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「すでに起こったことは、明らかに可能なことがらである」
在台日本語教師の東アジア時事論評あるいはカサンドラの眼差し

微笑外交の欺瞞(補遺)─次の10年を見据えて─

2007年04月30日 | 日本の安全と再建のために
(写真:『朝日新聞』がホームページに載せている中国共産党中央委員会機関誌『人民日報』4月13日夜版にはまったく温訪日の記事はTOPにない。)
1.胡政権のヤヌスの顔
 ヤヌスはローマ神話に出てくるで、表と裏に二つの異る顔を持っている。ここでは、二つの意味で、「象徴」として使ってみたい。
 ひとつは、二律背反を平然と行う厚顏無耻の意味で、中国や北朝鮮のような独裁主義国家のことばと行動の乖離を意味する。
 胡政権は、国内では汚職追求などを立前としているが、周辺民族や対立者には極めて強権的強圧的である。昨年のチベット人亡命者虐殺事件はその象徴であり、法輪功をめぐる人体解剖、臓器売買などもその一つである。
 『週刊朝日』も胡錦濤がチベットでの虐殺に手を染めていると非難しています
 大紀元【特集】中国の臓器狩り
 そうしたヤヌス的性格から、温訪日について、いくつか興味深い点を考えてみよう。

2.中国の天皇陛下訪中要請
 新華社の13日紙面では、天皇陛下との会見がトップに来ていたことをお知らせした。
 微笑外交の欺瞞(補足):4月13日の新華社紙面
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「全く聞いていなかった」と政府困惑…天皇陛下へ訪中招請
 中国の温家宝首相が12日、天皇陛下に2008年北京五輪時の訪中を招請したことについて、日本政府は「全く聞いていなかった」などとして、中国側の意図を測りかねている。
 安倍首相は同日夕、「まだ全くそのことについて報告を受けていません。聞いてみようと思います」と記者団に語った。
 北京五輪については、中国政府が皇太子ご夫妻の招待を日本政府に非公式に打診したことがある。
 外務省幹部は12日、「政府は何も検討していない。事前調整もなく、天皇陛下にこんな話をするのは信じられない」と語った。
(2007年4月12日22時40分 読売新聞)
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 このときの会見についてはいくつか指摘されている。
 東アジア黙示録さん:テレ朝が池田発言捏造…温家宝は天皇陛下に跪拝せよ:会見での無礼さが指摘されている。
 以下のyahooの回答者の答えは、うがったものと思われる。
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無視された安倍内閣、天皇を重要視し始めた中国の意図は?
今回の温の動きで注目すべきは2つあります。
ひとつは質問者が指摘している天皇陛下に対する北京オリンピックの招聘です。
もうひとつは公明党支持母体、フランスがカルト集団に認定している創価学会の名誉会長池田との温の会談です。この会談はどこの党関係者との会談よりも多くの時間を割いているのです。これは「靖国神社」への参拝を反対している公明党に配慮したもので、中国側の「靖国神社」参拝に対する牽制と捉えるべきです。つまり天皇陛下が北京オリンピックの招聘をされたことによって、それまでの間、日本側の動きを封じることができまた与党への大きな影響力を持つ公明党をサポートすることで、その発言力をバックアップする意味があります。もし「靖国神社」へ参拝してしまえば、日中関係がギクシャクすることは当然考えられ、そうなれば、天皇陛下の北京オリンピック招聘を取り消す可能性や、日本側も警備上の理由で断るなどしなければいけなくなります。
公の場で北京オリンピックを招聘したことは後戻りすることができないため、当面は訪中が実現できるように地ならしをすることが「両政府」に求められることになります。つまり「靖国神社」参拝封じに中国は天皇陛下を捕虜にしたともいえるでしょう。したたかな計算の上で、中国は動いています。もしアメリカで民主党が大統領の座に復帰すれば、それは日本への風当たりはより強くなるものと考えられます。
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 勝手に№3の人物が天皇陛下に中国訪問を招請するという、外交序列を無視した極めて無礼な温のやり方は、実は日本国内の「反中」勢力を封じ、小泉・安部内閣路線を倒すという一点に的を絞っているのである。
 その理由は、まず、新華社をはじめ外交部の中国側の記事には、陛下に関しては友好を確認したとのみあって、具体的な話は全く出ていない。オリンピック招請は日本のマスコミを利用して、日本国内および海外向けに出されたニュースなのである。
 中国外務省:温家宝首相、日本の明仁天皇と会見
 次に、日本のマスコミをどう利用するか、白岩松の番組制作(注:有縁ネットさんの中に「日本見聞記」の20回分の紹介がある・神風特攻隊靖国神社その他の谷村・栗原など親中派へのインタビュー)などで、中国側はよく計算して、天皇陛下を最初から標的にしていた可能性もある。つまり中国側は、天皇が自らオリンピックに来たように見せる工作をして、”朝貢”させようというわけである。しかも、日本側にだけ責任があるように、日本のマスコミにだけ発表させた。大陸のニュースは判を押したように統制されて、新華社のコピーだけしかない。
 情報を片方に聞かせてもう一方に聞かせないで制限するというのは、中国の謀略の常套手段で、日本側は完全に”はめられた”のである。

