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私的コラム&雑記(&メモ)

欧州の電源プラグ事情

2022-09-10 | 旅行 / カルチャー

概要

 世の中ではグローバリゼーションだのが叫ばれて久しく、もはや死語のようにすらなっている。その中でも筆者の住む欧州はEU/Euro圏を中心に市場統合が進んでいる地域であるが、それでも国境が無くなったわけではなく、特に各国で法規制が強かったり・市場の寡占が進んでいる市場、例えば銀行・郵便・電話(固定電話・携帯電話)・電力や、古くから普及している規格が存在して今さら置き換え不可能な場合などは現在でも各国がバラバラで残っており統一されていない。
 だから、なのかと思うが…電源プラグ/プラグ受けは各国で異なる。実は欧州は電気的には50Hz・220-240Vで概ね統一されているのであるが、電源プラグ/プラグ受けの物理的形状は完全に互換ではない。

 「互換性がまったく無い」わけでも「完全な互換性がある」わけでもなく「完全に互換ではない」と表現を濁したのは、微妙な非互換性があるからだ。
 上述の通り、欧州の場合は電気的に見れば英国/アイルランドの240V 13A 50Hz以外は、欧州大陸の220V 16A 50Hzで統一されており、プラグ/プラグ受けも接地極が無い場合に関しては一部を除いてタイプC=通称「Europlug」で統一されている。Wikipediaに詳細がある(ただし、事情が複雑なので解かり難い)が、英国/アイルランドのタイプG以外は、接地極が無ければタイプCだが、接地極があると接地極のピンの位置や形状が違ってくる。
 とはいえ、接地極を無視すればタイプCで互換性があるので、旅行などで数日間ほどスマートフォンの充電などで接地極の無いプラグを使用する場合であれば欧州で規格が統一されていると見做していい(なぜかと言うと、日本では欧米と異なり接地極付のプラグが一般的ではないから、変換する場合にも接地極を考える必要が無い=タイプCに変換すれば欧州で使える)。

 ただし、筆者(在欧10年目)のように欧州に長期間住むとなれば少し見方は変わってくる。
 例えば消費電力の大きいデスクトップPCなどを所有するなら接地極は接続すべきだが、接地極の位置やプラグの形状が欧州各国で微妙に異なり、大別すると:

  • フランス型(タイプE:丸形のプラグ受け側に接地極のピン)
  • ドイツ型(タイプF:丸形のプラグの側面に接地極の電極)
  • スイス・リヒテンシュタイン型(タイプJ:+極と-曲の間にある接地極のピンがズレて配置)
  • デンマーク型(タイプK)
  • イタリア型(タイプL:+極と-極に並んで中間に接地極のピン)

などが存在する。地理的に離れたポルトガルとかポーランドとかならまだしも、なぜ隣接し文化的な交流も深いフランス・ドイツ・イタリア・スイスで異なるのか不可解だが、まったく非互換というわけでもなく電気的には互換なので物理形状を変換すれば使用できる(理論上は。自己責任でどうぞ)。

運用

 欧州でも一ヶ所に定住するなら現地に合わせればいいため困ることも無いが、筆者のように欧州内で移住を繰り返すと、接地極の位置が異なるプラグに遭遇することになる。しかし、わざわざケーブルを全交換するわけにもいかないので、効率の良い運用方法が必要になる。

 これは筆者個人の場合だが、筆者の自宅内は接地極なし=タイプC/接地極あり=タイプFで統一している。アイルランド在住時(~今年8月)でもそうしていた。
 その理由は、①欧州で電気製品を買うなら現地かドイツから買うことが多く、フランスやイタリアから買うことは少ない(→つまり電気製品を購入した場合に変換の必要が無いケースが多い)こと②英国/アイルランドのタイプGなどよりも小型で取り回しがし易いためである。特にタイプCは日本から持ち込んだ家電のプラグAを変換しても嵩張らないので手軽である。
 変換方法だが、(a) 変換プラグを使う方法もあるが (b) PCのACアダプターのようにケーブルが分離可能な場合はケーブルごと交換する方法や (c) 変換プラグでマルチタップの大元で変換する方法の3種類の方法が便利だ。(a) (b) については変換プラグやケーブルをAliExpressで1個あたり€0.10~€1.00ぐらいで10~20個ぐらい大量に購入してしまえば安価で済むし、(c) マルチタップは€10.00~€30.00ぐらいして安価ではないが上述の通りタイプFで統一済なので買い替の必要もない。

