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私的コラム&雑記(&メモ)

今週の興味深かった記事(2019年 第22週)

2019-06-01 | 興味深かった話題

AMD ZEN2 / Ryzen 3000シリーズ

AMDがチップレットアーキテクチャのクライアント版Zen 2を投入へ - PC Watch

 AMD ZEN2の詳細が発表された。
 既に同アーキテクチャーを採用した第二世代Epyc発表時に一部は開示されていたが、より詳細な(かつ我々のような一般人に関係の深い)情報が明らかにされた。

 興味深いのはキャッシュ構成ではないかと思う。
 AMDはZEN/ZEN+で512KB/コアのL2キャッシュと8MBの共有L2キャッシュ(CCXと呼ばれるクラスターあたりの容量。L2+L3合計でCCXあたり10MB・8コアのチップレットあたり20MB)を搭載していたが、今回のZEN2で16MBの共有L2キャッシュ(L2+L3合計でCCXあたり18MB・8コアのチップレットあたり36MB)に仕様を変更した。
 興味深いのはCCXあたりのコア数が4コアから増えなかったことではないか。コア数が増えるとコヒーレンシーのトラフィックが増え、例えばコア数が2倍になると2乗分トラフィックが増える。このため、より多くのコアで共有キャッシュを持つ方がトラフィック低減には寄与する。この考え方でいえばEpycでコア数が倍になる/Ryzenでもコア数が50%増えるZEN2では、単にキャッシュ容量を増やすよりも同一チップレット内の2個のCCXを統合した方がいいのでは?とも考えられるがそのようにはならなかった。

Scientifc LinuxとAntergosが開発終了

Yet another Linux distribution shuts down, and the Open Source community should be worried - BetaNews

 歴史が長いScienrific Linuxには驚きを覚えるものの、個人的な感想を率直に述べるなら、Linuxディストリビューションは増えすぎである。

 Scientific LinuxはCentOSと同様にRed Hatの公開するRed Hat Enterprise LinuxのSRPM(ソースコード)を基にビルドされるRHELクローンであるが、CentOSがコミュニティーから発祥したのとは違いフェルミ国立研究所(Fermi National Accelerator Laboratory)とCERN(欧州原子核研究機構)が個別に開発していたLinuxに由来する。2004年からなので、かれこれ15年間も続いたことになり、感慨深いものがある。

 もっとも、それ以外のディストリビューションについては、あまりにも乱立し過ぎているので開発中止に驚きは感じない。

 一般にはRed Hat Enterprise LinuxはじめCentOS・Fedora・Debian・Ubuntu・Linux Mint・SUSE Linux Enterprise/OpenSUSE・Arch Linux・Gentooぐらいしか知られていないだろうから、乱立していると言われてもピンとこないかもしれない。
 しかし、私が個人的によく訪問している私が定期的に読んでいる某個人ブログでは管理人氏が新しいディストリビューションを試されおり、「OpenSUSE(SUSEの開発版・フリー版)」「Pinguy OS(Ubuntu派生)」「Gecko Linux(OpenSUSE派生)」「elementary OS(Ubuntu派生)」「Endless OS(Ubuntu派生)」「KDE Neon」「Bohdi Linux(Ubuntu派生)」「ArchLabs Linux(Arch Linux派生。BunsenLabsにインスパイヤ)」「Linux Lite(Ubuntu派生)」「BunsenLabs(Debianベース。終了したCrunchBang Linux派生)」などが掲載されている(※注:「乱立している」の例を挙げているだけで、これらのプロジェクトは開発中止の話題とは関係ない)。

 Linuxに馴染みの深い人でも、これらの名前を知っていたり使ったことがある人は少ないのではないか。
 多くは、既存のメジャーディストリビューションをベースに、やや趣が異なったデスクトップ環境を提供している程度で、なぜパッケージの提供程度に留まらずディストリビューションまで作ってしまったのか理解に苦しむ。

 私は様々なディストリビューションを試してきたが、「ディストリビューション」として分けるほどの明確なアイデンティティが理解できたプロジェクトは非常に少ない。ここ10年に限れば、明確な目的とアイデンティティを示せたのは、コンテナホストに特化したCoreOS Container LinuxやRancher社Rancher OS、より歴史は長いがミニマルさが受けて一気に普及したAlpine Linux、IntelによるIntel CPUのためのClear Linuxあたりではないか。

 まずContainer Linuxは一応Gentooの派生だが、コンテナーホスト・セキュリティー重視の観点から/var以外をユーザーが変更できない仕様となっている。OSのコアな部分はアップデート時に丸ごと置き換わる。このような仕様では他のディストリビューションに乗せる形では提供不可能で、インストール方法から独自に作り込む必要がある。なお、CoreOSはRed Hatに買収され、Red HatのAtomic Hostと統合されることが発表されている。

 Rancher OSはDockerコンテナーホストとして設計されているが、PID 0がSysV initやSystemdではなくシステムコンテナーという時点で他とは一線を画している。コンテナーはchrootの派生と考えればホストシステムとゲストシステムの環境の隔離のために利用されることはおかしなアイデアではないが、ホストシステム自体をコンテナーにしてしまうというのは非常にユニークである。