3.日本国内の正気(せいき)の人はまれ
 こうした謀略外交を見抜いた人は少ない。中川政調会長だけかもしれない。
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中国外交は「極めて非常識」=「中華思想」と批判-自民政調会長
4月15日21時0分配信 時事通信
 自民党の中川昭一政調会長は15日、都内のホテルで講演し、日本から昨年秋に安倍晋三首相が訪中したのにもかかわらず、中国側はトップの胡錦濤国家主席ではなく、温家宝首相が訪日したのは「外交上極めて非常識だ」と厳しく批判した。
 中川会長は「日本のナンバーワンが行ったのに、中国のナンバー3が来るというのは外交儀礼から言って、おかしい」と指摘。中国側の考えは「中華思想」であり、外国指導者の訪中に関して昔の「朝貢」のような感覚を持っているのではないかと語った。共産党総書記である胡主席は党内の公式序列首位だが、温首相は第3位とされている。 
最終更新:4月15日21時0分
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 そのとおりである。しかも、安倍内閣の政治家たちは誰も中国側の異常さを指摘せず、芸がなさ過ぎる。中国人の頭の回転のよさに翻弄されている。中国が温を送った目的は、温の会見相手を見ると、だいたい分かってくる。
 ○温の訪日での主な会見相手
 温家宝首相、河野、扇両議長と会見:議会・参院選工作のために河野にくぎを刺しに来た。
 温家宝首相、日本の各政党党首と会見:公明、民主、共産、社会など反安倍・親中派を激励に。また、池田と会って創価学会への工作も忘れなかった。
 温家宝首相、関西政財界人と会見:関東では晩餐会程度しか会わずに、親中派や朝鮮派の多い関西の財界人のみに重点的に会っている。
 中国政府が、中国としては最後の切り札である胡を送らずに、温と言う動きやすく実権のある人物を使って、日本国内の世論を分裂させる工作のために今回の機会を利用したのは明かである。反政府的な日本の勢力に直接に会って、温を通じて夏の参院選への安倍内閣壊滅にてこ入れをはかったと言える。胡は、中国が日本側からもっと大きな讓歩を勝ち取ったとき(例:ODAの無期限供与、東シナ海沖縄割讓、日米安保破棄・人民解放軍日本進駐・・・)に、”御答礼”として訪問させるつもりだろう。

4.温の国会演説の意義
 内容は、以下のリンクで。
 友情と協力のために――日本国国会における温家宝総理の演説
 温家宝在日本国会的演讲(全文)
 本ブログでの見解は、以下で。
 二〇〇七年四月十二日日本国国会における温家宝総理の演説(中国外務省日本語訳。前半)
 今回の温訪日の報道には、『新華社』と『人民日報』で極端な差異がある。『新華社』は全文を掲載した。外交部も同じである。だが、『朝日新聞』がホームページに掲載している『人民日報』は以下のように書いた。
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温家宝総理、日本の国会で演説
国務院の温家宝総理は12日、日本の国会(衆議院本会議場)で演説し、「歴史を鑑(かがみ)に、との中国の主張は、恨み続けるということではなく、未来をよりよく切り開くためのものだ」と強調した。以下はその内容の一部。

中国政府と人民は一貫して前を向いており、一貫して歴史を鑑(かがみ)とし、未来へ向かっている。
中日国交正常化以来、日本政府と日本の指導者は幾度も歴史問題における態度を表明し、侵略を公に認め、被害国に対し深い反省と謝罪をしている。中国政府と人民は、これを積極的に評価する。日本側がこれらの態度表明や約束を、実際の行動で示すよう心から希望する。
中日両国の友好は互いを利し、争いは互いを傷つける。両国国民の世々代々の友好は歴史の潮流と両国民の願い、ならびにアジアと国際社会の切なる期待に完全に符合する。

