釋超空のうた (もと電子回路技術者による独断的感想)

文系とは無縁の、独断と偏見による感想と連想と迷想!!

及び釋超空のうたとは無縁の無駄話

雑談:『みるい』という方言

2013-01-03 14:06:53 | その他の雑談
私は遠州の片田舎に生まれた。
この地方に『みるい』という方言がある。
この方言に関して、ちょっと良い話があるので紹介しよう。
***
もう随分昔のことです。私が故郷を離れてから、だいぶ過ぎていた頃ですから、昭和四十年あたりだと思います。その頃の或る日、私は何気なくラジオを聞いていました。
『敗戦前後の忘れ得ぬ体験談』という趣旨の番組でした。その番組で、在る女性が『みるい』の体験談を話始めたのです。そのラジオ番組を、ボンヤリと聞いていた私は、思わず聞きいりました。上記したように『みるい』とは我が故郷の方言だったからです。その女性の方の体験とは以下のようなものでした。
***
あの敗戦直後、この女性が、幼い子を連れて、静岡県の田舎に疎開してきたそうです。どういう理由で、その田舎に疎開してきたかは覚えていませんが、ともかく、この若い母親とその幼い子が、見も知らない土地にやって来た。来たものの、見知らぬ土地故、道端で途方にくれていたそうです。当時のことですから食糧難はあたりまえのことで、この親子も、その例外ではなかった。腹を空かしている我が子を連れての見知らぬ土地への疎開ですから、随分と心細かったそうです。

そんなわけで道端で途方にくれていたとき、その土地の人らしい、お婆さんが、ふと通りかかった。そのお婆さんは、その若い母親と幼子の事情を察したのでしょう。幼い子に近寄り、なにがしかの食べ物( おそらく饅頭か何かだったんでしょう )を差し出したそうです。そして、こう言ったそうです。『まだ みるいんだからねぇ』と。そう言って立ち去ったそうです。

その女のかたは、都会育ちでしたから、この『みるい』という言葉は知らなかった。しかし、そのとき、その言葉の意味を彼女は真に理解できたそうです。
***
勿論、私は『みるい』という言葉の意味を知っています。標準語に直せば『未熟』という意味になるでしょう。しかし、この『みるい』には、単に『未熟』だけではないニュアンスがあります。このお婆さんが使った『まだ みるいんだからね』の『みるい』には、『まだ成熟しきれていない者に対する慈しみ』とも言えるニュアンスがあります。 この若い母親は、此の知らない方言に、このニュアンスを感知し、この『みるい』という言葉が忘れられず、『いつか、お会いして、あのときのお礼を言いたい。』と語っていました。
***
方言というものは、いわゆる標準語では表現しきれない、微妙さ・繊細さが、ニュアンスとして言葉の奥に沁みこんでいるものです。現在、全国津々浦々、標準語がゆきわたったことは勿論良いことです。しかし、是非、残しておきたい方言も全国津々浦々に在るに違いない。言葉(方言)というものは、それが使われる人たちの実生活に密着した大事な文化財と言っても過言ではないでしょう。その一つの例が、若い母親が耳にした『みるい』だったのです。『みるい』だからこそ、彼女は、その言葉が忘れられなかったのでしょう。

最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。