ITニュース、ほか何でもあり。by KGR

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プレSE、今は昔。十二指腸潰瘍。

2006-07-26 12:13:12 | IT
KGR(以下、Kと略):本日は長年プレSEとしてご活躍された御厨(みくりや)さんとの対談です。
 御厨さん、よろしくお願いします。

御厨(以下、Mと略):どうも。お久しぶりです。
 こちらこそよろしくお願いします。

K:さて、いろいろお聞きしたいことはあるんですが、
 今日はSEの仕事についてです。
 SEの仕事はきついってよく言いますよね。

M:そうですね。
 私らの若い頃はいつも全力疾走、体力勝負みたいなところがありました。

K:今も結構そうですよ。

M:いまはどこの会社でも健康には気を使っていて、
 長時間残業があると、健康診断をやりますよね。
 メンタルヘルスも重要視されてますし。

K:昔は違いましたか。
M:ええ、本当に変になったり、ぶっ倒れれば別ですが、
 それ以外は大体無視でしたね。

K:みんな神経が図太かったんでしょうか。
M:いえ、今思えば精神的に参ってたという人もいましたね。
 メンタルケアなんて考えてなかったと思います。

K:御厨さんはどうでした。
M:私は幸い精神的に参るタイプではなかったですが、十二指腸潰瘍になりました。

K:御厨さんが? 知りませんでした。
M:後から判ったんですが、成人病検診で十二指腸潰瘍の跡があるといわれて。
 ああ、あの時になったんだな、と思いましたね。

K:あの時って?
M:20年ほど前かな、特許庁の仕事をしていたときですね。

K:そのときのことを少し話してくれませんか。
M:判りました。
 当時、まだ旧庁舎、つまり建て直す前の特許庁だったんですが、
 そこに1年位かな、詰めてました。
 特許のペーパーレス化の基本計画を職員の方と一緒に検討してました。

K:それで。
M:メーカーから5人のSE、特許庁はバリバリのキャリアが3人だったかな。
 朝から晩まで連日、計画、条件設定、試算の繰り返しです。
 
M:まずは事業計画として5年計画くらいのものを作って、全体の概算要求をするわけです。
 ところが全体費用はざっと10億円なんてわけにいきません。
 それこそ消耗品の価格まで算出して積算するわけです。

K:積算ってちゃんとやればやるほどきりがないですよね。
M:よくご存知ですね。
 例えば、メーカーに対して説明会を実施するとしますね。
 ペーパーレスはもともと申請数の多い企業にメリットがあります。
 特許申請の多い主要メーカーを集めて全国の主要都市で説明会をする。
 これにいくら掛かるか、判りますか。

K:それだけじゃ計算できませんね。

M:そのとおりです、だから、条件をいろいろと決めるわけです。
 主要メーカーといっても申請数が合計で例えば総申請数の80%になるメーカー群、
 80%が本当にいいのかの理由付けも必要ですが、
 これを洗い出すわけですね。

 その本社所在地で、まあ大体東京になるでしょうが、
 内容によっては一度に説明できる会社数が制限されるから、
 何時間の説明会を何回やるか、場所は庁内か会議室を借りるか、
 借りれば当然賃借料が掛かるが、どこの会場の賃料はいくらか。

 職員は何人出るか、その場所によっては旅費や出張手当が掛かる。
 職員のランクはどうするか、それによって手当てが変わりますから。
 配る資料の部数、枚数、印刷代や紙代。

 そうそう、メーカーへの案内の郵便代も考えに入れておく必要があります。
 これも一回きりなのか何回か出すのか、それで郵便代が違いますからね。

K:そこまでやる必要があるんですか。
 全体から見れば郵便代なんてシステムの費用のごくごく一部でしょう。
M:そのとおりです。
 でも国会で議員のどなたかにメーカーへの説明会の費用がいい加減だ、
 と言われれば、それでおしまいです。

 郵便代が計上されていないでメーカーへの連絡が出来るのか、
 連絡も適当で、メーカーの担当者が説明会に集まるのか、
 これでは、説明会の費用がいい加減に計算されているということだ、
 つまり、説明会がきちんと計画されていない、
 メーカーへの説明義務を果たしていない、
 こんなことで周知徹底されるのか、
 計画全体がいい加減に考えられているんじゃないか、
 となってしまうからですね。

K:面倒ですね。
M:説明会などはほんの枝葉末節。
 実際にはもっと大きなシステム構築やハードなどの購入、設置、運用、維持費用、
 それにもっと大事なことは、収入面です。

K:と、言いますと。
M:このときは特別会計にする計画でしたから、
 そもそも特許申請がどのくらいあって、今後どのくらい伸びていくのか、
 外国からの申請も考えなくちゃいけないし、
 申請の中で審査請求されるものはどのくらいか、など。

K:ちょっと待ってください、申請と審査って違うんですか。
M:ええ、特許の申請をしても審査して欲しくないケースもあります。

K:わざわざ特許申請しておいて審査して欲しくないとはどういうことでしょう。
M:特許は基本的に早い者勝ちですから、いくら良いものでも後から申請してもだめです。

K:それは知ってます。
M:とにかく早く出す必要があるので、多少不備があっても申請だけは早めにするんです。
 そして、審査請求しないでじっくり構えて修正をすることもあります。