日本の衆参両議院約480人が温総理の演説に耳を傾け、時には拍手でこたえた。
「人民網日本語版」2007年4月12日
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 これが中国の本心を要約しているとすれば、「日本側がこれらの態度表明や約束を、実際の行動で示すよう心から希望する」だけが、中国の目的で、温が演説の後半であげた細々した五つの戦略互惠案は見せ金であることが明らかに分かる。中国の中でも、胡系微笑派と江系暴力派が対立し、今回の人事異動で微笑派がやや優勢になっているらしい様子を、日々是チナオチさんが、指摘している。
 雑談です。
 確かに、対日観報道には軟化が見られる。
 “千變”日本:中国人眼里的日本形象
 しかし、温演説=胡系微笑派=見せ金+本音、『人民日報』=江系暴力派=本音で、中国の本音は変わらず、胡派の温演説は見せ金を持っているだけのことである。本質に何ら変わりはない。「白い猫も黒い猫も日本という鼠を狙っている」ことに何ら違いは認められない。
 なお、NHKなど日本のマスコミがすでに腐臭を放っている現実を、昨年のインド首相の訪問報道と、今回の微笑外交の報道との差異が、端的に表している。
 インド首相の国会演説を大手マスコミが意図的に無視しているのは明白です。

5.ヤヌス的思考の薦め
 さて、二つの異なる顔が同時に同一人物にあるヤヌスのもう一つの顔は知恵の深さである。物理学の父ニュートンは、錬金術師でもあった。
 図書:錬金術師ニュートン
 現在では、ヤヌス的思考と言われている。
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大学院の高等教育論のセミナーから
 今度は「現在日本の大学が置かれた状況」を考えてください。言うまでも無く、「教育」対「研究」、「教育・研究」対「産学連携」、「基礎研究」対「応用研究」、「学部教育」対「大学院教育」、といった異なる方向を向いた力のベクトルが同時に大学を引っ張って(引き裂いて?)います。大規模な、しかも時間軸が入っている連立方程式を解くことが要求されているわけですが、そもそも解が存在することすら不明であり、このような状況下で「どう大学の舵取りをするのか?」という疑問が出てきます。ここでは、キャメロン(Cameron)*iii を引用することにしましょう。環境が激しくかつ複雑に変化する状況にある大学に対して彼が提唱するのが、「Janusian Thinking」です。ローマ神話に登場する左右二つの顔を持つ神ヤヌスに由来しますが、一見相反する見解が同時にもっともである場合、矛盾を乗り越えた解釈、解を出すことにより、大きなブレイクスルーを生み出す発想が登場するという考え方です。柔軟な発想、創造性を総動員する行為であり、それを実践することに意義があるわけです。もちろんその結果大学が元気になるわけですが、これを「ひと」に当てはめると、パラドックスがイノベーティブなひとの力を引き出す役割を担う、となるのではないでしょうか。
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 自然科学の発達には、このヤヌス的思考が深く関与しているといわれる。
 図書:科学が作られているとき:人類学的考察
 実は、すでにヘーゲルが言っている「弁証法」のことなのだが、それはさておき、私達の生活は、実は相反する目的を同時に実現することで成り立っている。どちらか一つを選ぶことが解決だと、安易なマスコミ的思考は教えているが、それが実は、問題の解決を一番困難にする根本的原因とも言える。どちらも捨てられないから問題なので、片方を捨てては、問題を放棄したことになるからである。
 たとえば九条改正対九条擁護という矛盾も、こうした形で私達に突きつけられた謎である。「平和でありたいが現実は争いに満ちている」というのが私達の世界の姿なのに、似権派は平和か戦争かという問題を出し、「平和でありたい」だけが正解だとして、”戦争の脅威は政府が作った宣伝で、中国と北朝鮮は平和国家だ”などと嘘を並べ、嘘をつき続けなくてはならなくなっている。しかし、実際には憲法について、その他の様々な問題が指摘されている。
 憲法改正論議
 では、憲法改正には各院の各総議員3分の2以上の賛成が必要で、かつ国民投票での2分の1以上の賛成が必要というハードルをクリアーするにはどうすればよいか?たとえば九条改正対九条擁護という対立をくずしてしまうことで、ハードルは超えられるかもしれない。
 たとえば、9条や基本的人権など複雑な利害対立に関わる全文、全項目を削除してしまい、もっと憲法の条項を整理・単純化し、国連憲章、国際法などを準憲法として遵守することに置き換えて、細目は法律審議で柔軟に改正、運用できるように改めることである。建国の基本法という以上、単純でなくては、国をまとめる法律の役を果たさない。イギリス式の憲法に変えるのが、一つの選択である。今の憲法のように、異質な様々な内容の條文が混在していると、改正は容易ではなく、效率も悪い。イギリスの憲法は、いわばユニット化されおり、必要な部分の修正や追加などで、全体の整合性を崩すことなく、新しい変化にも対応でき、当然、平和の維持と安全の保証を両立させることが出来る。実は、これが明治以前の日本の法制度の伝統ではなかったのであろうか。
