繋ぐ役割を担いそうに思える。

 まず記事の説明を訂正すると、2019年にBroadcomはSymantecを買収したが、買収した内容はSymantecブランドと企業向けビジネスで、消費者向けのセキュリティーソフトウェア製品はNortonLifeLockブランドで継続している。そして企業向けビジネスには企業向けソフトウェア製品と企業向けサービスとが含まれるが、Accentureに売却したのは企業向けサービスで、企業向けセキュリティーソフトウェア製品は引き続きBroadcomに残っている。
 企業向けサービスとは何かというと、サイバーセキュリティー分野では特に大企業ではMSSP(Managed Security Service Provider)などのサービス名でログの監視・解析といったセキュリティー業務をアウトソーシングするケースが多く、旧Symantecが提供していたMSSPビジネス(約300名)をAccenture(アウトソーシングの世界最大手)が買収したという意味で、ここにソフトウェア製品は含まれない。

 その結果、2018年に買収した企業向けセキュリティーソフトウェア企業=旧CA Technologiesと併せてBroadcomは企業向けセキュリティーソフトウェアポートフォリオを手に入れたという認識が正しそうだ。

 この2件の買収案件の辻褄は合っているのだが、疑問はBroadcomの本業=半導体とのシナジーではないだろうか。上記のITMedia記事2件目の大原氏の記事でも、売上や収益に関する内容ばかりでシナジーについては一切触れられていない。
 Broadcom製品にはセキュリティー機能のある半導体(例えば暗号エンジンを搭載したネットワークアダプター)は存在するが、旧CA Technology製品や旧Symantec製品は直接結びつかない。例えばCA Technologiesは様々なユースケースでの認証技術(例:WebサイトのSingle-Sign-on製品SiteMinderなど)を手掛けるが、Webアプリケーション=アプリケーション層でやり取りされる認証にBroadcomの半導体がどう関わるのか?といえば関係は薄い。

 ここで、旧CA Technologies・旧Symantec製品とVMware製品・Broadcom半導体製品とVMware製品というシナジーを考えると見方は変わってくる。
 昨今の仮想化はハードウェアアクセラレーションが基本であるが、半導体側で搭載されたアクセラレーターを仮想マシンからシームレスにアクセスさせるには仮想化ソフトウェア側の対応が欠かせない。例えばBroadcom製NICに搭載されたSR-IOV機能に仮想マシンからアクセスするにはハイパーバイザーでのサポートが要るわけで、VMwareはそれを提供している(SR-IOVについては既に対応済だが、今後も同様の事象は発生する)。

 仮想マシンや付随するデバイスなどでは認証・暗号化などのセキュリティー技術が必要になり、ここで旧CA Technologies・旧Symantec製品を活用できる。
 例えばAWSやAzureなどのクラウドを使用していると認証鍵をプラットフォームのKey Vaultなどを使って利用するが、Key Vaultは専用ハードウェアとソフトウェアの組み合わせで構成されており、シームレスに認証・鍵の管理を行うにはプラットフォーム(クラウドの場合はAWSやAzureだが、本件の場合はVMware製品群)の対応が欠かせない。
 例えばAWSのCloudHSMは(Broadcomの競合で、Marvellが買収した)旧Cavium製Liquid Securityであるし、AWS EC2のNitroはKVMベースのハイパーバイザーとAnnapurnaLabs製セキュリティーチップで構成されているが、同様の仕組みはVMware製品とBroadcom製品とで実現可能だろう。仮想マシン技術とセキュリティーチップ(半導体)との間で認証したりセキュアな通信で鍵を取り出したり格納したりするのはソフトウェアだから、ここで旧CA Technologies・旧Symantecの技術を利用できる可能性がある。

 もちろん、ここで述べているのは机上の空論(理論上はこんなことができる)レベルの話で、実現するかどうかは今後のBroadcom・VMware次第ではあるが、VMwareの買収は、なかかな面白いと思う。

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最近の興味深かった話題(2022年第19週)

2022-05-15 | 興味深かった話題

MIPSがRISC-V対応コアを発表

MIPS Pivots to RISC-V with Performance and Scalability - HPCwire

 MIPSがRISC-V ISA対応CPU IP「eVocore」ファミリーを発表したそうだ。
 MIPSは2020年にRISC-V ISAへの対応を表明していたが、その最初の製品が登場したことになるが、P8700・I8500という型番の示す通り、どうやら従来のMIPS製品(Warriorファミリー・Aptivファミリー)の延長線上という位置付けのようで、公開されたスペックもWarrior P6600・Warrior I6500/I6400とよく似ている。
 一般に、最新の複雑なCPUアーキテクチャーの新規設計には約4年間を要するとも言われるが、2020年に計画の発表・2022年に対応製品の発表というスケジュールは既存コアを流用したと考えれば納得しやすい。