 Alpine Linuxは元は組込用だったと理解しているが、Docker社に標準コンテナーゲストOSとして採用されて爆発的に利用が増えた。様々な独自の仕組みが利用されているが、特筆すべきは最小インストール時でメモリー使用量64MB以下・ストレージ使用量8GB以下というフットプリントの小ささだろう。

 Clear LinuxはIntelのIntelによるIntel Coreプロセッサーのためのディストリビューションで、Sandy Bridge以降のプロセッサーに最適化されている代わりに極めて軽量・高速である。パッケージ類はほぼ最新のものが採用され、Linuxカーネルも最新の5.1か、あるいはLTSとして4.19が利用できる。

 上述のLinuxディストリビューションは単にユニークというだけでなく、アーキテクチャーが独自であるだけでなく非常にテクニカルに優れており、新しいディストリビューションを作る意義・思想が強く感じられる。

 それに比べ、多くのLinuxディストリビューションは既存のメジャーディストリビューションにパッケージを追加し(特にデスクトップ周りの)設定を少し弄った程度のものが多い。

中華スマートフォンとの付き合い方

The Good and The Bad about the OnePlus 7 Pro - XDA Developers

 中国OnePlusがOnePlus 7 ProおよびOnePlus 7を発表した。OnePlus 7については6月より限定地域で販売が始まるようだが、OnePlus 7 Proについては5月14日より米国・欧州をはじめワールドワイドで販売が開始されており、今週から各誌でレビューが掲載され始めている。

 中国メーカー製スマートフォンはコストパフォーマンスに優れたスマートフォンを投入している一方でセキュリティーに不安があることから、筆者は中国メーカー製OSをカスタムAndroid OSに入れ替えた上で使用している。
 Lineage OSに代表されるカスタムAndroid OSの導入にはBootloaderのUnlockが欠かせないが、Google Nexus/Pixelや中国製スマートフォンは一般に比較的容易にUnlockできる(Fastbootから "fastboot oem unlock" などでUnlockできるものが多い。それ以外でも公式に申請してunlock用イメージを入手するなどの方法で、多くがunlockできる)。そのため、XDA Developersなどを探せば多くのカスタムAndroid OSを見つけることができることが多い。もっともカスタムAndroid OSの多くはコミュニティー/個人による開発が主流で信頼性には不安があるため、メインのスマートフォンなど信頼性が求められる端末にはLineage OSのようなメジャーなディストリビューションを使うことを御勧めする。

 問題は、それらはコミュニティーによる開発が主流なので、いつサポートが途絶えるか分からない点にある。実際、私が使用しているXiaomi Redmi Note 3 Pro Special Edition(Qualcomm Snapdragon 650ベース)の場合は2018年末にLineage OSのサポートが打ち切られてしまった。2016年に発売されたので実質2年強で信頼できるOSが無くなったことになる。逆に、Google Nexus 4のように2012年の発売から7年を経て未だにLineage OS公式ROMの配布が続いているような端末も存在する。
 このサポート期間の問題には根本的な回避方法は存在しないが、対策として挙げられるのは「ユーザー数の多い」「技術者のユーザーが多い」といった開発コミュニティーが形成されやすい端末を選ぶ必要がある。上述のRedmi Note 3 Proの場合、ユーザー層はマニアックな人々が多そうに思われたが、いかんせん販売地域が限定的(中国・インド・台湾・東欧の一部)だったことから絶対的なユーザー数は少なかったのだろう。Nexus 4の場合はその性格上、開発者などにユーザーが多かったはずだが、安価で広く販売されたので絶対的なユーザー数も多かったのだろうと考えられる。

 前置きが長くなったが、筆者がOnePlus製スマートフォンに期待するのはまさにその部分である。
 単に性能や価格という面でみれば、OnePlus製スマートフォンが特に優れているとは言い難いだろう。中国にはOnePlusの親会社でもあるOppoやXiaomiをはじめとするスマートフォンメーカーが乱立しているからである。しかし、OnePlus製品は欧米で人気のためユーザー数が多く、カスタムAndroid OSの開発も活発である。Androidの公式なリファレンス端末はGoogle Nexus/Pixelなのだろうが、Nexus 5/6以降はXDA Developerでのスレッドを比較してもOnePlus製品の方がコミュニティーが活発である(例:2018年10月のフラッグシップOnePlus 6TGoogle Pixel 3)。
 気になるのはOnePlus 7 ProはともかくOnePlus 7は米国・カナダなどでは販売されないことで、英国では6月より販売されるようだがどの程度普及するのか興味深いところである。

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先週の興味深かった記事(2019年 第21週)

2019-06-01 | 興味深かった話題

ポスト「京」コンピューターの名称が「富岳」に

ポスト「京」スパコンの名称、「富岳」に決定 - マイナビ

 日本最高性能のコンピューター(予定)の名称に日本の最高峰である山の名称を与えることはおかしいことではないものの、(1) 外国などでも散々「ポスト京」で報道された後で遅過ぎやしないか? (2) 富岳の次はどうなるのか?とも思います。