 ただし、これで上手くいかない場合もある。
 日本のようなタイプAに統一された環境でも起こることだが、電源タップなどでプラグ受けが高密度な場合にプラグ同士が干渉して効率よく挿せなかったりする。そういう場合は特殊なアダプターを別途購入することもある(そういう特殊なアダプターはAliExpressで見つからない場合が多く、それなりにコストがかかる…)。
 筆者が今年8月に移住したスイスでは下の写真のような壁コンセントが一般的である。これはタイプJプラグ x 3を効率良く挿せる機能的でオシャレ(?)な優良デザインだが、筆者のようにタイプFプラグ(大きい丸型)を使うと干渉してしまう。

そのような場合は干渉しない形状のアダプターを探す必要があり、実はAmazon.deで売られている(パッケージ写真の図を参照:通常のアダプターでは左上図のように干渉してしまうので、右上図のようにズラして変換するアダプターである)。

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ワイヤレス ブリッジの導入(その 2)

2022-09-10 | ガジェット / PC DIY

ワイヤレス ブリッジの導入(その 1)

概要

 前回の記事ではワイヤレス ブリッジの概要と導入する動機および導入方法の概要は説明したが、本稿ではより詳細な導入方法の説明しようと思う。

 当初の予定では数種類のデバイスにOpenWrtをインストールして計測しようと思っていたのだが、接続方法から説明した方が良いと思った(後述)のと、個人的にワイヤレス ブリッジ用にルーターを入手したので、その製品を具体例にスペックの説明なども併せて行いたいと思う。

 実は、前回の記事で説明した通り今回の記事は筆者の転居に際して実際に宅内ネットワークを設定しつつ執筆しているのだが、転居先でアパートの共用Wi-Fiインターネットアクセスに接続したところ、家庭でのWi-Fi接続で一般的なSSID + Passwordによる保護ではなく、ホテルなどで見かけるWebポータル画面からユーザー名 + パスワードでログインして接続する方式だった。

接続方法 1:SSID + Passwordで認証する場合

 家庭用のWi-Fi接続などでよくあるのがSSID + Passwordのペアで認証する場合である。PCやスマートフォンを直接接続するのであればここで説明するまでも無いが、OpenWrtなどのルーターの場合は、通常Wireless LAN用に設定されているインターフェースのひとつをWireless WAN用に設定することによって接続する。

 OpenWrtのワイヤレス ブリッジは、Network > Wirelessからワイヤレス接続インターフェースのひとつ(例:radio0)からScanをクリックして接続先のSSIDを探し、clientモードにしてSSID + Passwordのペアで認証して接続した上でwanあるいはwwan(Wireless WAN)ゾーンに割り当てればいい。{wan,wwan}⇔{lan,wlan}のフォワーディングは初期設定されているから、インターフェースを設定してwan/wwanゾーンに割り当てるだけで設定は完了する。このとき、もしWPA2-PSKなどの認証を設定されているならパスワードも設定できる。

接続方法 2:Captive Portalで認証する場合

 ある程度大きなホテルなどでWi-Fiの認証を行う場合、SSID + Passwordのペアではなく、ポータル画面でのUser ID + Passwordという場合もある。この場合、PCやスマートフォンであればWebブラウザーにリダイレクトされるが、ルーターは標準でポータル画面を処理できないため接続方法 1の手順では認証できない。

 OpenWrtの場合はTravelMateのようなパッケージを利用する必要がある。TravelMateはWebユーザーインターフェースもあり、Web管理アプリからワイヤレス接続インターフェースを有効化してwanに設定し・Captive Portal検出を有効化できる。Captive Portalを検出した場合、接続元のPCやスマートフォンなどにポータル画面を転送してPCやスマートフォンのWebブラウザーから認証できる。
 TravelMateを利用しなくても、Web管理アプリからNetwork > DHCP and DNSのRebind Protectionの無効化で接続できる場合もあるようだ(未確認)。