K:なるほど。
M:それから、商品化はちょっと難しいが、他人に取られると困る特許を申請して
 審査請求しないで費用を節約する、と言うこともあります。

K:審査は別費用なんですね。
M:そうです。
 審査料は申請内容によって異なりますが、一件当たり10万20万と掛かりますから、
 何千件何万件もとなると億の単位で変わってきます。
 それから、特許権を維持するために特許料を毎年払います、年金って言ってました。

K:胃潰瘍の話からずれてきました。
M:十二指腸潰瘍ですね。
 まあ、そういうことで、当時はB4でしたけど、
 B4で100枚は下らない資料を作り上げて積算するわけですね。

K:はい。
M:それで、課長のところへ持っていくわけです。
 本庁の課長といえばそりゃもうすごいえらい人で、
 一部上場企業を訪問すれば、重役がお出迎えするような人です。

K:そりゃ、すごい。

M:まあ、そういうことで課長に見せるとするじゃないですか。
 100ページをパラパラッとめくって、最後のページで、
 「初年度がちょっと高いな」とでも言ったとしますね。

K:そりゃ、なんか言うでしょうね。
M:最初から全部OKしたりしないですからね。
 それはともかく、何秒間か見ただけでそういわれると、
 何日もかかって積み上げたものが全部パー、最初からやり直しです。

K:EXCELでちょいちょいっ、とはいかないんですか。
M:当時は手計算でしたから大変でした。今なら計算は楽でしょうけど。
 それに、初年度を安くするったって、全体のストーリーがこうだからこの価格、
 というわけですから、ストーリーから考え直しです。

M:例えば説明会の費用を減らそうとなっても、
 いろいろと方法があるわけで、
 説明会の会場を広い場所にして回数を減らす、
 近い地方都市は連続して実施し職員出張費を減らす、とか。

 とすると、広い場所は具体的にどこなのか、賃料はいくらかとか、
 近い都市って具体的にどことどこで、どのような日程にするかとかも考えて、
 説明会だけじゃなくて、初年度の計画全体を見直すわけですね。

K:そう思うと大変ですね。
M:そして、やっとの思いでまた課長に見せて、
 「バランスが悪いな」なんていわれるとまたやり直しです。

K:それの繰り返しですね。
M:ええ、そうです。
 いろんなケースが考えられて、これしかないというものはありませんから、
 もう、きりがなくて、それで参って飯が食えなくなりました。
 不規則な生活というか過労が原因だと思ってましたが、
 特に脂っこいものとかがだめになって、ますます体力を消耗しましたね。
 胃が痛くても医者に行く暇もないし、新三共胃腸薬を常用してました。
 この薬にはずいぶん助けられました。

K:皆さん参ってましたか。
M:それですね。メーカーのSEは少なからず参ってましたが、
 さすがキャリアというか、職員の方はぜんぜん平気に見えました。
 しかも休まず働かずなんかじゃないですよ。
 われわれが朝9時に行くともうがんがんやっていて、
 われわれは夜10時くらいに帰るんですが、まだ居残ってました。
 家に帰んないのも普通だったみたいですね。

 すぐ隣に専門官の部屋があって、そこは朝もだらだらしていて、
 昼は早番(11:30-12:30)遅番(12:30-13:30)があるんですけど、
 両方休んで、夕方5時にはきっちり帰る。
 同じ公務員でこうも違うか、と思いましたもんね。

K:別の意味ですごいですね。
M:ええ、まあ。
 結局、そのプロジェクトが終わってやっと胃の痛いのが治りました。

K:つらかったですか。
M:つらかったですね。
 肉体的にはもっとつらいことはざらでしたし、
 精神的に追い込まれたこともたびたびあります。
 でも、疎外感というかものすごい閉塞感がありましたね。
 倉庫みたいなところでやってましたし。

K:その後への影響は。
M:まずはくよくよ悩まない、ことを心がけるようになりました。
 これは成人病検診で指摘されてからですが。
 仕事面では本格的な基本計画は初めてだったので、ずいぶん勉強になりました。
 また、「特許」についても知ることができて、
 その後特許事務管理システム、特許情報検索システムの仕事に役立ちました。

K:じゃあ、よかったじゃないですか。
M:今思えばね。当時はそれどころじゃなかったです。
 それに潰瘍が自然治癒する程度で済んだのもラッキーでしたし。

K:まだまだお聞きしたいことはあるんですが、
 長くなりましたので、項を改めてお聞きすることにします。
 どうもありがとうございました。
M:こちらこそどうもありがとうございました。

K:近々また来てもらいますのでよろしくお願いしますね。
M:判りました。

K:きょうこの後の予定は?
M:もう帰るだけですね。
K:どうですか、その辺で少し。
M:そうね、久しぶりだし、ちょっと行きますか。

K:と、言うことで話がまとまりましたので、失礼します。
 皆さん、またお会いしましょう。
 次回もお楽しみに。


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