 武家諸法度を見ると、生活の心得などが主に書かれている。
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一、知行所務清廉ニコレヲ沙汰シ、非法致サズ、国郡衰弊セシムベカラザル事。
訳:領地での政務は清廉に行い、違法なことをせず、国郡を衰えさせてはならない。
一、道路・駅馬・舟梁等断絶無ク、往還ノ停滞ヲ致サシムベカラザル事。
訳:道路、駅の馬、船や橋などを途絶えさせることはせず、往来を停滞させてはならない。
一、私ノ関所・新法ノ津留メ制禁ノ事。
訳:私的な関所を作ったり、新法を制定したりして品物の流通を止めてはならない。
一、万事江戸ノ法度ノゴトク、国々所々ニ於テコレヲ遵行スベキ事。
訳:全ての事は幕府の法令に従い、どこにおいてもこれを遵守すること。
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 もちろん様々な禁令や義務も書かれているが、基本的にモラル、行動規範を定めて良しとし、後は必要に応じて新しい法令を出していたのである。たとえば、今の憲法の前文を活かし、理念だけを憲法に記載し、天皇、三権分立(国会、裁判所、行政機関)、国民のモラル(相互に尊重する、相互の平和と安全を尊び貢献するなど)だけを規定し、あとは必要な法令を定めるとしておけば、期限を定めて様々な基本法を整理、統合または新設することで、新しい法体系ができる。
 また、慰安婦問題も問は同じである。責任(開戦国であり敗戦した)と現在の生活(日本国としての生き方)の矛盾の問題だとすれば、安倍首相の今回のアメリカ向け談話は、ヤヌス的思考の成果とも言える。
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慰安婦「責任」に言及 首相2007年4月21日(土)16:06 * 産経新聞
 安倍晋三首相は26日からの訪米を控えて米紙ウォール・ストリート・ジャーナルなどのインタビューに応じ、米下院で対日非難決議が審議されている慰安婦問題に関連して「当時の慰安婦の方々に心から同情するし、日本の首相として大変申し訳ないと思っている。彼女たちが慰安婦として存在しなければならなかった状況につき、われわれは責任があると考えている」と、日本側の「責任」に言及して謝罪の意を示し、平成5年の河野談話を継承する考えを改めて表明した。
 一方で、首相は「20世紀は人権が世界各地で侵害された世紀だが、日本も例外ではない」とも述べ、戦時の人権侵害が日本だけの問題ではないことをにじませた。
 中国の軍事費増大をめぐっては「中国に合わせて、軍事費を増やそうとは考えていないが、防衛力は常に確かなものにしなければならない」と指摘した。その上で「日米の同盟関係の強化が地域の平和と安定にとって一番大切で、そのために法的な整備をしなければいけない」と述べ、集団的自衛権に関する研究を進める考えを強調した。
 また、憲法改正について「憲法は占領下で制定されたもので、21世紀にふさわしい自分たちの国の形を物語る憲法をわれわれ自身の手で書くことが大事だ」と語った。このほか、北朝鮮が核放棄に向けた初期段階措置の履行期限を守らなかったことを踏まえ、「訪米した際にも、(ブッシュ)大統領と今後の北朝鮮政策について突っ込んだ話をしたい」と述べた。
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 今回の首相の談話は、以上のように日本の過去を20世紀全体の問題に広げ、また現在にパラフレーズさせて語ったことで、この問題を中国・韓国の謀略カードとして機能させないようにできる。アメリカ訪問での話も、こうした線で行なわれており、いい判断であり、現段階では最良のステートメントであろう。
 つまり、慰安婦への人権侵害は、20世紀の数々の虐殺や植民地支配の環境の中で起こった一つの事象であり、20世紀後半の中国、韓国が犯した虐殺も同じ犯罪として現実から逃げられない、当然、欧米諸国も・・・と、日本にだけ向いた武器から方向を転じて追求側にも向けられる問いかけになるわけである。さらに、今後、互いの感情的批難でなく、実務的専門家による歴史の確認と記述を二度と悲劇を繰り返さないために、相互に行って、後世への礎にしていくなどと、将来への方向を示すことで、アメリカの良心層を納得させることも出来る。
 矛盾・困難こそ、解決の母であり、知恵の源泉である。


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