 そもそも、UNIXワークステーション向けのCPU設計を手掛けていた頃のMIPSはMIPS I~MIPS Vといった命令セットを手掛けてきたが、1999年に命令セット体系を刷新しMIPS32・MIPS64に整理され、以降はMIPS32 Release 1~6 / MIPS64 Release 1~6という名称で更新されてきた。例えばWarrior P6600/I6500/I6400/M6200のという型番の場合、P/I/MはArmでいうA/R/Mに相当する種類/クラスを示し、最初の数字はMIPS32/64 Release 6 ISA対応を示している。
 上でも参照したマイナビの記事にも「RISC-V is based on MIPS-4 ISA」というMIPSの主張があるが、MIPS的にはRISC-Vは8番目のISAという位置付けなのだろう(MIPS32/64 Release 7に相当する7xxxファミリーは、かなり特殊な用途向けのため割愛)。

 以下は公開されているスペックを基に表にしたものである(右端は参考までにUC BerkleyのBOOMv3を載せている)。スペックもブロックダイアグラムも詳細が公開されているわけでは無いため一部が抜けているが、RISC-V対応のeVocoreとMIPS64 Release 6対応のWarriorはよく似ていることが解る。


eVocore
P8700
Warrior
P6600
eVocore
I8500
Warrior
I6500
Warrior
I6400
(Reference)
BOOMv3
ISARV64GHCMIPS64 r6RV64GHCMIPS64 r6MIPS64 r6RV64GC
L1$I32-64 KB32-64 KB32-64 KB32-64 KB32-64 KB32 KB
ExecutionOut-of-OrderOut-of-OrderIn-orderIn-orderIn-orderOut-of-Order
SMT SupportN/AN/ASMTSMT1-4SMT1-4N/A
Pipeline stages1616999> 13
Fetch width84???8
Issue width833?24
Exec ports87?767?8
ALU221224
Branch?2??2
MDU111111
FPU222222
SIMD width?128-bit??128-bit
Load/Store212112
L1$D32-64 KB32-64 KB32-64 KB32-64 KB32-64 KB32 KB
InterfaceAXI / ACEOCP 3.0AXI / ACEMCPMCP

 顕著な差異としては eVocoreでは (1) フロントエンド(フェッチ/イシュー/ディスパッチ)が強化されている (2) Load/Storeが強化されている (3) CPUのインターフェースがOCP/MCPから業界でデファクトスタンダードなArm AXI/AHB/ACEに変更された点だろう。(05/21修正)どうやらP6600/I6500などもAXIは利用可能でAXIかOCIから選択可能だったようである。

 最近は人気の無いMIPSであるが、ではMIPSのRISC-V対応が起死回生となるか?というのは今後興味深いところである。
 上の表にもRISC-V本家のUC Berkley BOOMv3のスペックを掲載したが、BOOMv3やSiFive P650などはMIPS製品と同水準の高性能コアも用意しておりMIPSが特別に高性能というようには見えない(組込では必ずしも性能が重要というわけでは無いが)。
(05/21加筆)一見するとフロントエンドだけを見れば高速そうに見えるが、バックエンドが釣り合っていないため、どの程度の速度が出るのか非常に怪しい。例えばApple A14に搭載の"Firestorm"は8-wide issueであるが16程度(Simple ALU x 4・Complex ALU x 2・iDiv x 1・Load x 2・Load/Store x 1・Store x 1・FPU/SIMD x 4・Branch x 2)と推定される強力な実行エンジンがあるからバランスが取れている。P8500/I8500はバックエンドがそれぞれP6600/I6500を若干改良した程度だから、P6600/I6500より若干高速という程度だろう。
 組込IPではツール類・ドキュメント・サポートの充実が重要となるため、RISC-Vでは新参となるMIPSがそれらを充実させられるかどうかが鍵になりそうに思う。

(05/21加筆)
 ちなみに最初の顧客であるが、予想ではIntel傘下のMobilEyeが次々世代製品EyeQ Ultraで採用される可能性が高いと見られる。EyeQ Ultraに搭載予定のCPUコアの製品名は明らかにされていないがRISC-V CPUコアを搭載予定で、現行EyeQ 6はMIPS Warriorコアを採用しているためである。

 ここからは筆者の根拠の無い想像になるが、筆者はIntelは独自RISC-Vコアを開発し、将来のEyeQでもIntel製RISC-Vコアに置き換えると予想しており、その場合はMIPSの採用は中止されるかもしれない。
 筆者がIntelがRISC-Vコアを開発すると予想する理由は (1) 傘下のHabanaLabs・MobilEye・Movidiusの製品や旧AlteraのFPGA製品に組み合わせるにはx86プロセッサーは効率が悪い場合がある (2) 現在のIntelはArmの大口顧客の1社でRISC-Vで置き換えることでライセンスコストを抑えられる (3) IntelはIDM 2.0戦略にあたりSiFiveとの提携などを通じてRISC-Vに取り組んでいる(4) 昨年12月にVIA TechnologyからCentaur Technologyの人材を取得しておりCPU開発チームを1チーム余分に抱えているためである。

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