 例えば「Post K computer」でGoogle検索すると1,380万ページがヒットするが「fugaku computer」で検索しても僅か71,000ページしかヒットしない。名称が新しいからということもあろうが既に「ポスト京」で定着してしまっている印象が強い。ちなみに日本語および英語の公式サイトも「Post K」を使っている(https://www.r-ccs.riken.jp/jp/post-k、https://postk-web.r-ccs.riken.jp/)。正式名称を後で決定予定なら「フラッグシップ2020」のような計画名で呼称した方がよかったのではないか。

 Hisa Ando氏が「富士山は日本国内では高さは一番ですが,世界的に見ればより高い山はたくさんあり,それが「富岳」という命名にも反映しているのではないかという見方もできます」と述べられていて苦笑してしまった。
 コンピューターは日進月歩の技術なので、仮に2021年にTop500などで富岳が1位になったとしても、すぐに米エネルギー省のAuroraかFrontierや、国内でも東大・筑波大などのコンピューターに追い越されるはずで、さらに理研自身も2030年までには次世代コンピューターを導入しているはずである。そういう存在に「富岳」と名付けるのはあまり感心しない(もし、フラッグシップ=富岳とするなら、今後は富岳-1・富岳-2とかにするならアリかもしれない)。

Huawei問題

Huawei: ARM memo tells staff to stop working with China’s tech giant - BBC News

 BBCがArmのHuaweiに対するライセンス供与を停止するとBBCが報じている。GoogleがAndroidのライセンス供給停止やAmazonのHuawei製品取扱停止などホットな話題が続いているが、このニュース記事の信憑性にはいささか疑問が残る。
 米国企業であるGoogleやAmazonのアクションは5月15日の米商務省産業安全保障局(BIS)の発表および米合衆国の大統領令に応じたものだが、Armは登記上は英国の企業である(※注:同社の主力製品の半分以上を米国西海岸を含む英国外で設計されているが、本社は英国である)し、英国は米国ほど姿勢を鮮明にしていないため、米国法に従った場合に英国法に抵触する可能性は否定できない。これはGoogleやAmazonが即座に行動を起こしたのに対し、Armの行動がBBCの報じたような「メモ」「関係者の話」のような曖昧な形となっている現況ではないかと邪推する。

 ここでの疑問はHuawei/HiSiliconは将来のアプリケーションプロセッサー(将来のArm製IP)を利用できないとして、既に台湾TSMCで製造されているKirin 980(Arm設計のCortex-A76・Cortex-A55・Mali-G76を採用)やKunpeng 920(ArmよりArmv8.2-Aアーキテクチャライセンスを供与)にまで影響するのか?という点である。ちなみに、いくら中国がコピー天国だといっても製造は台湾TSMCなのでArmがライセンス供与を停止した時点で製造は継続することはできなくなる。

 米当局は3カ月間の猶予を設定したようだが、いずれにせよHuaweiの西側諸国における死に体化は必然のように思われる。
 思うに、ZTEの一件やSupermicro製ボードに埋め込まれたと報じられたスパイチップの騒動の一件といい、中国はいささか米国の警告を軽視していた感じがする。これらは米国が中国を軍事的・政治的脅威として識別したというシグナルである。ちなみに日本のメディアでも、例えば昨年9月にダイヤモンドは「米国が最も潰したい企業」という記事を掲載しているが、それが実行段階に移ったように見える。

 特に昨年10月のSupermicro製ボードの騒動は、これが何の問題なのか明確に示したように思われる。
 実際には、PCサーバーのメインボードに人目につかない小さなチップを追加したぐらいでは情報漏洩を起こすことは困難に思える。Intel AMTのように主要プロセッサーに統合させる場合を除き、OSに認識されずドライバーを必要としないようなハードウェアで効果的な情報漏えいを行えるとは考え難い(逆の言い方をすれば、PnPと標準ドライバーで動いてしまうスパイチップであればその限りではない、ということではあるが)。例えばAmazonの通信の多くはアプリケーション層でTLSなどで暗号化されているであろうし、ストレージに保存される機密情報はIntel CPUと直結したIntelチップセット・TPMで制御されるから、仕様外のハードウェアが暗号化されていない機密データにアクセスすることは困難である。そして、仮に暗号化されたデータが漏洩したとしても、Amazonの大規模トラフィックを解読するには天文学的な労力を要する。つまり、仮にスパイチップが存在したとして現実的に脅威だったかといえば疑問が残る。さらに本件ではSupermicroもAmazonも否定しており、スパイチップの存在を示す写真などの証拠も出てきていない。
 それでも本件が大きな騒動となったのは、これは技術的な問題だったからではなく、中国製造製品への依存による軍事的・政治的に深刻な問題が露見したからである。

 Huaweiが販売するようなAndroidの場合は問題はより深刻である。なにせマイクロプロセッサー・OS・アプリケーションにアクセスできる(=暗号化されていない機密データにアクセスできる)から、実際はどうであれ、いったいどんな情報が漏洩しているか計り知れない。
 誰もが「あの国ならやりかねない」「これは軍事的・政治的な脅威である」と認識し、米国政府に行動を起こす動機と機会と正義を与えたからである。

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