 TravelMateを利用する場合、接続中に接続方法 1相当の操作を行うため、もし接続方法 1が既に設定されている場合は1つの無線インターフェースが重複して設定されてしまうため接続できない可能性があるので削除してからTravelMateで再度設定した方が良い。
 TravelMateのWebユーザーインターフェースを利用する場合はOpenWrtにログインしてServices > TravelMateから設定する(その中にCaptive Portal Detectionという項目も含まれている)が、Wireless Stationタブから設定方法 1相当の設定を行うことになる。このWireless Stationの設定が完了した状態でPCやスマートフォンのWebブラウザーからWebページ(例:Google.com)にアクセスしようとするとCaptive Portal画面にリダイレクトされる。

余談:Xiaomi AX3600

 今回の引越にあたり、筆者は宅内用ルーターとしてXiaomi AX3600を購入・OpenWrtに入れ替えた。Xiaomi AX3600は2020年に登場した当時のハイエンドルーターのひとつであるが、型落のせいか最新のWi-Fi規格への対応が中途半端なせいかAmazon.deで安売されていたので衝動買いした。

 AX3600に搭載されているのはQualcomm IPQ807x "Hawkeye 2"ファミリーのWiSoC IPQ8071Aで、2022年現在の家庭用ハイエンドルーターに搭載されているIPQ8074/8078は改良版にあたる。
 IPQ8074/8078および下位のIPQ6000 "Cypress"ファミリーは共に対応するWi-Fi規格が新しいため、それら最新WiSoCと比較すると2020年のハイエンドIPQ8071/8072/8076などはWi-Fiスペック的に見劣りする(※5 GHz帯で160 MHz接続数が限定される。IPQ8074/8078ではIEEE802.11ax 4x4 160MHzで接続できるが、IPQ8071/8072/8076はIEEE802.11ax 4x4 80MHzまたはIEEE802.11ax 2x2 160MHzとなり、理論上の転送帯域が1/2になる)が、内部的にはIPQ8074/8078とWi-Fi以外はほぼ同じ・IPQ6000より2倍以上高速である。

 もっとも、IPQ8071/8072/8076搭載ルーターの多くは有線1000BASE-Tと無線IEEE802.11axのみの搭載でオーバースペック感は否めず、その意味ではIPQ6000ファミリーの方がバランスが取れているかもしれない。
 IPQ807x "Hawkeye 2"ファミリーに搭載されているNetwork Subsystem(NSS)はNSS全体で37.5 Mpps・ポートあたり10 Mppsという処理性能で明らかに10GbEを処理するために作られており(参考までに、10 Gbpsの標準1500 Byteフレームでのワイヤーレートが822,368 ppsである)、実際に上位モデルは10GbE MAC 2基をWiSoCに統合している。
 しかし、AX3600などは1GbE x 5 + 5 GHz帯802.11ax 2402 Mbps + 2.4 GHz帯 802.11ax 573.5 Mbpsというスペックで、単純に全部足しても4975.5 MbpsでNSSの処理性能が余る。もちろん、企業などで使われるルーター/APのように複雑なフィルタリングルールなどを設定すればNSSの性能は劣化するし、さらにNSSで処理できないような処理(最も端的な例はOpenVPNだろうか)はCortex-A53上のLinuxで処理されるのだが…家庭用ルーターで行われるようなフォワーディングやブリッジングの多くはNSSで完結してしまうような処理が多くCortex-A53 4 coreは負荷0 %・NSSもオーバースペックなんてことも少なくない。

 寡聞にしてIPQ807x搭載の企業向け高性能ルーター/APなどはMikrotik RB3011シリーズぐらいしか知らないのだが、筆者の知る限りで最もIPQ807xの性能を活かせそうなハードウェア構成なのがQNAP QHora-301Wで、10GBASE-T 2ポートを備えOpenWrtベースのQRouter OSで構成されている。
 上述の通りIPQ807xは10GbE MAC 2基を搭載しているため、これらの10GBASE-T 2ポートはPCIe接続ではなくNSSに接続されており10GBASE-T⇔10GBASE-T間のルーティングや10GBASE-T⇔802.11ax間のブリッジングをNSSで処理可能で、IPQ807x本来の性能が発揮できるはずである…のだが、残念ながらネットでレビューなどを検索してみても10GbEに注目したベンチマークを行っているレビュー記事は皆無である。
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